進撃の芋女【完結】   作:秋月月日

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 アニメを観て単行本を読んで、かなりハマってしまいました。

 原作をあまり壊すことなく完結目指して進撃していきますので、これからよろしくお願いします。

 追伸:サシャ=ブラウスの胃袋はブラックホールの疑いあり。


第一話 芋を喰らう少女

「オイ、貴様! 貴様は何者だ!」

 

 青く晴れ渡った空の下、そんな叫びが大地を揺らす。

 その原因となるのは、長身で禿げ上がった男性だった。目の周りにはクマの様にも見える影があり、年齢によって浮かび上がったしわが彼の強面を更に強化している。

 そんな男の周りには、直立不動で綺麗に整列した大勢の若者たちがいる。皆一様に緊張の面持ちをしていて、男が叫ぶたびに体をビクビクと震わせている。

 男は一歩足を前へと動かし、中性的な顔の少年の前に立つ。

 

「オイ、貴様! 貴様は何者だ!」

 

「シガンシナ区出身、アルミン=アルレルトです!」

 

「そうか、馬鹿みてえな名前だな! 親が付けたのか!?」

 

「祖父が付けてくれました!」

 

 アルミン、と名乗った少年は肉食獣に睨みつけられた小動物の様に身体を縮こまらせるが、目を閉じながらも全身全霊といった風に叫ぶ。傍から見ればいじめられているようにしか見えないが、これは伝統的な通過儀礼なのだ。

 怯みながらも返事をするアルミンに賛辞の言葉を送ることなく、男は叫ぶ。

 

「アルレルト! 貴様は何しにここに来た!」

 

「人類の勝利の役に立つためです!」

 

「それは素晴らしいな! 貴様には巨人の餌になってもらおう! ――三列目、後ろを向け!」

 

 アルミンの頭を掴んで回れ右をさせ、男は再び叫ぶ。アルミンの後ろに並んでいた若者たちは慌てた様子で回れ右をし、ほっと胸を撫で下ろしていた。自分があの男の相手をする羽目にならなくて良かった、と本気で安心しているようだった。

 アルミンの前から去って行った男は、近くにいた短めな金髪の少年の元へと移動する。少年は暑さと恐怖のせいで汗を流しながらも、男の怒りの逆鱗に触れないように必死に叫び散らしていた。

 すでにこの挨拶(?)の連続は嫌という程続けられている。容赦なく照りつける太陽のせいで喉の中はからからに乾いていて、意識が朦朧としている者も何人かいるようだ。

 そして、そんな若者たちの中でも特異な容姿をしている少年の姿があった。

 色素が完全に抜け落ちた白髪に、力なく少しだけ閉じかけたライトブラウンの眼。百六十センチ中盤といったぐらいの身長で、体つきは男性の中でも平均的なものだ。――だが、やはり一番、目にかかるほどの長さの白髪が異様に目立つ。

 そんな白髪の少年は今もなお叫び散らしている男に聞こえないように溜め息を吐き、

 

(隣で芋を食いまくっているコイツを、俺は注意した方がいいんだろーか……)

 

 自分の右隣に立っている明るい茶髪を短めのポニーテールにまとめた少女に向かって、先ほどよりも大きな溜め息を吐いた。

 純粋でいかにも裏表のなさそうな表情をしていて、顔つきを評価するならば美少女だと言われてもおかしくないほど。均整のとれた美しいスタイルで、足もスラリと長い――そんな少女。

 だが、そんな少女の右手には、大きな芋が握られている。人の拳ほどもある大きさの芋を、その少女は周りを警戒しながらガツガツムシャムシャと食している。

 強面の男が現在進行形で叫び散らしているというのに、この少女は臆することなく必死に芋を食べている。まるで食べることこそが人生だと言わんばかりに、少女は無我夢中に芋と格闘している。

 そして最悪なことに、彼女の奇行に気づいているのは白髪の少年だけではない。彼女の周囲にいる十数名の若者たちの全員が全員、信じられないといった表情で彼女を見つめているのだ。――だが、少女は芋を食べ続ける。

 白髪の少年は思わず眉間を指で押さえ、小さく溜め息を漏らす。

 と。

 

「オイ、貴様。何をやっている……?」

 

 坊主頭の少年を掴み上げていた強面の男が、芋を食べている少女に気づいた。

 太陽光が降り注ぐ広場にいる全員が少女に注目する中、少女は左右に小さく首を振って辺りを見回し――再び芋に食いついた。

 (いや流石に気づけよお前ぇぇえええええーッ!)だらだらと大量の汗を掻きながらも、少女に視線で今の緊迫した状況を知らせようとする白髪の少年。だが、少女は少年の視線に気づかない。

 そして当たり前なのだが、強面の男は芋を食べている少女の前まで移動し、

 

「貴様だ貴様に言っているんだ! 何者なんだ貴様は!」

 

 ――今日一番の大声を上げた。

 まさか叫びの対象が自分だとは思っていなかったのか、少女は目を見開きながら驚愕の表情を浮かべる。

 だが、すぐに口に含んでいた芋を咀嚼して飲み下し、右手を左胸の前に移動させて敬礼した。――右手に蒸かした芋を持ったまま。

 

「ウォール・ローゼ南区、ダウパー村出身、サシャ=ブラウスです!」

 

「サシャ=ブラウス……貴様が右手に持っているものはなんだ……?」

 

 男の強面がさらに険しくなり、少女――サシャに圧倒的な威圧感を与える。――いや、サシャよりも彼女の隣にいる白髪の少年の方がビビっている。目尻には涙が浮かび、身体は小刻みに震えている。

 男の質問にサシャはキリッと表情を硬くし、自信満々に言い放つ。

 

「蒸かした芋です!」

 

 ……………………………あ、こいつバカだ。

 そんなことを不意に思ってしまう白髪の少年だったが、サシャは更なる爆弾を投下する。

 

「調理場にちょうど頃合のものがあったので、つい!」

 

「……貴様、盗んだのか? 何故だ……なぜ今、芋を食べだした……?」

 

 本当に意思の疎通ができているのかいないのか、薄氷の上を渡っているようなギリギリの会話を真横でされ、白髪の少年の細い神経がガリゴリガリゴリと削られていく。あのサシャ=ブラウスなる少女への怒りがこっちに飛び火しなけりゃいいなー、とかなんとか思っていわゆる現実逃避の真っ最中なのだが、それでもサシャは止まらない。

 

「冷めてしまっては元も子もないので、今食べるべきだと判断しました」

 

 マジでお願いします、誰か俺と隊列を代わってください。

 何も考えていないのか、はたまた本気で言っているのか。とにかく何を考えているのかよく分からないサシャの言葉に白髪の少年は静かに涙を流すのだが、強面の男は驚きの色を浮かべながらもサシャに問いかける。

 

「いや、分からないな……何故貴様は、芋を食べた?」

 

「…………それは、何故(なにゆえ)人が芋を食べるのか、という話でしょうか?」

 

 空気が、凍った。

 不思議そうな顔で強面の男に質問するサシャ。疑問を質問で返すという意味不明なファインプレーを起こしてしまったサシャに、周囲にいる二百人超の若者たちは皆一様に絶句している。――このバカは、なにを言っているんだ?――

 と、そんな沈黙が十秒ほど続いたころ、サシャの方に動きがあった。

 「はっ」と何か思いついたように息を吐き、なにを思ったのか両手で大きな芋を二つに割ったのだ。――四分の一個と四分の三個に。

 そして小さく舌打ちをしつつも、小さな方の芋の欠片を右手で持ち――強面の男の前に差し出した。

 

「半分、どうぞ」

 

「…………半、分?」

 

 明らかに大きさに違いがある芋を凝視してなんとか言葉を紡ぐ強面さん。サシャはサシャで愛想笑いなのかやりきった表情なのかよく分からない笑みを浮かべているが、完全に今の空気を読めていなかった。頭が弱いのか頭が悪いのか、とにかくこの少女はバカなのだろう。

 強面の男はサシャに渡された芋を無表情のまま口に含み、五秒と掛からず飲み下す。

 そしてサシャの顔を正面から見据え、

 

「……サシャ=ブラウス。貴様には五時間ぶっ続けでランニングを行ってもらう」

 

「………………………え?」

 

「そして更なる罰を与えてやろう。……サシャ=ブラウス。貴様の今夜の晩飯は――抜きだ!」

 

「………………………………ええぇっ!?」

 

 いや、晩飯抜きの方が辛いのかよ!

 晩飯抜きと言われたときの方が五時間持久走を言い渡されたときよりも悲壮な顔をしたサシャに、白髪の少年は思わず心の中でツッコミを入れる。

 だが、ここで少年が思っても見なかった事態が発生する。

 

「貴様! 貴様は何者なんだ!」

 

 なんと強面の男が自分の目の前で叫び散らしているではないか。

 あまりにも予想外すぎる展開に少年は「ひっ」と一歩引いてしまうが、すぐに敬礼をしてあらん限りの声量で叫びを返す。

 

「と、トロスト区出身、リィン=マクガーデンです!」

 

「リィン=マクガーデン! 貴様は何しにここに来た!」

 

 強面の男の問いに白髪の少年は一瞬だけ怯むが、すぐに真面目な表情を浮かべ――腹の底から全力で叫ぶ!

 

「調査兵団に入って、壁の外の世界を見るためです!」

 

 空気が、凍った。

 先ほどのサシャの発言の時とは明らかに違うベクトルで、空気が凍った。

 巨人に支配されたこの世界で、壁の中というのは世界で唯一安全だとされている空間だ。普通の巨人だったら絶対に壊せないほどの強度を誇る壁に囲まれ、人々は長きにわたり平和を守ってきた。

 もちろん、そんな生活を送っていれば、外の世界なんていうものに興味はなくなる。わざわざ巨人に食われるという危険を冒してまで壁を越えようとは思わないからだ。

 だが、少年――リィン=マクガーデンは続ける。自分の想いをぶつけるように、全力で叫ぶ。

 

「調査兵団に入って壁の外に行き、巨人を駆逐します! 駆逐して駆逐して駆逐して、人類の故郷を取り戻すために――俺は訓練兵団にやってきました!」

 

 リィンは叫ぶ。

 獰猛な目つきで獰猛な顔つきで――あらん限りの声で叫ぶ。

 巨人に支配された世界。

 人々は、ただ巨人に捕食される未来だけを恐れている。

 だが、ここにもう一人、エレン=イェーガーとは違うベクトルで巨人を駆逐しようとする少年が一人、現れた。

 壁の外の世界を見るため。壁の外の世界を取り戻す為。――リィン=マクガーデンは調査兵団を目指す。

 これは、そんな物語。

 

「そうか! それはご苦労なことだな! だが、貴様なんかが巨人を駆逐するなんて不可能だ! とりあえず貴様には――そこのサシャ=ブラウスと同じ罰を受けてもらおう! 芋を食していることに気づいているにもかかわらず、引き止めなかった貴様には、お似合いの罰だろう?」

 

「………………え?」

 

 …………いや、訂正しよう。

 リィン=マクガーデンがサシャ=ブラウスの暴挙に巻き込まれつつも、必死に彼女のストッパー役になろうとする。

 ――これは、そんな物語。

 

 

 

【挿絵表示】

 




 《現在公開できる情報》

 リィン=マクガーデンは巻き添え体質であり、人の頼みを断れないお人好しである。
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