ハリー・アップッ!! 作:炉心
内容は……VividよりForce寄りかもしれません。
三人娘が初登場なのに、扱いが微妙で申し訳ないことこの上ないです(特に某部隊長)。
追記と謝意:
お気に入り登録数がいつの間にやら50件を越えて既に60件に突入しました。
こんな稚拙で不定期更新な作品をいつも読んで下さる皆さん。
本当にありがとうございます。
嘗て、そのような習慣はなかった。
始まりは、十数年前にとある異世界より来た少女達の持ち込んだ一種のイベントだった。
その少女達の出身世界において、その日、少女達の住む地域では、女性から男性に対して贈り物―――特に茶褐色のお菓子を贈り、その内に秘めたる好意を示すのだと。
更に近頃では、親しい友人や家族、時に日々関わり合いのある交友関係者にも情を持って贈り物をすることもあるという。
初期の頃は少女達の周辺でのみ行われていたイベントだったが、時を重ねるとともに徐々に浸透し、数年後にはミッドチルダの一部(特に若い女性層)で大いに隆盛を極めていた。これは、イベントを持ち込んだ少女達の知名度の上昇も強く影響していたのだろう。
ともあれ、その後の数年間は穏やかで微笑ましくも熱い乙女のイベントとしてこのイベントは行われ続けていた。
ある意味で、これは潜伏期間だった。と、言う者もいるかもしれない。
話は少々飛ぶが、十年程後。ミッドチルダの某所にある少年がいた。個人名は本人のプライバシーもあるので伏せるが、敢えて『G君』としよう。
彼は同じ職場にいる部下の少女―――此処では『Lさん』としようか―――を憎からず思っていた。幸運なことに、LさんもG君に対しては職場の上司としての尊敬以上の好意を持ち合わせていたのだが、いかせん彼女は引っ込み思案な性格だった。
G君自身もそれとなくLさんに対してアピールはしていたのだ。
時に食事に誘い。時に余暇を同じ遊楽施設で過ごし。時に互の家を行き来し。時に星の降るような夜空を伴に眺めた。しかし、核心的なところで彼女は常に逃げていた。そんな日々を数ヶ月程経て、件のイベントを前日に控えたある日、G君は嘗て自身の所属していた職場の上司に相談するような機会があった。
正確には、「最近、***(個人名が入ります)との関係はどうなんや~?」と微妙に酒気を帯びた吐息と共に吐きつけられた結果なのだが。
しかし、そこでG君は天啓を得ることとなる。
その元職場の上司(面倒臭いので『H氏』とする)の言では、今、ミッドチルダに浸透している女性から男性への好意を伝えるイベントだが、実はH氏の故郷(彼女はイベントを持ち込んだ少女達の1人だった)の別の地域では、男性から女性へと逆パターンで贈り物を渡し好意を伝える所もあるのだとか。
「ほ、本当ですか?」
「ほんま、ほんま。し(・)か(・)も!! 告白の際には必ずハグするちゅう条件もあるっ!!」
「ま、まさか……。いくらなんでも、いきなり抱きつくなんて……」
アリエナイ。
贈り物と告白はともかく、抱きつくのは駄目だろう。下手すれば司法機関にお世話になる可能性すらある―――G君はそう思った。当然である。
「あまいっ! アマい、甘い、あまいっ!! なのはちゃんが作るキャラメルミルクよりなお……あまいっ!!」
ドンッ!! とテーブルに叩きつけられた大ジョッキは既に空になっている。
「ええか? 人は言葉を持つ生き物や。故に、想いを伝えるのに一番効果的なんは、ハッキリとした言葉にすることや―――そう思っとる。やけど、違う。チガウンヤ。もう、言葉だけではあかんのや。ええ加減、私も、ワタシモ、限界がきとるんや。ワタシモイイカゲン。ソウ、イイカゲンニセント……フフフFUFUFUFU」
何かあったのだろうか?
熱弁を奮いながらもH氏の全身からは悲壮感が漂い、同時に俯き前髪に隠れた瞳の色は濁り、半開きの口からは言い様のない仄暗い気配が這出ているような気さえする。
「えーっと、そ、それで……」
「兎に角っ!! 抱きつけ! ハグしろ!! 押し倒せ!! 言葉で伝わらんなら、肉体言語! ボディランゲージ! カラダで表現するんや!! 異性ちゅうことをハッキリ伝えるには、これが一番なハズなんちゃうんかっ!? 悪かったな! どうせ私は、フェイトちゃんみたいな『当ててんのよ』なんて羨ましい真似は出来へんわっ!!」
「は?」
「「は?」やない「は?」や! 男やったらツベコベ言わず、実行せんかい!! そんなやから、『ヘタレ眼鏡』『キザキャラもどき』『モブ男』なんて影で言われてんねん!」
「ちょ、言うに事欠いて、どんだけ暴言吐いてんですか、あなたは!!」
「*****(G君の名前)君」
一瞬、喧騒が消えた。
寸前迄の酔っ払い然とした雰囲気から一転。凛とした真剣な面持ちで、G君を見つめるH氏。それは、嘗て彼が職場で時折見ていた、真摯に物事に向き合っている時の尊敬すべき上司の姿であった。従うべき言を持った年長者の姿でもあった。
「『当たって砕けろ』とか『全力全開』とか、言葉で色々と叱咤応援することは出来る。でも、私としてはそんな言葉でより、長年の付き合いである*****君自身の行動を信頼したい」
「…………」
「本当に大切なんやたら。絶対に離さへんってことを証明したらええんや。言葉で伝わらへんねやから、抱きしめたったらええんや。男として、責任と誠意のある行動をしたり。きっと、あの子もそれを望んでいる筈や」
「は、はい!!」
重く真摯な言葉に、弾かれたように背筋を伸ばし、敬礼の姿勢をとる。
彼の迷いは既に晴れていた。結局は、G君自身が気付かないところで臆病だったのだろう。だが、これほどの心配と信頼をもっての激励を受けたのだ。男なら応えないわけにはいかない。
なにより、ハッキリと伝えたい。想い人に、自分の想いを!!
「よし!! 行ってこい! 今すぐ!!」
「はい! 行ってまいります!!」
酒宴の喧騒の満ちるその場から駆け出した少年。その彼の後ろ姿を見ながら、H氏は慈母を思わせる微笑みを浮かべていた――――――――
――――――――狸の耳と尻尾を生やしながら。
その後の結果だけ伝えよう。
G君とLさん。この二人は上手くいった。正直なところ、出来レースだったのだ。元々相思相愛の者同士、上手くいかない道理もなかった。
彼はその日、贈り物を渡し、受け取った彼女を抱き締めた。
そう、抱きしめたのだ。大事な事なのでもう一度言おう。抱きしめたのだ。
そして彼女は受け入れた。以後はトントン拍子にことは進み、遂には生涯を誓い合う仲にまで至ったという。諦めず、挫けず、強い想いで行動すれば良い結果に繋がる。そんな話だ。
ただ問題は、後日H氏の口より生まれた。
その日、H氏は旧知の二人の仲が上手くいったことを大いに喜び、行きつけの食事処で師匠と仰ぐ男性と飲んでいた。そこで事の顛末を語ったのだが……色々と端折り、諸々と曲解し、酔った勢いで散々に誇張表現していた。それをその日その時同じ場にいた者達が聞いていたのだ。
さて、彼等もまた酔っていた。故に、彼等の中でH氏の語ったことはこう解釈されたのだ。
① 件のイベントの日に好きな女性に告白する → ②贈り物を渡す(受け取らせる) → ③抱き締める → ④OK
呆れる程に単純な思考だが、彼等は受け入れた。
語った人物がそのイベントを持ち込んだ有名人であること、実際に結果が出ていること、イベントの日限定の効果という条件の厳しさも納得させる要因になっていたのかもしれない。失敗しても抱き着けるという、微妙に損のない打算も有っただろうが。
全ては成り行きである。
誰かが悪いわけでもない。悪意が在ったわけでもない。単純に誤解と曲解。あとは……まあ、若さ故の過ちなんだと受け止めていただきたい。
今、ミッドチルダには一つの習慣となりつつある出来事がある。
既に女性から男性に想いと贈り物をするという本来の姿は失われゆく運命にあり、そのイベントが行われる時、一部の想いを秘めた男達がその想い人を追いかけるという傍迷惑な習慣が。
嘗て乙女のものであった筈のイベント。
今は畏敬と哀愁と頭痛を込めてこう呼ぶ。
――――『バレンタインデイ【男達の哀の日】』――――と。
* * *
「はやてちゃん……」
「ちゃう、ちゃうんや! そんなつもりはなかったんや!! ほんまなんやっ!!」
「違う。違うんだよ。バレンタインはこんな日じゃないんだよ」
「フェイトちゃん、そんな遠い目をして呟かんといて! ものごっつ居た堪れへん気持ちになるから!!」
「どういう事かな? いつもの冗談のつもりなのかな?」
「不幸な誤解や!! 悲しい事故や!! 文化伝播の時に起きるすれ違いってやつなんや!!」
「……キャロがね、最近この時期になるとハァハァ息を荒げた男の人達に追い掛け回されて困る。って相談のメールをくれるんだ」
「教導隊の後輩の子にね、「なのはさんの出身世界って、随分と変わった文化を持っているんですね」って言われたの。……もの凄く憐れみのこもった目で見られながら言われたの」
「ちょ、二人共っ! 怖い! コワイでっ! 目が本気! 『本気』と書いて『マジ』と読ますくらいにヤバいっ!!」
「「トリアエズ……」」
「ひっ!!」
「「オ(・)ハ(・)ナ(・)シ(・)シヨウカ?」」
「嫌ヤアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッ!!!!!」