雑種フレンズ   作:華範

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お待たせしました。

ついに後半戦の開幕です。少々ぶっ飛んだ内容ですがよろしくお願いします


第28話 ししょーとアライさん

「ストライク!スリーアウト。試合終了です!」

「おぉ!若大将!今日も完投だったな」

「・・・」

 

 試合が終わり、ライオン軍団の面々がレオポンのもとに集まる。例の一悶着以来、へいげんちほーで始まったやきゅうは瞬く間に噂になり、多くのフレンズが観戦や参加のために訪れるようになった。そんな中やきゅうの提案者であるレオポンの帰還はパークの熱を更に沸騰させた。

 

「キャー、レオポンさん!ねぇ、なんか目があった気がするんですけど!」

「お店の宣伝のために来たけど、まさかたてがみちゃんがライオンチームの名ピッチャーのレオポンだったとはねぇ。すっかり立派になっちゃって」

「えぇ。でも、何だか様子が違うわね」

 

 大多数のフレンズはライオンやヘラジカに肩を並べる程の実力と、『射抜くような冷たい視線』に歓声を上げたが、彼女を知る一部のフレンズには大きな違和感として写った。アルパカとショウジョウトキを連れて野球観戦に来ていたトキもその一人だ。

 

(瞳が濁っていたのは同じだけど、前会ったときには『輝き』があった。だけど、今のレオポンにはそれがない。まるで昔の私みたい・・・)

 

「確かトキはレオポンさんと知り合いですよね?」

「えぇ、アナタと入れ替わりで出会ったわ」

「あぁ~、もっと早く飛べたら皆に自慢できたのに・・・私そこだけはトキに負けるとおもうんですよ(ドヤァ)」

「まぁまぁ、試合も終わったしサインだけでももらっていこうよぉ。早く帰らないとお店番してもらってるジャガーちゃんやトラちゃんに悪いし」

「そうですね。ついでにさっき即興で作ったレオポンさんの歌も聞いてもらおうと思うんですけど」

「それはまた今度で良いんじゃないかな・・・」

 

 

 アルパカはレオポンに会おうとしたが、そこには人だかりができていた。それは自分達と同様に単にレオポンに会いに来たのでなく、もっと別の理由からであった。

 

「だーかーら、若大将は誰にも会わない言ってるだろう!」

「そんなの関係ないのだ!アライさんはたてがみに用があってきたのだ!」

 

 アライさんは試合を見ることはできなかったが、立ち去る選手の中にレオポンの姿を見つけた。レオポンに会わせるようオーロックスとアラビアオリックスに頼んだが、オーロックスは予めライオンからファンとの接触は断るように指示されていたため拒否してにらみ合いになっていたのだ。フェネックは喧嘩になるのを避けようとアライさんを説得にかかる。

 

「アライさ~ん。きっと他人の空似だよ。レオポンさんは後にしようよ」

「ダメなのだ!あれはたてがみなのだ!あんな巨悪を放っておいたらパークの危機なのだ!」

「おいタヌキ!何だその言い方は!」

「どうやら口の利き方を教えたほうが良いらしいな」

「は、離すのだ!アライさんはタヌキじゃないのだ!」

 

 頭に血が上ったオーロックスがアライさんに掴みかかったため、傍観してたアルパカ達は慌てて止めに入る。

「ちょっと落ち着いて!2人共、喧嘩はダメだよぉ」

「何だお前たちは!部外者が入ってくるなよ!」

「そこの子達、私達の知り合いなの。私達もたてがみさんに会おうと思ってやって来たのだけど」

「なんだかすっごく立て込んでるみたいなんですけど。何か事情があるんですか?」

「お、お前たちには関係ないことだ。ライオン様の指示で・・・」

 

 アラビアオリックスはハッと口をふさいだ。レオポンではなくライオンの差配だと明言してしまったからだ。アルパカとトキはそれを聞き逃さなかった。

 

「そう・・・たてがみさん。今はレオポンさんだけど、大分感じが変わったわよね。何かあったのかしら?」

「そ、それは・・・そうだが」

 

 オーロックスは動揺する。試合を見ていたアルパカ達は、彼女達がレオポンと相当親しい関係にあると察知していた。それでいてこの態度を示したということは、彼女達も正確な事情を知らないままレオポンの変容に違和感を感じているということだ。アルパカはトキにつづいて言葉を紡いだ。

 

「私達、カフェってのをやってて、ちょっとでもたてがみさんを元気づけられたらなぁって思ってお茶とお菓子を持ってきたんだよぉ。でももうすぐ帰らないといけないの。お茶とお菓子はアライさんとフェネックちゃんに預けるから、2人だけでも会わせてあげてくれないかなぁ?」

 

 アルパカに頼み込まれて、アラビアオリックスとオーロックスは顔を見合わせた。先に言葉を発したのはオーロックスだった。

 

「わかった。2人は連れて行く」

「オーロックス?大将の命令は・・・」

「若大将に、困ったらうちに帰って来いといったのはオレなんだ。なのにいざ戻って来たら何も分かち合えない。あんな抜け殻みたいになった若大将の姿を見ているだけなのはオレはもう耐えられない!大将にはオレが話をつける。通してやれないか?」

「・・・わかったよ。2人共着いて来い」

 

 

 アライさんとフェネックはアルパカに礼を言って別れると、オーロックスにライオンの城まで案内してもらった。入り口でオーロックスがライオンから同意を得ると言って場内に入ったが、驚くほど早く戻って来た。どうやら、面会謝絶はライオンの部下たちの気を遣いすぎる性格から来る命令の誇大解釈だったのだろうとフェネックは分析した。

 アライさんは了解を得た途端真っ先に場内に飛び込んで、レオポンの匂いのする部屋の襖を乱暴に開けた。レオポンは一人で食事をしていて、アライさんの様子に驚いたようだった。

 

「ついに見つけたのだ!ここで会ったが百年目なのだ!わたあめの恨み!アライさんと勝負するのだ!」

 

 アライさんは啖呵を切ってレオポンに飛びかかるが、レオポンは両手で簡単に受け止めてしまった。アライさんは必死に抵抗するが体格差で良いように弄ばれてしまい勝負にならない。

 

「おお、アライさんやないか!久しぶりやな。長らく見てへんけど元気にしとったか?」

「は、離すのだ!アライさんは人形じゃないのだ!フェネック!助けるのだー!」

 

 すっかりおもちゃにされてしまい、アライさんはフェネックに助けを求める。フェネックはアライさんの痴態を堪能すると、漸く部屋に入ってレオポンに挨拶した。

 

「ししょー、久しぶり」

「フェネックも来とったんか、相変わらずの別嬪さんやな。アライさんとはまだ旅を続けとるんか?」

「おかげさまで、それとこれはアルパカさんから預かったものだけど」

「おぉ、ありがとさん!あとで3人で頂こうかいな。ささ、そこに座って。アライさんも一緒に」

「アライさんは遊びに来たんじゃないのだ!」

 

 すっかり調子を崩されてご機嫌斜めのアライさんであったが、お茶とお菓子には興味があったのかおとなしくなり、3人輪になって座ることにした。

 

「いやぁ、3人揃うのも久しぶりやな。懐かしいわ」

「そ~だね~」

「うぅ、釈然としないのだ」

 

 レオポンとフェネックがほのぼのとする一方、アライさんは一人浮いてしまう。アライさんに発言の期会が回ってくるのは、レオポンがアライさんたちの訪問の理由を聞いたときであった。

 

「そう言えば、どうしてアライさんはここに来たん?」

「そうなのだ!アライさんはたてがみを追ってきたのだ!」

「正確には、ししょーが盗んだとアライさんが思い込んでる帽子を追ってだけどね・・・」

「アライさんはな!たてがみに白いふわふわを奪われてからずっと『りべんじ』のチャンスを窺ってたんだぞ!それでやっと『ラッキービーストを喋らせる帽子』を見つけたのだ!なのに帽子はサンドスターが降った日に・・・さぁ、隠しても無駄なのだ!早く帽子を返すのだーッ!」

 

 アライさんはレオポンに掴みかかって要求したが、当然レオポンは全く身に覚えがなかった為、相手にされなかった。

 

「何言っとんねん。帽子なんてあらへんし、わたあめの件も元々アライさんが溶かしたんやないか」

「嘘をついても無駄なのだ!怠け者なししょーが縄張りから離れてこんなところまで来たのは!アライさんから逃げ回ってたからなのだ!」

「ちゃうって、ウチはちょっと旅に出とっただけや。その・・・ちょっと頼りない後輩に頼まれてな」

 

 旅の話題についてレオポンはあまり話したくない様子だった。フェネックはレオポンの機嫌を損ねるかもしれないと覚悟した上で、自分の仮説の検証を試みる。

 

「ふーん。それってもしかしてかばんさんかな?」

 

 『かばんさん』の名前を聞いて、レオポンの顔色が変わった。だがレオポンはすぐに表情を元に戻す。

 

「せや・・・こ~んな帽子をかぶっとった。弱っちいし、気に入らんやつやったわ。もう喧嘩別れしてもうたけどな・・・」

「あぁ、やっぱりそうか」

 

 レオポンがかばんの姿を手振りを交えて説明する。フェネックの中で帽子泥棒=かばんさんであることが確定した。レオポンは話し終えると不快そうに話を打ち切ろうとした。

 

「さぁ、この事はもうエエやろ。もう遅いしお開きにしようや」

「でもししょー。まだ話したいことが・・・」

「いい加減にするのだ!」

 

 寝転がってふて寝しようとするレオポンに、アライさんが怒って立ち上がった。怒りの理由は言わずもがなだろう。

 

「かばんさんが帽子泥棒なわけないのだ!ししょーは嘘を付いてるのだ!」

「・・・」

「アライさんは知ってるんだぞ!かばんさんは橋をかけたり、家を建てたり、ここでも、争いを鎮めた偉大な動物なんだぞ!アライさんの足でも全然追いつけなかったから、きっととてつもなく足も早いのだ!」

「アライさ~ん、でもそれってししょーも関わってたよね?」

「そんなことは関係ないのだ!かばんさんはししょーにハメられたのだ!ししょーはかばんさんを利用してアライさんから逃げたのだ。でもかばんさんがあちこちで人助けをするから、きっとししょーは追いつかれると考えてかばんさんに帽子を渡して、自分は名前を変えて逃げ出したのだ!」

「でもアライさん。それだったらししょーはさっさとかばんさんのいる場所を教えて私達を追い出したはずだよ」

 

 アライさんの推理は一応の辻褄は合うが、レオポンの態度からしてもっと事情は複雑そうだ。アライさんはフェネックの指摘に「むむむ」と唸って自信をなくした様子だった。

 

「じゃ、じゃあ、本当にかばんさんが帽子泥棒なのか・・・」

「うーん。それも違うんじゃないのかな」

「むむむ、わからないのだ!アライさんにはかばんさんが悪いとは思えないのだ。でもかばんさんが全部嘘をついてたら・・・」

「かばんは悪くない!」

「「?!」」

 

 混乱してかばんを疑い始めたアライさんを、レオポンが突然一喝した。レオポンは今寝転がって背を向けているが、わずかに嗚咽が漏れるのが聞こえた。

 

「かばんは悪くないんや・・・サーバルも・・・全部ウチが悪いねん・・・」

「じゃあやっぱりししょーが!?」

「アライさん・・・」

 

 早合点しそうになるアライさんの腕をフェネックが掴んで止める。しばらくレオポンのすすり泣く声だけが部屋に響き渡った。

 

「もう、出てってくれ。ウチは今誰とも会いたくないんや。ウチは子供も作られへん欠陥品、誰も幸せにできへん、誰かに寄り添う権利もない生き物なんや・・・こんな半端モンの化物、見世物にしかならん流行りのアイドルと一緒や」

 

 見たことのないレオポンの自己嫌悪する姿にフェネックは言葉を無くした。レオポンが図書館へ行った事を既にフェネックは知っている。レオポンがそこで名前を知ったであろうことも。そこで何があったかなど、想像に難くない。

 これ以上聞けることはないだろう。フェネックはアライさんに退出を促そうとした。しかし、アライさんはレオポンに近づいて肩を掴み、その体をアライさんの方に向けさせた。

 

「その言葉は、かばんさんが言ったのか?」

「違う・・・でもウチは」

「腑抜けるのも大概にするのだ!」

 

 アライさんはレオポンの右頬を引っ叩いた。乾いた音が部屋に響く。レオポンは頬を抑えて立ち上がった。

 

「な、何すんねん!」

「ししょーこそ何をしているのだ!かばんさんを傷つけたなら謝ればいいのだ!ししょーのことだから手加減もせずに怪我させたに違いないのだ!かばんさんの痛みはこんなものじゃなかったはずなのだ!」

 

 アライさんは毅然とした態度でレオポンを叱りつける。レオポンの方も思いを吐露した。

 

「だって、仕方ないやろ!かばんのことは嫌いになられへん、でも、ウチらの命を弄んだんはかばんと同じヒトなんや。それがどうやって憎まずに向き合えるんや!ウチらは一匹一種のアニマルガール。箱庭のコレクションに過ぎへんのに」

「それがどうしたというのだ!だったら尚更謝らなければならないのだ!アライさんの知ってるししょーは、傍若無人で、身勝手で、理不尽なぐらい強くて、それでいて見栄っ張りで他人がどう言おうと関係なくアライさん達のことを助けてくれるフレンズなのだ!こんな所で腐ってる様な奴じゃないのだ!」

「・・・・・・」

 

 アライさんの言葉を聞いて、フェネックは「言い過ぎだよ~」と思わず笑いだしてしまう。レオポンもアライさんに気圧されて黙り込んだ。アライさんは決め手とばかりに勝負を挑む。

 

「ししょー!アライさんと勝負するのだ!次の試合で、アライさんがししょーからホームランを取ったら、アライさんをかばんさんの所に連れて行くのだ!」

 

 レオポンはその言葉に長く沈黙した。アライさんが息を呑んで見守っていると、漸く答えが帰ってきた。

 

「・・・解った。その勝負、受けたるで」

 

 そう言ったレオポンの目は、以前のよく知った『師匠』のそれであった。

 

(まったく、アライさんには敵わないね~)

 

 アライさんとフェネックは顔を見合わせて笑った。

 




次のスタメンどうしよう・・・。展開でごまかすか活動報告でオールスターゲームファン投票アンケを作って募集するか検討中。野球はそんなに詳しくないので・・・

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