というか、久しぶりの更新で申し訳ない!
次はもう少し早めに更新します!
リィン=マクガーデンは茫然としていた。
訓練兵団に入団してから約一年が経ったある日、リィンはいつも通りに起床した。普段よりも少し眠気が取れていなかったが、リィンはいつも通りに欠伸をかみ殺しながら男子寮の外にある井戸の方へと移動した。目的は一つ、顔を洗って眠気をとる為だ。
リィンの起床はいつも男子の中で一番なので、井戸には彼以外の姿は見当たらなかった。普段通りのなんの変哲もない光景に、「ふわぁぁ……」と盛大な欠伸をする。
だるい身体に鞭を打ち、井戸の底に沈んでいる桶を引き上げていく。桶の中いっぱいに水が入っているのか、中々の重さを誇っていた。――だが、リィンは怯むことなく淡々と桶を引き上げていく。
一分ほどで桶を完全に引き上げると、リィンは桶の中の水を両手ですくって顔にかけた。ぴしゃっという音と共に、水面に浮かぶ黒い髪の自分の姿が歪んだ。
――――――ん? 黒い、髪?
今更だが、リィンの髪の色は透き通った白髪だ。彼の髪は完全に色素が抜け落ちた白髪で、平凡な色である黒髪なんかでは決してない。『白銀の風』という二つ名からも分かる通り、彼の容姿は異常で異端で異質なのだ。
それならば、なんで先ほど水面に映っていた自分は黒髪だったのだろうか。水が汚れてたのか? とリィンは不思議そうに首を傾げる。
分からないなら確かめろ。そんな精神の下、リィンは静寂を取り戻した水面をずいっと覗き込む。平べったい水面には、雲一つ無い青空が広がっていた。――その中央に、リィンの姿が映りこむ。
無造作な黒髪に、あからさまに悪い目つき。顔立ちは意外と中性的で、体つきもそこまで男らしいという訳ではない。顔は細いというよりかは丸顔と呼べるような感じで、口の中には鋭利な犬歯が見て取れる。
「…………」リィンは絶句し、ただ茫然と水面を見つめる。――そこには、相変わらずの黒髪で目つきが悪い少年の姿があった。
そして、冒頭に戻るのだ。
これは、まさか。いや、そんなはずがない。そんな非科学的なことが、現実で起こるわけないじゃないか。アハハハハハーッ!
目の前に拡がる異常事態を受け入れられず、リィンは大量の冷や汗を流しながら何度も何度も水面を覗き込む。これは夢だ、俺はまだ寝てるんだ。そーいえば昨日の訓練で大分疲労困憊してたからな。うん、だからこんな夢を見ちまうんだ。やっぱり人間にとって一番必要なのは睡眠に決まっ――
「おはよう、エレン。今日は珍しく早起きだね」
「…………うわぁああああああああああああああああああああああああああーッ!」
――特に理由のない現実が、リィンを襲う。
☆☆☆
『エレンとリィンが入れ替わったぁ!?』
朝の訓練が始まる二時間ほど前の朝食前、人が集まった男子寮にてそんな叫びが響き渡る。
その叫びの元となっている訓練兵は、全部で六人。あたりまえだがその全員が男子であり、その全員がいつもなかよくつるんでいる連中だ。信頼は厚く絆も固い、ここぞというときに背中を預けられる正真正銘の仲間たちだ。
ジャン=キルシュタイン。
アルミン=アルレルト。
コニー=スプリンガー。
ライナー=ブラウン。
マルコ=ボット。
ベルトルト=フーバー。
そして、そんな仲間たちの視線の先――リィン=マクガーデンとエレン=イェーガーは絶望に染まった表情を浮かべながら、
「嫌だァアアアアアアアアアアアーッ! 中身が入れ替わったっつー現実が受け入れらんねーのに、よりにもよって入れ替わり先がエレンかよ! 俺がミカサの相手するなんて不可能にもほどがあんだろーがぁああああああああああーッ!」
「それはこっちのセリフだ! 俺がリィンと入れ替わった!? ま、まさかとは思うが、俺はリィンとしてサシャとあんな甘ったるいやり取りをしなくちゃなんねえってのか!? ふざけんな! そんなの死んでもごめんだぞ!?」
「あァ!? なにサシャディスってんだぶっ殺すぞジト目野郎!」
「やめろよ服が破れちゃうだろうが、このツリ目野郎!」
「二人とも落ち着いてすぐに気づくべきだ。その言葉は自分の顔を見て放ってしまっている、ただの自虐行為だということに」
互いの襟首を掴みながらドッタンバッタンと暑苦しいプロレスを開始する白髪と黒髪に、アルミンはいたって冷静ながらも残酷な言葉を浴びせる。彼は第104期訓練兵の中でも比較的冷静な思考を所有しているためか、こういった割と残酷な一言を平気で言い放ってしまう残念な性格の持ち主なのだ。
アルミンの指摘によってあからさまに落ち込むリィンとエレンに、マルコとベルトルトの二人は思わず苦笑する。コニーはバカなのでこの状況を上手く理解できていないが、ライナーとジャンとアルミンの三人はこの状況のヤバさを十分に理解しているようだった。
ジャンは面倒くさそうに頭を掻き、
「っつか、この入れ替わりってどれぐらいの期間続くんだ? 一週間そこらだったら別に問題ねぇだろうが、流石に年単位だったらごまかしきれねぇぞ?」
「そうだな。短い期間であればあるほど、俺たちの努力次第でこの事態を隠蔽できる可能性は上がる。――だが、流石に長くはもたない」
「僕もライナーに同感だ。僕とエレンが入れ替わっていたのならまだ良かったのかもしれないけど、よりにもよってエレンと入れ替わっちゃったのはリィンだ。――これが何を意味するか、君たちは十二分に理解していると思う」
『ヤンデレなミカサにリィンが殺され、デレデレなサシャにエレンが悶死する最悪な未来……ッ!』
『嫌だァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!』
深刻な表情で何の迷いなく言い放たれたその言葉に、リィン(外見:エレン)とエレン(外見:リィン)は頭を抱えて絶叫する。何で自分たちが入れ替わってしまったのかが分からないというのに、これから自分たちに待ち受けているのは想像するのも怖ろしいほどの地獄だけ。戻るまでの期間が長ければ長い程、その地獄の濃度は着実におどろおどろしいものへと変化する事だろう。
リィンは頭を抱えながら、今後のことを脳内でシュミレートする。この現実を認めてしまうのは激しく御免こうむりたいが、今はとにかく少しでも希望を探すことを優先しなければならない。――生きるために。
『よ、よーミカサ。今日も一緒に訓練ガンバろーぜ』
『……エレンの気配を感じない。貴方は、エレンじゃない……ッ!』
『へ!? い、いやお前、何言ってんだよ! お、俺ァどっからどー見てもエレン=イェーガーだろ!?』
『エレンの皮を被った卑怯者……本物のエレンをどこにやったの……ッ!?』
『ちょっ、ストップ! フォーク構えてこっちに寄ってくんなぁあああああああああああーッ!』
…………早急に元の身体に戻る必要がありそうだった。
一方、リィンと同じようにエレンの方も脳内シュミレートを始めていた。ミカサとは違うベクトルで怖ろしい芋女との絡みを想像しつつ、エレンは必死に自分が生き残るための道を模索する。
『おはようサシャ。今日も相変わらずスゴイ喰いっぷりだな』
『おはようございます、リィン! 今日も一日、一緒に訓練頑張りましょう!』
『ああ。巨人を一匹残らず駆逐するために、今日も一日頑張ろうぜ!』
『…………まだ、そんなこと言ってるんですね。私がついこの間、食事の時ぐらいはそのことを口に出さないように頼んだのに』
『は!? えと……』
『もう知りません! リィンなんて大嫌いですぅうううわあああああああああん!』
…………サシャじゃなくて絶対にリィンに殺される。
リィンもエレンもまともなシュミレート結果が出ず、先ほどよりも鬱なオーラを身に纏ってついには床に崩れ落ちた。両目からはぽろぽろと大量の涙が零れ落ち、肩は若干震えている。基本的に似た者同士である二人ならそこまで悪い結果にはならないのだろうが、運が悪いことに彼ら二人の相棒のキャラが悪すぎる。普通の女性ならまだしも、人類最強と芋女が相手と来た。これを絶望と言わずしてなんと言う。
しかし、いつまでもこのままうだうだと男子寮で過ごしているわけにはいかない。気づけば朝食まで残り十分ほどになっていて、それすなわちリィンとエレンの修羅場到来が残り十分ということだった。運が良くても悪くても死ぬことしかない修羅場が――すぐ目の前までやって来ている。
対処法は無い。元の身体に戻る方法は不明。修羅場を潜り抜けるだけの武器は存在しない。――誰が見ても確実に火を見るよりも明らかに百パーセント、彼ら二人は詰んでいた。それはもう、どうしようもないほどに。
リィンは床を思い切り殴り付け、エレンは壁を蹴りつける。ドスゴスドスゴスドスゴスドスゴスーッ! と容赦が一ミリも込められていない暴力の嵐に、男子寮がメキメキメキィ! と悲鳴を上げていた。
そんな明らかに異常事態な二人を見て、アルミン=アルレルトは「はぁ」と小さく溜め息を吐き、
「分かった。それじゃあリィンとエレンが元に戻る間、僕達六人が全面的に君たちをバックアップするよ。こんな意味不明な事故で君たちを死なせるわけにはいかないからね。――でも、流石に今回は相手が悪すぎる。だから、リィンとエレンにはそれ相応の覚悟を以って毎日を過ごしてもらおうと思う。――みんな、異論はある?」
「エレンの為なんかにこの俺が尽力しなきゃなんねぇってのが気に入らねぇが、ミカサを殺人犯にしねぇためだ。協力してやるよ」
「よく分かんねえけど、とりあえずリィンとエレンのことを隠し通せばいいんだな!」
「僕も協力する。流石にこのまま放っておくわけにはいかないからね……」
「俺も協力するぜ。実際問題、このままリィンとエレンが戻らなかったらいろいろとマズイだろうからな」
「僕はライナーに従うよ」
――そんなこんなで、男子組による『リィン&エレン隠蔽大作戦』の開始なのだった。
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