施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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カルナさんと喧嘩編。どうしてもこの葛藤が書いておきたかったんです。
たまにはぶつかり合うのもいいだろうと。

次回からはマハーバーラタ本筋へと話を戻します。一応プロットは出来ているのですが、あと三、四話辺りでマハーバーラタ編を終わりに出来ればなと思います(多少前後しますが)。で、その後番外編を書いていきたいなと。



オリ主視点です。


10

 

――主人公side――

 

 

 

 

 カルナさんと喧嘩しました。え?何を言っているか分からない?

 

 

 一から順を追っていこうと思う。あのカルナさんの戦車に関する呪いを回避した翌日の事。私はハッと思いついた。

 

 カルナさんの奥義云々の呪いも解けるんじゃね?と。

 

 幸い邪神()様の力を使っての消耗も今のところそうきついものじゃない。ので、解呪したとしてもそう痛手にならないだろうと思ったのだ。

 

 唯一の弱点というか見た目的に絵面が不味い事になるのがちょっとつらい所なのだが。能力の使用時、邪神()の二メートル近いあの漆黒の大剣で対象を斬りつけないといけないからだ。殺害現場かな?と思わないでもない。

 

 前回は混乱に乗じてというかそもそも対象となる牛さんお亡くなりになっていたから特に問題はなかったんだけど。

 

 勿論、物理ダメージはない。痛みもない筈だ、多分。癒しの力は手で触れてればなんとかなったけれど、それ以上を望むとどうしてもあの大剣が必要になるのだ。恐らくは一度に必要になる魔力量の関係だろうけど、詳しい事は私にも分からない。これから使っていく毎に理解を深めていく部分だ。

 

 なので、カルナさんに提案するのも心苦しいものがあったのだけど背に腹は代えられない。

 

 意を決して翌日の朝、カルナさんにお伺いした。

 

『あの、カルナさん。カルナさんの緊急時の奥義を忘れちゃう呪いなんですけど……』

「ああ、あれか。どうした」

『私の力で解くことが出来ると思うので、後でやってもいいですか?』

 

「ッ!?」

 

 恐る恐る聞いてみると、カルナさんの顔がサッと青ざめた。なる程、これが絶望顔かと納得してしまう有り様だった。カルナさんの蒼い瞳も心なしか光がない。思わず私はぎょっと目を見開く。

 

「――不要だ」

『え』

「要らぬ世話だと言った。余計な真似をするな」

 

 取り付く島もないとはこの事か、カルナさんの声は硬い。

 

「……あの力はあまり使うな。恐らく、あれは良くないものだ」

『え?いやでもカルナさん、そのままじゃ不便でしょう?それに見た目は悪いかもしれないですけど、使い方さえ間違えなければ大丈夫ですよ』

 

 ね?と私が言い聞かせるように言えば、カルナさんが苦々しい表情をする。

 

「お前は気づいていないのか」

『うん?』

「――あれは深淵だ。底の見えない、おぞましい力のように見えた」

 

 カルナさんは目を伏せ、ギリッと拳を握る。

 

「故に使う事は控えろ。いいな?」

 

 一応聞く形をとってはいるが、カルナさんはちっともこちらの意見を聞く気はないようだった。揺らぎないその瞳が雄弁にその意志の固さを伝えてくる。

 

 私は思ってもいなかったカルナさんの拒否、否定の言葉にカッとなった。

 

『……か』

「?」

 

『カルナさんの分からず屋ーー!! ばかやろーッ!』

 

 思いのまま、私は叫ぶように言い捨てて、家を出る。ポカンとしたカルナさんの顔が私の良心をチクチク刺すけど今は知るものか。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で今私はカルナさんとは別行動をとっている。戦車はともかく、弓の鍛錬は自主練くらいは出来るし、ドゥルヨーダナさんに今日一日は自分自身を鍛えたいと言えばあっさりと別行動の許可が下りた。

 

 なので、今私は練習用の弓矢を持って一人で誰も来ないような空地に居た。ふらふらとそこら辺をうろついていたら偶然この場所を見つけたのだ。

 

 今は一人で頭を冷やしたかった。

 

 分かっている。これは八つ当たりに近いものだ。

 

 私は邪神の力をカルナさんに否定されて、自分の努力までも否定された気分になった。私のカルナさんを助けたいあの必死の覚悟さえ要らないと言われてしまった気がして。

 

 勿論、そんな事はないと分かっている。カルナさんはあくまで私自身の心配をしていたに過ぎない。それも私が昨日邪神様の所をぼかして伝えたせいだろうと察する事が出来る。これでもここでの生活が長くなったのだ。これくらいは何も言われなくとも分かる。

 

 邪神の力だ。太陽神の息子の彼にはさぞおぞましく映った事だろう。メタ発言を許してもらえればSAN値チェックが失敗してしまったのか。

 

 でも、けれども。

 

 たった一人、カルナさんを助けになりたいと思う事がそんなにダメな事なのだろうか。

 

 私自身にはなんの力がないから、多少の無理を背負い込むのがそんなに悪い事なのだろうか。

 

 込み上げるモノをぐっと私はのみ込んだ。ここで泣いてしまっても何にもならないから。

 

 

 

 よし、落ち込むのはここまでだ。私は自分の頬を手でぺちんと叩く。

 

 こうなったら意地でも解呪してやる、と気合を入れなおす。

 

 

「ここに居たか、探したぞ」

『!? か、カルナさん』

 

 いつの間にか背後にいたカルナさんの姿に私は驚く。気配とかしなかったんですけど。私はカルナさんの姿に言いたいことを言ってしまおうと決めた。

 

『あの!やっぱり私、あの力を使います。カルナさんになんて言われようと引きません』

「!」

 

 私の突然の宣言にカルナさんは少し驚いたようだった。カルナさんは目を少し見開いて固まる。

 

『守りたいと思うのはカルナさんだけじゃないんですッ!私だって、カルナさんを守りたいし、心配だってします』

「……」

『これはいけない事ですか?私じゃあ、貴方の背中は守れませんか』

 

 私の訴えにカルナさんはそっと目を瞑った。そしてしばらく沈黙し、困ったように苦い笑みを浮かべた。

 

「――お前はずるいな。その言い方は」

 

 卑怯というものだ、カルナさんは掠れる声で呟いた。その表情をなんと表せばいいのだろう、泣き出しそうでもあり、少し怒っているようでもあり、嬉しそうでもある。複雑な感情がまざまざと伝わるそんな表情だった。

 

「そうだな、お前はきっとそんな奴だって分かっていた。度し難いとは正にこの事だ」

『ひ、ひどい言い様ですね……』

「いや、オレの精一杯の賛辞の言葉だ。――恐らくオレが何を言ってもやめないのだろう」

『そうですよ、覚悟してくださいね』

 

 カルナさんの諦めの言葉に私は力強く頷いた。そんな私をカルナさんは眩しそうに目を細め見つめていた。

 

「ああ、覚悟しよう。代わりにお前も覚悟してもらおうか」

『へ?』

「オレの手の届かない所に行かないでくれ。その力を使うなら尚更だ」

 

 カルナさんの懇願の言葉に私は頷いた。まるで縋りつくような響きを持っていて、私に拒否という選択肢はなかった。

 

「そうか。それならいい」

『じゃあ、とっとと解呪しちゃいましょう?』

「!?」

 

 辛気臭い空気はなくしちゃおう、と私が言えば、カルナさんが驚いたように目を見開く。

 

『“この手が掴むは原罪の端、形を変えよ”』

 

 こういうのは勢いが大事だよね、と私は漆黒の大剣を引き抜き、振りかぶった。

 

『“――――”!!』

 

 よっと私はカルナさんの身体を目がけて振り下ろす。二メートルの刀身は漆黒のもやを纏いながら青い光を宿した。

 

 直後、ブワッと黒いもやが膨れ上がり、視界を覆う。次の瞬間には無傷のカルナさん、そしてその足元に漆黒の大剣が突き刺さっていた。お、成功だと私は確かな手ごたえに喜んだ。私はカルナさんの“呪い”だけを斬って無効化したのだ。脳筋?はは、聞こえませんね。

 

 カルナさんは斬られた身体をペタペタと触り、自身の無傷を確かめていた。何が何やらと言ったところだろうか。

 

『痛くなかったですか?』

「痛みはなかったが、不思議な感触だな」

 

『え』

 

 私の問いかけにカルナさんは眉をひそめ、首を傾げつつ答えた。カルナさんがそう表現するくらいだ、ちょっと一般人向けじゃないか。人に使うのは控えよう、と私は思い直した。

 

「言い表せないのだが」

『な、なんかごめんなさい』

「いや感謝こそすれ、責める道理はない。――ありがとう」

『ッ!!』

 

 微笑みを浮かべ礼を述べるカルナさんに私の涙腺は緩む。そこにカルナさんは困ったように私の頭をそっと撫でた。

 

「今朝はすまなかった。――言い過ぎた」

『こちらこそ怒鳴っちゃったりしてごめんなさい』

 

 しょんぼりとしたカルナさんに私も慌てて謝る。子供みたいな真似をしてしまったと私は今更恥ずかしくなった。

 

「ああ、気にするな。あれ如き可愛いものだ」

 

 ふわっとカルナさんは微笑み、そのまま私の頭をぽんぽんと軽く撫でる。わぁ子ども扱いだーと私は胸が心なしか痛んだ。くっ、でも嬉しいのが悔しいところだった。

 

『……これで仲直り、ですよね?』

「そうだな」

『よかったぁ』

 

 安堵のあまり私はへにゃりと笑みがこぼれる。その様子にカルナさんは目を細めて頷いた。

 

「――オレも、安堵の気持ちが禁じ得ない。喧嘩がこうも恐ろしいものとは知らなかった」

 

 言葉の割に柔らかな声でカルナさんはポツリと呟いた。今までは喧嘩をする相手も居なかった、カルナさんは寂しい事を言う。

 

『これからは私と一杯そういう事をやっていくんですよ』

 

 思わず私がそう言えば、カルナさんは目をぱちくりと瞬きをした。全く考えが及ばなかった、そうカルナさんの顔に書いてある。

 

 私は思わずくすりと笑ってしまった。

 

『一杯喧嘩をして、仲直りをして、話し合って、分け合ってそうやってこれから先過ごすんです。ね?覚悟した方がいいですよ』

「――ああ。覚悟しよう」

 

 先は長いんですよ、そう私が言えば、カルナさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。それが幸せそうな笑みだったから、私もつられて頬が緩む。きっと私はだらしない笑顔だろう。

 

 私はカルナさんに伝えたかった。貴方との未来を私も望んでいる事を。

 

 あの力を使う事は絶望に向ってではなく、前を向いているが故なんだと。

 

 

 手始めに午後から特訓に精を出そう。カルナさんへの提案を思い浮かべる。

 

 




カルナさんは一体何を視てしまったのでしょうね。一応カルナさんsideの話も書いてみたのですが、蛇足だなと没にしちゃいました。
主人公の話の通りSAN値チェックに失敗してしまったのでしょう(適当)





私信なのですが明日はちょっと更新できないかもしれないです。ちょっと用事があるので。勿論出来る限り更新するつもりではあるのですが。
なので更新なかったら月曜日だな、と思っておいてください。よろしくお願いします。
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