難産でした。何度も書き直すこと数度 文章力の限界を思い知った心地です。本当はここに少し話を挟みたかったんですけど蛇足かなと没にしてしまいました。
今回は母クンティーさん来訪事件です。 調べて分かったんですけれど、アルジュナさんとの戦いの前にいらっしゃるのですね(知らなかったなぁ)
ちょっと後で修正するかもしれません。
シリアスなのでさらっと流します。でも糖分があるので注意です。更にキス表現もあるので厳重注意です。苦手な方は退避してください。
今回はカルナさんsideと主人公視点で分かれます。
さらに補足事項(簡単にしてます)
※カウラヴァ――ドゥルヨーダナさん陣営。王家であり前国王の息子にあたるのがドゥルヨーダナさんです。
パーンダヴァ――アルジュナさん陣営。こちらも王家。前々国王が彼らの父にあたる。ドゥルヨーダナさんとは親戚関係にあたるが、前国王が次期王位をユディシュティラさんに指名してから関係が悪化する。
――カルナ視点――
忘れてしまう程に昔に抱いた憧憬はどんな形をしていただろうか。
ふと、思う事がある。カルナ自身も忘却の彼方に追いやった欲を自覚した。その欲を自覚したのはそう昔ではないが、存外悪くないと考えてしまう。
即物的な欲ではないと思う。彼女が己の隣にあればそれだけで満足を覚える。最悪、己が傍にいられなくなっても彼女が幸福に過ごせればそれでいい。勿論、傍にいられればそれに越したことはないのだが。
つくづく己の業の深さに呆れてしまう。だがそれも受け入れよう、ままならないこの感情をカルナは愛だと定義したからだ。故に許容しようと決めている。
カルナの持ち得ているのは、父である太陽神からの黄金の鎧と研鑽し磨いてきた武芸のみだった。他はないも同然、日々を過ごせる糧があればそれで良し、求められればそれすら差し出しても良かった。何故ならそれは差し出してもそう困らない、カルナの価値観で言わせてもらえれば、そう困るものでなし。
施すことはあれど与えられる経験はカルナにはあまりなかった。なくて当たり前、育った環境もあるだろうが、カルナは特に気にしなかった。それで当然至極、日々は通る。
故にカルナはドゥルヨーダナに恩を感じている。彼を暴君と罵る者もいるだろう。だが、それでもカルナの貰った友情は本物だった。そうカルナは信じている。
友が困っていたら手を貸すのが道理、それ故に彼の力となり、手足となった。
カルナの至って整然とした世界の分岐点は“彼女”との出会いだったのだろう。彼女と日々を送っていく度にカルナの中の何かが満たされていった。
カルナに言葉をかけ、温もりを与え、触れ合う事を教え、愛情すらも感じさせた。そうした彼女への想いをカルナが自覚したのはここ数年程の話である。我ながら鈍い話であるがどうしようもない。
それだけ日常に溶け込んでいたのだ。
だからカルナに愛は理解できる。その愛の種類は違えど、愛する人に死んでほしくないと思うのは当然の思いだろう。
だからカルナは責めない。かつての憧憬からのその言葉でさえ。
――主人公side――
最近国内で戦争が近いのではないかという不穏な空気が流れている。それを裏付けるよう王宮の空気もピリピリしたモノになってしまっていた。それにドゥルヨーダナさんも兵力の拡充をしているようで、腕の立つ人たちを片っ端から招集するようだった。その中にはかつてカルナさんに武芸を教えていたドローナさん、だったか彼の姿もあるようだった。昔見た姿よりも年をとっていたようだけれど、まあこっちに関わりたくないようだし、私は近寄らないようにしている。
カルナさんの方もその事に対して特に思うところはないようだった。カルナさんが戦いに参加する時の役割は単騎特攻に近いものがあるのであんまり連携云々は気にしていないようだ。まぁ後は私が如何にカルナさんの足を引っ張らないようにするかだ。
戦いの要領は掴めてきてはいるものの、元のスペックが残念な私なので自信は皆無だ。辛うじて邪神様の力でなんとかこの場に立てているようなものだろう。
夜いきなりの訪問者が我が家を訪ねてきた。私は慌てて白い襤褸布を被り、来訪者を迎えた。その二人の一人はクリシュナと名乗り、もう一人は品の良いご婦人だった。ご婦人の名前はクンティーさんというそうだ。年かさの女性だけれど、かつての美貌をうかがわせる顔立ちは柔和な印象を与える、柔らかな笑みのご婦人だった。
出迎えた私は呆然とその二人を見てしまい、カルナは居ますかの声に慌てて家の奥に引っ込んだ。
カルナさんは奥からひょこりと顔を出す。
「どうした」
『か、カルナさん……』
「ああ、なる程。分かった。傍にいてくれるか」
私の顔を見て首を傾げたカルナさんが私の言いたい事を察したらしい。カルナさんの言葉に私は頷く。お安い御用ですとも、と。
カルナさんがクリシュナさん達の応対をし、中へと引きいれる。彼ら曰く、今日は話し合いをしに来たのだという。
クリシュナさんが口を開いた。
「カルナ、聞いてください。貴方はこの方の息子、アルジュナ達とは血の繋がった兄弟であり、本来ならパーンダヴァの長兄となる方なのですよ。故にカウラヴァから手を引き、パーンダヴァにつくべきです。貴方は聡明である筈です。ならば分かっているでしょう?このままカウラヴァに居ても何の益が得られない事など」
「そうか、随分な事だ。なる程、そうした方が利口なのだろう」
「では……」
「しかしオレには大事にしなければならない事がある。益よりも義を優先するべきだ。それに例えこの戦で死ぬのだとしても、オレは最後まで友の為にこの槍を振るう。それがあの恩に報いる唯一の手段だと知っているからな」
カルナさんの譲らない意志の強さにクリシュナさんは無駄だと悟ったのだろう。ため息を吐いて一歩下がった。
入れ違いのようにクンティーさんがカルナさんの目の前に歩み寄る。クンティーさんは手を胸の前に組み、祈りの形にして懇願した。
「貴方もわたくしの息子、わたくしは貴方達兄弟が争うのが耐えられないのです。どうかわたくし達の手をとり、共に来てはくれませんか?」
「……」
カルナさんの無言をクンティーさんは困ったように眉を下げる。
「あの子たちもきっと分かり合える、そうでしょう?」
「そうか、ならば貴方は胸を張る事が出来るのか」
「え」
「出来ないのならば引いてくれ。オレは友を裏切る事なぞ出来ない。ドゥルヨーダナには恩もある。故にオレは貴方の手を取れない」
「そ、そんな……」
「貴方はきっと、愛しい息子達の為にと来たのだろう。オレも種類は違うが愛は知っている。故にその痛みも理解出来る」
カルナさんはそこで言葉を切り、そっと目を伏せた。その時、カルナさんはどう思ったのだろう。私はただただカルナさんを見守る事しか出来なくて悔しかった。
「オレは何も出来ない。貴方のその思いに応える事は出来ないが、代わりに一つ誓いをしよう」
「!」
カルナさんの言葉に息をのむクンティーさん。クンティーさんの表情は困惑と驚愕が入り混じったものだった。彼女の後ろのクリシュナさんも微かに目を見開く。
「我が生涯の宿敵と定めたアルジュナの事は譲れないが、それ以外の兄弟はオレが殺さないと誓おう。これからの戦で例え行く手を阻もうと立ちふさがっても命まではとらない、と」
静かにカルナさんは宣言する。声は通常通りのそれで表情も無表情に近かった。
でも私にはカルナさんが泣いているように見えてしまった。その背中がなんとも悲しそうで、錯覚とは分かっていても、手を伸ばしたくなってしまう。
クンティーさんはカルナさんの言葉によろめく。顔を真っ青にして口を小さくはくはくと言葉にならないようだった。クリシュナさんがクンティーさんの背に手をやり、諦めましょうと宥めていた。
クンティーさんは気づいたのだろう。カルナさんがクンティーさんの“愛しい息子達”の中に自分を入れていない事に。それを否定出来ない自分に。
クリシュナさんとクンティーさんはそのまま帰って行った。クリシュナさんが護衛を兼ねているそうで、心配は無用と言われてしまった。
二人が帰った静まり返った家の中に私は少し竦む。どこまで踏み込んでいいのか、なんて葛藤はこの際私は心の隅に置いておいた。
近くの椅子に座ったカルナさんはそっと私を手招きする。近づけば、腕を掴まれ、顔を覗き込まれた。
「呆れたか」
『は?』
「先程の言葉に呆れたか?」
『んんー、カルナさんちょっと落ち着こうか』
見上げてくる青い瞳が少し影っている事に気づいた私はカルナさんにストップをかけた。カルナさんは口をつぐみ、じっと見上げてくる。不安そうなその様子にため息が出そうになったけれど私はぐっと堪えた。
『カルナさん、私はそんな事で今更呆れたりしないんですよ。どちらかと言うと心配とちょっとした怒りですかね』
「すまない、オレは――」
『カルナさん、未来を諦めているから怒っているんですよ。死ぬだなんて簡単に言わないでください』
「!」
私の言葉にカルナさんが目を見開く。それから少ししてカルナさんはグッと何かを堪えるように眉を寄せた。
掴まれていた腕を引っ張られ、私は身体が前のめりになる。カルナさんはぎゅっと私の鳩尾辺りに顔を埋め、私の背中に腕を回した。縋りつくような抱擁に私はそっとカルナさんのふわふわとした髪を撫でる。
「お前はいつでもそうだな。オレの望みを容易く叶える。オレがどんな事をしてもきっとお前は呆れず見放さずに居てくれるのだろう」
『そりゃあそうですよ。私のカルナさんへの想いはこれしきで変わっちゃう程柔じゃないんです』
カルナさんがどんな顔をしているか、私は分からなかったけれど元気づけたくって軽口を叩く。カルナさんがくすりと微かに笑った。
「そうか。――想い、か」
『ええ、カルナさんが大好きっていう心です。そう易々と負けたりしませんとも』
「……そうか。…………そうか」
私の明るい声にカルナさんがお腹に頭をぐりぐりしたまま頷く。なんか大型犬に懐かれたみたいだなぁと私が微笑ましく思っているとカルナさんが顔を離し、こちらを見上げた。
「ならばこれも許してくれ」
『へ』
カルナさんがグッと私の腕を引き、顔を近づけた。ぼやける程に切れ長の青い瞳が近づき、慌てて私は目を閉じた。
ちゅっと軽やかな音をたてて唇に柔らかな感触が触れた。ついでふにりと更に押し付けられた感触はもう間違いもなくカルナさんの唇だった。
私はと言えば完全に固まってしまっていた。予想外もいい所だった。えカルナさんそういう意味で私の事が好きなの?! と心の中は阿鼻叫喚だ。ぶわりと顔が熱を持ち、背中に変な汗まで掻く始末だ。
時間にして二、三秒してからカルナさんの顔が離れる。混乱で涙目になる私にカルナさんは困ったように苦笑を浮かべた。
「そんな顔をしないでくれ。――思い上がりそうになる」
『ぅえ?! な、なにをですか?』
「お前が」
カルナさんがそこで言葉を切り、私の頬のラインを人差し指の背で撫でる。じっと見つめてくる青い瞳は確かに熱情を含み、こちらへの思いの深さを伝えてきた。私はぎょっと目をむく。なんで私カルナさんのこの熱を知らずに居られたんだろう。我ながらの鈍感さに自分を詰りたくなる思いだ。
「オレと同じ想いを抱いているのではないか、と思いたくなる」
『お、おもい……』
言わせるのか、とカルナさんの切れ長の瞳が細まる。挑発的ですらあるその瞳の熱に私はすっかりたじたじになっていた。
「手放したくない程の情だ。――恋い慕っているとでも言うべきか。安心しろ、そんなに怯えずともお前相手に無体を働くものか」
瞳に含まれた熱とは裏腹にカルナさんの声は落ち着いていた。それが色香が漂うしっとりとした落ち着きで私の心臓をそろそろ心配するべきだと白目をむきそうになった。初心者にこれはきついと私は誰に言えばいいのだろうか。
カルナさんは私の落ち着きのない様子に軽く笑みを浮べ、私の身体を解放した。
「まあとりあえずはドゥルヨーダナに共に謝ってくれるか」
『あぁ……、ドゥルヨーダナさん怒るでしょうね……』
「そうだな」
私のどんよりした声にカルナさんは頷く。それはもういつも通りのカルナさんに戻っていて先程の熱情が嘘のようだった。相変わらずのカルナさんのマイペースさに私は脱力する。これからどう接すればいいのかと悩んだ私が馬鹿みたいじゃないか。
でもそもそも私、カルナさんにキスされても全然嫌じゃなかった。あれがファーストキスとなるので比べる対象がいないのがアレだけどむしろドキドキと動悸が治まらなかったくらいだ。
もしかしなくても私はカルナさんを恋愛的な意味で好きなんだろうか。いやそうなんだろうな、と気持ちがストンと心の真ん中に落ち着く。
んん?いやでもお付き合い以前に私カルナさんと結婚しちゃっている訳で、え?これからどう仲を深めろと言うのだ。お付き合いの最終形になってね?ゴールインじゃないか、と一人心の中でぐるぐると考えてしまった。
それにまだ問題は山積している訳ですし。まだまだ前途多難だと私は遠い目をしてしまった。
という訳で主人公がようやくカルナさんへの思いを自覚しました。先に手を出してしまったのはあれです。カルナさんも我慢が出来なかったという事で。 好きの差異は分かっているけれどそんな事を言われたら、的な。
今回の話はクンティーさんの懇願に如何にカルナさんに断らせるかで悩みました。何せカルナさんは施しの英雄と言われてしまう程の許容範囲が広い広い。でも愛を知っているカルナさんだからこそ断るのではと思い直しました。
皆様にお聞きしたいのですが、キス表現ってセーフですよね?タグにはR-15をつけてあるので作者的にはセーフだとおもうのですが、如何でしょうか。 流石にそれ以上は書きませんが。