ちょっと暗くなってしまったけど、これくらいは大丈夫ですよね?
でもやっぱり糖分が含まれてるとは……。
オリ主視点です。ちょっと駆け足気味になってしまった気がするので後で修正するかもしれません。
※マハーバーラタをPCで調べても戦車の呪いの詳細が分からなかったのでねつ造してしまっています(今更)。注意です。
前回から少し経ってからの時間軸です。
3/12 追記:戦車の呪いの件に関して間違いの報告がありましたので修正させていただきます。ご指摘ありがとうございました。
戦車を動かせなくなる、ではなく動かなくなる呪いでした。
申し訳ありません。
――主人公side――
戦車。この言葉で思い出した。
カルナさんの死の要因じゃないか、と。カルナさんの死に至る呪いじゃないか。
落ち着いて思い出せ、私と自分に言い聞かせながら必死に頭を働かせる。
確かバラモンとかいう偉い階級の人の牛を誤って殺しちゃったからなんだっけ?
でも、それっていつの事なのだろうか。時系列が分からないのがとてもつらいです。
とりあえず、戦車は絶対に動かせるようにならないと。
戦車の乗り方は気合入れて習得しよう、そう自身に私は誓った。
後はカルナさんの傍に常にいるようにするくらいかな?そうしたら未然に防げるかもしれないし……。前回の失敗は繰り返さない、私は学ぶ子なのだ。
あと出来る事と言えば、邪神()様の言っていた“力”の解放といった所だろうか。
どうも私は邪神()の力を使えていないらしい。癒しの力はきっとオプション的なアレなんだろうなぁと少し遠い目をしてしまった。
正直に言って怖い。
けれど私はもうカルナさんに傷ついてもらいたくないのだ。
呪いを受けて帰ってきたカルナさんの揺らいだ瞳を思い出す。普段の一片の迷いもないあの綺麗な青が歪んでいた。その時の胸の痛みを私は忘れない。
だから私は覚悟しようと思う。
多少の無理もその為なら通そう。対価として何が持っていかれても、私の持っているものなら喜んで差し出そう。
それで守れたらいい。もうカルナさんは私にとって、ただのお気に入りのキャラクターなんかじゃない。たった一人の大切な人だから。
なんて格好の良い独白なんてしても使い方が分からないのだからどうしようもない。相変わらずの詰み仕様で私の涙腺が緩む。
日々の積み重ねの努力は怠らないようにしよう。弓とか戦車とか戦車とか。
それはともかく。カルナさんの傍にちょこまかと私が付きまとう事、早くも数週間。
弓の腕前や戦車に関する技術は少しずつ進歩を重ねている。カルナさんの教え方が意外と上手だったのがいい意味での誤算だった。まぁカルナさんの足りない言動を察知できるようになった私だからかもしれないけれど。
カルナさんと言えば通常運転で、人助けをしたり、仕事をしたり、私への特訓を自身の鍛錬のついでにやってくれたりして日々を過ごしていた。
「ここ最近何かあったのか」
『えっと……』
カルナさんは休憩時間の折、私に聞いてきた。やっぱり傍にずっといたら不審に思って当たり前だろうなと私は思った。周囲に人影もない時に言ってきたのはカルナさんの気遣いだろうか。
ふと、私は閃いた。あれ?これ言っちゃっていいんじゃないか。邪神()云々はさておき、カルナさんの呪いは言っておくべき事柄だ。前回は思い出せてなかったから詳細を伝える事が出来なかった。
反省は活かすものである。
『ちょっと信じられないかもしれないんですけど』
そう前置きをおいて、私はカルナさんに呪いの概要を言った。
“バラモンの牛を誤って殺し呪いをかけられてしまう。呪いは緊急時に戦車が動かなくなるというものである”と。
それを聞いてカルナさんは頷いた。
「なる程、承知した。充分に気をつけるとしよう」
『へ?し、信じてくれるんですか?』
「?可笑しな事を言う。――お前を信じこそあれ、疑うことはあり得ない」
そう断言してくれるカルナさんに一つの迷いもなかった。曇りのない青い瞳が、こちらへの信頼を雄弁に語ってくれる。
「恐らくだが、オレはどちらでもいいのだと思う」
『え?』
「それがお前の虚言だとしても構わない」
きっぱりとしたカルナさんの言動に私が呆然としていると、カルナさんがクスリと笑う。
「それにしても、お前にまさか予言の力があるとはな。やはり
『そ、それはやめて下さい。それに予言とか大層なモノではないんですよ』
「そうか、冗談だ。しかし、そうだな。肝に銘じよう」
すんなりと受け入れたカルナさんに私は涙腺が緩む。カルナさんの柔らかな眼差しはちっともこちらを疑っていないのだ。全てを受け入れられるなんて軽く言うもんじゃない、なんて軽口も、嗚咽を堪える為に結んだ口からは出せなかった。
少しでも気を緩めれば涙が出てしまいそうだった。
だって、こんな突拍子もない事を言って信じられる人がどれくらい居る事だろう。例え血縁の親兄弟に言われても何言ってんだ?こいつ、と白い目を向けられる可能性が高い。もしくはこの古代ではなく現代だったら精神科か、脳の異常を疑うか。
カルナさんの優しさに私は少しでも報いる事が出来るのだろうか。
運命の強制力って奴を舐めていた。私は後にそう回想する。
まかり間違ってカルナさんが牛を殺してしまった。カルナさんが、というか偶然が重なった結果だった。
傍にいた私が止める暇もなく、事件は起こってしまった。
カルナさんが倒れる人を庇って、背後の積み重なった積み荷を倒してしまい、それがまた別の物を倒し以下略。ドミノ倒しの要領で倒れていったそれらは不運にもその場にいた牛に直撃してしまった。
ぐしゃりとひしゃげた音をたてて潰れてしまった、その命はひとたまりもなく。
ここで言っておくと、インドにおいて牛とは神聖視されている象徴たる獣の一つだ。バラモンとは階級の事で、言ってしまえば司祭長のような役割を持つ。私の嫌な予感はとどまる事を知らない。
「な、なんてことをッ」
青ざめ騒ぐ野次馬さん達。曰く、バラモンが飼っている牛であると。
カルナさんと言えば、流石に呆然としてしまっている。そうだよね、気をつけるって言ったばかりでこれだもんね。
「この騒ぎは何事ですか?」
ざっと人混みが割れ、一人の僧侶の格好をした人が現れた。人々が口々に囁きあう、バラモン様がいらっしゃったと。あ、これ私でも分かりますわ詰んだ状況ですね。私も混乱と動揺の極致らしい。
バラモンは牛が居たであろう場所の血だまりに何があったか悟ったらしい。頷き、口を開く。
「なる程、我らが神聖なる命を散らした者はどこですか。名乗り出なさい」
「――オレだ」
バラモンの声にカルナさんは名乗り出た。私はぎょっとしてカルナさんの腕を掴む。振り返ったカルナさんは少し苦笑した。
「すまない、やはりオレはロクでもない事しかしないな」
困ったような、諦めてしまうようなその苦い表情に私は固まった。
カルナさんはバラモンに向き合った。真っ直ぐなその視線はもう覚悟を決めたものでしかない。
「そうですか、貴方が。――状況から察するに仕方ない事でもあったのでしょう。ですが、それでも償いを受けてもらいますよ」
「承知した、オレに出来る事ならば」
「よろしい。それでは貴方に呪いを授けましょう」
淡々とやり取りがされていく。待って、待ってくれ。私はカラカラに乾いた喉で言う。もう、頭が真っ白になってしまっていた。
邪神の言葉を思い出す。汝は覚悟が出来ているか。全てを捧げる覚悟を。汝は知っているか、我が力を。知らぬならば行使せよ。
ああ、覚悟しよう。何故なら私は――。
『“この手が掴むは原罪の端、形を変えよ”』
気づけばそんな事を私の口が紡いでいた。深く考えるな、これは本能。かつてFGOでの序章でキャスターが似たような事を言っていた。
目の前の空間が歪む。右手が意志とは無関係に動き空間に突っ込んだ。それと同時にソレを引き抜く。
『“――――”!!』
締めくくった言葉は私自身理解できない言語だった。けれど本能で悟る、これは人間が理解してはいけない言語であると。
見えない空間から引き抜かれたソレは、漆黒の大剣だった。黒の刀身は光を反射せず、周りに纏う漆黒のもやに包まれ全容がぼやけていた。揺らぐその姿はまさしく邪神の力に相応しい様相だ。しかも大きさが私の身体よりも大きい。刀身の長さは元より、その広い横幅と厚みは盾としても応用が出来そうな堅牢さだ。勿論振り回せたらの話であるが。
その見た目の重厚感は、力士が持っても振り回せないと思わせる程だった。
大層苦労するだろう、と思う私を嘲笑うかのように漆黒の刃はすんなり持ちあがる。しっくり掌に馴染む感触は私を冷や汗を加速させた。
が、時間がない。私はコレの使い方を熟知している。視界の端に唖然とする、バラモンとカルナさんの姿が確認できる。よかった、まだ呪いはなされていない。
『ハァッ!』
ソレに向って私は漆黒の刃を振り下ろした。
私は容易く禁忌さえも破ろう。
目の前は土煙で染まる。
振り下ろされた刃は、血溜まりに沈む潰えた命を捉えたのだ。簡単にいうと牛さんを復活させた。ついでに牛さんの上に乗っていた積み荷もあの大剣で吹き飛ばした。それからそのまま宝具を元の場所にしまう。
土煙が晴れて、無事な牛の姿を見たバラモンとカルナさんの反応は驚愕そのものだった。
貴方の牛はこの通り無事です、そう告げる私の顔をバラモンは目を白黒させて気を失いそうな顔だった。牛が無事なのは事実、けれどどうやったかは分からないので責めようがない。
釈然としなさそうなバラモンに解放されて、無事カルナさんと私は帰路に着くことが出来た。
さて、ここら辺で私のというより邪神様()の力を紹介しようと思う。私は力を使った際、その力の内容を嫌でも理解できてしまった。深く考えると精神的に発狂もワンチャンあるので深くは突っ込まない。
あれはやっぱり宝具的扱いらしい。名前は使用者の私でさえ理解できなかったから邪神()の世界の言語なのだろうなと思う。
能力は簡単明白。“全世界ありとあらゆる生命の願い、欲望を魔力に変換して使う力”。そう聖杯のようなモノだと思ってくれていい。全世界とかふざけた規模なので、魔力枯渇は心配しなくてもいいのが利点だ。
これだけ聞くとチートだと思う。けれど、ちゃんと弱点が存在する。それは私が、あの宝具の変換炉、フィルターの役割を果たしている事だ。なので、大きすぎる力を使おうとすると私が耐え切れなくなって死ぬ。多分、対価どうこうはここら辺の事だと思う。更にこの宝具は私の心臓と同化しちゃっているので宝具が壊れると私も多分死んでしまう。心臓破裂とか笑えないですねぇ……と私が白目をむいてしまうのも仕方ない事だと思う。
相変わらずの詰み仕様の搭載に、邪神()様の抜け目のなさに私は泣いてしまいそうだった。
先程から黙ったままのカルナさんを横目で伺った。カルナさんは前を向いたまま、沈黙を保っていた。唯一の救いはカルナさんの手に引かれているので、嫌われた訳ではないという事だけだった。……どうしよう、カルナさんにやっぱり要らないって離婚を言い渡されたら。
不安のあまり、家に着いたことにも私は気づけなかった。カルナさんが家の中に入り立ち止まらなかったら分からなかったかもしれない。
さっと離された手が空気でひんやりとする。
カルナさんは振り返り。
「説明しろ」
『ひぇ、ひゃい……』
カルナさんの声は冷え切っていた。見下ろされる同様の冷たい青の鋭さに私はすぐさま床に正座をするのだった。こ、こわっ。アカン、カルナさん激おこやんと私の脳内がぐるぐるとする。
震えながら私が簡単に説明すると、カルナさんは大きくため息を吐いた。
説明したのは次の三点の事について。私は実は神様に力を授かっていたこと。そしてつい先ほど使えるようになったこと。それからちょっと力を使うと疲れてしまう事。
「なる程、お前の隠し事はこれか」
『えっ』
「気づいていたぞ。何かを隠していた事は。ただ、お前に害意はなかったのでそのままにしていただけだ」
『うわぁ、カルナさんそれ駄目ですよ。私が言う事じゃないですけど……』
「それで、大丈夫か」
『ほえ?』
カルナさんが私の目の前に膝をついた。目を合わせながら、問われた事に私は小首を傾げる。うん?特に怪我をした覚えはないしなぁと。
「その力、お前の負担となるのだろう。――大丈夫か、何処かに痛みはないか。苦しみはないか。目眩やつらさは?」
『へ?いや、まぁ多少クラッとくるぐらいで。大丈夫ですよ?』
矢継ぎ早に重ねられるカルナさんの問いに私がぎこちないながらも答えた。下手に取り繕うよりも良かろう、と私は正直に言った。
カルナさんの白皙の美貌が悲痛に歪んだ。ぎょっと私が驚いていると、彼の手がこちらに伸ばされた。
気づけばぎゅっと強い力で私はカルナさんに抱きしめられていた。私が訳が分からず目を白黒させていると、耳元にカルナさんの吐息がくすぐる。正直に言えば彼の黄金の鎧が身体に押し付けられて地味に痛かったけれど、私はそんな事を思う余裕がすぐに吹っ飛んだ。
「――肝が冷えたぞ」
混乱極まる私の耳にカルナさんの切ない声が囁かれた。囁き、というよりは独り言のような小ささだった。
「もう、こんな事はしないでくれ。頼む」
聞こえるカルナさんの声が震えた。私はそれにハッと我に返る。ああ、私はまた失敗をしてしまう所だった。カルナさんを傷つけてしまっている。
けれど、カルナさんに言われた事に頷けない。
『それはカルナさんにも言えますよ。あんなに簡単に自分を差し出さないでください。私も、怖かったんですから』
私の言葉に背に回ったカルナさんの腕の力が僅かに強まった。ううん、ここで肯定の言葉がないとか、先は長いなぁと私は現実逃避気味に思った。
しばらく、このカルナさんの拘束に甘んじなければならないだろうなぁと。私はカルナさんの背に手を回してそっと撫でた。私に出来るのはこれくらいだった。
カルナ「けれどもやはりまだ隠している事があるのだろうな」
オリ主の隠し事はバレている感じです。
カルナさん激おこでした。カルナさんは自分が傷つくよりも他人が傷ついてしまう事を恐れていそうですよね。もうそういう性分としか言いようがないんですけども。
そう言う訳でカルナさんの死因の一因が回避できました。という話でした。でも代わりに主人公がちょっと危ないという……。
オリ主さんの宝具名はぶっちゃけ思いつかなかったのでこんな表現でさせていただきました。まぁ理解するもおぞましき、発狂もやむなしな邪神様なのでいいかな、と。
シリアスって結構難しいですよね……。