進撃の芋女【完結】   作:秋月月日

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 はい、本日二度目の投稿です。

 今回は『筋肉大将』さまからのリクエスト話です。

 そろそろリクエストのストックが無くなりますね。自分で番外編のネタを考えねば……。


番外編 幼き頃のリィンくん

 巨人を駆逐するためには訓練が必要だ。

 そんなわけで、リィン=マクガーデンからエルヴィン=スミスに一言。

 

「俺が何の問題も無く調査兵団に入れるよーに、本格的な特訓をしてくれ!」

 

「うん、却下」

 

 満面の笑みでの全力否定だった。

 リィンがエルヴィンに引き取られてから、実に一年と三か月程が経過している。リィンは調査兵団に入るための特訓として、坂を駆け上がったり斧で素振りをしたり筋トレを黙々と実行したり、という自分一人でできる簡単な特訓を行ってきたわけなのだが、あまり目立った成果は得ることができていなかった。少しだけ足が速くなったり薪割りに苦労することが無くなったという日常において有利になるような成長はあったのだが、それでもやっぱり調査兵団に入団するには少しだけ役不足な成長だ。リィンが望む成長とはすなわち、巨人を駆逐できるぐらいの自分になるという成長のことを指し示している。

 かちゃんっ、と食器にスプーンを置き、リィンはナプキンで口を拭いているエルヴィンに食って掛かる。

 

「どーして駄目なんだよ、エルヴィンさん! 今日一日は俺の特訓に付き合ってくれるって約束だっただろーッ!?」

 

「それは約束したというより、君が私に反対させる間もなく押し切ったという方が正しいと思うのだが? 人の話を聞く前に自分の言い分だけで物事を決めるなんて、私は感心しないな。――それに、今日は絶対に外せない用事がある。だから今日は君の相手をしている暇がないんだ」

 

「ぐぅっ……せ、正論なんて聞きたくねーッ!」

 

「耳を塞いだところで私の言葉は覆らないぞ、リィン君?」

 

 苦笑を浮かべながら追撃とばかりに言葉を放つエルヴィンに、リィンは「あーあーあーあー!」と声を張り上げながら応戦する。その行動がすでにエルヴィンの言葉を受け入れてしまっているのと同義なわけなのだが、果たしてリィンがそのことに気づくのはどれぐらい先のことになるのだろう。これからが楽しみだな、とエルヴィンは僅かに口を歪める。

 そして、リィンの幼いながらの反撃を一仕切の間楽しんだところでエルヴィンは椅子から立ち上がり、

 

「それじゃあ、私はこれからウォール・シーナまで行かなくてはならないから、そろそろ出かけさせてもらうよ。言ったところでどうせ無駄に終わるのだろうけど、とりあえず忠告として言わせてもらう。――身体の酷使もほどほどにしておきなさい」

 

「いーっだ! 言われなくても分かってるっつーの! さっさといってらっしゃいだよこの野郎ォーッ!」

 

「あははっ、その元気があれば大丈夫そうだ。それでは、今日も一日頑張りたまえ!」

 

 ビキリと青筋を浮かべながらスプーンと食器を構えるリィンを軽くあしらい、エルヴィンは逃げるように扉の向こうへと去って行った。トタタッとリィンは扉まで移動して外を覗き込むが、そこから見えるのは馬に乗って去って行くエルヴィンの後ろ姿のみ。相変わらず逃げ足速ぇーなエルヴィンさん……と肩を竦めながらリィンは扉を乱暴に閉める。

 エルヴィンが出かけたせいで微妙な沈黙に支配されてしまった家の中で、リィンは黙々と自分の仕事を全うする。食器を洗い、家の掃除をし、洗濯物を干す。この家における家事係は基本的にリィンであるせいか、かなり手慣れた様子で凄く淡々と仕事をこなしているようだった。

 洗濯物を干し終わったところでリィンは部屋着から私服へと着替え、家の戸締りを行っていく。ここ一ヶ月分の薪は昨日のうちに採集し終わっているので、今日は何の予定もない完全フリーな休日だったりするのだ。――まぁ、当初はちゃんとした予定が入っていたわけだが。

 はぁぁ、と人生に疲れた老人のような溜め息を吐き、家の扉を閉める。がちゃがちゃと乱暴な手つきで古く錆びた鍵をなんとか施錠し、ちゃんと閉まっているかの確認の為にドアノブを捻る。――よし、問題はないみてーだな。

 エルヴィンが帰って来るまで、おそらくは残り十時間ほど。

 リィンは空高くに浮かんだ雲を背伸びしながら見上げつつ、

 

「っしゃ! 今日も一日、巨人の駆逐のために頑張っていこーッ!」

 

 ――全然子供らしくない目標を掲げた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 家を出てから数時間後。

 リィン=マクガーデンはトロスト区を全力で駆け抜けていた。

 

「どわぁあああああああああああーッ! い、石が当たった程度でキレすぎじゃボケ野郎ォおおおおおおおおおおおおおおーッ!」

 

 キャンキャンワンワンバウバウ! と大小さまざまな十匹ほどの犬を従えたまま、リィンは人ごみの中を駆けていく。人なんかに比べて圧倒的に速い犬から逃げきれている時点で既に人外級な足の速さなわけだが、それでも中身は平凡な人間であるリィンは涙目で全力の逃走劇を続行する。

 この終了まで残り僅かっぽい逃走劇が開幕してしまった原因は、やっぱりというかなんというか、ほぼ十割方リィンにある。彼の不幸が発動したということにもなるのかもしれないが、それでもやっぱり事の発端はリィン=マクガーデンにあるのだ。

 つまり、何が起きたかというと。

 

 石を蹴り飛ばしたら見事な軌道を描いて犬を十匹連続討伐☆

 

 ぐるるるる……と獰猛な犬歯を剥き出しにして唸る犬たちを前に、一瞬で顔が青褪めてしまったのを覚えている。

 そんなわけでかれこれ十分ほどトロスト区内を走り回っているわけだが、そろそろ本格的にダウンしそうだ。足はがくがくと痙攣を起こしていて、肺の中の酸素はガス欠状態。どこからどう見てもスタミナが極限にまで切れているリィンだが、それでも犬たちの足は止まるどころか更にスピードを上げてきている。

 (む、無理! もう走れねーッ!)なんとか最後の力を振り絞り、リィンは目の前の十字路を右に曲がる。願わくばそのまま犬たちが直進してくれればいいのだが、流石にそこまで幸運なことにはならないだろう。――だとすれば、壁でもなんでもよじ登ってアイツラから逃げるしかない。

 ――しかし。

 

「ぜぇっ……おぶっ……ひき、行き止まり……ッ!?」

 

 目の前に佇む巨大な壁を前に、絶望に染まった表情でリィンは膝から崩れ落ちた。

 壁をよじ登るとか何とか言ってみたはいいのだが、目の前に佇む壁は少なくとも五メートルほどの高さを誇っている。ウォール・ローゼを前にした巨人ってこんな気持ちなんかな、とかいうこの場において凄く場違いなことを思ってしまうリィンだが、背後から聞こえてくる悪魔の唸り声にびっくぅ! と露骨に飛び上がって驚愕してしまった。

 恐る恐ると言った風に後ろを振り向くと――そこには凄くお怒りになさっている犬たちが。

 

「い、いやー……流石にこの状況はヤバくね……?」

 

 じり……っと身体を引きずりながら後ろに下がるが、犬たちはリィンを取り囲むように陣形を組み始めた。やけに統率のとれている犬っころにリィンは過去最大級の恐怖を覚えてしまっているのだが、犬たちにとってはそんなことなど何も関係ない。自分たちに害を加えた敵を駆逐する。――その為だけに犬たちはリィンを追い詰めていく。

 ジ・エンド。流石に死ぬことはないだろうが、これだけの数を相手にして無事でいられるとはとても思えない。良くて血塗れ悪くて重傷といったところか、リィンはこれから自分を襲うことになる激痛にどうしようもないほどの恐怖を覚えてしまう。

 「あわわわわ……」顔面蒼白ながらに後退していたリィンだったが、ついには背中が壁に密着するほどにまで後退してしまった。――つまるところ、全ての希望が失われてしまっている。

 逃げ場を失った獲物を逃がすわけも無く、犬たちは遠吠えと共にリィンに向かって飛びかかり――

 

「あっれー? もしかして君たち、犬の中でも奇行種的な存在だったりするのかなー?」

 

 ――突然背後から聞こえてきた声に、犬たちは反射的に動きを止めた。

 予想もしなかった第三者の介入に、リィンは全身の力をドッと抜く。涙で両目が潤んでいるせいで介入者の姿はよく分からないが、その身に纏っている服と外套だけでリィンはその介入者の立場を十二分に理解してしまった。

 深緑色の外套に、茶色を基調とした特徴的な兵士服。

 見間違えるはずがない。どこの兵団に所属しているのかは皆目見当がつかないが、リィンは一つだけ確信していることがある。

 巨人と戦うために公に心臓を捧げた、勇ましい兵士が助けに来てくれた――と。

 「君、大丈夫? こんなに彼らを怒らせるなんて、一体何をしでかしちゃったの?」涙を流しながら硬直しているリィンにそんな言葉をかけるも、兵士たちの視線はリィンの前で震えている犬たちに注がれている……ように感じた。逆光であるのと目が潤んでしまっているのとで、リィンには件の兵士の様子がよく分からない。

 「ま、助けられたんだからあまり詮索はしないけどねー」と肩を竦めながら兵士は言い、

 

「――で、君たちが犬の中でも奇行種だというのなら、是非僕に君たちの身体を解剖させてくれないかな!? 大丈夫大丈夫、痛みは一瞬だけだからさ! 人を襲って食べようとする犬の奇行種……いやぁ、そこまで本能に従っているというのなら逆に純粋な犬だったりするのかい? いやいやいやでもでもでも、僕は君たちの身体にすごく興味があるな!」

 

 直後。

 犬たちが目にも止まらぬ速さでリィンの背中と壁の間に身を隠してしまった。

 つい先ほどまでリィンを襲っていた犬たちの突然の寝返りに、路地裏の袋小路にとてつもなく居た堪れない沈黙が漂い始める。目の前で狂喜乱舞していた兵士は「……え?」と凄く間抜けな声を出してしまっているし、リィンは全力で脅えている犬たちに全力で困惑するしかなくなっている。

 あえて誰が可哀想なのかと問いかけるのなら、目の前の兵士さん、だとリィンは笑顔で即答できる。人を助けて犬に嫌われ、最終的にはリィンに凄く可哀想なものを見る目で見られてしまっている始末。変人さんなのかな、とかなんとかいう酷い評価までつけられていることを、兵士は果たして気づいているのかいないのか。とりあえず落ち込んでるみてーだな、とリィンはとりあえずの現状報告をしてみる。

 そんな意味不明な沈黙状況が一分ほど続いたところで、

 

「リヴァイにでも慰めてもらえば万事解決じゃねえ!? そうと決まればすぐにリヴァイのとこに戻らなきゃ! じゃねっ、どこの誰とも知れない不幸な犬っころハーレム少年くん!」

 

 まことに理解しがたい発言を残し、その兵士は凄まじい速度で走り去ってしまった。

 ヒーローのようにやって来て地震のように場を混乱させ、そして嵐のように去って行った変人な兵士がつい先ほどまで居た場所を茫然と眺めつつ、リィンは犬たちの頭を撫でながら呟きを漏らす。

 

「…………変人って、お前らよりも圧倒的に怖いな」

 

 リィンのその一言に、くぅぅぅん……という弱々しい声が返された。

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!
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