進撃の芋女【完結】   作:秋月月日

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 二話連続更新です。



第十二話 トロスト区奪還作戦⑥

 

 補給庫内の巨人の掃討に成功したリィン達104期訓練兵は、安堵の表情を浮かべながらガスの補給作業を行っていた。

 巨人に人を喰らうしか能がないおかげでガスタンクは壊されておらず、訓練兵全員が自分の立体機動装置のガスボンベにガスを補給できている。ついさっきまでは死の恐怖に押し潰されそうだったというのに、今はどうしようもないほどの喜びに満ち溢れている。これでもう巨人に食われて死なずに済む。これでやっと、内壁を登ってトロスト区から脱出できる!

 そんなプラスの空気の中、リィンは一人だけネガティブな空気を放っていた。

 

「はぁぁぁぁ……俺、カッコワリー」

 

「そんなに落ち込むことないんじゃない? あれはミカサが規格外だっただけで、別にアンタがダメだったって訳じゃないんだしさ。――まぁ、かっこよくはなかったけどね」

 

「アニさんそれ全然フォローになってない!」

 

 淡々と補給作業を行いながら相変わらずの無愛想のまま地味に失礼な言葉を放つ金髪で小柄の少女――アニ=レオンハートにリィンは涙目でツッコミを入れる。

 サシャを助けるというかなり格好いい場面をミカサに横取りされてリィンは激しく落ち込んでいるわけなのだが、それについての愚痴を言われているアニは溜まったもんではなかった。あまり人と接することが無いアニにとって、人を気遣うということが何よりもの鬼門なのだ。

 よよよ、と涙を流しながらガスを補給するリィンを見て、アニは小さく溜め息を吐く。

 

「……やっぱし俺のこと、バカにしてますよねぇ?」

 

「被害妄想にもほどがあるって。ただ単純に私は、さっきのアンタは凄いなぁって思ってただけだよ」

 

「は? さっきの俺のどこが凄かったんだよ。結局は何もできずに突っ走ってただけじゃねーか」

 

 怪訝な表情で言うリィンに再び溜め息を吐きながらアニは告げる。

 

「大切な人を護る為にその身一つで巨人に挑むなんて、愚か者か本当の馬鹿ぐらいしかできないさ。――少なくとも、私には真似出来ないね」

 

 そう言い残し、アニはリィンの元から去って行った。どうやらガス補給が終了していたようで、アニが使っていたポンプはいつの間にか元の場所に収納されている。相変わらず読めない奴だなー、とリィンは心の中で嘆息した。

 そしてリィンは再びガス補給作業を始める。ただ黙ってボンベ内にガスが溜まるのを待ち、ただ黙って木箱の上で時を待つ。

 一本目を終え、二本目に移る。どうやらリィンはかなり作業が遅いようで、彼以外のほとんどの訓練兵が補給作業を終えていた。立体機動装置とか戦闘とかにおいての行動は迅速だというのに、こういった地味な作業でのリィンはかなり遅いようだ。

 やっとのことで二本目の補給が終了し、リィンは木箱から立ち上がる。満タンになったガスボンベを立体機動装置に装着し、絶対に外れないように留め金の点検までもを一気に行う。

 と。

 

「うぅ……もう機嫌は治りましたか、リィン?」

 

「さ、サシャさん? どーして貴女はそんなに涙目なんでしょーか……?」

 

「ッツ!? リィンの……リィンの馬鹿ぁああああああああーッ!」

 

 そんな鈍感な一言を放つリィンの頬に、特に理由のない暴力が襲い掛かる。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「リィン。何でお前、そんなに頬腫らしてんだ?」

 

「…………特に理由のない暴力が俺を襲ったからだ」

 

「は?」

 

 リィンが言っている意味が全く理解できていないジャン=キルシュタインは怪訝な表情を浮かべるが、「いや、いーんだ。気にしねーでくれ」とリィンは目元を抑えて顔を背ける。

 本部でガスの補給を無事に終えることができたリィン達104期訓練兵の今の目的は、トロスト区の最奥にある内壁まで無事に辿りついて登ることだ。幸い、多くの巨人たちがウォール・ローゼに空いた大穴付近に集まっているので、内壁への逃走はそこまで難しいものではない。

 本部から出た途端に内壁まで急ぐ仲間たち。サシャを先に行かせたリィンとジャンもすぐに彼らと同じ行動をとろうとするが、本部付近の建物の上で立ち尽くしている五人の同期達の姿に行動を停止してしまう。

 ミカサ、アルミン、ライナー、アニ、ベルトルトの五人だ。

 

「ちょ、何やってんだよお前ら! さっさと壁を登らねぇと、また巨人が来ちまうぞ!?」

 

 焦った顔で叫び散らすジャンに、アルミンは何かを指差しながら返答する。

 アルミンが指差しているのは、巨人を襲う奇行種――黒髪の巨人だった。

 

「あの巨人、自分の身体を修復できないのか……?」

 

 アルミンのそんな一言を疑問に感じたリィンとジャンは、立体機動装置のガスを無駄遣いしないように気を付けながら彼らがいる建物へと移動する。

 建物の陰でよく分からなかったが、巨人を襲っていた奇行種は、多数の巨人にその肉体を食い千切られていた。身体を抑えつけられたまま、両腕と腹を食い散らかされている。今まで人類が見たことのない、巨人同士の共食いの光景だった。

 あまりのグロテスクさにリィンとジャンが呆然とする中、ミカサは言う。

 

「……どうにかして、あの巨人の謎を解明できれば……この絶望的な現状を、打破するきっかけになると思ったのに」

 

「はぁ!? 解明だぁ!? 巨人を解明って、一体どうやってする気なんだよ!」

 

「ちょ、落ち着けって、ジャン!」

 

 予想にもしなかったミカサの言葉にジャンは脅えたように喚くが、そんなジャンをリィンが羽交い絞めにしてなんとか怒りを鎮めさせる。ミカサの言葉を理解出来ないのはリィンだって同じだが、今は彼女たちの話を聞いて方が良い、と無理やり自分を納得させているのだ。

 そんな中、彼らの元に一体の巨人が歩み寄ってきた。痩せ細った体躯に、こけた頬。髪は薄汚れていて、身長は十五メートルほどもある。

 そんな至って平凡な姿の巨人を見て、リィンとアルミンは顔を驚愕一色に染めながら震える声で言う。

 

「あいつ、は……」

 

「トーマスを喰いやがった、奇行種……ッ!」

 

 彼ら二人が所属していた34班に恐怖を植え付け、更に彼らの大切な友人であるトーマス=ワグナーを食した巨人だった。

 絶対に許しては置けない巨人の突然の登場に、リィンとアルミンは超硬質スチールの柄を思い切り握る。ぎちっという音が鳴り、手首には血管が浮き出ている。今ここで奴を倒せば、トーマスの仇をとることができる。ガスを補充したばかりの今の自分たちなら、あの奇行種を倒せるかもしれない。

 そんな復讐の念に駆られる二人だったが、それが行動に移されることはなかった。

 彼ら二人の行動を止めるきっかけになったのは、巨人の共食いの被害に遭っていた黒髪の巨人。巨人を襲って殺して駆逐していた、奇行種の巨人だった。

 

「ヴォォオオオアアアアアアアアアアアアーッ!」

 

 多数の巨人を身体に纏わりつかせたまま、黒髪の巨人が走り出す。ダッシュの勢いと纏わりつく巨人の歯によって両腕が千切れるが、それでも黒髪の巨人は走りを止めない。――進行方向には、トーマスを喰った奇行種がいる。

 リィンたち七人が呆然と見守る中、黒髪の巨人はこけた顔の巨人の首に喰らいつく。巨人の唯一の弱点である項に鋭い歯を立てながら、黒髪の巨人はこけた顔の巨人をそのまま持ち上げた。

 両腕を失っても尚、巨人を駆逐するために戦う黒髪の巨人。あまりにも予想外すぎるその光景に思わず目を奪われるが、黒髪の巨人がこけた顔の巨人を建物の壁に投げ飛ばした轟音でリィン達はハッと意識を取り戻す。

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオーッ! ヴォォァアアアアアアア……」

 

「あっ!」

 

 トーマスを喰ったこけた顔の奇行種が戦闘不能になったと同時に、黒髪の奇行種はその場に膝から崩れ落ちた。あまりの強さに失念していたが、両腕を食い千切られて腸を喰い散らかされているその巨人には、相当のダメージが蓄積されていたのだ。今の今まで戦えていたことが不思議なほど、膨大なダメージが。

 「流石のアイツも限界だったんだろうよ。ほら、さっさと行くぞ」巨人を回収して謎を解明するどころか勝手に絶命してしまった巨人を見て、ジャンは六人に移動を促す。いつまでもこの場に留まるわけにはいかない。せっかく助かるチャンスを手に入れたのだから、絶対に内壁を登って生き延びなければならないのだ。

 だが、彼らはジャンの言葉通りには動かなかった。――いや、動けなかった。

 微動だにしない六人を流石に不思議に思ったジャンは「っておい、なにやってんだよ!」と叫び、近くに歩み寄る。六人は揃いも揃って建物の下――先ほど倒れ伏した黒髪の奇行種を見つめていた。絶命したことで身体じゅうから蒸気を放っている、黒髪の奇行種を眺めていた。

 あの巨人に何かあるのだろうか。そう思ったジャンは彼らの視線を辿っていく。

 巨人の脚? ――違う。

 巨人の腰? ――違う。

 巨人の……項――ッ!?

 突然目に入ってきた衝撃的な光景に、ジャンは思わず息を呑む。直後にミカサがその巨人に向かって突っ込んで行ったが、ジャンはその様子を茫然と眺めるだけだった。

 

 

 巨人の項の部分に、人影がある。

 

 

 巨人の唯一の弱点だと言われてきた項に、人間の姿が見える。大量に上がる蒸気のせいではっきりとは見えないが、あの姿かたちは確実に人間だ。

 巨人の項まで移動したミカサが、そこにいる人影に抱き着いていた。そんなミカサの珍しい行動だけで、ジャンやリィンはその人影の正体をある程度予想できてしまっていた。――いや、でも、アイツは、巨人に食われて死んだはず……ッ!

 巨人の項から出てきた人影を抱きかかえたまま、ミカサがこちらに戻ってくる。人を一人抱えたまま立体機動装置で移動するなんて難しいだろうに、ミカサはなんのミスも犯すことなくリィン達の元まで戻ってきた。

 建物の上までたどり着いたミカサは、抱きかかえていた人間を更に強く抱きしめる。両目からぽろぽろと涙を流しながら、その人間――少年の胸の鼓動を確かめるように縋りつきながら涙を流す。

 ガラの悪い目つきに、無造作な黒髪。170センチほどの身長に、程よく鍛えられた肉体。――リィン達104期訓練兵がよく知る、少年の姿がそこにはあった。

 ミカサは少年を抱きしめたまま、涙を流し続けながら、その少年の名を呼ぶ。

 

「え、れん……エレン……エレン……エレン、エレン、エレン……ッ!」

 

 エレン=イェーガー。

 アルミンの目の前で巨人に食われ、今は戦死しているハズの少年だ。

 だが、だったら何故、リィン達の目の前に、五体満足なエレン=イェーガーの姿があるのだろう?

 





 《現在公開できる情報》

 なんかそろそろアニメに追い付きそうで怖い今日この頃。
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