小説執筆を始めてからの二年の中での初めての試みな感じの今回の話。
お楽しみいただければ幸いです。
ついに訓練兵団に入団することになってしまった。
過去にいろいろとあってからの流れで訓練兵団に来たのはいいのだが、ここはどうやら予想していたよりもかなり厳しい場所のようだ。教官は強面でかなりのスパルタで、同期の人たちはみんな私よりも大きな人たちばかり。――正直、卒業までやって行けるかどうかわからない。
だが、私はこの環境に適応しなければならないのだ。本名ではないが、この名前を人々の心に植え付けるために――私は最高の死に場所を模索しなければならない。奴らの思惑通りに生きてしまっていることは凄く悔やまれるが、まぁ今更そんなことを思っても仕方がない。過去を引きずりつつも前へ進み、素晴らしい散り際を実現することにしよう。
そんなわけで、今日から私は日記を書こうと思う。
突然何を言っているのか分からないかもしれないが、これは別にいきなり思いついたことなんかじゃない。自分の生きた証を少しでもこの世に残す為、私は少しだけ奴らに抗ってやろうと思ったのだ。
内容は主に一日の感想。その日に起きたことや思ったことをできるだけ多く書き連ねていき、後世に遺産として残ってもらえれば幸いだと思っている。
それでは、初回はここら辺で筆を置くことにしよう。
ヒストリア=レイス改め、クリスタ=レンズ。
☆☆☆
847年 △月〇日
今日は対人格闘訓練を行った。
小柄で非力な私があまり得意としていない分野だったが、それでも教官に怒鳴られないぐらいには頑張ることができた。ユミルの協力のおかげかもしれないが、やっぱり私の努力が教官にも通じたのだろう。
今日の訓練では、リィンとサシャがコンビを組んで対人格闘を行っていた。自分よりも背が高いサシャを圧倒していたリィンは純粋に凄かったが、そんなリィンの動きにギリギリながらもついて行っていたサシャも十分に凄かった。リィンはサシャに片想い中であるというのに、どうしてあそこまで容赦も加減も無い攻撃が行えるのだろう? やはりサシャのことを信じているからこそ、あそこまで真正面からぶつかりあえるのだろうか。私にはそんな存在がいないが、少しだけ羨ましいと思った。
そういえば、対人格闘訓練中に面白いアクシデントが起きたんだった。最終的には教官に罰走を命じられていたけれど、あれは凄く面白かったので追記しておこうと思う。
きっかけは、リィンからだったと記憶している。
リィンの回し蹴りを回避したサシャだったんだけど、そこからリィンにもつれる形で彼を押し倒してしまったのだ。ドタドタドタ! という大きな音と共に白髪と茶髪がくんずほぐれつな状態となり、私たちは思わず行動を停止してしまっていた。もちろん、私はそそくさーっと二人の様子がよく見える位置へと移動した。野次馬根性凄いとか思われてしまうかもしれないが、私は人に優しい天使でなくてはならないから、二人の様子をうかがう真似をしなくてはならないのだ。いや、二人は友人だから結構本気で心配はしたのだけど、それでもその後のアクシデントを少しも期待していなかったと言えば嘘になる。私は天使である以前に人間なので、そういった野次馬根性に従ってしまうことだってあるのだ。
もくもくと上がっていた砂煙が晴れると、そこにはサシャの胸を鷲掴みにしているリィンの姿が。サシャもサシャでリィンの身体に思いきり抱き着いてしまっていた。……一体どういう神様の悪戯があればあんな大惨事になってしまうのだろう。どう考えてもリィンの不幸が原因だと思われるが、流石にあれには心の中で合掌するしかなくなっていた。
もちろんその後、リィンとサシャは二人仲良く就寝時間まで罰走させられました。因みに、私は毎度の如く二人にパンと水を届けに行くことも忘れなかった。私の天使伝説は未だ不滅である。
明日は朝から立体機動訓練なので、今日はここら辺で筆をおこうと思う。
P.S.ユミルは意外と照れ屋のようだ。
☆☆☆
848年 ✕月†日
今日は一ヶ月に一度の休暇の日だった。
私は女子寮でゆっくり過ごそうと思っていたのだが、「街でも回ろうぜ、クリスタ」というユミルの誘いを断ることができなかった。別に私は誘われるのを待っていたという訳ではなかったが、ユミルがどうしてもというので私は渋々――渋々ユミルとトロスト区を回ることにしたのだ。大事なことだからもう一度追記しておく――きっかけはユミルからだった。
街を回ると言っても、その実態はいつも女子寮で着用している私服を着ての簡単なお出かけと言った感じだ。茶屋で駄弁ったり市場で食料を調達したり、きゃいきゃいと喋りながら小物を選んだり――と言った風に。
ユミルは無愛想な顔の割に意外と話し好きなので、今日のデー……もといお出かけは主にユミルが私をエスコートする形となっていた。自分を前に出すことが苦手な私にとっては大歓迎な展開だったのだが、そのエスコートの最中に私にセクハラするのは如何なものかと思ってしまう。人前で胸を揉んだり尻を触ったりするのが好きなのは分かるのだが、それでも時と場所ぐらいは選んで欲しい。私だって、時と場所さえ選べばそれ相応の対応をするのだが。
それと、今日もあの二人関連の話題を書き記そうと思う。
もはや定番となりつつあるこのコーナー、『無自覚バカップル観察日記』のお時間である。
彼ら二人を発見したのは、茶屋で小腹を満たしたあたりだったハズだ。周囲に困った人がいないか私がきょろきょろしていたところ、いきなりユミルが私を抱え上げて建物の影へと移動したのだ。最初は「ついに襲われる!?」とか思ったりしたのだが、「見ろよクリスタ、相変わらずのバカップルのご登場だ」というユミルの言葉で私はその時の状況を瞬時に察することができたのだ。
私とユミルはアイコンタクトだけでリィンとサシャの尾行を計画し、それをすぐさま実行に移した。周りの人が私達二人を見てざわついていたような気がするが、きっと気のせいなのでここで詳しく記すのは止めておこうと思う。
尾行を始めること数秒後、私は衝撃の光景を目の当たりにした。
リィンとサシャが手を繋いでいたのだ。
今までほとんど進展が無かった二人の突然の変化に、私は思わず目を疑った。事故でくんずほぐれつな状態になったり男子が女子風呂を覗こうと決起した際にリィンがサシャの裸を目撃してしまったことはあったが、二人が互いに意識したまま密着するということは今まで一度も無かったからだ。因みに、私と違ってユミルは凄く面白いものを見つけたような笑みを浮かべていた。舌なめずりするユミルは、正直言って凄くイケメンだったと思う。
今回は面白いものが見れそうだ、と確信しながら二人の観察を続けていると、どうやら何の計画も無しにトロスト区へやって来たようだった。歩いている最中に何らかの出来事があって手を繋いだのだと思われたが、そこから何をしたらいいのかが全く頭になかったらしい。どれだけ子供なんだと頭を叩いてやりたい気持ちになったが、私はあくまでも大天使クリスタなので、二人のいちゃつきぶりを遠くで見守る程度にしておくことを決意した。天使である私は恋のキューピッドにもならなくてはならない。これで私の大天使伝説はさらに誇張されていくという訳だ。
リィンとサシャが顔を赤くしたまま足を進め出したので、私とユミルはできるだけ姿を隠しながら二人の後を追うことにした。
だが、不幸なことに彼らのその後の進展は無かった。
手を繋いで歩いているところまではよかったのだが、市場に着いた辺りでエレン&ミカサ&アルミンにまさかの遭遇。私とユミルは思わず壁を本気で殴ってしまっていた。
二人が手を繋いでいることに気づいていたアルミンはあえて見なかったことにしていたが、デリカシーの欠片も無いエレンが何食わぬ顔でそれを指摘。ミカサは相変わらずエレンのことしか眼中になかったようだが、エレンの失態にアルミンの顔が急激に青褪めていく様子は意外と面白かった。彼には今度胃薬をプレゼントしてあげよう。
エレンの指摘を受けたリィンとサシャは耳の先まで真っ赤になりながら「ご、ごめん!」と何故か謝罪して手を放してしまった。その直後にユミルがレンガをエレンの顔面に向かってブン投げてしまったのだが、私はあえて止めなかった。どうせ止めても止まらないだろうし、そんな鈍器的物体を投げたところでミカサが迎撃してしまうのが目に見えていたからだ。
そして案の定ミカサにレンガを蹴り飛ばされてしまった私とユミルは、彼女が私達に気づく前に全力で逃亡。門限の二時間前に女子寮に戻って来てしまうというなんともハチャメチャな一日となってしまった。
そんなこんなで私は凄く疲れているので、今日はここら辺で筆を置こうと思う。
P.S.ユミルの横顔は芸術品と言っても過言ではない程に綺麗である。
☆☆☆
「――ふぅ。今日はここまでにしておこうかな」
カリカリと動かしていた筆を置き、金髪で小柄の美少女――クリスタ=レンズは「ぅ、んっんんー……」と両手を上に伸ばしながら椅子の上で精一杯の伸びを行う。入浴してからそこまで時間が経ってないせいか、彼女の髪からは僅かばかりに湯気が上がっている。
クリスタが日記を書き始めてから約一年。毎日欠かさず書いていたおかげで、彼女の日記はとてつもないほどの枚数を誇ってしまう程になっていた。いま彼女の目の前にあるのは一枚の羊皮紙だけだが、彼女の寝床に置かれている棚の中には実に三百六十五枚分の羊皮紙が綺麗に保管されている。少しは小分けしないと取り出すことすら難しくなってしまうのだが、クリスタとしては別に取り出せなくなっても構わないと思っている。この日記はクリスタが生きた証として存在しているのであり、彼女が偽りの自分を再確認するためだけに保管されているものだからだ。
今日の分の日記をもう一度見返し、クリスタは「フフッ」と小さく笑う。何気ない日常の中で何気ない楽しさを見つけてしまったことへの喜びであり、偽りの自分がちゃんと日常を謳歌できていることがただ単純に嬉しかったからでもある。
羊皮紙を棚にしまい、クリスタはそのままベッドに倒れ込む。隣ではユミルとサシャが穏やかな寝息を立てているのだが、彼女は知ったことかという様子だ。微妙にユミルの体に触れているところから、彼女の悪戯心が少しだけ垣間見える。
日記をつけ始めて分かったことだが、クリスタは意外と充実した日常を送っている。騒がしくも頼もしい仲間、個性的で愉快な友人たち、そして――クリスタの正体を知っているユミルという親友。
ヒストリア=レイスという名を捨ててからのクリスタ=レンズとしての生活なワケだが、名を捨てたときにはとても想像できなかったほどに今の生活は充実している。死ぬことを選ばずに名を捨てることを選んで良かったな、とクリスタは苦笑する。
訓練兵団卒業まで、残り約二年。
その運命の日まで、彼女は今まで以上に辛くも楽しい経験をすることになるのだろう。――しかし、別に怖ろしくは無かった。――逆に、その未来が楽しみに思えてしまっている。
「綺麗に死にたいって言う私の意志はまだ変わらないけど、それでも、私はクリスタ=レンズとして生きていこう。――胸を張って死ぬことができる、その日まで」
そんな呟きを残し、クリスタは静かに目を瞑った。
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次回もお楽しみに!