聖晶石。それは主にマスターの財布から象られた、神秘の石である。つまりそれは数が揃えば優越感となるが、溶ける時の心情と来たら向こう岸のない底無し沼でひたすら這うような感覚。そう爆死とは、果てなき夢を追う者にしか味わえぬ、謂わば負の特権であるのだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「せ、先輩の表情が夜叉のごとき変質を!」
「鎮静剤散布! 急がないと血圧の上がりすぎで死ぬぞ!」
「っていうかもう血管ちぎれてるんじゃないあれ。ははっ、いつ見てもおおよそ人間とは思えない顔してるわね。世界最後だのなんだの唄ってても、結局は薄汚い人間ってことよね」
「そこの魔女言ってる場合かよ! 俺は爆死がそのまま死因とかいうマスターを見たくないからな!?」
英霊召喚とは、本来クリーンな物である。魔術の素養があるものであれば誰でもできてしまうし、事故さえなければ呼び出されたサーヴァントにそうそう殺されることもない。よっぽどのことがなければマスターに危険が及ぶこともないだろう。そうただ、死ぬ可能性があるとすれば、それはマスター自身の変調ぐらいなものだ。
ここはスタッフルーム、召喚サークルの隣にある別室で、ガラス張りのため召喚の様子が伺えるようになっている。何故こんなものが必要なのか、それはサーヴァントに原因がある。呼び出されたサーヴァントにマスターがそうそう殺されることがないのは、令呪が備わっているからだ。三画の絶対命令権、それはサーヴァントの命と悲願を握っていることを意味する。だが時折、両者がどうしても絶望的に馬が噛み合わないときがある。その時、サーヴァントにマスターを殺させないために、マスターが不用意にサーヴァントを殺さないための設備がここに置いてあるのだ。
その一つが、人間用の鎮静剤である。その使われる理由こそ間違っているものの、こうしてマスターの身を守っているのだから万事問題無しである。
「……先輩、聞こえますか? 石も残り少なくなってきました。今回はこれで終わりにしましょう」
忠実な後輩、マシュ・キリエライトはマイクを使い語りかけた。その先は床を涙で濡らしながら這いつくばる、なんとも情けない自身のマスターに向けてだ。
マスターは鼻水を滴ながら返答した。
「でも、でもぉ……わんわんお……わんわんおがぁ……あんなの、あんなのぉ! 絶対あのままじゃ駄目だよ……決めたんだよぉ……風そよぐフランスの平原を好きに走らせるって、広大なアメリカを横断させるって、それは美しいウルクの平地を駆け巡らせるってぇ!」
これはかなり重傷だ、マシュ・キリエライトは困ったように目尻を下げた。出来れば自分だってそうさせてあげたい、しかしここで止めなければ鎮静剤すら間に合わずに本当に死んでしまうかもしれない。まだ遊園地なるものも二人で見に行ってないのに、そんなことになるのは大変困る。観覧車に乗って見つめ合う作業だって残っているし、メリーゴーランドで腰に手を回してもらいたいし、ジェットコースターで思いっきり叫び合いたいのだ。
マシュ・キリエライトは、いつの間にか自分が思うよりも欲というものが強くなっていた。
「それは、私もそう思います。でも後輩として今優先すべきは先輩です。辛いでしょうけど――」
「いいんじゃない? させてあげたって」
目線だけ向けると、その先には黒く染まった聖女、ジャンヌ・ダルク・オルタの姿があった。ふっとため息をついた。
「はぁ? ダメに決まってんだろ。お前だってこれ以上回したらどうなるか、嫌ってほど見てきただろ。母ちゃ、ナイチンゲールしかり、イシュタルしかり」
「でもあいつ、見てるのずっと遠くよ。完全に犬っころ以外アウトオブ眼中ね。あの分だと、引かないだの爆死とかに関わらず暫く引きずるのは目に見えてるじゃない。それなら引かせて、私たちで考えを絶たせる方が重要だと思うのですけれど」
「それが順当だろうな。人間というものは、やった後悔よりもやらない後悔というものの方が重く感じるものだ。財布が薄くなるのは自業自得というものだが、当たらないというのは不幸なだけだ。それにより生じた傷は埋めなくてはいけないし、瘡蓋でより強くさせなければならない。非常に煩わしいが、メンタルケアというのも、サーヴァントの役目だと思うがね」
「……わかりました。身が入らない先輩というのは私としても見ていて辛いものですから。しかし、ミスターエルメロイ、その口ぶりはまるで……」
「さぁマスター、なけなしの一回だ。踊るなり光を調整するなり好きにしてから覚悟を決めるがいい」
その一言に、マスターの目に火が点る。それは引き当てる覚悟の炎か、はたまた受け入れる覚悟の熱か。とにもかくにも、マスター自身の覚悟は完了していることが目に見えてわかった。
「あえてノーモーションッ! 届けマイラブ!!」
愚策中の愚策に、孔明は呟いた。
「堕ちたな」
しかし、それは案外功を奏した様だった。生粋のスキップ教であるマスターはいつものように躊躇なく高レア以外を省くようにスイッチを押した。
そしてその時が来た
光三本、それは高レアサーヴァントの来訪を意味していた。
「こいやぁぁぁああ!」
……が、ダメ……っ! その金に写るのはライダーの絵……っ! ハズレ、完全な敗北……っ!
マスターの脳に過ったのは、多くの星4ライダー達の顔だった。マルタさんだったら嫌だなぁ、あ、でもレアプリ増えるし悪くないかなぁはははは。等と考えていたその時、英霊召喚の光の塔が消えた。
見えたのは赤、圧倒的赤。潤う肌に、実際豊満な胸、顔の傷。そして燦然と輝く、五ツ星。
「――あんたが新しい、アタシの雇い主かい?」
大海賊フランシス・ドレイクその人に、間違いなかった。
「あっ、船長だ。いらっしゃい」
「おう、あんたかい。随分と久しぶりだねぇ」
「ははは、船長ピックアップのときは尽く運がなかったもので」
「なんだいなんだい、情けないねぇ。ま、いいさ。こうしてアタシを引き当てたんだからさ。これからどっと稼ごうじゃないかマスター!」
「もちろん、これからよろしくね船長」
そうにこやかに握手を交わしたその時、マスターは初めて違和感を覚えた。
今自分が握手しているのは誰だっけ、船長だ、星5ライダーのフランシス・ドレイクだ。ようやっと来た初女性星5だなぁ。いやぁ、嬉しいなぁ。…………。
「船長だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!??????」
「うぉっ!?」
驚くフランシス・ドレイクを尻目に、マスターは拳を握り叫んだ。
「イエェェェェェェエエエエ!!!!」
壁を突き破ってきた黒髭も叫んだ。
「イエェェェェェェエエエエ!!!!」
二人はその場で跳び跳ね、舞いを始める。さながら森の畜生共のティガーの如き跳ねように、フランシス・ドレイクはただただ引くだけだった。
マスター:男であり女。その生き様は漢だから性別など些細な問題でしかない。爆死すると血管が五六本浮き上がる。
マシュ:僕らの可愛い純朴系後輩サーヴァント。なんだかんだマスターに甘い。
邪ンヌ:カルデア1の火力を誇るゴリラ系魔女。孔明とは組まされ続けたせいで親近感も沸き、今ではぷよぷよ等のゲームをする仲となった。しかし孔明が強すぎてよくコントローラーを投げては壊す。
孔明:カルデア1のサポート力を誇る体のどこでも手が届く系社畜サーヴァント。ゲームにはそれなりの理解があるため、爆死したマスター一番に慰めるのは彼の役割でもある。
モードレッド:カルデア1の忠犬力を誇る正妻系相棒サーヴァント。爆死した後の姿を見るのは大変心が痛むが、とりあえずマスターの心の平穏のため笑顔を分け与えて笑顔にさせる役目を買って出てる。マスターの部屋を一番知ってるのは他ならぬ彼女。
黒髭:カルデア1の変態力を誇る同人作家系オタクサーヴァント。今回の召喚で一番喜んでるのは彼。三日三晩興奮で寝れなかったとかなんとか。