施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

28 / 33
本編の続きです。お待たせしました。
今回は皆と合流編です。今更なんですが言っておきます。作者はFGОの序章をさらっと見直した程度の知識のみで書いております。なので細かい所の粗はあるかもしれません。
注意点:
・主人公の台詞の『』はこのまま採用させてもらいます(読者様の混乱があるかもしれませんので。それとちょっと伏線もありますので)
・FGОの主人公の名前は“藤丸立香”を採用してます。

拙作の主人公視点でいきます。
4/2誤字報告があったので修正。報告ありがとうございました。




――主人公side――

 

 

 そう言えばカルナさんはどうしているのだろうか。私は戦車を走らせながら思う。英霊の座からここへ至るまでの記憶は曖昧なのでもしかしたら何も言わないまま来てしまったかもしれない。

 その可能性を考えるとちょっと心配で居たたまれなくなるので、私は頭の隅の方に一先ず置いておく事にした。

 

 私は今、戦車を走らせ、崩壊した冬木市の街中を走っていた。途中、エネミー、骸骨人間?に遭遇する事はあっても、時速六十キロで轢き飛ばしているので今のところ問題はない。

 

 戦車を引いてくれるお馬さんが居ないので私の今の姿は傍目から見ると結構やばめかもしれない。全体的にこの黒いもやがいけないと思うんだ。

 闇の使者かな?それとも死神かな?と勘違いされてしまいそうな威圧感。それがこの戦車と私の宝具から溢れている。

 

 更に私の頭からすっぽり被っているこの白い襤褸布も勘違いを助長させることだろう。だって顔見えないし。じゃあ布とれよ、と言う声が聞こえてきそうだが、アイデンティティという言葉をご存知かな?宝具の大剣を握る時はこれが普通だったのでないと私がソワソワしてしまうのだ。ソワソワしていたら不審者にしか見えない訳でどっちにしろ詰んでいるという……。泣いていいかな?と私は密かに思う。

 

 ガラガラと戦車の車輪の音を聞きながら、私はFGОの主要人物がいないか探す。何はともかく合流するべきだ。合流も何も迷子になっているんですけどね、私。町一つじゃん、と余裕を持ってたのは最初の内だけで、一時間、戦車で爆走しても見つけられなかった。

 

 控えめに言ってとても不味い状況だ。

 

 ガキィン、と金属音が遠くから微かに聞こえた。これはもしかしてと私は音の聞こえてきた方向へと戦車を急がせる。

 

 炎の渦巻く廃墟群を超えた先、冬木市で特徴的な赤い鉄橋の傍でその戦闘は繰り広げられていた。黒いもやを纏うシャドウサーヴァント二体に襲われているのは大きな盾を持つ少女。少女の背後に庇われるのは彼女のマスターたる少年と上司にあたる少女だ。

 

 状況は盾の少女が分が悪いか、私は戦車をそのまま走らせる。むしろさらに加速させた。

 

 ガラガラと爆走する戦車に流石に気づいたか、皆こちらへと視線を向けた。突然現れた第三者に驚いたようで動きを一瞬とめる。

 

 その一瞬が命取りだ。

 

『ハァッ!!』

「「ッ!?」」

 

 ドォオオンッと衝撃音で地面が揺らぐ。戦車の横っ腹にシャドウサーヴァント達を当て、轢き飛ばし、空中に彼らを放り投げた。戦車をドリフトさせるように無茶な動きだったから、戦車が倒れそうになるも魔力を大剣に込めて防ぐ。この戦車は私の思うがままに動かせる。その動力源は私の魔力だ。

 

 時速八十キロは超えていたであろう速度だ、その衝撃は多大なものであろう。

 

 更に口を開こうとする所に私は漆黒の大剣を大きく振り回し、遠心力をくわえた一撃をお見舞いする。あの大剣は私の身長よりも大きい刃なので、やり損ねた事はないだろう。

 

 ザシュッと刃がシャドウサーヴァントの身体を一刀両断する。暴風の如き一撃は、二体同時に金色の粒子へと姿を変えさせた。

 

 戦闘終了、と私はとりあえずの危機の脱出にホッと肩の力を抜く。とそこで私は背後からのもの言いたげな視線に気づいた。振り向けばビクリと怯えられる始末。あ、これしくじったと私は今更ながらに悟る。

 

 いきなり乱入した第三者が敵を速やかに始末したらそりゃあ警戒心を抱くだろう。しかも私は装備がやたら禍々しい。うん、自覚しているからねと私は自分に冷静になれと言い聞かせる。

 

『えっと、あの。こ、こんにちは?』

「えっ?あ、こんにちは」

 

 敵意はないよーと私はへにゃりと笑みを浮かべて、彼らに向けて挨拶する。マスターである少年がぎこちなく返してくれた。うん、いい人そうだ。と私はにこにこだ。

 

「……先輩、もしやこの方はこちらの味方なのでしょうか?」

「フォウ、ンキュフォウ」

「――だよね?敵意なさそうだものね」

「ハァ?! アナタ達正気なの!? サーヴァントの中にはこちらを油断させて裏切る輩だっているのです、油断してはならないのよ」

《そうだよ、藤丸君、マシュ。まあ戦力という意味では頼りになりそうな人なんだけどね。あの見た目だし、真名も分かっていない現在そう簡単に信じちゃいけないよ》

 

 ひそひそと話し合う彼らはこちらに聞かれていないつもりなのだろうか?丸聞こえなんですけどと私はツッコミを入れたい。

 

『あのー、ちょっといいですか?』

「「「!」」」

《うわー、これもしかして聞かれていたパターンじゃない?》

 

 ビックリとする三人に、通信機から聞こえるゆるふわ声。私はどこから言うべきか頭が痛くなる思いだ。

 

『ともかく、私は貴方達の敵じゃないです。むしろ味方、だと思います』

「その証拠は?アナタが敵ではないという確たる証拠があるというのかしら?」

 

 私の言葉にすぐに反論するのは銀髪の女性。確かFGОの主人公の上司でカルデア所長だったはずだ。キッとこちらを睨むその金色の瞳は、微かに揺らいでいた。というか、大分昔過ぎて所長の名前が出てこない。いや、オルガマリーなんちゃらさんだって言うのは分かるよ?でもやばい、とても不味いと私は色々な意味で冷や汗をかく。

 

『その、確たる証拠っていうのもないですし。真名も訳あって言えません』

 

 だってその真名ってあれだろう?本当の名前だったり、通り名だったりするわけだ。私の本当の名前は日本人らしい名前だし、通り名も破壊女神(カーリー)の名をここで出したらさらに疑われるだろうし。正義の味方っていうイメージとは程遠いしなぁと私は自分の現状を嘆きたくなる。

 

「なんですって?」

『けれど、これだけは信じて下さい。私は、貴方達の味方です』

 

 所長の訝し気な視線に私は真っ直ぐに見つめ返す。私の視線に所長は少したじろぐように一歩後ろに下がった。

 

「所長、俺はこの人を信じてもいいんじゃないかと思うんですけれど」

「はぁ?藤丸、アナタ本気なの?」

「うん、だっていい人そうだし。嘘ついている表情じゃないですよ、あれ」

「…………」

 

 藤丸少年の言葉に所長は言葉を詰まらせる。俯いてふるふると肩を震わせる所長に私はあ、これ噴火の予兆じゃね?と察する。藤丸少年よ、どうしたんですか?と首を傾げるのはやめるんだ。

 

 盾を持つ淡い紫髪の少女もあわあわと二人のやり取りを見守っている。通信機からの声にいたっては沈黙するへたれっぷりだ。

 

「あの、所長?」

「もうちょっと考えて行動しなさいよーー!! このお馬鹿さん!」

 

 藤丸少年の邪気のない気遣う声に所長の少女が爆発した。よっぽどストレスが溜まっていたんだなと思わせるその怒声は辺りに響いた。

 

 当然、エネミーが寄ってくる訳でして。

 

 わらわらとこちらへと寄ってくる骸骨人間に私は漆黒の大剣を構える。

 

《ごめん、遅れた。敵多数接近、けれど魔力反応はそこまででもないよ。そんなに強い敵じゃない》

「了解しました。敵影こちらでも視認出来ました。先輩、指示をお願いします」

「ああ、マシュ。行くぞ!――所長は物陰に隠れてください」

「え、ええ」

 

 通信機からの声にそれぞれ戦闘態勢をとった。数も多い事だし、私は戦車に飛び乗った。魔力を大剣に込めて、念じる。ぎゅるりと回る車輪は相変わらず絶好調だ。

 

 戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果としては無傷で勝った。ちょっと途中で私のテンションが上がってしまったのは否めないけど、まあ味方が無事だから問題なしだ。

 

「お疲れ様。えっと――」

『ああ、そう言えばまだ自己紹介もしていませんでしたね』

 

 こちらに労わりの声をかけてくれた藤丸少年は戸惑っていた。ああ、と私は頷く。名乗ってなかったので改めて自己紹介をしようと。丁度、三人いる事だし。

 

『サーヴァント、ライダー。気づいたらこの場所に居たので、まあこれも縁あっての事でしょう。よろしくおねがいします。――故あって真名はあかせませんので好きに呼んで下さいね』

「そうなの?……まあよろしく、ライダー。俺は藤丸立香っていうんだ。こっちはマシュ、俺の後輩?になるのかな」

「はい、ご紹介にあずかりました。マシュ・キリエライトと申します。まだまだ未熟なサーヴァントですが先輩共々よろしくお願いします。それでこの不思議な生物がフォウさんです」

「フォウフォウ」

《あ、ボクはロマニ・アーキマン。ドクターロマンとでも呼んでくれ》

『藤丸さんにマシュさんにドクターさんですね。後はフォウさんも。よろしくお願いします、と。えっと、貴方は?』

 

 自己紹介してくれた藤丸少年いや、藤丸さんとマシュさんと私は握手する。通信機の映像ごしだけれど、ドクターさんに頭を下げる。フォウさんも少し撫でさせてもらう。それからこちらへとちらちらと見てくる所長さんに促す。

 

「別に私はアナタとよろしくしたくないわ」

『あ、そうですよね……』

 

 所長さんに突き放すように言われ、私はしょんぼりと肩を落とす。所長さんはその金色の瞳を一瞬見開かせ、すぐにそっぽを向いた。

 

「……オルガマリーよ」

『はい?』

「だから!名前よ、名前!! オルガマリー・アニムスフィアよ。何度も言わせないで頂戴!」

『オルガマリーさん……』

 

 そっぽを向いたまま、所長さん改めオルガマリーさんはぼそりと名乗った。思わず私が首を傾げれば、早口でまくし立てられ、私はきょとりとする。

 

 そっぽをむいたオルガマリーさんの白い頬が赤に染まる。おお、ツンデレだと私が興味津々に見つめれば、オルガマリーさんは不機嫌そうにこちらを見ようともしない。

 

「先輩、気のせいでしょうか。所長がライダーさんに若干絆されているような……」

「しっ、マシュ。気づかれるよ」

《これ、片方の性別が逆なら二次元にありそうな展開だよね……。いや同性でも友人らしくて大変微笑ましいのだけれども》

 

 やっぱりこそこそと話し合う声に丸聞こえのこちらは何とも言えない。あ、オルガマリーさんの肩が怒りで震え始める。あ、これアカンと私は遠い目をした。

 

「アナタ達……。戻ったら覚悟はいいですね?あ、あとロマニは減給を覚悟しなさい」

《理不尽だ!》

「ドクター……」

「ごめんなさい、ドクター。私達では庇えきれません」

《君たち他人事だと思って!もう少しボクを庇ってくれてもいいんだよ!?》

 

 オルガマリーさんの言葉にドクターさんは悲鳴染みた声をあげた。藤丸さんとマシュさんは諦めてと言わんばかりの憐れみのこもった視線でドクターを見た。

 

 これ、なんて茶番?と私が呆れ半分、微笑ましさ半分で見守っていると背後からじゃりっと足音が微かに聞こえた。感じる魔力量に私はハッと息をのみ、振り返る。

 

『ッ!?』

「あー。お取込み中の所悪いんだが、ちょっといいかい?」

 

 気まずそうに頬を掻きながら現れた、青い衣装の男性。大きな木製の杖を抱え、青いフードを深く被っているその姿。フードからこぼれる青い長髪に私はその人物の正体に確信を抱いた。

 

「オレはここの聖杯戦争のキャスターとして現界した者だ。――ここはまあ言っちまえば狂った聖杯戦争でな。生き残りはオレと、もう一人いる」

「せいはいせんそう?」

「――先輩、聖杯戦争とはカルデアの英霊召喚の基礎となった儀式の名称です。詳しくは所長にお聞きした方がいいとは思いますが、簡単に言ってしまうと七騎のサーヴァントを戦わせ、生き残った陣営が聖杯を手にするといった仕組みです」

「へぇ、そうなんだ。ところで“聖杯”って何?」

「フォウ……」

 

 キャスターの言葉に藤丸さんは首を傾げ、マシュが補足を入れる。そして聖杯とは?と聞く藤丸さんに空気が凍る気配を私は察知した。フォウさんですら呆れる程だ。

 

『なんでも願いを叶えてくれるモノ、らしいですよ』

「――そうね、話を続けましょうか。それで?キャスター、アナタともう一人。生き残ったといったけれど、アナタ以外のサーヴァントいえ、あの黒いもやに侵されたのは何?それとアナタのマスターはどうしたのかしら?」

 

 藤丸さんの疑問の声とそれに付随するやり取りをまるまる無視してオルガマリーさんはキャスターさんに問い詰める。あ、藤丸さんちょっと落ち込んでる。マシュさんの励ましに少し元気を取り戻したようだ。

 

 キャスターさんはオルガマリーさんの問いかけにその赤い瞳を意味ありげに細めた。

 

「さぁてね。気づけばマスターは居らず、人間の生存者は無し。そんで水を得た魚のように襲い掛かる奴さんになんとかやり過ごして今に至る訳だ。――で、オレ以外のあの泥に侵された奴らだろ?アイツらはそのもう一人にやられた奴らだ。どういう訳か、アレにやられるとああなっちまう訳だな」

「なる程ね、それでその生き残りって誰なのかしら?」

「――セイバーさ。ここの聖杯戦争のセイバーで、今は問答無用で襲ってくるけどな」

 

 オルガマリーさんとキャスターさんのやり取りの内容に藤丸さんが肩を震わせる。

 

「問答無用って――」

《うーん、まあ従来の聖杯戦争とは逸脱しているが故に行動の予測が難しいのか……。まあそのセイバーがこの特異点の中心なのは間違いないと思うのだけど》

 

 藤丸さんの呟きにドクターの推察の声が続く。

 

「ではこのメンバーでのセイバーを撃破するのが望ましいのですね」

「――と言いたいところだがな、お嬢ちゃん。そのセイバーが厄介でな」

「なる程、共同戦線をはりたいという訳ね」

 

 マシュさんの声にキャスターさんは首を横に振る。それにオルガマリーさんは納得したように頷いた。

 

「まあな。アンタらには多少の不信要素があるものの、オレの勘が大丈夫だって言ってるんでね。協力をお願いしたいところだ、いいだろう?そこのマスター、いや坊主」

「へ?」

 

 いきなりの協力を仰ぐその声に藤丸さんは戸惑いの声を上げる。キャスターさんは片眉をピクリと跳ねさせた。

 

「オイオイ、アンタがこの陣営の大将首だろう?魔術の素人だろうと関係ねぇ、アンタはその手に既に令呪を宿してるんだ。――その手に宿してるのはただの印じゃねぇって事、肝に銘じておくんだな」

「…………ああ。分かった」

「よっし、よく言った。思い切りが良い奴は嫌いじゃない。アンタはこれよりオレの仮のマスターだ。短い間だが、よろしくな」

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 藤丸さんとキャスターさんが固く握手を交わす。良かった、なんとかキャスターさんが仲間になったようだ。

 

 

 

 

「ところでさ、ライダーの声って元からなの?」

『うん?』

 

 藤丸さんの言葉に私は首を傾げる。マシュさんが慌てて、先輩いきなり過ぎますと言っていた。けれど、私の脳裏に嫌な予感が駆け巡った。

 

「だって、ライダーの声。キャスターの声とは違くないか?」

《うわぁ、藤丸君。君命知らずと言うかなんというか、凄いね!》

「え?聞いちゃ不味かった?」

 

 焦る藤丸さんに私の頬が引きつるのを感じる。私、こういう時どんな顔をしたらいいのか、分からないの……と大困惑だ。

 

『ちなみに、どんな感じで聞こえてます?』

 

 まだ諦めちゃ駄目だと私は自身を奮い立たせ、藤丸さんに聞いてみる。

 

「え?なんというか、上手く言えないのだけど。こう、二重に聞こえるような、ノイズ交じりの声のような。不思議な声だよね」

《こちらでも同じように聞こえるから、魔術的な介入という訳でも無さそうだよ。――なんだろうね、もしかしたら生前の逸話とかが関係しているのかもしれないね》

『おぅふ』

 

 藤丸さんの声の嘘のない声がぐさりと心に刺さり、ドクターさんの冷静な分析に止めを刺された気分だ。

 

 【悲報】邪神()様関連の言葉のあれこれが治っていない件というテロップが私の脳内に流れる。あ、でも内容は伝わっているから生前程悲惨じゃないのかと私は思い直した。

 

 落ち込んでいたらキャスターさんに肩をポンと叩かれ慰められたのが地味につらかった。そんな同情するような目で見られると私でも傷つくよ。




という訳で無事主人公は合流できたよ!という感じです。
人数が増えれば増える程小説にするのが難しいというのが思い知らされました。私の文章力が足りないんだぜ、と力尽きそうです。


※主人公の言語関連について:
聖杯によって英霊には自動翻訳が搭載されているのですが、主人公は生前言葉が通じない又は喋れないという設定()がありました。英霊の逸話としてそれが付与されているので、微妙に冒涜的な表現の声になった模様。
邪神()様のボイスに近いものがあります。それじゃあなんで喋れるの?というと邪神様の愉快犯的犯行の可能性(ご都合主義と言う)
ちなみにカルナさんには普通に聞こえます。――邪神様の良心でしょう、きっと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。