施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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昨日は更新しなくて申し訳ないです。これからの話のプロットを掘り返してかきかきしていたんですが、ちょっと書き直していたので。

今回は
サイコロ賭博~前回までの間のお話。だいたい前回の一年位前だと思います。
カルナさんsideのお話になります。なんだかんだで甘いです。短いです。

三人称の話なので主人公が“彼女”と呼称されます。注意。


小話:いつ彼が自覚したか

――カルナside(三人称)――

 

 

 

 

 その日のカルナはドゥルヨーダナに報告する案件があった為に彼の元へと赴いた。いつも隣にいる彼女は少し前にドゥルヨーダナに呼び出されていたのでもしかしたら会えるかもしれない。そう思うだけでもカルナの気持ちが明るくなるのを感じた。

 

「お、カルナではないか」

 

「ドゥルヨーダナ、これは一体どういう事だ」

「ははっ、そう怖い顔をするでないわ」

 

 呵々大笑とするのはドゥルヨーダナ、渋い顔をしたのはカルナだ。カルナの視線の先には白い布をすっぽり被った人物がすっかりしょげかえっていた。言わずもがな、カルナの妻たる人だ。

 

 ドゥルヨーダナと彼女の間にはボードゲームが置かれており、すごろくのようなものだった。結果は見ればドゥルヨーダナの圧勝といった所か。

 

 カルナはそこまで見て納得する。ああ、なる程。彼女が気落ちしているのはこのせいか、と。

 

「納得したか?」

「!」

 

 ドゥルヨーダナのこちらを揶揄うような笑みにカルナは目を瞬かせる。先程の剣呑とした光は霧散し、予想外の事を言われたそんな顔をカルナはしていた。

 

 ドゥルヨーダナはそんなカルナを見て、渋い顔をする。

 

「――もしや自覚なしか」

 

「なんの話だ?」

「……余の気のせいかもしれぬが。まぁ良い。こやつには余の戯れに付き合わせただけだ。執務ばかりでは肩が凝るしな。反応が面白うてな、ついついやり過ぎてしまった」

 

「――そうか。次からは他の者に頼む事だ」

「うん?」

 

 カルナの言葉にドゥルヨーダナは怪訝そうな面持ちになる。カルナはそんなドゥルヨーダナの表情に頓着する事なく、白い布の背中に手を伸ばした。そっと触れるその仕草はいつからか二人の定番となった触れ合いの一つだ。

 

「どうした?」

『かるなさぁん……』

 

 カルナの言葉に情けない声を出す彼女にカルナの眼差しが柔らかくなる。ほんのりと口元に笑みまで浮かぶ始末だ。

 

「ん?ドゥルヨーダナに負けてしまう事ならば、気にする事はない。その手の才に事欠かない男だからな」

『ふふふ、ありがとう。カルナさん、元気づけてくれるんですね』

「――ああ」

 

 彼女の笑顔の礼の言葉にカルナの顔にふわりと笑みが浮かぶ。その時のカルナの眼差しの甘さと言ったら、ドゥルヨーダナが呆気にとられる程だった。

 

 あの朴念仁が、と衝撃を受けるドゥルヨーダナにカルナの視線が向けられた。

 

「ドゥルヨーダナ、どうした」

「あ、あぁ……。なんでもないぞ。少しばかり驚いただけだ」

「?」

「存外、二人とも仲が良いようだからな」

「……そうか」

「嬉しそうだな……?カルナよ。まぁ友の喜びは余にとっても嬉しいぞ。夫婦仲は良い方がいいからな」

 

 ドゥルヨーダナが二人の仲が良い事を指摘すればカルナが噛みしめるように頷いた。それがこの男にしては嬉しそうなものだからドゥルヨーダナは甘さで胸やけしてしまいそうだった。

 

 だがカルナの方は夫婦仲、と言うところで目を丸くする。カルナの隣の彼女もきょとんと瞬きしていた。ドゥルヨーダナは嫌でも察してしまう、こいつら一線を越えていないな?と。なるほど、それでこうも違和感があった訳だなとドゥルヨーダナは納得する。

 

「カルナよ、友として助言しようか。お前はどうもどこかで躊躇うようだからな」

「躊躇う?オレがか」

「そうだ。まぁお節介は余の領分でないことだし、簡潔に言うぞ」

 

 不思議そうにするカルナにドゥルヨーダナは神妙に頷いた。この様子だと心配ないだろうが、自覚ないまま過ごされて失ってから気づくようでは困るのだ。

 

「――お前は欲を知らぬからな。いいか、カルナよ。欲は悪いばかりではない。故に欲しても誰に責められる道理はない」

「?お前の言う事はたまに回りくどいな。言葉を重ねるのは結構だがそれで伝わらねば意味がない、そうは思わないか」

「誰の為だと思って……。はぁ、ならばせいぜい横取りされぬように気をつける事だな。お前の宝物は案外人気なようだぞ」

「……宝」

 

 ぼそりと反芻するカルナにドゥルヨーダナはどこまでも鈍い奴めとカルナの隣へと視線を投げる。視線の先の主はこてりと首を傾げた。カルナと似たような晴天の空の瞳はどこまでも曇りがないような気がした。

 

 ドゥルヨーダナとて野暮な事は言いたくないのだ。が、あの幼げな少年の格好をした彼女がやれ癒されるだとか可愛いだとか少し耳にする事があったからこその忠告だった。

 

 今まではまぁ夫婦だしと特に気にしていなかったのだが、自覚が両方ないのは流石に不味いとドゥルヨーダナの小さな老婆心だった。

 

 カルナも流石に何を言われたか悟ったらしい。青白いカルナの顔がサッと朱が走り染まる。おや、随分初心な事だとドゥルヨーダナは驚いた。

 

「――それこそ余計な世話というものだ。これ以上の世話はお前と言えど不要だ」

「ブッフ、クックック」

 

「ドゥルヨーダナ」

 

 カルナの言葉にドゥルヨーダナはふきだし笑いを堪えきれず喉で笑う。その様子をカルナは抗議するように声を尖らせる。

 

「そうか、余の杞憂に過ぎなかったようだな。――カルナよ、報告をしに来たのだろう。聞こうか」

「――それもまたお前の良い所なのだろうな。報告だ、ドゥルヨーダナ」

 

 カルナはぼやき交じりに言った後、気を取り直して報告を淡々と済ませる。それにドゥルヨーダナは頷いて粛々と事を進ませる。

 

「――以上だ。他に気になる事はあるだろうか」

「ないな。もうしばらくは周隣を回ってもらう事となるが」

「そうか。承知した。お前の為ならばこの武芸を振るうもやぶさかではない」

「ああ、頼りにしておるぞ。カルナよ。それにお前もな」

 

 ドゥルヨーダナの言葉に彼女がへにゃと笑い頷く。それが小動物のような邪気のなさで頭を撫でたくなったドゥルヨーダナだがぐっと堪えた。流石に命は惜しいものだ。

 

 ではここで、と退室する二人をドゥルヨーダナはため息ひとつで見送った。全く傍迷惑な夫婦だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルナは彼女の手を自然と握る。そうするようになったのはいつの事だろうか。例えば家路に着く時、ほんの少しの移動の際に、数えればきりがない。最初は恐らく土地勘が皆無な彼女がはぐれてしまわないようにという理由だった。体格の違いからか、歩幅が大分違うのにカルナが気づいたのはその手を繋いで共に歩くようになってしばらくしてからだ。

 

 カルナの一歩が彼女の二歩分くらいになる。カルナが思うまま歩けば彼女は小走りをしなければならない。そうなっても彼女は気にした風もなくカルナについて歩いた。

 

 それに気づいた時の心情はカルナの少ない語彙ではとても語れたものじゃない。ギュッと心の臓が握られてしまうかのようなそんな感情だ。それでいて不愉快ではないのだからカルナは困ってしまう。

 

 だから自然と共に歩く時はカルナは彼女の歩みに合わせる。そして見下ろす先の白い布の丸い頭の主の楽し気な様子を見守る。

 

 彼女が笑えば自然とカルナも柔らかな気持ちになれた。

 

 それでカルナは良かった。満足を覚える。隣にあればそれで良い、と。

 

 けれど先程ドゥルヨーダナの言われた事を思い出す。言われた通りならばカルナは彼女に恋慕の情を抱いている事になる。カルナの“宝物”と友は例えたがカルナは複雑だ。しかも横取りされないように気をつけろとの忠告つきだと尚更だった。

 

 彼女は紛れもなくカルナの“特別”だ。いつからなんてカルナにも分からないが、気づいた時にはもう手遅れだった。手放したくない程の情をカルナは“家族”だからだろうとなんとなく思っていたのに。

 

 “家族”だからこそ離れたくなく、手放しがたい。己の傍で笑っていてほしいとさえ、傲慢にも思ってしまうのだ、と。

 

 そのカルナの矛盾を今回ドゥルヨーダナにむざむざと突きつけられた気がした。

 

『カルナさん?』

「――ああ、すまない。些末事だ」

 

 手を繋いだ彼女が気遣うように見上げていた。彼女は眉尻を下げ、カルナを心配してくれている。それだけでカルナの気持ちが軽くなる。

 

 ああ、カルナは嘆息した。

 

 これが、恋というものか。とたった今カルナは自覚と共に認めたのだ。見下ろす先の澄んだ瞳の愛おしい事、繋いだ小さな手のその指先さえ可愛らしく思えてくる。彼女の白い手の手荒れさえカルナは愛おしい、何故ならそれは彼女の努力の証だからだ。ここで精いっぱい生きている彼女の証。

 

 会話して、触れて、生きる糧さえ分け合って、実の血を分けた家族のように慈愛をくれた彼女が心底大切だと思う。

 

 溢れてしまいそうだ。愛しさで窒息さえしてしまうかのような錯覚。その息苦しいという錯覚さえ甘美に思えてくるのだから重症だ。

 

 溺れてしまうような愛だとカルナはぼんやりと思う。

 

「……けれど一生に一度の事だろう。ならばいいか」

『ん?何か言いました?カルナさん』

「先は長いな」

『え?なんです、その残念そうな顔は』

 

 カルナの呟きに首を傾げた彼女にカルナは目を細めた。ついでに呆れのため息を軽くすれば彼女が軽快な軽口をたたく。

 

 

 ああ、これでいい。カルナは一先ずは彼女の隣でその位置を盤石のものにするように努める事にした。

 

 

 




カルナさんは実は拗らせてそうだなぁと思います。しかもこれがカルナさんの初恋となるので自覚が遅かったという話。 
カルナさんの価値観で家族は結構上位の立場だろうなと思います。憧れであり、幼い頃叶わなかったものであり、心の底で望むもの、でも手は伸ばせない。伸ばさない。そこを拒む暇さえなく主人公がカルナさんの内面に殴りこんだのでじんわりとカルナさんの心に積った感じです。

なので気づいた時には引き返せない程積っちゃっています。結構熱烈な感じはその為です。
劣情云々はカルナさんは心の充足を優先するだろうから、まずは心の攻略から始めるのでしょう(笑)

※ドゥルヨーダナさんに最初カルナさんが渋い顔をしたのは薄い嫉妬と主人公をしょげさせたのと両方です。如何に親友と言えど……的な。ドゥルヨーダナさんはそこらへん全部分かっています。







関係ない話になるのですが、昨日FGOカルナさんピックアップ、来ましたね!まさかのカルナさんがいらっしゃる事態となったので作者は困惑を隠しきれません。書けば出る(震え声) ……だとしたら作者は一体何人分の鬼更新の小説を書けばいいのやら(大困惑)
もうカルナさんに足を向けて寝られませんね!


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