進撃の芋女【完結】   作:秋月月日

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第三話 二人の友人

 ここ一週間ほど毎日のように走らされたリィンとサシャの身体に、誰もが予想し得る変化が訪れた。

 

「広場を何百周走っても全然疲れなくなったんだなこれが」

 

「努力の賜物ですね。やっぱり私たちは天才なんですよ!」

 

 やったー、と肩を組み合いながらその場で跳ね回るバカ二人。白髪と茶髪がジャンプに合わせて綺麗な光沢を放っているのが妙に腹立たしい。

 リィンとサシャが数えた限りでは、総合走行距離は二百キロを容易に超えていて、総合走行時間に関して言えば百時間を超えている。どんだけ罰則を与えられたんだコイツらとツッコミを入れる同期がいなかったわけではないが、流石にここまで来ると才能と言っても過言ではないかもしれない。

 だが、宴だ宴だとでも言わんばかりにはしゃぐリィンとサシャに辛辣な一言がかけられる。

 

「なぁに意味不明なこと言ってんだよ。単純にヘマやっちまって、そっから罰走させられてただけじゃねえか」

 

「ユ、ユミル。もう少しオブラートに包んで言ったほうがいいよ……?」

 

 うなじのあたりで縛った黒髪とそばかすが特徴的な少女が斜に構えた態度で肩を竦めながら言い、傍に立っていた金髪の美少女が冷や汗を流しながらおどおどとした態度でわたわたしている。

 ユミルとクリスタ。

 二人ともがリィンとサシャの同期であり、その良過ぎる仲が原因でリィン達104期生からガールズラブ的関係を疑われまくっているある意味では不純なコンビである。……まぁ、ユミルが主な原因なのだが。

 現在、リィンたち四人は共同食堂の一角に集まっている。一応は食事時間なので、彼らの周囲には同じ104期生が騒がしくも楽しい食事を行っている。毎日が厳しい訓練を過ごしている彼らにとって、監視も何もない食事時間と自室で過ごす時間だけが唯一の娯楽なのだ。

 リィンとサシャとユミルとクリスタ。 

 この四人が知り合ったのは、リィンとサシャが最初に罰走させられた次の日だ。もっと分かりやすく言うのならば、リィンとサシャが同じベッドで目を覚ました日のことだ。……あの日のことを、リィンはいろんな意味で忘れることができないでいる。

 朝起きて着替えて朝食を食べて――この短い時間に『雄犬』だの『獣』だのというリィンの人生史上最悪で最低に不名誉な称号を与えられた――……朝食を食べ終え、さぁ今日も訓練を頑張ろうとリィンが意気揚揚に訓練場に向かっていた時のことだった。――突然サシャに呼び止められたのだ。

 なんだなんだと呼び止められるがままに後ろを向いたリィンだったが、そこにはサシャの他に二人の少女の姿が。――何を隠そう、この二人の少女というのがユミルとクリスタである。

 絡んだ覚えも見覚えもない二人の突然の登場に首を傾げるリィンだったが、次の瞬間ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべながらユミルが放った現実に涙を流すこととなる。

 

『昨日、お前と芋女を助けてやったのは私たちだ。――これがなにを意味しているのか、お前には分かるよなぁ?』

 

 その日から、リィンはユミルとクリスタの二人とよくつるむようになった。

 ユミルとクリスタが水汲み当番の日はリィンとサシャが『自ら進んで』代わりに水を汲み、ユミルとクリスタが掃除当番の日はリィンとサシャが『自ら進んで』代わりに掃除を行った。……使い勝手のいいパシリだとか言っちゃいけない。本人たちも薄々感づいてはいるが、自分たちのプライドを守るために黙っているのだから。

 そんなこんなで(外見上は)仲良し四人組になったリィンとサシャとユミルとクリスタ。傍から見ればリィンがハーレムを作っているように思われるかもしれないが、その真実はユミルをトップとした厳しい現実の構図を体現しているだけなのだ。あ、因みに、クリスタはそのピラミッドの外枠にいる。だって彼女は男子陣にとってもユミルにとっても――女神なのだから。

 そんな『クリスタちゃんマジ女神――結婚しよ』なる称号を人知れず獲得してしまっているクリスタは人の気持ちを考えないユミルの後頭部にチョップを入れつつ、

 

「ユミルの言うことなんて気にしなくていいよ。……それにしても、リィンとサシャって相変わらず仲良しだよね」

 

「そうですか? いやまぁ確かに、私はリィンと行動することが一番多いですが……」

 

「うんっ! サシャは気づいてないかもしれないけれど、私たちから見れば二人はすっごく仲良しだよ。リィンもそう思うでしょ?」

 

「いやいやいやいやいやいやいやいや、何でそこで俺に話振んの? クリスタお前、一体俺のどんなリアクションを待ってるの? それともなに? 俺が顔を真っ赤にして慌てふためく様子でも観察したいの?」

 

「すでに顔は夕日も真っ青なぐらい真っ赤だけどな」

 

「表ェ出ろユミルこらぁ!」

 

「はんっ、上等だこの雪頭。現実ってモンを教えてやるよ!」

 

 顔どころか耳の先までもを真っ赤に染めたリィンが若干涙目でユミルの胸ぐらを掴むが、そんなリィンにユミルは怯むどころか挑発的な態度で中指を立てる。

 何日か前に仲が悪いことで有名な二人の少年の喧嘩が原因で何故か『爆音を放つ放屁女』なる称号を与えられてしまったサシャは反射的にリィンを宥め、クリスタはクリスタで抱き着くことでなんとかユミルを座らせていた。クリスタがユミルに抱き着いた瞬間に食堂内にいる男子陣から形容しがたい負のオーラが放たれたのだが、リィン以外の女子三人はそれに気づかない。

 二人の少女の健闘で乱闘騒ぎまでは到達しなかったリィンとユミルはとりあえず停戦協定を結び、食事を再開する。

 

「そういえば、さ。リィンって立体機動装置の使い方、すっごく上手だよね。びゅびゅーんって感じの速さで動けてるもん」

 

「別に得意って訳じゃねーと思うけどなぁ? 教官から言われたけど、俺って速さしか取り柄がねーみてーだし。ミカサとかライナーみてーに戦うのは絶対に無理だよ」

 

 立体機動装置。

 圧倒的な力を持つ巨人の唯一の弱点である項を確実に削ぎ落とすことができる位置に移動するために製造された、宙を自由に移動することができる人類の科学の結晶だ。人類はこの装置を活用し、僅かながらも巨人を屠ってきている。

 腰裏に装着する筒状の本体と、そこから展開されているアンカー射出装置。

 剣は巨人を削ぐ武器と装置のコントローラーを兼ねていて、全身に張り巡らされた耐Gベルト、大腿部に吊り下げられた刀身ボックスと動力源のガスボンベから――立体機動装置は構成されている。

 調査兵団・駐屯兵団・憲兵団関係なく全ての兵士が装備していて、巨人が襲来してきたときにその身を以って巨人を屠ることができる唯一の対抗手段とも言われている。

 確実に殺せる、というわけではないのだが、この装置が発明されてから人類の巨人討伐数は格段に跳ね上がった。――いや、ゼロから急激に増加したと言う方が正しいだろう。

 そしてそんな立体機動装置には適応能力というものがあり、立体機動装置を扱うことができない人間は強制的に開拓地送りとなってしまう。厳しいかもしれないが、巨人に対抗する術を持たない人間に価値などないのだ。

 そして、リィンはその立体機動装置に適応した。――いや、適応というどころの話ではなかった。

 リィンが立体機動装置を使って移動すると、同期生全員がその姿を見失ってしまうのだ。

 104期生の教官を務めているキース曰く、「立体機動装置を扱うためだけに生まれてきたと言って良いほどの逸材――他の才能は乏しい」とのこと。

 それ故に新たにつけられた渾名は――『白銀の風』。

 なんかすごい恥ずかしい二つ名だが、リィンは結構気に入っていたりする。十三歳という年齢のせいかもしれないが、それ以上に「実力を認めてもらえた」という達成感が主だった。

 そんなリィンの今の目標は、『攻撃の威力を上げること』だ。

 

「いくらスピードが速くても、今の俺じゃ巨人の項を斬り飛ばすなんて不可能だかんな。もっともっと訓練して、ミカサぐらいの攻撃力は手に入れてーよ」

 

「んぐんぐっ……リィンなら大丈夫ですよ! 剣の扱い方なら私が教えてあげてもいいですしね」

 

 隣でパンを千切ってもぎゅもぎゅと食べながら笑顔を浮かべて宣言するように言うサシャに、リィンの顔は再び赤く染まってしまう。確実にリィンの脳内では「結婚しよ」という言葉が乱立されていることだろう。

 無意識に桃色の空気を作り出すリィンとサシャ。周囲にいる104期生の若者たちは生暖かい視線で二人を眺めているが、リィンとサシャは気づかない。食堂の中央の席では目つきの悪い黒髪の少年が赤いマフラーを着用した少女にパンを無理やり食べさせられているのだが、リィンとサシャは気づかない。

 笑顔を浮かべるサシャと気恥ずかしそうに頬を掻くリィン。

 そんな初々しくて青春真っ盛りなコンビにユミルとクリスタは妖しい視線を向けながら、

 

「(ねぇ、ユミル。やっぱりあの二人ってデキてるんじゃないかなぁ?)」

 

「(いや、そこまではいってねぇかもな。リィンの奴は確実にサシャに惚れているだろうが、サシャの鈍感っぷりは筋金入りだ。今はリィンの片想いって言ったところじゃねぇの?)」

 

「(うわぁ……なんか私までドキドキしてきちゃった)」

 

 口元に両手を添えて「はわわわ」と顔を赤くするクリスタさん。そんなクリスタの姿をユミルは脳内フォルダに永久保存し、脳内シェルターへの格納を瞬時に完了させる。もちろん、周囲の男性陣もユミルと同様の行動に出ている。その優しさと美貌ゆえに『女神』と呼ばれ崇められているクリスタの赤面姿は、彼らにとってのご褒美なのだ。――但し、リィンとエレンなどの一部を除く。

 とりあえず得るものは得たユミルは未だに桃色空間なスタミナバカ二人に悪意百パーセントな視線を向け、にやぁとあくどい笑みを浮かべる。

 そしてなにを思ったかいきなり席から立ってサシャの傍まで移動し――形の整ったサシャの胸を鷲掴みにした。

 突然のユミルの奇行に呆気にとられる104期生。だが、サシャの相棒であるリィンはすぐに平常を取り戻し、

 

「ユ、ユミルお前! サシャになに手ェ上げてんだ!」

 

「あぁ? もしかして羨ましいのかぁ? この無駄に柔らけぇ胸が触りたくて、うずうずしてんのかぁ?」

 

「~~~~ッ!」

 

 いや図星なのかよ! と104期生達の心が一つになる中、リィンは夕日に圧勝できるほどに顔を真っ赤に染めている。クリスタはクリスタで興奮した様子できゃーきゃー言っているので、今のユミルを止められる奴なんてどこにもいない。神は死んだのだ。

 赤面リィンと悪党ユミルが睨み合う。食堂内にいる人間の全ての視線が二人に集中している。次のアクション次第で彼らの行動が決まるかのようだった。

 そしてその状態で静止すること約二十秒後。何を思ったのかサシャが突然リィンの身体に抱き着き、

 

「リ、リィンになら私、触られても平気ですよ!」

 

 その日の晩。

 あまりの歓喜に広場ではしゃいでいるところをキースに発見され、リィン=マクガーデンは朝食の時間までの罰走を命じられてしまう。

 




 次回予告(嘘)!

「リィン――好きですっ」

 突然の告白。

「リィン、死ねよ」

 予想外の宣告。

「リィン、お願いがあるんだけど……いい、かな?」

 そして訪れる、天使の誘惑。

 リィンは果たして、五体満足に生きて戻ることができるのか!

 そして、迫りくるユミルと怒り狂う男性陣の猛攻を退けることができるのか!

 理由なき修羅場がリィンを襲う!
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