~レオナルド・ダ・ヴィンチ~
長谷センパイたちと別れるて教室につくと、俺の席である窓際の席に腰を下ろした。
「「「「「おはようございます、愛さん!!!!」」」」」
クラスで知り合いになった連中と話をしていると、外からエラく気合の入った挨拶が聞こえてきた。
二列に分かれて頭を下げているヤンキー共の間を、うっとおしそうに、しかし颯爽とあるいてくる人影が見える。
辻堂愛。彼女こそが、この湘南においてもっとも恐れられている、稲村学園の番長、『喧嘩狼』である。
別段よくイメージされるような、眉毛沿った不細工が、己の顔と家庭環境をはかなんでヤンキーをしているわけではなく、辻堂愛は美人である。
色を抜いて染めて、無造作に流しているだけの割にはばさつかない綺麗で長い髪。腰チェーンという奇抜なファッションでありながら、ワイルドなカッコよさすら醸し出す改造制服。まるでモデルのような、日本人離れしたスタイルと身長。そしてなによりも、彼女は無表情であろうが、怒りをあらわにしていようが、怒鳴り散らしていようがその美しさが損なわれない。こればかりは、化粧ではごまかせない本当の造形美を持った者の証拠である・・・というか、化粧すらしていないという説もあり、複数名の女生徒がその事実に絶望したとかなんとか。
いずれにせよ、この学園に入学してから聞いた話によると、彼女はこの学園に入学するやいなや並み居るヤンキー共をばったばったと倒し、わずか二日足らずでこの学園を手中に収めたらしい。
現在の辻堂軍団は30人前後しかいないらしいが、腐っても湘南である。またこの稲村学園が湘南ヤンキー共のメッカであったらしく五十人以上潰し、彼女より上の学年は現在の一年より少しばかり人数が少ないらしい。
「ほら席につけ~、ホームルーム始めるぞ~」
教師が号令をかけるギリギリ前になって、校門前に整列していたやつらの幾人かが教室に入ってきた。ナンバー2をやってるとかいう葛西・・・?とかいうやつも同じクラスだが、どうやらバックれるようだ。
そういえば葛西といえば・・・俺は、辻堂愛自体には結構興味があるけど、辻堂軍団はあまり興味が無い。ただ単に、暴力に慣れただけのガキの集団だからだ。
ヤンキーなんていうのは暴力を振うのには慣れているが、振われるのには慣れていない烏合の衆でしかない。
それはともかくとして、俺も暴力をふるうのは大好きな方だからこそ、この番長にこの二ヶ月ちょっとのあいだ注目してきたわけだが・・・どうもこの辻堂軍団、少し妙な感覚がする。
具体的に何がどうこう、というわけではないが。何か妙な感じがする。当然辻堂愛とそれ以外の連中の力の差は歴然ではあるが、それ以上に、気のせいかもしれないが、温度が違う気がするように感じるのだ。
なぜとはしらないが、これは少し注意してみたほうが良いかもしれない、と観察を続けているが・・・その機会自体があまりない。まだまだ色々判断するには、様子を見る必要がありそうだ。
授業が始まると、それなりに講師の話を聞く。別段頭の良い方ではないし、勉強が好きというわけではないが、勉強はできる方だ。不良には勉強は必要ないが、俺は不良ではないので勉強はする。
よく「こんなもの将来役に立つの?」と耳にするけど、たたなかったのならその程度の仕事にしかありつけなかっただけじゃないか、と俺は思うんだけどな・・・すべての分野というわけではないけれど、ラーメン屋のおやじですら免許取るためには勉強が必要なわけで、最低でも新しい分野を勉強する方法は学校で学べるわけだし。
そもそも、ヤンキーなんかはアウトローなことに憧れてカラーギャングやらチーマーやらやってるわけなんだから、歴史とか面白いとか思わないのだろうか?相当にロックだと思うのだが。
たった二人の人間の敵討ちのために五千万人近くの人間が死に絶えたり、頭よさそうって理由で自国民十万人を虐殺したり、反吐が出そうなことなんてそこらじゅうに転がっている。
よっぱらった拍子に都市をまるごと焼いた、なんて話もあったなそういえば。
電車内でキングなのか牧師なのかどっちだよとか、ポルポトって響きかわいいよねとか、言ってたバカがいたが(実話)頭蛆でも湧いてるんじゃないだろうか・・・そもそもだな・・・!
閑話休題
一人もんもんとどうでもいい事を考えながら授業を過ごしていると、昼休みになっていた。というか、いまだに日本では世界四大文明とかたわけたこと教えてるんだな・・・文明なんて川があれば、その隣にあるようなものだと俺は思うんだけどな。文科省推薦の、お偉い学者先生様の蜘蛛の巣のはった頭の中ではちが・・・おっと、これ以上はやばそうだ。
ま、まずいな。なんだかしらないが今日は少し油断すると脱線するし、思考が危険な方向にばっかり向いている気がする、少し頭を冷やしてこないとまずそうだ。
「お、どこいくんだ?」
「ああ、ちょっと飲み物買ってこようかな~って。お前もなんかいる?」
鈴木に引き留められた。こいつとはたまに一緒に飯を食う仲だ。
お調子者だが、結構顔の利くやつで色々面白い話を色々してくれる。女子ともそこそこ話をするそつのないやつだが・・・同時にクラスに一人はいる、悪ぶりたい年頃の男だ。
もっとも、面白いことにコイツの場合、望んで話すより何気なく話す人間関係のほうが危ない話だったりするあたり、悪ぶれない善性を象徴しているのかもしれない。
「買ってきてくれんの、マジで?じゃあ・・・」
「ヌパイラノレグレ一プな、わかった!」
「なんでだよ!!誰が飲めるんだよ、あんな歯磨き粉となにかのカオス!!」
「冗談だよ、ちゃんと買ってくるって」
「ほんとかよ・・・お前、なんか真顔でとんでもない事してきそうで嫌なんだよな・・・」
・・・こういうさりげなく人間観察に優れているところも、コイツの面白いところだ。
「じゃあ買ってくるは」
「頼むは、しかしこの学校、炭酸売ってるあたり相当ロックだよな・・・」
それは確かに。
「お、センパイじゃん」
階段を下りて自販機のあるあたりまで行くと、長谷センパイがいた。センパイ!と声をかけると、どうやら何にしようか迷っていたらしいセンパイがこっちに気が付き、いつものように微笑んだ。
「真、今朝ぶり。そっちも飲み物?」
「はい、ちょっと頼まれたのもあって」
「そっか」
「センパイは何にするんですか?」
迷ってるんだよね、と苦笑するセンパイ。一応先に選んでたわけで、遠慮して少し話しながら待っていたが・・・長い!というか、迷っているのも含めて時間を潰しているっぽいな・・・。
若干イラっとしながらも話をしていると、そんな感情が顔から漏れたのか先に買ってしまうよう言われてしまう、あらら。
それでもまあ遠慮はしたのだが、先に買っていいよと強く言われたので、迷いつつもとっとと目的の物を買ってしまう事にした。
「ふ~ん、紅茶に・・・め、〆ッコーノレ。なんでこんなもんあるんだろこの学校・・・」
「不思議ですよね~。あ、紅茶は僕のです」
「友達のは?」
「・・・やだな~、決まってるじゃないですか!」
結局何が欲しいか指定しませんでしたからね、これでも問題ないはずですと言うと、結構性格悪いね誠と、言いながら長谷センパイはひきつった表情をした。
銘柄指定しない方が悪いのだ、ふはははは!
「じゃあセンパイお先です」
「あ、うん。じゃあまた今度!」
まだそこで時間を潰すつもりらしく、そんなことを言いながら長谷センパイと俺は別れた。
少し行った廊下の角を曲がり際に、いかにもヤンキーな男と一緒に歩いてきた葛西とすれ違った。
授業はふけていたが、学校にはどうやらいたようだ。
別段なにごともなくすれ違ったため、そのまま教室に帰ろうと思ったが、なんとなく嫌な予感がする。
この先には自販機ぐらいしかないので、葛西達もそこに行くつもりだろう、問題はおそらく長谷センパイがまだそこにいること。
長谷センパイはヤンキーな感じもしないし、突っかかるタイプではないが・・・。
なんとなく気になって自販機前まで戻ってみると、案の定センパイがまだいた、それも葛西達と一緒に。
「・・・何も取ろうっていうんじゃないんだ。ちょっと、貸してくれるだけでいいんだよ、な?」
「・・・・・・」
「おい・・・なんかゆーたらどうや!」
「あっちゃー・・・絡まれてるし・・・」
どうやら葛西達がセンパイにタカっていて、それをセンパイが無言の拒否をしているようだ。
どう考えてもまずい状態、これは割って入るか・・・?
「あ、センパイまだいたんすか?」
「・・・真。うん、ちょっとね。真こそどうしたの?」
「いや~、頼まれてたの一本買い忘れちゃって!」
「そうなんだ・・・」
やっぱり少しは怖いのか、いつもより歯切れの悪いセンパイ。だがまったく引く気はなさそうだ。
いつも笑っているだけな印象のセンパイの、意外な一面を見た気がする。
頑固なのはわかっていたが、こういうところで自分を貫けるやつはなかなかいない。対戦型のスポーツや暴力に慣れていない奴では特に珍しい。そう考えると、平和主義者っぽいところのあるセンパイは、ビビッていはいるが相当に肝が据わってるほうだ。
「なんだお前、いまは俺らがコイツと話してんだよ!な、センパイ」
「・・・・・・」
「あ?んだよその態度は・・・」
「わいらは、ちいと小銭がたらんから貸してくれいうとるだけやろう。そんなに難しいこというとらへんとおもうんやけどなあ・・・」
「・・・」
「このやろ・・・!」
ビビりながらも、ただ何も言わず睨めつけるセンパイに業を煮やしたのか葛西がセンパイの襟をつかみあげた。
ってやばい!
「まあまあまあ、そんなカッカしなくてもいいじゃん!ほら、いくら足りないんだっけ?」
「おまえにゃかんけい・・・!」
「百円や」
暴力沙汰になられては引き返した意味が無い。攻撃的な感じにならないように割って入る。
激昂しかけた葛西と違って、男の方はとっとと金額を提示してきた。葛西がなにか怒鳴ろうとしたが、俺はかぶせるようにして男に百円を渡してしまう。
「おま・・・!「はいはい百円ね~」なめてんのかこの野郎!」
「せやかてこれ以上時間かけとっても愛はんに怒られてまうだけやろう」
「・・・!っち、とっとと買って行くぞ!」
どうやら辻堂愛のパシリで飲み物を買いに来ていたらしい。男の手から百円をひったくると、アフタヌーンな紅茶を選んでボタンを押した。
ガシャンと落ちてきたそれを拾い上げながら葛西は辻堂のことを思い出しているらしく、顔面が緩んで変顔を晒している・・・。俺と長谷センパイの事が完全に頭から消えてしまっているようだ。
「・・・なんかしっぽでも振りだしそうな感じだな」
思わずつぶやいた俺。確かに、と長谷センパイ。
「ん?なんか言ったか?」
「「なんにも言ってません」」
「??・・・まあいいや、愛さ~ん♪」
「「・・・・・・」」
葛西は予想以上に愉快な奴だったようだ・・・。
いずれにせよ、これでひと段落つきそうだ。目立たないように長谷センパイに「とっととずらかろう」、とアイコンタクトを送ると長谷センパイもうなずいた。
「おいクミ~、どんだけ時間かかってんだよ!」
「あ、愛さん!!」
「ジーザス、なんてタイミング。長谷センパイ呪われてるんじゃないですか?」
「あ~、今日の運勢は割と良かった気がするんだけどね~」
いざ逃げようと行動に移す前に騒動の張本人が現れてしまった。これはまずいかなと思ったが、話は割と予想外な展開に転んだ。
自販機の前に俺と長谷センパイがいることに気が付くと、辻堂はまだ仕舞えてない俺の財布と、センパイの葛西に掴まれてよれたシャツの襟をジッと見てからこう切り出した。
「まさかクミ・・・お前、あたしの用事をカツアゲしてすまそうとしたんじゃねえだろうな・・・?」
なかなかに予想外な展開に少し唖然としていると、あれよあれよという間に事態が収束して俺の手元に百円が返ってきた。
借りただけだよ、と言いながらきまり悪そうに立ち去って行く葛西達と、すまんなと一声かけてから去っていく辻堂をポカンとしながら見送る。
するとどこからともなくヴァン先輩が現れて、俺と長谷センパイをねぎらってくれた。どっから湧いて出た!?と驚いたが、どうやら俺が来た方向とは逆からこっちに来て、途中からこの騒動を聞いていたらしい。
「大丈夫か、真?」
「・・・え?ああ、大丈夫ですよ先輩。別に何かされたわけでもないですし!」
「そうか・・・」
「それより長谷センパイも災難でしたね」
とそんなことを言いながら、少し話し合ってから解散することになった。去り際にセンパイが
「・・・正直ちょっと怖かったけど、辻堂さんて・・・そんなに悪い人じゃないのかな?」
と言っていたのが少し印象に残った。それをヴァン先輩がたしなめていたが・・・確かに今回はそうんなんだろうけれど、センパイってちょっと、その、いっちゃなんだけどチョロ過ぎないだろうか?いやまあ、それがセンパイの良いところでもあるんだけれども・・・。
「しかしなるほどね」
今回のことでなんとなく、辻堂軍団の温度差が分かった気がする。
結論を急ぐ必要はないが・・・たぶん辻堂軍団と辻堂愛との間には考え方に大きな差があるのではないか?俺は今回そう確信した。
「さて、それじゃあ疑問も解けかけてきたし、とっととこの劇薬を持っていくとしますか!」
そう気合いを入れると、気分よく俺は教室に帰って行った。
ヴァン先輩に隠れて見てたんですか?と尋ねると、俺と長谷センパイが絡まれてるのを見て助けに入ろうとしたところに辻堂が割って入っていったらしい。
目を見ると嘘をついているようにも見えないし、助けられなくてすまないと真摯な様子で謝られてしまった・・・う、疑ってしまったことにそこはかとない罪悪感が・・・。
二話かけてでやっと一日終わりましたw全ルート終わらせているのですが最初の方ちょっと思い出せないですしゲームの方やり直しながら執筆を進めることになります。
ちょっとペースがアレな気がしますのでもうちょっと早めては行きたいですがよくよく考えるとこの物語三ヶ月くらいの話なんですよね・・・。あんまり早めるのもよくないのかな・・・?