進撃の芋女【完結】   作:秋月月日

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 三話連続投稿です。

 今日の更新はこれで終了です。

 いやー、今日は頑張った。



第十話 トロスト区奪還作戦④

 

 とにかく今は第34班の奴らと合流しなければならない。

 十メートル級の巨人をなんとか討伐したリィン=マクガーデンはそんなことを考えながら、建物の上を走り抜けていた。

 エレンが単騎突撃を決行してから、随分と時間が経ってしまっている。先ほどから怖ろしいほどに不気味な静寂がこの場を支配してしまっていて、リィンに焦燥を覚えさせていた。

 見たところ、トーマスを喰った巨人の姿はもうない。他にも数体の巨人がいたはずだが、その姿も見当たらない。先ほどガスの補給庫に多数の巨人が纏わりついていたというのもある。おそらくだが、ここら一帯にいた巨人のほとんどが補給庫の方に進撃したのだろう。……なんて最悪な状況だろうか。

 これは他の兵士にも言えることかもしれないが、リィンの立体機動装置のガスはそろそろ底を突く。無駄な移動と無駄なガスの噴出が祟り、凄まじい速度で残量が減少してしまったからだ。このままガス欠になってしまったら、もはや彼らに巨人と戦える術はない。

 と、そんな心配をしていたリィンの目に、複数の兵士が集まっている光景が映りこんできた。右前方、赤い屋根が特徴の建物だ。

 そして同時に、彼と同じ班に所属していた少年の姿も発見した。アルミン=アルレルトだ。

 リィンは即座に屋根から飛び降りてアンカーを射出し、兵士たちが集まっている建物へと移動する。

 そこにいたのは、奇しくも彼の同期達だった。

 

「オイ、アルミン! すまねー、巨人と鉢合わせしちまって討伐するのに時間を喰っちまった! 他の班員はどーした!? さっきからずっと探してるんだが、お前以外は誰も見当たらねーんだ!」

 

「……リィ、ン?」

 

「ああ、そーだよ! お前と同じ班で同期のリィン=マクガーデンだ! オイどーしたんだよマジで、頭ァぶつけて記憶でも失っちまってんのか!?」

 

「落ち着いて、リィン。アルミンが話せない」

 

「あ……いや、その……すまん」

 

 茫然気質、と言った様子のアルミンの肩を前後に揺らしながら口早に問うリィンを、アルミンの傍に立っていたミカサ=アッカーマンが引き剥がす。いつものように冷静なミカサの態度にリィンは落ち着きを取り戻し、膝をついて俯いているアルミンに謝罪の言葉を述べた。

 周囲を見てみると、同期の中でも特に仲が良かった連中が勢揃いしていた。ライナー、ベルトルト、アニ、ジャン、マルコ、コニー、ミカサ、アルミン、そして――サシャ。クリスタとユミルの姿が見えなかったが、彼女たちのことだ、きっとどこかで生きているに違いない。

 友人たちや愛しい人がまだ生きていることに安堵の表情を浮かべるリィンだったが、第34班の姿がどこにも見当たらないことに疑問を覚えてしまっていた。――そして同時に、最悪の可能性が頭をかすめた。

 

「……オイ、アルミン。まさかとは思うが、俺とお前以外の34班の奴らって――」

 

「~~~~ッ!」

 

 冷や汗を流しながらリィンそう問いかける。

 アルミンは涙でぐしゃぐしゃになった顔をリィン達の方へと向け、かすれた声で言い放つ。

 

「……僕達……訓練兵、34班。……トーマス=ワグナー、ニック=ティアス、ミリウス=ゼルムスキー……ミーナ=カロライナ、うぅっ……ぐすっ……エレン=イェーガー。――以上五名は、自分の使命を全うし、壮絶な戦死を遂げました!」

 

「――――――――――――――――、は?」

 

 そんなアルミンの報告に、リィンの思考は完全にショートした。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ミカサが単独で本部に突撃した。

 エレン=イェーガーを始めとした訓練兵34班のほとんどが戦死したという報告を受けた直後、ミカサ=アッカーマンは同期の兵士たちを挑発するような言葉を残し、本部に群がる巨人たちの討伐に向かってしまった。一切の感情も込められていない、機械のような声色だった。

 104期訓練兵たちがミカサが去って行くのを見つめる中、ジャン=キルシュタインは俯きながら小さく呟きを漏らす。

 

「……残念なのは、お前の言語力だ。あれで発破かけたつもりでいやがる」

 

「実際、アイツなりに発破かけたってことだろーけどな。――で、どーすんだ? 一応は巨人を一体は討伐できた俺があえて言うが、巨人を倒すのは生半可な覚悟じゃ無理だ。今の104期訓練兵で、本部に群がる巨人を駆逐できんのか?」

 

 リィンの言葉にジャンがギリィッ! と歯を噛み締め、

 

「……テメェのせいだぞ、エレン! ああくそっ、やってやるよ! やってやろうじゃねぇか!」

 

 ジャンはそう叫ぶなり右手の超硬質ブレードを高く掲げ、ミカサが去って行った方を茫然と見ている同期達にあらん限りの声で叫び散らす。

 

「オイ! 俺たちは仲間に、一人で戦わせると学んだかぁっ!? お前ら本当に腰抜けになっちまうぞ!」

 

「くそっ!」

 

「……そいつは心外だな」

 

「…………はぁぁ」

 

 自分を押し潰そうとする恐怖を跳ね除けるように叫び、ジャンは本部に向かって移動を始める。コニー、ライナー、アニ、ベルトルト……といった具合に104期訓練兵たちの中でも精鋭と呼ばれる者たちが、ジャンに続くように本部に向かって移動していく。

 そんな中、リィンは近くにいたサシャに悪戯を思いついた子供のような笑みを向ける。ただそれだけの行動でリィンの思惑を理解したサシャは苦笑を浮かべ、自分の同期達の方を振り向いて全力で叫ぶ。

 

「やい、腰抜け! 弱虫! アホぉ!」

 

「そんなに怖けりゃずっとそこで震えあがってろ腰抜けども! それで巨人に襲われちまっても誰も助けてくれはしねーけどな!」

 

 そう言うや否や、リィンとサシャは屋根から飛び降りて本部に向かって直進し始めた。できるだけガスを消費しないように気を付けながら、彼ら二人はトロスト区の空を駆け抜けていく。

 そして数秒と経たない内に、後ろのほうで歓声が上がった。リィン達の挑発によって自分を鼓舞するしかなくなった、同期達の声だった。

 そんな同期達にリィンは苦笑を浮かべながら、隣を移動しているサシャに声をかける。

 

「――ただいま、サシャ」

 

「――おかえりなさい、リィン」

 

 激しい空気抵抗により発生した風が、二人の右の二の腕に巻きついている赤い布をはためかせる。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 自らを鼓舞して本部への突撃を開始した彼ら104期訓練兵だったが、あまりにも多すぎる巨人を前に突撃を停止せざるを得なくなっていた。

 彼らが停止している建物の下では、巨人から逃げきれなかった同期達が貪り食われている。六体ほどの巨人が一か所に集合し、人の血肉を食い千切っては咀嚼している。ある者は吐き気を覚え、またある者は現実から目を背けるように後ろを向いていた。

 本当にこのまま無事に本部までたどり着くことができるのか。本部に辿りつく前に死んでしまうのがオチなのではないのか。今この場において巨人を討伐したことがあるのはリィンだけ。しかも、討伐数はたったの一体だけだ。一騎打ちならばともかく、複数の巨人が集まっているこの場において役に立つとはとても思えない。

 だが、このままここで立ち止まっているわけにもいかない。早く本部に行ってガスを補給し、壁を登らないといけない。――生き残るために!

 と。

 

「今だ! 今の内に本部に突っ込め!」

 

 なにか最善策を思いついたのだろうか。仲間が喰われている光景を先ほどまで眺めていたジャン=キルシュタインは腹の底から声を上げ、そのまま本部に向かって走り始めた。現実を直視し、この場を乗り切るための最善策を実行するために。

 ジャンの掛け声に従うように、104期訓練兵たちは屋根の上を駆け抜けていく。誰かがこの場を仕切らないといけない以上、最も現実的な作戦に従うしかない。――たとえそれが、仲間を見殺しにする行為だったとしても。

 屋根を蹴り、宙を舞い、更に屋根を蹴る。本部到達というたった一つの目標を胸に、彼らはガスが切れるギリギリまで立体機動装置を駆使するより他はない。

 一人が巨人に捕まれ、一人がガス欠で地面へと落下する。そして一人が果敢に巨人に立ち向かって戦死し、更に一人が巨人に手足を食い千切られる。

 そんな地獄絵図が間近で描かれようとも、彼らは脚を止めるわけにはいかない。喰われる仲間から目を背け、ただ我武者羅に前へ進むしかないのだ。

 そしてついに、本部が眼前に現れた。

 

「うぁああああああああああーッ!」

 

「行くぞ、サシャ!」

 

「了解です!」

 

 先頭を駆けるジャンが窓ガラスをぶち割りながら本部の中へと転がり込み、続くようにリィンたちが顔を両腕で庇いながら本部内への侵入に成功する。

 穴だらけでいつ破綻してもおかしくない作戦が、成功した瞬間だった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 本部への侵入が成功した喜びを噛み締めていた104期訓練兵だったが、机の下に隠れていた補給班の兵士をジャンが殴り飛ばしたことで喜びが霧散しようとしていた。

 本部に巨人が入ってきたから。どうしようもなかったから。そんな理由で本部に籠城なんていう作戦を決行した、補給班が許せなかった。そんな判断を迫られることになるような、この世界が許せなかった。

 ジャンはマルコに羽交い絞めにされながらも、目の前で小鹿のように震えている補給班に向かって叫び散らす。

 

「どうしようもねぇとか関係ねぇんだよ! それをなんとかするのが、お前らの仕事だろうが!」

 

 ジャンの言うことは正論だ。今この場において最も正しいと言える、当然の罵倒だ。

 だが、そんな正論通りに動くことができる人間なんて、この世界にどれほどの数いるのだろう? 弱い生き物である人間が自分の使命を全うできることなんてほとんどない。ほとんどの人間は恐怖に屈し、自分の身を守ることに全ての力を注ぐのだ。――それが、人間という生き物の宿命なのではないか?

 マルコによってジャンは怒りを鎮めることになんとか成功するが、直後に更なる『恐怖』が彼らに襲いかかる。

 最初に聞こえたのは、何かが飛来してくる音だった。

 そして次に聞こえたのは、本部の壁がぶち破られる音だった。

 

「ッ!? くそっ! 本部に人が集まりすぎてんだ! オイ、ジャン! いつまでもそこにいたらお前も食われちまうぞ!」

 

 突然の巨人の襲来に訓練兵たちは我先にと本部の奥へと逃げ込んでいく。リィンは震えるサシャの肩を抱き寄せながら、壁に空いた大穴の向こうにいる巨人を眺めているジャンに声をかける。

 このままだと本当に全滅してしまう。早く何とかして目の前の巨人を倒さなくてはならないのだが、今の彼らでは到底太刀打ちできない。立体機動装置のガスは底をつき、先ほどまで鼓舞されていた心は完全に恐怖に押し潰されてしまっている。

 サシャだけは死なせないとでも言うようにリィンはサシャの身体を抱き寄せ、サシャを庇うように巨人に向かって背中を向ける。ここで死ぬことになったとしても、コイツだけは護らせてください――神様!

 自分をこれから襲うであろう強烈な痛みに耐えるため、リィンは体全体に力を込める。

 だが、リィンの身体を痛みが襲うことはなかった。

 何故か無事な自分を不思議に思ったリィンはゆっくりと大穴の方を振り返る。

 そこ、には――

 

「ウォオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」

 

 ――巨人を殴り飛ばす、黒髪の巨人の姿があった。

 





 《現在公開できる情報》

 リィンとサシャが右腕に巻いている赤い布はサシャの私服を裂いたもので、別に特殊な材質でできているわけではない。
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