今回のネタは、『kazukin』様から授けられたものとなっています。
学パロと言うことですので、やはり舞台は『進撃! 巨人中学校』以外にはないでしょう。
というわけで、番外編一発目、進撃開始です!
進撃中学校。
そんな漫画かアニメの世界にしかないような名前を持つ中学校には、通常では絶対に有り得てはならない特徴がある。――いや、この世界だからこそ有り得ていいのかもしれない。
その特徴とは――人間と巨人が同じ中学校に通っているということ。
あまりにも体のサイズが違う為に校舎は別々になっているが、「校内に入る際に通る校門は同じ」「学校行事は合同」など、人類と巨人が奇妙な感じで共同生活を行っているのだ。
巨人の魔窟とも言われているそんな進撃中学校の一年三組にて。
陸上部に所属しているリィン=マクガーデンは絶体絶命の危機に瀕していた。
「ちょ……クラスメートの皆さん? 何故か俺がクラスの男子に囲まれてるこの状況を、詳しく説明して欲しーんですけどー……」
『明確な理由のある暴力の一歩手前な状況ですが、なにか?』
「問題ありまくりだよバカヤローッ!」
鬼気迫る表情で自分に迫ってくる男子たちに怯えた表情を浮かべながらも、リィンは涙目で咆哮する。肘の辺りで袖が折られたカッターシャツの上からでも分かるほど、今の彼の身体は震えを起こしている。十三歳にも満たない子供とは思えないクラスの男子の威圧感に心底恐怖しているのだ。
そんなリィンを見かねてか、クラスの男子の中でもリーダー格であるヒューマノイズベアーことライナー=ブラウンが集団の中から一歩前に出てきた。――額には、無数の青筋が浮かんでいる。
「帰れ! そんな『ブチギレる一歩手前です』みてーな表情してるお前は帰れ!」
「はっ、大丈夫だぜリィン。――痛みは一瞬らしいからな」
「どの攻撃による痛みが一瞬で終わるのかの説明不足ッ! しかもそれ、全然大丈夫じゃねーし! ベルトルト、ベルトルトさんはいませんか! この状況を詳しく俺に説明できるのはアンタしかいねー気がする!」
涙をドバーッと流しながら迫るライナーを必死に抑えているリィンの叫びに応じるように、黒髪で長身の少年ことベルトルト=フーバーは苦笑する。
☆☆☆
リィンがクリスタに昼食に誘われたのが許せない。
過去形ではなく現在形で彼らの感情を伝えられたリィン=マクガーデンは深く溜め息を吐き、目にも止まらぬ速さで一年三組の教室から抜け出した。小柄なのと生まれつき足が速いのとが功を奏したのか、リィンは男子に捕獲されることなく無事に脱出することができたのだ。
そして現在、リィンは進撃中学校の食堂にいる。この学校には給食制度が無いので生徒たちの昼食は弁当と食堂と購買の三つに限定されるわけだが、リィンはその中でも弁当派の人間だ。普段は三組の教室でライナーとベルトルトの二人と一緒に昼食を食べているわけだが、今回ばかりはその日常が当てはまることはない。先ほども言った通り、今日のリィンは昼食に誘われているのだ。――それも、絶世の美少女から。
「あ、来た来た! リィン、こっちだよこっち!」
「……名指しはやめてくれねーかなー……周りの奴らの視線が痛ぇーから……って言っても聞こえてないんでしょーけどねー」
子供のように大きく手を振りながら自分の名前を呼ぶ少女に溜め息を吐きながら、リィンはそちらの方へと足を進めていく。心成しか少し背筋が曲がってしまっているが、本人は気にしない。
リィンが人をかき分けながら声のした方へ進んでいくと、そこには三人の少女の姿があった。
一人は、金髪とサファイアブルーの瞳が特徴の少女だった。身長は百五十あるかないかというほどに小柄で、顔立ちは西洋人形のように整っている。――名前はクリスタ=レンズ。リィンのクラスメートであり、今回の昼食に彼を誘った張本人である。
クリスタは相変わらずの女神のような笑顔をリィンに向けつつ、何故か心底疲れた表情のリィンに戸惑いながらも尋ねる。
「え、えーっと……なにかあったの?」
「特に理由のない暴力が俺を襲ったんだ。いやホント、その言葉以外では説明できねー」
「あはは……リィンも大変なんだね」
「大変どころの騒ぎじゃねーけどな。――はぁぁ」
「まぁ別に気にする事ねぇだろ。リィンが男子たちからボコられるのなんて、いつものことなんだしさ」
暗い表情で溜め息を吐くリィンにあくどい笑みを向けながら、そばかすが特徴の黒髪少女は肩を竦めて言い放つ。そんな少女にリィンはキッと睨みを利かせるが、少女は気にする素振りも見せずにクリスタの頭をガシガシと乱暴に撫でまわしはじめた。
彼女の名はユミル。これまたリィンと同じ一年三組に所属している女子生徒で、クリスタの保護者だと言われている際どいレズ少女だ。――因みに、本人も認めている。
相変わらずリィンには厳しいユミルに彼は再び深い溜め息を吐くが、隣の席からかけられた優しい言葉によって彼は一気に元気を取り戻す。
「大丈夫ですよ、リィン! 元気がないときはパンを食べればいいんです! というわけで、私のメロンパンをどうぞ」
「ありがとーサシャ本気で俺元気出たわそのままキスしていーですか!?」
「バッ……こんなところで恥ずかしいこと言わないでください! ……人気のない場所でなら、いつでも大歓迎なのに」
「――だとさ。相変わらずラブラブだなお前ら。あーアツイアツイ」
「※〇¶☆■~~~ッ!?」
顔の前で手をひらひらと仰ぐようにして振りながらからかってくるユミルに、リィンを励ました茶髪ポニーテールの少女は人外言語を叫びながら一気に顔を赤く染めた。
彼女の名は、サシャ=ブラウス。
他の三人とは違う一年四組に所属していて、更にリィン=マクガーデンの恋人である少女だ。――因みに、趣味と特技は『食べること』である。
ニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべるユミルにむきゃーっと怒りを露わにするサシャ。そんなサシャを眺めて凄く幸せそうな表情を浮かべているリィンは、そもそもの目的であるはずの弁当を片手間と言った感じで食していく。
「大体、ユミルはいつもいつも私をからかいすぎです! 別にいいじゃないですか、私とリィンがいちゃついたって! むきゃーっ!」
「あー……サシャ可愛い。――はい、あーん」
「はむっ。……んぐっ。……いいですか、ユミル。私とリィンは別に貴方が思っているようなアブノーマルな関係じゃないんです。もっとピュアでハートフルなカップルなんで「はい、あーん」……もぐもぐ」
「オイそこのサシャ愛好家。話が進まねぇからサシャに飯食わせんな!」
「誰がサシャ愛好家だ! 俺は愛好家なんてレベルじゃない! そう、しーて言うなら――『サシャ愛妻家』だ!」
「意味が二重で被ってんだろうがこのバカ!」
ドヤ顔で言い放った名称に的確なツッコミを入れられ、リィンは「え? ……え!?」と必死に今の言葉の間違いを探し出す。基本的に頭の回転がすこぶる悪いリィンは、ユミルの指摘した箇所を見つけることができないでいた。
頭の上に無数の疑問符を浮かべながら首を傾げるリィンに、ユミルは思わず眉間を抑える。現在彼女は極度の頭痛に襲われてしまっているわけだが、まさかその原因が自分にあるとは夢にも思わないリィンは未だにユミルが指摘した箇所の捜索作業に勤しんでいる。
そんな二人をスルーすることにしたのか、クリスタは目の前でばくばくとリィンの弁当を食しているサシャに声をかけた。
「ねぇ、サシャ。リィンとはどこまでいったの? A? B? C?」
「んぐぐっ? ……ごくんっ。AとかBとかCとか、一体どういう意味ですか? リィンが作ってくれる料理のメニューか何かですか?」
「やっぱり食べ物関係につなげちゃうんだね、サシャは……」
相変わらず『食べ物&リィン』だけで満タンになっているサシャの脳内フォルダに残念な感情を浮かべながらも、それでも優しくあり続けようとするクリスタは少し形を変えながらも質問を続行する。
「えっと、こう聞いてみたら分かるかな。――サシャとリィンって、キス以上のことをしたことあるの?」
「んぐぐっ!? ご……がががががががが!」
「ちょっ、サシャ!? 驚いたからって流石にから揚げを喉に詰まらせるのはお約束過ぎるよ!? ほらっ、これあげるから一気に流し込んで!」
喉を抑えながら顔を真っ青に染めて悶えるサシャの口に水を流し込み、クリスタは儚い命の一つを救うことに成功する。クリスタがサシャに流し込んだ水がクリスタの飲みかけということが原因で「許さねぇ……クリスタの水は私のモンだ!」と件のレズ少女が怒りを露わにしていたが、クリスタはあえて見なかったことにした。あんな野蛮人に関わってしまったら人生が終焉を迎えてしまう気がするし。
女神から与えられた救いの水によって生還したサシャはゲホゲホと咽ながらもすぐに元の状態を取り戻し、顔を赤くしながらクリスタの質問に返答する。
「わ、私たちはまだキスまでしかいってません。キス以上のことなんて、まだ早すぎますし」
「ディープキスは経験済みだけどな」
「ッッッツツツツツ!? ちょっ、もうっ! なに言ってんですかリィン! あの話はしないって約束だったでしょう!? どうしてこの場で暴露しちゃうんですかぁ!」
真っ赤を通り越して真紅に染まっているサシャの頭を撫でながら、リィンはサムズアップで自慢げに言い放つ。
「――サシャが俺の嫁だから!」
「うるさいボケェエエエエエエエエエエエエエエエエーッ!」
「ぎゃぁああああああああああああああーッ!」
恥も何もあったもんじゃないリィンに堪忍袋の緒が切れたサシャ=ブラウスの、特に理由のない暴力がリィンに襲い掛かる。
周囲にいた生徒達がサシャとリィンのイチャラブに巻き込まれないようにそそくさと去って行く中、目の前で繰り広げられる惨劇を生暖かい眼で眺めていたクリスタとユミルは「はぁ」と小さく溜め息を吐き、
『――相変わらず、このバカップルは飽きないなぁ』
――なんとも締まらない締め方で、この状況を締めくくるのであった。