施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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カルナさん祈願で書いていきます。君が出るまで書くのをやめないッ

※話の設定上の都合で主人公であるオリ主さんの台詞に『』を使用しています。分かりやすさを優先させた結果です。ご了承のほどお願いします。

4/17 誤字報告があがりましたので修正。ご報告ありがとうございました。


マハーバーラタ編


――主人公side――

 

 

 

 FGОというフェイトシリーズのゲームをご存知だろうか。勿論これは略称である。詳しくはぐーぐる先生にでも聞けばわかるだろう。

 

 ゲーム、たかがゲームと侮ってくれるな。私はこのゲームに大いにハマった。無課金縛りで挑んだ数ある戦いは、ゲームの登場人物に感情移入させられた。手に汗握る展開と笑いあり涙ありの物語たちは私を熱中させるに充分であった。

 

 ところでなんにでもお気に入りというものは出来るもので。勿論私にも一押しのキャラクターというのが存在した。

 インドの施しの英雄、カルナである。あの不器用な性格といい、不遇の人生といい。可哀想だなぁというよりは、純粋に凄い人だなぁと尊敬してしまった。

 

 私だったら耐えられないなぁと。

 

 私は平凡にこの日本の女子高生として日々青春を謳歌している。だからこんな考えに至ってしまったのかもしれない。

 日常を消化して、柔らかな布団に包まれて眠る。

 私の平凡が消える最後の記憶だ。

 

 

 夢を見た。目の前にあるのはただ墨をぶちまけたような暗闇だ。静寂に包まれる空間は不気味ではなく、布団の中のような安心感を私に与えた。

 

 ――答えよ

 

 暗闇から声がする。老若男女、どの人物にも当てはまらないようで当てはまるような不可思議な声だ。

 

 ――救いたいと思うか。アレを、不遇の英雄を。

 

 なんと突拍子もない問いだろうか。前提なしでいきなり聞かれて答えられるのはフィクションの中だけだと物申したいものだ。

 

 ――答えよ。与えられない神の子に。少しでも与えてやりたいと思うか

 

 先ほどから会話のドッヂボールと化しているこれに、私はやけくそ気味に答えた。

 

『そうだね、私にあげられるものなら。その人の助けになりたいよ』

 

 ――傲慢な事だ。けれどそれもいい。お前にあげよう。

 

『エッ!?』

 

 ――あげよう、この力を。

 

 ――与えよう、その心臓に。

 

 ――授けよう、神の力を。その命の対価に人知を超えたこの力を。

 

『いやいやいやクーリングオフは!?』

 

 ――忘れるな、お前が縋ったものは邪神なるぞ。

 

 ――刻め、お前の力はお前の命と等価であると。

 

 ――覚悟すると良い、その傲慢の対価を。力と別のモノに対する対価を。

 

 ――祝福あれ、我が愛し子よ。

 

 

 

 一体何ラトホテプさんなんだ……と戦慄する私をお構いなしに暗闇が消える。

 

 白い閃光が私の目の前に迫った。

 

 

 

 

 

 

 目を開けるとそこは見知らぬ場所だった。乾いた大地に土壁の家々、そしてテントの様に布で屋根を作り商売をする商人たち。行きかう人々の服装はインドの民族衣装を身に纏っていて、女性たちの身に纏う布の色とりどりさに私は呆然とするより他になかった。

 

 そしていざ自分を見下ろすと、寝る前のパジャマに白い襤褸布をすっぽりと頭からかぶっていた。恐らくそのままだと目立つから邪神()の気遣いからだろうと無理矢理自分を納得させた。でも足元はそのまま素足で涙が出そうだった。気遣う所違うよ、邪神様!

 

 とりあえず近くで商いを行う中年男性に声をかける。

 

『あの、すみません』

ΓΔ§Φ?」

 

 ちょっと何言ってるか分かりませんねえ……。怪訝そうなその中年男性に私は愛想笑いをし、そそくさとその場を離れた。アカン、ワタシインドの言葉分からないアルネ!あいやー困ったアルヨ!と脳内で似非中国人がでしゃばるぐらいに混乱した。

 

 思わず通りの端の壁に背をつけてズルズルとその場に座り込む。土壁のざらざらとした感触がいやにリアルで、容赦なく降り注ぐ強い日差しはここを現実だと私に突きつけた。

 

「どうした」

 

 膝を抱え込み、俯いた私は突如降って湧いた声にバッと顔を上げた。こちらを見下ろす、黄金の鎧の人物はその青い瞳でこちらをじっと見つめていた。

 

『わ、わたし言ってる事分かる?』

「ああ、お前の言葉は恐らくこちらの理解の範疇ではないだろうが」

『えっ』

 

 思わずぎこちない日本語で目の前の人に言えば、頷きながらその人は否定に近い言葉を吐いた。思わずどもれば、その人は首を傾げた。どうした、と言いたげだ。

 

 ふわふわとしたその人の銀髪を見ながら私はその見透かすような青い瞳をそっと見る。多分、敵意は……ないな。

 

『私、言葉が分からなくって。でも貴方の言葉は分かるんです』

「そうか、難儀な事だな」

『こんな事初対面の頼む事じゃないと分かってます。でも、お願いします!』

 

 この時私は正常な判断が出来ていなかった。必死だった。想像してみて欲しい、右も左も分からないこの推定異国の国にたった一人で放り出されるのを。言葉も通じない、持ち物もなく、頼れる人も他にいない詰みに詰んだ状況を。

 

 私はその人に縋るように頭を下げた。

 

『私を一緒に連れて行ってくださいッ!私を貴方の傍に置かせてくださいお願いします!!』

「――オレでいいのか?」

『はい!』

 

 その人の問いに私は勢いよく頷いた。前のめりになりながらの私の頷きにその青い瞳を見開かせた。

 

「そうか。オレの名前はカルナという」

『はい、よろしくお願いします。カルナさん。私の名前は――』

 

 私の名前を聞いてカルナさんは頷く。

 

「ふむ、あまり耳馴染みのない名だな」

『ですよねー』

 

 だって私の名前日本人っぽい名前だし。そりゃあインドには馴染みないですわぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――三人称視点――

 

 

 

「カルナよ、それはなんだ」

「ドゥルヨーダナか。拾った」

 

 ドゥルヨーダナの問いにカルナは後ろにいる人物の背を押す。ドゥルヨーダナの前に出された人物は小柄で華奢な体つきをしているようだった。布をすっぽりと身体を隠すように被っているのであまりそれ以上は分からない。ちらりと見える顔は華奢な身体に見合う、儚さだった。白い肌はカルナのような真白だ。

 

 どこをどう見ても人間だった。ドゥルヨーダナはどこから聞いたものか、ズキズキ痛む蟀谷(こめかみ)を指で揉みながら考えた。ちらりとカルナを伺えば、通常通りの平然とした態度だ。

 

「カルナよ、余はもしや聞き間違いをしたか?拾ったと申すか」

「その通りだが?ドゥルヨーダナも可笑しな事を聞く」

「はぁ……犬猫の類ではあるまいに。人は拾えぬぞ、カルナよ。お前はこの者の世話をするのか」

「なる程。お前のいう事は道理だ。しかしオレはコイツを見捨てる事は出来ない。約束したからな」

「身内じゃあるまいに。そこまでやってやる必要があるものか」

 

「――それをお前が言うのか」

 

 他ならぬお前が?他人のオレを身内にとかつて言ったお前がか、カルナは視線でそう語る。ドゥルヨーダナはそれを受けてああと嘆息した。

 

「それもそうか。悪いな、カルナ。余の要らぬ世話だったようだ。まぁその者を身内と扱うも好きにするがいい。友人たるお前の判断を余は信じよう」

「承知した」

 

 頷くカルナにドゥルヨーダナの眼差しは和らぐ。次いで、カルナの隣に無言で佇む渦中の人に視線を向けた。

 

「して、カルナの客人よ。そなた、名をなんと申す」

『Φ§Λ……?』

 

 布の人物から放たれる理解不能の言語とその声の可憐さにドゥルヨーダナは固まる。どう聞いても女性の声である。固まるドゥルヨーダナにカルナは軽く頷く。

 

「ああ、言い忘れていた。この通り、コイツは話せないそうだ」

「待て待て待て!! カルナよ、正気か!? 言葉が通じない上に女だぞ!」

「それが?オレには不便ないが」

「そういう問題ではないわッ!赤の他人の、しかも年頃の男女がみだりに共に生活する訳にはいかんだろう!」

「――ふむ、その言い方だと身内ならば良いのか?」

「余の話を聞いていたか……?」

「無論だ」

 

 疲れたドゥルヨーダナの声にカルナは力強い肯定で返す。その声にドゥルヨーダナは視線で問うた。

 

「簡単な話だ。家族になればいいのだろう?他人が家族になれる方法ならばこのオレにも分かる」

 

 カルナの珍しい自信に満ちた言葉にドゥルヨーダナは嫌な予感がヒシヒシとした。カルナの隣の人物も同じらしい。カルナを宥めるように背に手を添えていた。

 

「例えば?」

「夫婦になればいいのだろう。――このオレでいいだろうか」

 

 言葉の後半を布を被った人物にカルナは伺った。前半の言葉に比べると若干不安そうに聞くのがなんともこの男らしい、とドゥルヨーダナは他人事のように推察する。もうどうにでもなれ、ドゥルヨーダナは考えるのを止めた。

 

『……ΓΛΔ』

「そうか、これからよろしく頼む」

 

 ぽつりと布の彼女の声が承諾するように頷きと共に呟かれた。カルナはそれに淡々と答えた。カルナに何度も頷く彼女の姿が小動物じみて案外和むかもなぁ、とドゥルヨーダナは働かない頭で思った。

 

 




主人公は言葉が通じない系女子(物理)。FGOプレイヤーさんにはラフムさん系女子と言えば通じるのでしょうか。あれ程耳障りじゃないですが。
ここで補足。ドゥルヨーダナさんはマハーバーラタに登場するカルナさんの友人兼上司の人です。カウラヴァ百兄弟の長男で王子です。なんだかすごい話ですね。詳しくはぐーぐる先生に聞けば教えてくれます(え

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