たてがみがジャパリパークに来てから1ヶ月が経った。さばんなちほーでの生活にも慣れ、狩りもサーバルとの練習の甲斐あって小動物やヘビ程度なら安定して捕まえられるようになった。
「ふぅ・・・そろそろ切り上げよっか」
たてがみは慣れた手つきで野ネズミを始末すると、服の間に挟んで夜の草原を歩く。近頃は日差しの強い日中を木の上で居眠りしながら獲物を待ち、夜になれば自分から狩りに出かけるような生活を送っていた。こうして狩りを終えて夜のさばんなちほーを歩く時間は、たてがみにとっては楽しいものだ。暗闇の中では、耳が冴えて虫の歌声や風にそよぐ草のここちよい音が聞こえ、天井には美しい星がひろがってまるで海を泳ぐようだ。ネコ科のフレンズの中には夜行性のものも多いため、サーバルを始めとして少しずつ交友が広がってきた。
「いやぁ~今日もそこそこやな。そろそろおっきい獲物も捕まえてみたいわ」
たてがみは服や両手に狩りの成果を抱えながら言う。今日の収穫はヘビ二匹にネズミ一匹。一人で狩りをする都合上小さな獲物しか捕まえられないが、そろそろ食事のレパートリーも増やしたいところだ。普通ならば小さな獲物であるが・・・
「・・・ん?なんか聞こえたような?」
遠くから悲鳴のような声が響いた気がした。
「とりあえず、行ってみるか」
気のせいだとも考えたが、気になったたてがみは声のした方へ向かった。
コノハ博士は身を細く縮こませながら、目の前の事態へと至った経緯を悔やんでいた。ことの発端はジャパリまんにもいい加減飽きてきたので、フレンズ化する前のように虫でも食べてみようと考えたことだった。ねったいちほーでの豊かな食生活に満足し、しかし虫を食べるところを他のフレンズ達に見られるのはみっともないと言う助手を一足先に返し、さらなる昆虫を探して一人さばんなちほーまで来たのはいいが、折り悪くセルリアンに遭遇してしまったのである。
「なんとか隠れましたが・・・体がだるいです。もう飛べません」
セルリアンはフレンズの輝きと誇りを奪う。虫に夢中になっているところを不意打ちを食らった博士は、なんとか最悪の事態は避けれたものの力を奪われて飛んで逃げることすら出来なくなっていた。
「あぁ、こうなるぐらいなら助手を無理にでも引き止めておけばよかったのです・・・いいえ、私が食い意地を張らずに一緒に帰ればよかったんですね・・・」
コノハ博士は後悔しながら身体を細くして少しでも見つからないように努力したが、現実は非情である。セルリアンは博士を見つけると、ゆっくりと迫ってきた。
「あ・・・ぁぁああああ・・・・」
逃げられないと解るや今度は身体を膨らませて威嚇しようとするが、セルリアンには何の効果もなく、気だるさからバランスを崩して倒れてしまった。
「ミミちゃん・・・誰か・・・助けて・・・」
博士はいつもの威厳など捨てて、泣きながら助けを求めた。セルリアンが目の前に迫り、青く発行するスライム状の身体がドロドロと足から身体を飲み込もうとする。
「あ・・・あがっ・・・やめるのです・・・やめて・・・」
セルリアンの触手が口にまで入り、完全に身体を包み込みかけたそのとき、セルリアンの身体を何かが切り裂いた。
「がはっ・・・だ、誰なのです?」
セルリアンから開放された博士は、喉に入ったスライムを吐き出しながら、セルリアンを斬り裂いた相手を見上げた。そこには蛇を首に巻き、ネズミをV字に開いたベストの胸元とシャツの間に挟んでいる不気味なフレンズがいた。
たてがみが現場に着くと、見たこともないスライム状の何かと、それに捕食されかけている鳥類のフレンズがいた。たてがみはとりあえずスライムに攻撃を仕掛けた。スライムの動きは鈍く、たてがみの攻撃を受けて容易く切り裂かれ、四散する。
「だ、誰なのです?」
スライムから開放された鳥が何か言っているが、たてがみの興味はスライムの怪物へと向いていた。
「あら、あんだけバラバラになってもまだ生きとる」
セルリアンはすぐに再生を始め、あっという間にもとの姿に戻った。たてがみはもう一度セルリアンを攻撃したが、またすぐに再生してしまう。
「うーん。これどうやって倒せばエエんや?てかこれって食えるんやろか?」
たてがみはセルリアンを食べる気でいた。しかし、何度攻撃しても死なないセルリアンに手をこまねいていると、鳥のフレンズが大きな声で言った。
「何をやっているのです、セルリアンは石を狙わないと倒せないのです!」
「石?あぁ、これか!」
鳥のフレンズの言われるがままにたてがみはセルリアンのコアを右腕で身体ごと串刺しにした。するとたちまちセルリアンはキューブ状の結晶になって爆発四散し、跡形も無くなってしまった。
「あちゃー、消えてもうた。結構大物やと思ったのに、勿体無いわ」
消えてしまったセルリアンにたてがみが溜息をついていると、助けた鳥のフレンズが近づいてきた。
「誰かは知りませんが助けてくれてありがとうなのです。私はアフリカオオコノハズクの博士です」
「どうも、ウチはたてがみや。あのバケモン食えるかと思って近づいただけやから気にせんでエエで」
「セルリアンを食べようとしていたのですか?余程の変わり者か世間知らずですね」
コノハ博士は驚いたように言う。どうやらあの生き物はセルリアンと言うらしい。
「セルリアンは度々パークに現れてフレンズを襲い、その輝きを・・・」
話している途中で博士の身体がふらつく。たてがみは慌てて博士の体を抱きかかえた。
「大丈夫か?・・・怪我とかしてないか?」
「はい・・・ですがこのように、セルリアンに襲われると身体から気力を奪われて、最悪廃人になってしまうのです」
たてがみの腕の中で上目遣いにたてがみを見上げる博士はとても衰弱している。
「そうか・・・なら、これでも食って元気出し。しんどいときにはこれが一番や」
たてがみはさっき捕ってきたばかりのネズミを与えた。博士は「フレンズの知恵袋の自分がこんな・・・」と躊躇ったが、強くすすめると食べ始めた。
「結構ガッツリ食べるやん・・・」
「まぁ、ガツガツガツ・・・フレンズ化する前は・・・ガツガツ・・・毎日食べていたので・・・ゴックン・・・まぁ体面もあるので表立っては食べられなくなりましたが」
あっという間にネズミを平らげた博士は、威厳のある姿に戻る。たてがみから見れば大分小柄ではあるが・・・
「たてがみはなぜ動物を捕食しているのです?フレンズならラッキービーストからジャパリまんを支給されるのです」
「うーん。どうもボスには好かれてへんみたいで、ウチが近づいても逃げてまうねん。それでこうして毎日動物を探しとるんやけど」
「ラッキービーストが?ですか・・・あなた、何者ですか?たてがみなんて名前、聞いたことありませんよ」
「いやなぁ、最近こっちに来たんでウチは名前もよう判らんねん。昔は檻に住んどったんやけど、気ぃついたらここにおって・・・あっ、そういえばサーバルが前に博士がどうこうって言ぅとったけど、コノハのことか?」
「名前を勝手に略さないでください。私のことは博士と呼んでほしいのです・・・それよりも、あなたは何の動物かわからないんですね」
「あぁ、博士なら見当付くって聞いたんやけど、何か判らんか?」
博士は頷くと、たてがみの身体を調べ始めた。
「はい・・・この模様はヒョウ柄ですね・・・一見するとヒョウなんですが・・・どうして鬣がついているのでしょうか?」
ブツブツつぶやきながら周りをちょこちょこ歩き回る博士を見ていると、たてがみはあることを思いついた。狩りのついでに拾ったジャパリまんの紙袋を膨らますと、それを両手で思いきり割る。
「!?」
驚いた博士は瞬時に身体が細くなった。
「な、何をするのです!?」
「いや、さっき襲われてた時、身体が細くなってたのに急に膨らんだから、脅かしてみたら細なるかなって」
「そんな理由で、あなたのためにわざわざ考え事をしている時に非常識ですよ!」
怒った博士は頬を膨らませる。すると服もふわふわと膨らんで博士の身体を大きく見せる。しかし、それはたてがみを楽しませるだけだった。
「あはは、膨らんだ!すっごい!どうなんてるん?」
たてがみは博士を両手で捕まえると膨らんだ服をもふもふと触り始めた。
「これすごいで!コノハの体めっちゃふわふわやん!体はめっちゃ細いけど」
「や、やめるのです!乱暴に扱わないでほしいのです!フクロウはデリケートなのです!あと、体のことは気にしてるので言わないでほしいのです!あぁ・・・そこさわっちゃだめです・・・」
子供のようにジタバタと暴れている博士を撫でるのに夢中になっていると、たてがみは後ろから何者かによって蹴飛ばされた。
「むぐぅ・・・誰や!?」
たてがみが頭を抑えながら振り返ると、そこには博士にそっくりな鳥のフレンズが飛んでいた。
「はぁ、気持ちよか・・・じゃなくてひどい目にあった。って、助手!来ていたのですか?」
「えぇ、さばんなでセルリアンが出たと聞いたので、心配になって探していました。こんな所で何をやっているのです?」
「えっと、こいつに襲われたのです・・・正体不明のフレンズなのです!」
博士は助手と言われた少女の後ろに隠れてたてがみを指差す。
「ウチはセルリアンに襲われてたコノハを助けただけや・・・それでウチがなんなんか聞いたら、コノハがめっちゃ可愛かったからちょっと・・・」
「ほう・・・なるほど、よくわかりました。その気持ちはわかるのです」
「え?助手?どうして納得してるのですか?」
博士はうんうんと頷く助手に困惑する。しかし、助手は博士を置いてけぼりにして自己紹介を始めた。
「紹介が遅れました。私はワシミミズクです。博士の助手をしています。博士が危ないところを保護していただきありがとうなのです。あなたのことについてですが、ラッキービーストが反応しないということは、新種のフレンズ、少なくともこのジャパリパークに存在しなかった種ということになります。そうなると私達としても図書館に戻って調べなければわからないのです。もうすぐ朝ですし、また日を改めて図書館に来てください。図書館はさばんなを出てジャングルや砂漠を通り、湖を越えたずっと先にあるのです。さぁ、博士。帰りましょう」
助手は再び羽を広げて帰る準備をする。博士はたてがみをみると頬を赤らめてもじもじとする。愛らしい表情にたてがみもドキッとした。
「またもふもふして欲しいんか?」
「ち、違うのです!ですが、最後に一つアドバイスするのです。この体になると、味の嗜好は以前のままですが、身体自体は雑食になるのです・・・ですから、肉ばかりでなく、虫や樹の実も食べてみるといいのです。そのほうが体にいいこともあるらしいので・・・」
「おう、ありがと!ほな、またな!」
「はい・・・また、触りに来てほしいのです・・・」
博士はたてがみに聞こえないように小さく呟くと、図書館へと向かって朝焼けが射し始めた空を飛んで行った。
怯える博士にドロドロした欲望をぶっかけたい人生だった