進撃の芋女【完結】   作:秋月月日

15 / 26
 三話連続更新です。

 今日はもう、これで終わりかな……?

 アニメの方を盛大に抜き去りました。べ、別に私は気にしない! だって感想欄で許可でてたし! 進撃の巨人の二次創作の中で最も先に進んでるような気がしないでもないけど、私は気にしない!

 というわけで、第十五話スタート!



第十五話 平和になった世界の君へ

 リィン=マクガーデンが目を覚ましたのは、トロスト区奪還作戦が終了してからちょうど四日目の朝だった。

 トロスト区にある宿舎のベッドの中で目を覚ましたリィンをまず最初に出迎えたのは、サシャ=ブラウス。話によると、サシャはリィンが眠っている間片時も彼の傍を離れなかったらしい。リィンの傍で食事をとり、リィンの傍で睡眠をとる。そうやって彼女はリィンが目を覚ますまでの間、一秒たりともリィンを一人にはしなかった。トイレはどうしたのかと聞いてみたが、サシャは顔を真っ赤にして口をつぐんでしまっていた。……本当にどうやっていたのだろうか。

 リィンが昏睡状態だった四日間について、サシャは懇切丁寧に説明してくれた。

 トロスト区奪還作戦は数多くの犠牲を払いながらも何とか成功した。大岩で穴を塞いだ直後にエレンとミカサとアルミンの三人が巨人に襲われそうになっていたが、突如駆けつけたリヴァイ兵士長に助けられたらしい。俺を助けてくれたハンジ分隊長と同じだな、とリィンは心の中で呟きを漏らす。

 作戦終了後にエレンは憲兵団に身柄を拘束され、そのまま裁判にかけられた。このまま処刑するか解剖してから処刑するか、はたまた調査兵団にその身を預けるか。その三つの選択肢を賭けた裁判だったようだが、結末としてはエレンは調査兵団に引き取られることとなったらしい。まぁ確かに、あの巨人化能力は調査兵団にとってかなり強力な武器となる。兵士百人を犠牲にしても軽くお釣りがくるほどに。

 そして四日目、つまりはリィンが目を覚ました今日の話なのだが……

 

「え、今日が所属兵科を決定する日なのか?」

 

「はい。他のみんなも必死に悩んでいます。……ジャンは、調査兵団に決めたみたいです」

 

「…………そっか」

 

 ジャンが調査兵団を希望した理由は、つい先ほどサシャから聞かされた。彼が一番親しくしていたマルコ=ボットの死。僻み症のジャンをいつも元気づけ、ジャンの親友としていつも明るく振舞っていた少年は、あまりにも呆気ない死を遂げていたという。誰もマルコの最期を見た者はおらず、丁重に葬ることさえできなかったらしい。

 「ま、ジャンなら調査兵団でも生き残れんだろ。アイツ、悪運だけは強いしな」乾いた笑いを零しながらそう言うリィンにサシャは複雑な表情を向ける。

 サシャの記憶が正しければ、リィンは調査兵団を希望しているハズだ。実の父が成し遂げられなかった願いを叶えるため、調査兵団に入って巨人を駆逐すると言っていたはずだ。――あの戦闘を経験しても尚、心が折れていなかったらの話だが。

 「……リ、リィン。貴方は一体どうするんですか?」サシャは膝の上でギュッと拳を握りながら、ベッドの上で体を起こしているリィンに問いかける。心の中では『憲兵団』という答えを期待しながら、サシャはリィンに問いかける。

 リィンは一瞬だけ驚いた表情を浮かべながらもサシャに優しく微笑みかけ、

 

「この間の戦いで、俺は巨人の怖さを目の当たりにした。人が巨人にどうやって食われるのかをこの目で確かめてきたし、俺自身も巨人に食われそーになった」

 

「だ、だったら!」

 

 期待するように縋りついてくるサシャに辛そうな表情を浮かべるが、「だけど、さ」とリィンは震える手を握りしめながら言い放つ。

 

「このまま恐怖に屈して逃げちゃダメだと俺は思う。今ここで『憲兵団』を選んじまったら、俺は俺でなくなっちまうと思うんだ。……俺は、親父との約束を棒に振ってまで、平和を望もーとは思わない」

 

 「……え?」と目を見開いたまま凍りついてしまっているサシャに噴き出しそうになりながらも、リィンは彼女の頭を優しく撫でる。髪を一本一本指で掻き分け、髪の柔らかさをその手に焼き付ける。

 ぽたっ、とリィンに被さっている布団の上に黒い染みができる。それはサシャの目から零れ落ちた涙が原因で、その涙は顔をくしゃくしゃにしているサシャの目から零れ落ちたものだった。堰を切ったように涙は大量に零れ落ち、その度にサシャは嗚咽交じりの声を漏らす。

 リィンはそんなサシャを抱き寄せ、左手でサシャの顔を自分の顔に近づけさせる。リィンの意図を読み取ったサシャは涙を流しながらも両目を閉じ、これから行われる儀式の準備を終える。リィンはサシャの顎に手を添えながら、ゆっくりと顔を近づけていく。

 ――フッ――と二人の唇が触れた。

 そしてそのまま舌を絡め合い、互いの唾液を交換する。愛しい人の口内を蹂躙するように舌を動かし、互いの味を脳に焼き付けていく。

 そんな状態を一分ほど続けたところで、二人は顔を離した。二人の舌を繋ぐように糸が伸び、そのまま布団の上へと落下していく。

 頬を紅潮させて息を荒くするサシャに理性をガリガリと削られながらも、リィンはぐっと我慢して質問の答えを返す。

 

「俺はお前を護りたい。お前を全ての外敵から護って、本当の意味で平和な世界で添い遂げたい。――だから俺は、『調査兵団』に入るよ」

 

 リィンの選択を肯定するかのように、サシャは再びリィンへと体を預けた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 サシャが部屋を去ってから約二時間後、リィンの部屋に新たな訪問者がやって来ていた。

 

「久しぶりだね、リィン。この三年間で見違えるほど成長したようだな」

 

「お世辞なんて似合わねーっすよ、エルヴィン団長?」

 

「はははっ、その呼び方はよしてくれ。私と君の仲じゃないか」

 

 エルヴィン=スミス。

 両親を失って天涯孤独の身だったリィンを育て、彼が調査兵団に入るきっかけを作った張本人である。

 エルヴィンは相変わらず生意気な態度のリィンに愉快そうな笑い声を上げつつも、リィンを真っ直ぐと見ながら言う。

 

「つい先ほど、所属兵科の選択式が終わったよ。調査兵団を希望したのは、二十一名。いや、君を含めたら二十二名だったかな?」

 

「……少ねーっすね。去年通りだったら、百人は希望するはずなのに」

 

「まぁ、今回は仕方がないさ。今までは実際に巨人の恐怖を目の当たりにしたものが少なかったからね、何の抵抗も無かったんだろう。……今回は、タイミングが悪かった」

 

 五年前にウォール・マリアが破られてから、短いながらも人類は平和を守ってきた。二割の人口を口減らしとしてウォール・マリア奪還作戦に向かわせたり数多くの調査兵団が死んでしまったりと、いろんな悲劇があったにはあったが、それでも遠目で見てみれば平和だったと言える。そんな世界での調査兵団の怖ろしさなんて、ほとんど感じられないはずだった。

 だが、今回は五年ぶりの悲劇が彼らを襲った。しかも、訓練兵が所属兵科を決定する前日にだ。こんな最悪ともいえるタイミングでの最悪な事態を経験しておいて、素直に調査兵団を志望できるはずがない。

 故に、今年の調査兵団志望者は過去最低となってしまった。――だが、その覚悟だけは調査兵団史上最も強いものなのかもしれない。

 「暗い空気になってしまったね。それじゃあ、明るい話題に行こうじゃないか」困惑した表情で俯くリィンを気遣ったのか、エルヴィンは笑みを浮かべて話題転換を試みる。

 だが、リィンは直後に凄くイヤな予感に襲われた。今目の前の男が張り付けている笑みの、本当の意味をこれまでの人生で嫌というほど学んできたからだ。

 そう、あえてわかりやすく言うならば――『人をおちょくる』時の笑みだ。

 

「いや、ちょっ、エルヴィンさ――」

 

「あのサシャ=ブラウスという少女、君のガールフレンドかい? いやはや、君も随分と大人になったものだね」

 

「ゲホッ! ゲホゴホゲホゴホゲホッ! ――い、いいいいいいいきなり何言ってんだよエルヴィンさん! 今の『大人』って言葉、一体どーゆー意味で使いやがったんですか!? 答えろ! 今すぐ答えやがれ!」

 

 顔を真っ赤にしてわなわなと震えるリィンに悪意ゼロパーセントな笑みを向けつつ、エルヴィンはリィンの肩を抑えながら言い放つ。

 

「こんな狭い部屋で二人きりになって、大人のキスときたもんだ。お互いにヘタレだからその先にはいかなかったみたいだけど……いやー、君も随分と成長したじゃあないか。日に日にリースさんに似てくるね」

 

「そんな部分で似たくねーよ! しかもヘタレって何だヘタレって! それにその先までって、俺に大人の階段を全力で登りきれって言いやがってんですかねぇ!?」

 

「リースさん、アインさん。貴方達の息子は、順調に成長していっていますよ……うぅっ」

 

「オイコラなに感極まってんだアンタ! 親父と母さんの名を出すなんて卑怯すぎだろ! っつか、マジでアンタここに何しに来たわけ!? 用がねーならさっさと出て行け!」

 

「うん? そろそろそのサシャ=ブラウスがこの部屋に来るということかな? ははっ、すまんすまん。これは気遣いできていなかった私に非がある、許してくれ」

 

「そろそろアンタの顔面ぶん殴るぞ!?」

 

 どれだけ罵倒されようとも完全マイペースなエルヴィンに、リィンは額に青筋を浮かべながら咆哮する。育ての親だろうがなんだろうが、リィンは昔からこの男が苦手なのだ。自分の全てを見通しているような態度をとるこの男が大の苦手で、自分のことを何よりも大切に育ててくれたこの男が大の苦手だ。天敵だと言ってもいい。

 そんな絶対的な天敵であるエルヴィンに五・六分ほどいじり倒され、リィンはゼーハーゼーハーと息を荒くしてベッドの上に崩れ落ちる。昔から思っていたが、やはりこの男には敵わない。なにを言っても論破され、なにを言っても躱される。戦闘技術も圧倒的にエルヴィンの方が上だし、もはやこの男に敵う分野など何一つないのではなかろうか。リィンは零れ落ちそうになる涙をそっと堪え、心の中だけで号泣する。

 相変わらず感情の起伏が激しいリィンに生暖かい視線を向けるエルヴィンだったが、すぐに表情を険しくして真面目な声色で話を始めた。

 

「……一か月後、我々調査兵団は壁外調査に出る予定だ。四年かけて作り上げてきた行路が使えなくなってしまったからな、ウォール・マリアまでの行路を再び作り直さなければならない」

 

「…………その道とやらが完成するまでに、また人がたくさん死ぬんですか?」

 

「ああ。今まで犠牲になった兵士よりもさらに多くの兵士が――巨人に食い殺されることになるだろうね」

 

 破壊されたウォール・マリアまでの行路を作り上げるまでの四年間、調査兵団のおよそ九割が犠牲となった。ただ壁の外に出て帰って来るだけの壁外調査で、巨人と戦うことに特化した調査兵団の九割が、だ。……リィンの父親であるリース=マクガーデンもまた、その九割に含まれている。

 空いた大穴を無理やり大岩で塞いだ結果、調査兵団は東のカラネス区から壁外に出なければならなくなった。そこは人の手が全く加えられていない未知の領域で、どういう経路で行けばどういう結末を招くのかすら分かっていない。ウォール・マリアが無事だったころの地図である程度の道順は把握できるが、それでも一番安全な行路を導き出すのには膨大な時間がかかる。

 「我々は、巨人に勝たなくてはならないんだ。今まで犠牲になってきた同胞たちのためにも、これから生まれてくる新たな命のためにも」膝の上に肘をつき、エルヴィンは目元を抑えながら言う。普段の彼からは予想もできないほど苦しそうな声色だったが、リィンはこの状態のエルヴィンを一度だけ見たことがある。――リィンにリースの右脚を運んできた、あの時だ。

 調査兵団のトップであるエルヴィンは、今まで数えきれないほどの惨劇を見てきたはずだ。伝令で知らされたでも目の前で見たでもいいが、とにかく彼は人類の中で最も『死』を見てきた男だ。

 だからこそ、エルヴィンは誰よりも苦悩している。どれだけ成功率の高い作戦を練ろうとも、絶対に犠牲は出る。巨人との戦いというものは、それほどまでに辛く厳しいものなのだから。

 だからこそ、そんな現実を誰よりも経験してきたエルヴィンはリィンに告げる。実の息子のように育ててきたリィン=マクガーデンに、ハッキリと告げる。

 

「人類は、これ以上奥の壁で死んではならない。人類が死ぬのに一番ふさわしい場所は、ウォール・マリアという最も危険な区域なんだ。……だから、リィン。私は君に一つだけ頼もうと思う。――人類の為に、壁の外で死んでくれ」

 

 その言葉を言うだけで、エルヴィンはとても苦しそうな表情を浮かべていた。実の息子のように育ててきた少年に、「人類の為に死ね」だなんて言ってしまったのだ。これが苦しまずにいれようか。

 だが、エルヴィンがどういう思いでこの言葉を言ったのかをリィンはよく分かっている。エルヴィンに今まで育てられてきたリィンだからこそ、彼の心で燻っている想いの詳細がよく分かる。

 だからこそ、リィンは返答する。右拳を胸に当て、背筋を伸ばしながら返答する。――『公に心臓を捧げる誓い』の姿勢を見せながら、リィン=マクガーデンは返答する。

 

「俺は絶対に死なねーよ。俺さ、サシャと約束したんだ。本当の意味で平和になった世界で添い遂げる、ってさ。――だから、俺は死なねー。腕を捥がれよーが目を潰されよーが、リィン=マクガーデンは絶対に死なねーよ。ウォール・マリアが死に場所? いや、それは弱気すぎだよエルヴィンさん。人類の死に場所として最も相応しいのはさ――ウォール・マリアの外だろ?」

 

 歯を見せて子供のように笑いながら言うリィンに、エルヴィンは驚いたような表情を浮かべる。

 何故なら、その言葉は――かつてリース=マクガーデンが言った言葉と全く一緒だったからだ。リースが巨人に体を喰われている最中に叫んだ、遺言の内容と全く同じだったからだ。違うのは、最初に述べられた大切な人の名前ぐらいか。リースの言った言葉に出てきた名前は、『リィン』だったはずだ。

 やはり、この少年はリースさんの息子だな。敬礼しているリィンの姿にかつてのリースを重ねながら、エルヴィンは小さく微笑む。自分の上司であり友人であったトロスト区最強の兵士の姿を思い出しながら、エルヴィンは微笑む。

 そしてエルヴィンは再び嫌な予感百パーセントな笑みを顔に張り付け、そんな彼の笑顔に冷や汗をだらだらと流し始めたリィンに告げる。

 

「サシャ=ブラウスとの子作りの際は、声が外に漏れないようにしたまえよ?」

 

「やっぱアンタこの場で殺す!」

 




 《現在公開できる情報》

 サシャ=ブラウスがリィン=マクガーデンに体を預けた件については、一緒に布団に横たわった程度のことであり、別に疚しいことが行われたわけではない。
 というか、互いに純情なのでそんな間違いは起こらない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。