施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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前回の補足回。あのままだとカルナさん側が説明不足だと思ったので今回はカルナさん視点(ただし三人称)短いです





――三人称視点――カルナside

 

 

 

 カルナにとってそれはあまりに異質だった。

 

 

 それは道すがら、頼まれた使いを完了した後のことだった。

 通りの端、人通りを避けるように蹲る存在にカルナの視線は自然と向いた。普段だったら通り過ぎてしまうかもしれない。手を伸ばさない者に下手に手を差し出しても両者ともに得がない。下手をしたら相手に傷を与える結果になる。カルナはそれを重々承知していた。

 

 けれど、白い襤褸布に包まれる身体のなんと頼りない事か。体格は確かに華奢であろう、けれどカルナはそれだけでそうは思わない。か細い身体で労働し、糧を得る貧しい人々の暮らしはカルナにとっても身近な存在だ。

 

 ならば何がそう思わせるのか。すぐにカルナは思い直す。

 

 その存在の異質さだ。それがカルナにその布の人物を儚く思わせる。風に吹かれればそのまま立ち消えそうな、そんな違和感が。

 

「どうした」

 

 思うまま、カルナは蹲る人物に声をかけた。すぐに持ちあがる顔にカルナは少し面食らう。その顔立ちに、というよりはその色にと言った方がいいかもしれない。

 

 その肌は白く、血が通っているか不安になる青白さがあった。顔立ちが幼いものの、充分可憐な部類だろう。肩にサラリとかかる艶やかな黒髪は触り心地が良さそうで。なによりその生気に溢れるその瞳が、カルナの心を揺さぶる。

 

 晴天の空を切り取ったような瞳だった。カルナも同じような色の瞳をしていると思うが、持つ者が違うとこうも輝きが、美しさが違うのか。

 

『わ、わたし言ってる事分かる?』

「ああ、お前の言葉は恐らくこちらの理解の範疇ではないだろうが」

『えっ』

 

 彼女の唇から紡がれる言葉は明らかに異国の言葉だった。けれど不思議とカルナの耳に意味は通じた。そのままを伝えたら彼女は纏う布を胸元でぎゅっと握り、こちらをそろそろと伺ってきた。それは悪意のないモノで例えるなら小動物の如き慎重さだろうか。

 

『私、言葉が分からなくって。でも貴方の言葉は分かるんです』

「そうか、難儀な事だな」

『こんな事初対面の頼む事じゃないと分かってます。でも、お願いします!』

 

 彼女の言葉は必死さが滲んでいた。潤む瞳は他に頼れない事を雄弁に語り、大きくなる声はこちらへと縋る響きが含まれている。そこに不思議と下心が感じられない。

 

 例えば、カルナを利用するような、そんな薄暗さは微塵も感じられなかった。カルナはそういう事を見抜く事に長けている。

 

『私を一緒に連れて行ってくださいッ!私を貴方の傍に置かせてくださいお願いします!!』

「――オレでいいのか?」

『はい!』

 

 思わずカルナが承諾すれば、勢いよく頷かれた。彼女の勢いとその浮かぶ満面の笑みにカルナは目を見開いた。

 

 とくりと、カルナの胸の柔い所が音をたてた気がした。

 

「そうか。オレの名前はカルナという」

『はい、よろしくお願いします。カルナさん。私の名前は――』

 

 紡がれる彼女の名前にカルナは軽く頷く。

 

「ふむ、あまり耳馴染みのない名だな」

『ですよねー』

 

 カルナの言葉に彼女はうんうんと頷き返す。他の者ならばカルナの言葉に二三言苦言を呈したかもしれない。怒りを表す者もいるだろう。

 

 けれど彼女は当たり前のようにカルナの言葉を受け止め、返してくれる。

 

 この短いやり取りでカルナは彼女に惹かれるものを感じた。だから彼女の提案もすんなりと受け入れたのだろうか。それはカルナ自身も分からない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゥルヨーダナに彼女を紹介した後。カルナはここに残れとドゥルヨーダナは命令した。カルナはそれに承諾し、彼女を別室で待っているように促す。

 

 渦中の娘が退室し、ドゥルヨーダナの指示で人払いがされこの部屋を静寂が満たす。

 

 

「ドゥルヨーダナ、用件は」

「まぁ、待て。カルナよ。お前に一つ確認を取りたいだけだ。本当にあの娘を娶る気か?今なら余があの娘の世話を焼いてもいいのだぞ」

 

「それ以上は言うな」

 

「おや、怒らせたか。許せ、カルナよ。これでも余はそなたを心配しているのだぞ?犬猫を飼うように、容易に妻を娶るものではないぞ」

「――オレが怒る?それは違うぞ、ドゥルヨーダナ。お前は勘違いをしている」

「うん?」

 

 カルナの否定の言葉にドゥルヨーダナは首を傾げる。

 

「それはオレには不要。それだけの事だ。用件はそれだけか?」

「……そうか。――これだけはお前の友として聞いておきたかったのだ」

「そうか。……納得する答えは得たか?ドゥルヨーダナ」

 

 カルナの曇りない澄んだ瞳がドゥルヨーダナに向けられる。ドゥルヨーダナは薄い笑みを口元に浮かべた。

 

「まぁ及第点といったところか。――いいぞ、あの娘の元へ行ってやると良い」

「感謝する。では、オレはここで失礼する」

 

 去って行くカルナの背をドゥルヨーダナは眩しそうに見つめた。

 

「……オレには不要、か。よく言ったものだ」

 

 あの朴念仁がなぁ、とドゥルヨーダナは感慨深い思いを抱いた。あのカルナという男と友人になってまだそう時間は経っていないがそれでも察せるものはある。

 要はドゥルヨーダナにあの娘を任せる気はサラサラない、とカルナは短い言葉で言ったのだ。

 

 酔狂であの娘を娶る訳ではない、俺は本気だと。

 

 よくもまぁこのドゥルヨーダナ相手に言ったものである。まぁカルナは身分で物事を見たりしないか、とドゥルヨーダナは思い直した。

 

 願わくば友に幸あらん事を、ドゥルヨーダナは柄にもなく祈りたくなった。

 

 

 

 




※オリ主の瞳は青い色をしてます。本人はまだ気づいていませんが(笑)
例えオリ主が黒い瞳をしていてもカルナさんは別の言葉で褒めたでしょう。

※ドゥルヨーダナとカルナの出会いはクル族の武術(弓術)大会に始まります。詳しくは省きますが、アルジュナも参加していたこの大会でカルナはアルジュナに挑みます。けれど、王族に挑めるのは王族のみ。身分社会でカルナは御者の子供という低い身分でした。到底アルジュナに挑めるものでありません。そこでドゥルヨーダナがカルナに助け舟を出します。「この者は王族の出である(意訳)」と。結局はカルナの養父が原因で、無駄になるのですが。それでも御者の子だと侮辱されるカルナをドゥルヨーダナは擁護します。「英雄や河川の源流(出自)を問う意味はない。王族であることの証明に最も必要なものは力である」と。その過程で、カルナが返礼に何を望むかドゥルヨーダナに問うたところ、彼はカルナとの永遠の友情を望むと答えた経緯があるのです。

私の文章力の都合上、この物語はこのクル族の大会後の時系列になります。あとでIFネタで番外編として書くかもしれませんが(え

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