施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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大分お待たせして申し訳ありません。
ちょっと私事で不幸があって創作の手が迷ってしまいました。以後気をつけます。
さて今回の話は二人の息子のキラナ君の話。ほのぼのとした感じを目指して書きましたが、まあいつものように自信はありません。

注意事項:
・オリジナルキャラ(キラナ君)が出ます(むしろ中心)
・カルナさんのキャラ崩壊(今更)
・甘さは多分ほのかに甘い程度。
・古代インド生活習慣なんて作者の知識にない(のでねつ造してます)
・ふわっとした雰囲気でお読みください。
・主人公視点

オーケー?ではどうぞ。


続・幸せの可能性

 実は生まれて来るまでに子供の名前を決められなかった。候補が一杯あり過ぎて困ると言うのは、いつの時代の親も同じなのかもしれない。

 

 最初に我が子に授ける事の出来る、祝福の形。

 

 だからこその迷い様だったのだけど、生まれて間もなくカルナさんはじぃっと息子の顔を見下ろし頷いた。

 

「キラナ、この子の名はキラナにしよう。“太陽から注す光の筋”という意味だ。誰かの道にほんの少しでも、光注せる子に。そして己の道に迷う事のないように。太陽は沈みはするがまた昇る。その光は変わることなく柔らかにその生を照らしてくれるだろう」

 

 名付ける時のカルナさんの声は温かく、優しく、柔らかな声で。

 

 目を細め、我が子を見下ろす顔は紛れもなく慈愛の含まれた父の顔だった。

 

 私といえば、そんなカルナさんに涙が溢れて止まらず、ただただ頷く事しか出来なかった。

 嗚咽をこぼす私をカルナさんはそっと肩を抱き、寄り添ってくれた。

 

 寄り添う体温のなんて優しい事だろう。

 

 あー、と腕の中のキラナからの声に私は涙が止まった。ふらふらとこちらに伸ばされる小さな手がどうしようもなく愛しい。

 

 カルナさんと顔を見合わせどちらともなく笑いあった。

 

『カルナさん』

「うん?」

『これからいっぱい幸せになりましょうね』

 

 私の言葉にカルナさんは一瞬きょとんと瞬きをして、

 

「ああ、そうだな」

 

 とふわりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 時が経つのは早いもので、七年の月日が経っていた。育児の大変さと達成感は語りきれない程あったのだけど、今となってはいい思い出だと私は思う。赤ちゃんの頃のキラナの泣き声の種類も分からずオロオロしていた時が懐かしい。徐々に分かるようになって、キラナと一緒に母として親として成長していったと思う。

 

 カルナさんとキラナとのやりとりも個人的には結構癒される思い出だ。なんでこの古代の時代にビデオカメラがないのかと床に拳を叩きつけたのも今では懐かしい。だってカルナさん、喃語で喋るキラナにいちいち相槌うつカルナさんが微笑ましくてどうしようもなかった。何かな?私を悶え殺すおつもりかな?と思わず私が真顔になってしまう威力だった。しかも会話成立してた感じなのが微笑ましさを倍増させていた。

 

 話が脱線してしまった。それは兎も角、そんな小さなキラナももう七歳。言葉遣いも幼いものから結構達者になっていて成長って早いなぁと感慨深い気持ちになってしまう。最近、キラナはカルナさんの口調を精一杯真似ているようで可愛い。まあ言葉を端折っちゃ駄目だと今からキラナに言い聞かせているのだけど。

 

 今も可愛いけどあの頃のキラナは可愛かったなーと私は親ばか気分を味わっていた。鼻歌で気分を盛り上げながら、家事をこなすのももう慣れたものだった。カルナさんは今日はお仕事で帰ってくるのは夕方だ。

 

 今日も快晴で洗濯日和だ。近くの川で洗濯した衣服を干す作業に私は没頭してた。

 

 と、ぼすりと背中に軽い衝撃を感じる。

 

「母さん」

『うん?キラナ、どうしたの?』

「父さん、強いの?」

 

 キラナは私の腰辺りに抱き着き、見上げていた。キラキラと輝く青い瞳にいきなりどうしたのかな?と、私は首を傾げる。

 

 しかしカルナさんが強いかどうかと聞かれれば、私は頷きを一つ。

 

『そりゃあ強いよ?母さんの知ってる中で一番強いんじゃないかな』

「ほんと?」

『うん、それよりもキラナ。どうしたの?そんな事を聞いて』

「ん、この前の父さんの噂で」

『あー……』

 

 この前というのは人里に降りてきてしまった獣退治の事だろう。カルナさん伝手であるが、私も当時の事を聞いている。控えめに言って魔獣かな?それとも怪獣かな?という獣の大きさだっただからこの時代は凄いなと私は思わず遠い目をしまった。

 

 私の腰より少し上あたりのキラナの頭を私はそっと撫でる。更に嬉しそうにキラナの笑みが深くなった。

 

 しかし、こうして見るとキラナは日に日にカルナさんに似てきているなと私は思う。涼しい印象の目元に、整った顔立ちはカルナさんに瓜二つと言っていい。違うのは艶やかなその黒髪だ。ふわふわとした髪質もカルナさんに似ているんだけども。

 

「父さんとの修行も頑張る。そうしたら、俺も守れるようになれる?」

『キラナ……』

「父さんみたいになれるといいな。そうすれば母さんも守れるし」

 

 憧憬を含んだ視線をキラナはふっと伏せる。少し大人びた声に私はたまらずキラナを抱きしめた。

 

『なれるよ、キラナ。だってキラナは父さんと母さんの自慢の子だもの』

「ん」

 

 私に抱きしめれてキラナはこくりと頷いてはにかむような笑みを浮かべた。可愛い。キラナのぷにぷにした頬をむにむに手で揉んでいたら流石に怒られてしまった。うーん、ついこないだまでは大丈夫だったのになーと私は少し残念に思いながらキラナを腕の中から解放する。

 

 それにしてもカルナさんとの修行か。私は少し懐かしい思いをしながら考える。

 

 一年前からカルナさんはキラナに武芸を教え始めた。ずっとこうするのが夢だったとカルナさんは淡い微笑みを浮かべながら言った。なので、特に反対する事なく私はカルナさんにお任せしていた。カルナさんに武術の基礎を学んだ身の上の私としては反対する理由もない。きちんと指導してくれると知っているからだ。

 

 今度、少し修行中にこっそり差し入れをもって見学してみようかなと私は思った。一応お昼とかはカルナさんに持たせての修行なんだけど。

 

 早速今夜にでもカルナさんに許可を貰おうと私は拳を握って意気込む。さて、家事の続き続きと私は洗濯を干すのに戻った。

 

「母さん、俺が手伝おう」

『ありがと、キラナ』

 

 うん、良い子に育ったなーと私は頬が緩んだ。この柔らかな日差しだ、洗濯物もすぐに乾くことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

『おかえりなさい、カルナさん』

「おかえり、父さん」

 

 いつも通り帰宅したカルナさんをキラナと共に出迎える。すると、無表情のカルナさんの口元が少し緩むように微笑みが浮かぶ。

 

「父さん、アレが出来るようになったよ」

「ああ、なる程。あれか」

 

 待ちきれないと言った調子のキラナの言葉にカルナさんが頷く。そしてキラナの頭をぽんぽんと軽く撫でる。

 

「!」

「流石だな」

 

 くわっと目を見開いて見上げるキラナをカルナさんは目を細めて柔らかな声で続ける。

 

「お前はちゃんと、成長しているのだな。オレはそれを誇らしく思う」

 

 キラナを見下ろすカルナさんの表情は優しいものだった。キラナの固まっていた表情がぱあと華やぐ。

 

「ほんと?」

「うん?当然だろう。それよりも怪我はないか。鍛錬とて可能性がないと言えないからな」

 

 キラナのキラキラとした青い瞳にカルナさんはしゃがんで目を合わせ、怪我の有無を確認していく。カルナさんの手と比べて小さな手を取り、カルナさんはじっと見て頷いた。

 

 キラナはその様子をはにかむような笑みで見ていた。気恥ずかしそうなその様子に私はほっこりしながら二人のやり取りを見守っていた。

 

「うん、父さん。大丈夫だよ」

「そうか」

 

 キラナの目をきちんと見ながらカルナさんは納得し、その手をそっと離す。どうやらキラナに怪我はないみたいだ。

 

 と言っても“アレ”ってなんだ?と私は首を傾げながら料理の方へと意識を戻す。まあ後で聞けばいいかと思ったからだ。

 

『さ、二人とももう少しで夕飯ですよー』

「ああ」

「うん、母さん手伝うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ日も暮れて油で灯した火で照らされながらの夕食をとっていた。木で出来たテーブルに、三人分の食事が並んでいる。簡素な造りの椅子は年季が入り、ぎしりと音をたてるものの今の所使えているので問題なしだと思う。

 

 黙々と食事を食べている中、ふと私はさっきの“アレ”という言葉が気になった。

 

『さっきの“アレ”ってなんです?ほら、キラナが言っていた――』

「?」

「ああ、それか。修行での課題を出していたのでな。それの話だ」

 

 私の疑問の言葉にキラナが首を傾げる横でカルナさんが頷いた。そして端的な説明がされる。七歳のキラナは友達と遊ぶ他にそんな事もしてたのかと私は素直に驚いている。まだ遊び盛りだろうにと。

 

「母さん、俺やっとアレが出来るようになったんだ」

 

 キラナはそんな私の心配をよそに嬉しそうに目を輝かせ、身振り手振りで話し始める。

 

『アレ?』

「うん!奥義の一端、って父さんが言ってたけど」

『お、おう。それは……もしかしなくてもあれかな?』

 

 にこにこするキラナの横で涼し気な顔で食事するカルナさんへと私は視線を投げる。もしかしなくても“梵天よ、地を覆え(ブラフマートラ)”的な奥義じゃぁ……?と。カルナさんはそんな私の胡乱気な視線を頷き一つで流す。

「ああ。“梵天よ、地を覆え(ブラフマートラ)”の基礎となる部分だ。とはいえ、そう威力が高いものではない。案ずるな」

『うん、カルナさんがそう言うならそうなんでしょうけども』

「けど?」

『地図を変えるようなことはやめて下さいね』

 

 地形的な意味で、と私は小首を傾げるカルナさんに言った。カルナさんはそれにフッと軽く笑う。いや、あのアルジュナさん達との戦いを身近に見ている身としては笑えない話なんだけどね、と私は少し苦笑いだ。

 

「まあ、やれなくはないが。流石にそこまではないな」

「地形?母さん、なんの話を言ってるんだ?」

 

 キラナの純粋な疑問の視線に私はふいっと視線を逸らす。一点の曇りもない綺麗な青は嘘が付けないほど綺麗だ。

 

『うん……。父さんと母さんの若い頃の話よ。いつか、キラナにも話してあげるからね』

「……そうだな。キラナ、お前の背負う事になるかもしれない話でもある。お前がもう少し大きくなったら話そう」

「今じゃ駄目?」

 

 不満そうなキラナの頭をカルナさんがぐりぐりと少し雑に撫でる。

 

「今は時期ではない。物事には相応しい時期が決まっているものだ。故に今は忘れろ」

「うー……」

 

 カルナさんの手が離れ、乱れた髪をキラナが不満そうに整える。唇を尖らせるキラナは年相応の幼さが見える。微笑ましくて私はくすくすと笑ってしまった。

 

『まあまあ、キラナ。いつかって言ったでしょう?そう遠くない未来の事よ、その話をする時は』

「……母さんが、そういうなら……」

 

 私の宥めるとキラナは渋々と引き下がる。

 

「少なくともお前が己の身を守れるようになった頃だな」

「むっ……」

「拗ねるな、そう焦らずともいいというだけの事だ」

 

 頬を膨らませるキラナにカルナさんは優しい声で諭すように言った。

 

 いつかキラナに話さないといけない。カルナさんの歩んだ道を、そしてその出自と血筋を。かつて神話に近い戦いがあった事、その戦いの顛末を。ドゥルヨーダナさんというカルナさんの親友の話も。

 

 笑顔でとはいかないかもしれないけど、穏やかには語れるはずだ。

 

『キラナ、必ず話すからその時は聞いて欲しいな』

「! うん」

 

 私の真剣な思いが伝わったのかもしれない、キラナは一瞬目を見開き神妙に頷いた。カルナさんが無言でまたぐりぐりとキラナの頭を撫でる。

 

「ちょ、父さん!やめて」

『ふふ』

 

 私は幸せの情景に目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更けて眠る時間だ。電気もないこの古代時代、油ももったいないので頼りは窓からの月明かりぐらいなものだった。なので隣に眠るカルナさんもぼんやりと輪郭が浮かぶくらいの暗さだ。目も慣れればはっきり見えてくるけれど。

 

「子供の成長と言うのは早いものだな」

『そうですねぇ』

 

 カルナさんと枕を並べて内緒話のように声を潜めて話し合う。カルナさんはそっと私の目元に右手を這わせた。

 

「キラナは、結構お前に似ている」

『へ?』

 

 突拍子もないカルナさんの言葉に私はポカンと口を開けてしまった。すぐに頬に感じるカルナさんの右手の温度に私は我に返る。カルナさんはそんな私にくすりと愛し気に目を細めた。

 

「笑みを浮かべた時などは特に瓜二つだ。それに表情豊かな所と素直な心とかだな。健やかに育っている事を最近実感する」

 

 それがたまらなく幸せだ、とカルナさんは目を細めたまま優しい声で語る。

 

『カルナさん……』

「ん?」

『カルナさんにも似てますよ、キラナ』

「見目の事か?」

 

 意外そうな顔をするカルナさんに私は頬に添えてあったカルナさんの右手の上に手を重ねる。筋張ったカルナさんの手は私の手よりも断然大きい。

 

『それもですけど、結構頑固な所とか。後は意志の強い所とか、優しい所とか。あの子自身の強さもあるのでしょうね』

 

 カルナさんの手の温もりを感じながら似ている所を指折り数える。

 

 武器を握る手だ、カルナさんの手のひらは皮膚が厚く硬い。私はその手が好きだ、守る事を知っているこの手が。

 

 ふとカルナさんの方を見ればカルナさんが困ったように微笑む。うん?と私は首を傾げる。カルナさんが困るような事を言った覚えはないのに、と。

 

「…………いや、今オレは幸せ者だな。と噛みしめていたところだ」

『え』

「フッ、気づかないならそれもまたいいだろう。お前らしい」

 

 首を傾げたままの私をカルナさんは穏やかな笑みを浮かべて腕を背中に回す。ぎゅっと抱き込むと目をそのまま瞑った。体温を分け合うように寄り添う穏やかな夜がどうしようもなく愛おしい。私はカルナさんの胸元に額をくっつけるようにする。

 

 私も眠る為に目を瞑るとあ、と私は思い出した。

 

『カルナさん』

「うん?」

『明日、キラナの修行の予定ですよね?』

「ああ」

『見学してもいいですか?』

「うん?まあいいが。その時は声をかけてくれ。少し危ないかもしれないからな」

『一体、どんな修行やっているんですか……』

「特に変わった事はしてないが……」

 

 間近に聞こえるカルナさんの囁きに私はうとうとしながら話す。やばい、眠いと私の意識は夢うつつだ。

 

「まあともかく、今は眠れ」

 

 そっと私の髪を梳かすように、カルナさんの手が撫でる。何度も優しい手付きで繰り返されれば私の意識は容易く夢の中だ。

 

「おやすみ」

 

 ちゅっと私の額に柔らかな熱が当たる。

 

 おやすみ、カルナさん。私は言えたかどうか分からないけれど、カルナさんは喉で密やかに笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 翌日、差し入れを持って私はカルナさんとキラナの修行しているという村から離れた開けた土地へと行った。

 

 見渡す限りの遮蔽物がほとんどないその荒野は見るだけで気持ちが良いものだ。私は伸びを一つして、二人の居るであろう場所に足を進める。

 

 というか待って、さっきからすごい爆発音とかするんですけど、と私の胸は早速嫌な予感でドキドキと動悸がうるさい。

 

 あ、居たと私が二人の後ろ姿に駆け寄ろうとした時。

 

「“梵天よ、地を覆え(ブラフマートラ)”!!」

 

 キラナが弓を構え、一矢を放つ。その矢が的に刺さるとその的が爆発して四散した。的とキラナの距離は離れているから怪我とかの問題なさそうだ。私の見間違いじゃなければ矢が途中からビームみたいになっていたんですけど。

 

「ふむ、後は威力か。命中率は悪くない。弓は集中力が物を言うからな。次は槍の手合わせでもやろうか」

「うん、父さん」

 

 カルナさんとても生き生きしてる、と私は二人が休憩するまで待とうと近場の丁度良い木陰に座る。丁度一本大きな木が生えていたのだ。

 

 私が見守っている中、二人の手合わせが始まるようだ。槍と言っても、まだキラナには本物は持たせられないから木製の軽い奴だ。物干し竿に少し似ているなと私は思う。

 

 カルナさんも同じ奴を手に持ち、少し構えてキラナの攻撃を待つ。

 

「どこからでもいい、来い」

「ハァッ!!」

 

 大振りなキラナの刺突はカルナさんに簡単に払われる。バランスを崩すキラナにカルナさんは槍を横に薙ぎ払う。

 

「隙が多い、構えが崩れているぞ」

「うわっ」

 

 カルナさんが狙ったのはキラナの持つ槍、それを槍で絡めとるように上に払ってしまった。キラナの手から槍が離れ、クルクルと上空を回る。パシッとカルナさんの手にキラナの槍が収まる。

 

 キラナはバランスが崩れ、地べたにべしゃりと倒れていた。私はハラハラとしてしまう。

 

 カルナさんはキラナに手を伸ばさず、手に持っていたキラナの槍をキラナの眼前に突き出す。

 

「分かったか、今のはお前の構えの不出来故だ。実戦ならばお前は串刺しにされている所だ。先ずは構えからだ。たかが構えと侮るな」

「うっ……」

 

 ぐぐっとキラナが涙目で身体を起こす。よろりとキラナが立ち上がったのを見てカルナさんは頷く。そして槍をキラナに渡す。

 

「さあ、続けるぞ」

「はいッ!ハァアア!!」

 

 キラナの青い瞳にキラリと光が宿る。ビュンッと先程より俊敏な刺突はカルナさんに刺さる前に避けられる。

 

「よい動きだ。だが、まだ構えが甘い」

「クッ」

「お前はまだ子供だ。それ故に手が届かず、不利な所もあるだろう。が、大人とは違い、小回りが利く。その手に掴む得物に力を入れ過ぎるな、余分な力はお前の俊敏さを殺すぞ」

「はいッ!」

 

 カルナさんはアドバイスをしながらキラナの動きを軽々とかわし、翻弄する。はぁはぁと息切れするキラナに対し、カルナさんは汗一つ掻かない涼しい顔で続けていた。

 

 キラナも七歳にしては凄い身のこなしだった。跳躍し、カルナさんの目線まで飛び上がったり、カルナさんの一撃を地面を転がりかわしたりと身軽だ。

 

 徐々にキラナの動きに無駄がなくなるのを感じる。ほんの少しの変化だけど、カルナさんの動きを学習し、その槍術を盗もうとしている真剣な目付きだった。

 

「今日はここまで。片付けをしよう、キラナ」

「ん、ありがとうございました」

 

 息切れしながらもぺこりと一礼してキラナは道具を片付ける。おお、と私はキラナの成長に感動していた。

 

「母さん、どうだった?俺の修行」

 

 早速私に気づいたキラナがそわそわとこちらに駆け寄ってくる。見上げてくるキラナに私は、わしゃわしゃとその黒髪を撫でてあげる。

 

『凄かったよ、頑張ったね!キラナ』

「! うん!」

 

 ぱああと喜色満面の笑みを見せるキラナに私はあ、確かにこの尻尾が見えそうな勢いの嬉しさの表現は私に似てるわと昨日のカルナさんの発言を思い出す。こうして気づくとちょっと照れくさい。

 

 キラナの頬に付いている泥を手に持っている手拭いで拭う。これはあとで水浴びをさせた方がいいなと私はこの後の予定を立てる。

 

『カルナさんもお疲れ様です』

「ん、それは?」

 

 手に修行道具一式を持ったカルナさんがこちらに歩み寄る。私の言葉にカルナさんは頷き、私の手元を見て首を傾げた。ああ、と私は自分の手元を見下ろす。

 

 手元に手拭いの他に風呂敷のような包みが一つ。

 

『たまにはピクニックしようかな、と』

「「?」」

 

 風呂敷の包みを手に持つ私の提案にカルナさんとキラナが揃って首を傾げた。そっくりなその動きに私はくすくすと笑ってしまった。

 

 木陰で休憩ついでにピクニックよろしく昼食をとれば良い一日といえるだろう。私は幸福に鼻歌を歌う。

 

 風呂敷を開けば、二人にも分かるだろう。私はいそいそと包みを開けた。

 

 

 




こんな感じのキラナ君成長編。本当はここに三歳くらいの話もはさみたかったんですけど、作者の文章力ではキラナくんの可愛さが表現出来ないと断念。惜しいなー。娘ちゃんも登場させようかと思ったんですけど、待て、名前が(と根本的な部分から挫折しました。この夫婦には一人息子のキラナ君でいいんだと開き直ります。
追記:娘ちゃんの名前一応“サラ”という名前にしようかな、と悩んでました。サンスクリット語で“本質”という意味らしいです。が、歴史上の人物にいるじゃない?サラさん、とまだ迷っている作者です。

明日か明後日あたりにでもこの続編あげます。題して成長キラナ君の冒険的な。大体は出来上がっているので。
どんな子に育つんだろうと書く手が収まらないのがこの遅れの要因だと思うんだはい黙ります。


それにしてもFGОのBBちゃんイベント、強いですね。作者涙目です。でも事前にカルナさんピックアップがあったので全て許す。そんな作者ですが。
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