施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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更新。のんびりいきます。
前回のコメント、誤字脱字報告ありがとうございます。温かなコメントに作者の涙腺は緩みそうになりました。

さて今回からカルデアside→アルファベット 主人公視点が漢数字という具合に分けていきます。勿論、こうやって前書きに書いていきます。
それからずっと名無しだった主人公についに名前を付けます。じゃないと、いい加減分かりにくくなってくるので。真名(本当の名前とは言っていない)という状態なんですけれど。

今回の注意事項
・邪神()様が邪神様している(少し?)
・カルナさんが出てこない。
・戦闘描写が少し出てくる。
・キャラ崩壊(かもしれない)

今回は主人公視点です。ではどうぞ。





 辺りは一面真っ白だ。まるで真っ白なキャンパスの中に迷い込んだかのような気持ちになる。ここは英霊の座。私はそこで途方に暮れていた。つい先ほど迷い込んでしまったオルガマリーさんを見送って、それからカルナさんを探しに行こうとここから出ようとした。結果はまさかの壁にぶつかり出れない、という一昔前のコントのような事になってしまった。ぶつけたおでこが結構痛かったと私は涙目だ。

 

 それにしても、探しにいけないとは何事か。普通にカルナさんと離れ離れになる前は自由に出入り出来たのに。……よくドゥルヨーダナさんにカルナさん共々呼び出されて遊びに行ったっけ。

 

 ――ここで考えられる可能性は二つ。一つ、これは普通に私の力不足。カルナさんの座と一緒になっていたのは、私の存在の不安定さ故だった。なので、それが離れてしまい安定性が失われ、自由も失われたという可能性。もう一つは単純に邪神()様の仕業。あの邪神様は結構愉快犯なところがあるので、有り得なくはないと思う。例えば、そうした方が面白そうだとか、邪神様の目的の為には私とカルナさんが一緒にいると何か不都合だとか。うーん……、情報が少なくて判断に困る。

 

 私は壁に背を預け、思考に没頭していた。ここで宝具を展開して、壁をぶち破るのは止めた方が良い気がするからだ。――ただでさえ、今天井部分とか一部に罅みたいな傷が走っていて不安があるのに。更に攻撃を加えるとこの私の座自体の消滅とかあり得る気がする。そうするほどに自滅願望なんてある訳がないので、ここで大人しくしている。

 

『カルナさん、無事かなぁ……』

 

 つい、心配事が口から零れる。多分、無事だろうと信じてはいるけどそれで安心出来る程私の心は簡単じゃない。分かっていても不安だし、心配だ。もしカルナさんに何かあったら私は邪神様を絶対に許せないだろう。

 

 ぼんやりしていたら、眠気が襲ってきた。眠い……。

 

 襲い来る睡魔に勝てず、瞼が段々重くなっていく。こっくりこっくりと船を漕いでしまう。気づいた時には私の意識は闇の中に落ちていた。

 

 

 

 

 

 もはや慣れ親しんだ暗闇の中。一寸先さえ見通せない、視界は常に真っ黒だ。

 

 ああ、これはいつもの夢だなと私は直ぐに理解した。特異点から座に戻る際も話したような気がするけれど、どうしたんだろう?

 

 

 ――愛し子よ、汝に告げ忘れたことがある。

 

 

 うん?なんでしょうか、と私は黙って聞くことにする。邪神様の声は相変わらず不可思議な声だった。老若男女、その全ての声が重なって聞こえてしまうような、そんな声だ。

 

 

 ――汝に真名を授けよう。

 

 

『はい?』

 

 ――“カーリー・ナディ(カーリーのにせもの)”、この名を汝に。

 

 戸惑う私を他所に邪神様の言葉は止まらない。

 

 ――刻め、この名を。

 ――真名を楔に。

 ――汝の存在よ、揺らぐ事なかれ。

 ――決して他者に縋るな。例え施しの英雄が手を差し伸べたとして、それに縋ってはならぬ。

 

『え。何故ですか?縋る縋らないはともかく、カルナさんの手を拒むなんてそんなこと――』

 

 出来る訳がない、そう続く筈の私の言葉は邪神様の次の言葉で失われる。

 

 

 ――巻き込むのか?

 

 

 ヒュッと空気を上手く吸い込めず喉が鳴る。嫌な予感に鳴る筈のない心臓がバクバクと音を立てた気がした。ゾッと背筋が寒くなる。

 

『それは……、どういう……?』

 

 言葉が詰まりそうになりながらどうにか紡ぐ。そのせいで掠れて消えてしまいそうになる程小さな声になってしまった。

 

 ――時間か。

 ――我が愛し子に祝福あれ。

 

 無慈悲に告げられた言葉を最後に、私の意識は再び沈む。目の前を白い閃光が染め上げた。

 

 

 

 

 

 べしゃあ、と地面にダイブする。私は受け身を上手く取れずに土煙を上げながら地面に頭突きをかます結果になった。なんだか、最近こんなのばっかりな気がする、としょんぼりしてしまう。

 

 よろよろと身体を起こして辺りを見渡す。太陽の位置から見れば、今はお昼時か。それと青空に、天を囲むように丸く広がる円環の光も確認できた。アレが魔術王の切り札、でしたっけ?光一筋がエクスカリバー一撃分という殺意の塊である。

 

 辺りは樹木の生い茂る森林地帯だ。ここは小高い丘になっていて、木々からは少し離れている。少し視線を遠くに向ければ、小さいながらも村が見えた。現代にあるような家屋ではなく、昔のそれこそ中世ヨーロッパのような建築物だ。よく見れば農村のようで木造の簡素な造りの家々が立ち並んでいる。小麦畑、のような畑も見えて息づく生活の息吹を感じる。もっと遠くに石造りの砦のようなものが小さく見えた。が、その時に不穏な影を見てしまう。

 

 竜だ。三匹の竜が旋回しながら空の遊泳を楽しんでいるのを見てしまう。それを見て私はここが何処か悟った。

 

『ここは……、フランス……?』

 

 邪竜百年戦争オルレアン。FGОの七つある特異点の一番目。確か、聖女ジャンヌ・ダルクさんが主軸となったお話だった気がする。竜の魔女、ジャンヌ・ダルク・オルタさんとジャンヌ・ダルクさんの復讐がどうとか、そんな話だった気がする。もう随分前の記憶なので詳しくは覚えていないのだ。私にはもう、FGО本編のうろ覚え程度の知識しかない。

 

 それでもキーパーソンは覚えている。先にあげた二人と、竜殺しの英雄ジークフリートさん。それからこの時代から見れば未来の王妃、マリー・アントワネットさんと音楽家のアマデウス・モーツァルトさん。一部名前を省略してしまった気がするけど大体合っている筈だ。後はジークフリートさんの呪いを解くのに聖人と謳われる方がいた筈だけど……?うーん、この辺になると記憶が怪しくなってくる。なんかエリちゃんとか清姫さんとか居たような……?敵側の知識なんてお察しだ。一杯居たような気がする、ぐらいの認識である。いや、中心人物は流石に覚えているんですけどね?

 

 私ってどうしてこう残念なんだろう、と自分で悲しくなってくる。それは兎も角、ここにぼんやりしているのは勿体ない。私は座り込んでいたのを立ち上がる。

 

『あ、あれ……?』

 

 ぽろり、と涙が目尻から零れる。完全に無意識だった。ぐしっと服の袖で慌てて拭う。思ったよりも邪神様の言葉はショックだったみたいだ。私の迂闊さと、何よりもカルナさんに対して申し訳がなくて、情けなくて、そして悔しい。カルナさんに心配をかけてしまっている事と、その手を拒まないといけない事がつらい。

 

 でも、私はここで立ち止っている訳にはいかない。つらいからこそ、頑張るのだ。そして邪神()様のあのやろーをぎゃふんと言わせてやる。グッと拳を握り、決意を固める。

 

 決めた。私の最終目標はカルナさんの元に帰る事。そして邪神()様にこれ以上弄ばれることのないようにすること。この二点を目標に、藤丸君の人理修復も手伝っていこうじゃないか。あの邪神()様の言い様だとどうせ巻き込まれる事は確定している。

 

 頑張るぞーととりあえず丘を下りてあの見えた農村を目指してみることにする。

 

 さて、ここで今回の私のスペックを確認しよう。先の特異点でオルガマリーさんに宝具を使った結果、騎乗兵適正が一時的に失われた。多分一時的なので、その内復活するんじゃないだろうか。今は置いておくことにする。それで今回の私のクラスはというと、まさかの弓兵(アーチャー)クラスだった。まじか、と私は唖然とする。確かに生前使っていましたけど。

 

 正直私の弓兵(アーチャー)クラスは微妙だ。当然である。私の生前の弓の腕前はカルナさんの指導で辛うじて使える程度に底上げされたにすぎないのだから。一般人なめるなよ!これでも滅茶苦茶頑張りましたからね!主に相手への牽制と威嚇に使っていました。攻撃手段はあの禍々しい大剣か、古代の戦車だった訳で。そもそもカルナさんのサポート役だったし。

 

 多分FGОで例えると星1のレアリティの弓兵(アーチャー)だと思う。もう第二再臨、つまり一回進化した状態ですし……。やったね!一個使えるスキル増えるよ!とか喜んでいる場合じゃない。

 

 それに宝具が問題だ。あの大剣が使えないのだ。何故って、私の今の宝具があの大剣を変化させた弓、な訳で。つまり一点特化型に変更させられたと言えば分かりやすいだろうか。力も当然、使える範囲が限定化される。戦車は呼び出せないし、何よりあの“全世界ありとあらゆる生命の願い、欲望を魔力に変換して使う力”が使えない。精々が治癒能力とちょっとした誤魔化しぐらいか。

 

 思ったよりやばくない?私は歩きながら冷や汗を掻く。いや待て、落ち着こう。

 

 スキルの確認もしておこう。だって正直今の私の生命線に等しい気がするからだ。一個はあの回復スキル“治癒の奇跡”。騎乗兵だった時と性能は一緒だ。そしてもう一個は“邪神の加護”。一ターンの全体無敵付与スキル、だと思っていい。ついでに敵の攻撃力を三ターン減少させる。ただし、HPが減る。多分あの大剣の宝具を使った時と同程度だと思う。今の私はそんなに頑丈じゃないので、敵の攻撃に耐えられるか否かという心配をしないといけないだろう。流石に何もやっていない状態で退場はやりたくない。

 

 うーん……。痛い思いはしたくないんだけど、覚悟を決めないといけないかな。

 

 とそこで私は森林から街道に出た。街道、といっても草むらから土の道が整えられているくらいで、石畳までの整備はやっていないようだった。まあね、お金も手間もかかるから、農村地区のような田舎では少し厳しいのかもしれない。

 

 呑気に構えていられるのもここまでだった。

 

「ひぃいいいい!! た、たすけてくれぇーーッ!」

 

 突然の悲鳴にハッと声の主の方向へと視線を投げる。十メートル離れた場所で馬車が先程見かけた三匹の竜に襲われているところだった。

 

『ッ!?』

 

 慌てて弓を大剣を取り出す要領で取り出すと矢を魔力で出現させ、番えて放った。何もない空間から出現した弓は流石あの大剣だっただけあって大きい。丁度アルジュナさんが使っているあの炎の神様から賜った弓くらいの大きさだった。そして毎度の如く、その見た目は禍々しい。色は黒、そして黒いもやを纏い、魔力で出現させる矢ですら黒い光の塊、のような見た目だ。というか、これアルジュナさんとの最後の戦いの時に出した弓じゃないですか。……懐かしい。

 

 放たれた矢は見事、人を襲ってた竜に命中する。致命傷には至らないが、それでもこちらに注意を向ける事は可能だ。休むことなく次々と矢を射っていく。漆黒のもやを纏う矢はやっぱり禍々しいが、仕様だから仕方ない。

 

 ぎゃおおん、とけたたましい叫びが竜から放たれる。その背についた立派な翼で一気にこちらに迫ってきた。うわ、やば。近くで見ると恐竜のようないかつさと迫力だ。え?古代インドで沢山見てきただろう、って?ドラゴンは初めてなんですよ!

 

 あまりの迫力にあわあわしていると迫ってきた竜の(あぎと)がガバリと開かれる。モグムシャァ、される!と私は反射的に弓を持っていた手で竜の頭を横に薙ぐようにぶん殴る。ボコォとものすごい勢いで竜の頭が地面にめり込んだ。

 

 は?

 

 思ったよりも発揮された己の力に困惑する間もなく、次の竜が激昂したように襲い掛かってきた。ええいままよ!私はバックステップで二歩、下がり距離をとってから、竜の攻撃のタイミングに合わせて、弓を持った手で一撃をかます。相手の力を利用したカウンターだ。それもあって、二匹目の竜も地面と仲良くなった。若干拳が痛い。

 

 最後の三匹目は勝ち目がないと知ったのか、慌てて踵を返して空に逃げる。それを逃がす私じゃない。ここで仕留めないと他の人が犠牲になってしまう。

 

 弓で魔力を込めた矢を射る。十ほど、連射された矢は残らず竜の背に当たり、倒れた。――弓矢よりぶん殴る方が威力が高いって……、と私は呆然とした。けれど、直ぐに思い出す。そう言えば私、宝具を持っている時に限り怪力だったっけ、と。手に持っていれば怪力だけど、宝具から手を離せば元の非力になる。荷物を持つ、とか応用が難しいので私としては複雑だ。

 

 はぁ、と戦いが終わりため息を吐いた。すると、背後から恐る恐ると声がかかる。

 

「あ、あのぅ……」

『ッ!? 』

 

 気を抜いていたので驚いてビクッと身体を震わせてしまう。後ろを振り向けば、先程馬車で襲われていた人が申し訳なさそうに佇んでいた。やつれ気味の中年男性で、淡い茶色の髪と髭を蓄えた三十後半くらいの人だった。……馬車の御者さんかな。こちらを見る瞳は畏敬の念と感謝、それと少しの恐怖心がちらついていた。私は慌てて頭を下げる。どうも、と挨拶のつもりで。

 

 そして話そうと口を開こうとした時はた、ととある考えが脳裏を掠める。

 

 邪竜百年戦争オルレアン。先に告げた通り、聖女ジャンヌ・ダルクが登場する。その彼女が処刑されてからさほど経っていない時間軸だったように思う。だから、ジャンヌ・ダルク・オルタは“竜の魔女”を名乗ったのだ。魔女狩り、魔女裁判で裁かれた聖女の怒り、その皮肉を込めて。つまりここでは魔女なる存在が信じられている。迷信でも人々が信じあえばその場のみの真実となる。それが、こんな残酷な仕打ちの結果を生んだのだ。勿論、その理由の大部分は当時の政治的背景が強いのだろうけれど。

 

 で、何が問題かというと。私の声が前の特異点で不可思議ボイスとなっていた、というのは記憶に新しい。そんなノイズ交じり、とか例えられる声で話したらどうなる事だろう。ただでさえ怪しげな見た目のヤバい奴、みたいな認識だろうに。例え、今の恩人フィルターがかかった状態でもアウトなのではないだろうか。うん、ロクな事にならなそう。

 

 私は喉を手で擦り、眉尻を下げ困った笑みを浮べる。ぱくぱくと声のない口の動きを追加すれば、助けた男性はハッと何かに気づいたような顔になった。

 

「ああ、すまんなぁ。何があるか分からん世の中だものなぁ。坊ちゃん、あんたも苦労したんだな」

 

 同情的になった眼差しに少し罪悪感が募る。けれど、ここで混乱させてもお互いに傷がつくだけだ。一時的な関係ならば多少の嘘は方便となる。

 

 というか、私今ナチュラルに“ぼっちゃん”呼びされたんですが。そこで私は自分の格好があの生前の男装姿のままだという事を思い出した。一回再臨して、変わったのは白の襤褸布が黒の布になったくらいかな。黒の布の縁に金の刺繍が綺麗だと思う。後若干服も黒系に変化している。ちなみに私は生前、こんな風に黒系で服装を固めたりはしていない。おのれ……邪神()様め……、と責任転嫁しておく。……なんか益々見た目が悪役っぽくなったような……?うん、気のせい気のせい。

 

「そうだ、坊ちゃん。あんた相当の腕利きと見た。それで良かったら儂の街で用心棒をしないか?――丁度、数日前にも剣士がやってきてな。そのお人が強いのなんのって」

 

 うん?馬車の御者のおじさんの言葉に私は首を傾げる。強い、とな?

 

「お、その目は疑ってるな?本当だって!さっきのドラゴンなんて、もう、千切っては投げ、千切って投げってなもんよ!」

 

 身振り手振りで説明する御者のおじさんに私はこくこくと頷く。誇張もあるかもしれないけれど、豪胆な話だ。もしかしたらサーヴァントの誰かかもしれない。でも、セイバーかな?剣士さんだと。

 

 私の穴ぼこ知識では特定は不可能なので、ここは素直に御者のおじさんの誘いに頷いた。……え?言葉が話せなくて意思疎通が出来ないだろうって?それは生前の古代インド生活で経験済みだから問題ない、と思いたい。人間、気持ちと根性があれば大抵はなんとかなるよね……?

 

 馬車のある場所まで歩き、それに乗せてもらってその街まで行く事になった。人が乗るような乗合馬車じゃなく、商人の屋台兼荷車みたいな馬車だった。その為、中は荷物が一杯だ。御者台の他に人を乗せるとしたら一人が限界だろう。

 

 ぱかぽか、と馬の蹄の音と地面の起伏による馬車の揺らぎ、車輪のがらがらと少しうるさい音を聞きながら三十分程。私は少しばかり昔の事を思い出して、懐かしんでいた。カルナさんと一緒に戦ったあの時。戦車を乗り回して、なんて普通じゃあ辛い記憶になるかもしれないけれど、私には眩しいくらい大切な記憶だ。

 

 そんな回顧も馬車が止まる頃には終わっていた。気持ちを切り替える。途中、怪しいエネミーの姿はなく、少しほっとした。どうやら付近の敵性生物は噂の剣士さんがある程度片付けているようだ。凄い。

 

 どうやら街に着いたようだ。街の名前はリヨン。近くに川が二つ通り、その地形のおかげか、土地がやせ細ることなく、自然の恵みが溢れる土地だそうだ。そして川も通っているから船を使い、商売もしていると。それ故に商人の集う商業都市でもあるそうだ。と言ってもこの時代なので不作とか天気で左右されてしまう、とも。

 

 リヨンに近づくころには整備されていなかった土の道も石畳で整備されるような街道になり、馬車の揺れも大分マシになっていた。街自体も中世ヨーロッパの街並みの美しさを誇っている。まるでファンタジー世界に迷い込んだかのような感動を味わった。街の人々も活気ある様子だ。ドラゴンが溢れるような異常があるのでどことなく落ち着きがないけど、それでも皆それぞれの日常を謳歌している。

 

 御者のおじさんは馬車をそのまま走らせ、噂の剣士さんに会わせてくれるらしい。後、町長さん?みたいなお偉いさんにも先に挨拶させてもらった。と言っても私は話せない、という事になっているので頭をぺこり、と下げるだけだったけど。

 

 今、その剣士さんは街の外で丁度ドラゴン退治をしているそうだ。……あれ、正確にはワイバーンっていう竜種なんだっけ、と私は今更ながらに思い出していた。

 

 私もちょっとパトロールに行ってくる、と御者のおじさんに身振りで伝え、早速仕事に取りかかる。……サーヴァント同士なので、魔力の大きさからどこに居るかは割と分かってしまうし。

 

 大体の当たりをつけ、私はその場所に走った。途中、骸骨のエネミーが居たりしたけれど、先程の要領で撃破した。え?脳筋?ゴリラ?なんのことか分かりませんね。

 

 その姿を見つけたのは、リヨンから十分程走った当たりだった。辺りは草原で、時折サーヴァントの攻撃であろう一閃が辺りを白く染める。って、あれって。

 

 私が呆然と佇んでいると、その剣士のサーヴァントの方も気づいた。敵を一掃し終えた彼はこちらに近づく。そして剣の間合い分、離れ声をかけてきた。その手には今だ敵を屠っていた剣が握られている。

 

「――貴方は、サーヴァントか。すまない、こちらもあまり事情を把握していないのだが」

『……』

「その目に、敵意はないように見える。――何か俺に用があるのだろうか」

 

 灰色に近い長めの銀髪、鍛えられた長身に、その顎から胸に走る青白く光る紋様。こちらを見る切れ長の青い瞳には、少しの警戒が滲む。声量の大きくない、その声も特徴的だ。

 

 竜殺しの英雄、ジークフリート。彼がこのリヨンの街を守っていた、凄腕の剣士さんだった訳だ。ええ?と私は内心困惑する。よく覚えていないなりに何か記憶が引っかかるような気がする。うーん?

 

 思わず首を傾げてしまった私にジークフリートさんが一緒になって首を傾げた。慌てて私は口を開く。

 

『あ、すみません。えーと、私も先程召喚されたばかりなのでどうにも事情が……』

 

 私の声を聞いて、ジークフリートさんは一瞬眉を顰めたがそれも直ぐに消える。

 

「……つまり、マスターはいないと?俺もだが、此度の召喚は何かとイレギュラーが多いのかもしれないな。通常の聖杯戦争とは違うようだ」

『そうですね。――なので私は貴方に敵対するつもりはありません』

「だろうな。貴方は俺がこうして剣を握っているにも関わらず、武器を持とうともしていない。……まるで斬られるとは思っていないような振る舞いだ。こちらを刺激しないという心積もりでももう少しやり様があったように思うが」

 

 淡々とした口調で頷くジークフリートさんが私の言葉で眉を顰めた。それから、はぁとため息一つしてから説教染みた言葉を吐いた。うーん、律儀な人だ。私は思わず笑ってしまう。こんな怪しい奴を心配するなんて、と。

 

『ふふ、忠告ありがとうございます。だけど貴方のような人を一人、知っているので』

「?――そうか。それでこれからどうするつもりなんだ?」

『私も私に出来る事をしたいと思います』

「そうか」

 

 私の言葉にジークフリートさんは頷く。カルナさんと同じような律義さだものなぁ、と私の内心の呟きはおいておく。それからの今後についての私の言葉に納得したように頷くジークフリートさんはこちらに敵対するつもりはなくなったらしい。最初に見えた警戒の色はない。……悲しいかな、私の実力はお察しなので、ジークフリートさんも信じることにしたらしい。

 

『あ、そう言えば。自己紹介がまだでしたね。クラスはアーチャー、真名はカーリー・ナディといいます。よろしくお願いしますね』

 

 自己紹介の途中で止めようと手を中途半端に挙げたジークフリートさんにお構いなしに私はにっこりと笑った。はぁ、と重苦しいため息を吐いて、ジークフリートさんは頭を掻いた。

 

「普通はサーヴァント同士で真名を迂闊に漏らしたりしないものだが」

『ええ。ですので、セイバーさんはいいですよ?私の身勝手なので。――それにあまり意味をなさないようなものですし』

「……そう言えば聞き覚えのない名だな。貴方の真名は。いや、これは失言か。すまない」

 

 気まずそうにするジークフリートさんに私はですよねーと内心で賛同した。何せ、先程名付けられたばかりの出来たてほやほやの名前だ。知らなくて当然だと思う。名前なんて名乗らなきゃ意味をなさないし、私は積極的に使っていこうと思う。

 

 と、全部事情をぶちまける訳にはいかないので私は苦笑した。

 

『まあ、私はマイナーな英霊なので知らなくても当然かと』

「本当にすまない……」

『いいんですって。さ、次は私も手伝いますので、一狩り行きましょう!』

 

 私の苦しい誤魔化しを真に受けたジークフリートさんはしょんぼり肩を落としてしまった。う、罪悪感が凄い。

 

 元気よく私が鼓舞すれば、ジークフリートさんがため息を吐いた。

 

「何か、それは違うような……」

 

 聞こえませんね、と私はすっとぼける。

 

 それから辺り一帯のドラゴン狩りを決行した。辺りの小さな農村等も周り、異常や犠牲が出ていないか見て回る。時折、木に登り私がリヨン方面への異常も確認した。どういう理屈かは知らないけれど、弓兵クラスになった私の視力は結構良くなった。人のそれではなく、漫画の登場人物のように遥か十里先でも見通せるくらいだ。……千里眼には程遠いけどね。

 

 ちなみに私の宝具であるあの禍々しい弓を見たジークフリートさんの反応はドン引きだった。なんか、生理的に受けつけない、とか大変失礼な事を言われたので、無言で腹パンしておいた。けれど弓を持っていない方の手だったので全然響かなかった。何かやったか?ぐらいのきょとん顔だった。これだから英霊は……!クラス相性とはなんだったのか。

 

 夕暮れになったので、今日は引き上げることになった。敵のサーヴァントの姿もなく、私は少しホッとする。夜もリヨンの警護をするようである。街に戻る前に、私は故あって声が出せない設定なのでよろしく、とジークフリートさんに話しを通しておいた。ジークフリートさんもすぐに、声か、と納得してくれた。それだけこの声は不自然なものになっているのだろう。少ししょんぼりしてしまう。

 




補足事項
※主人公が邪神()様に憤っていた訳
カルナさんを巻き込む可能性があるだけでも許せない、的な。自分のことは割と後にしがち。

※カーリー・ナディという名前について。
ナディはヒンドゥー語あたりで偽物、という意味。サンスクリット語は検索出来なかったので。後名前っぽいな、という作者の思い付き。邪神様の皮肉成分っぽいなーと。
多分主人公さんに対してダメージはない。本名は別にあるし、という楽観さ。これから「ナディ」呼びさせるんだろうなぁ。「カーリー」だと神様の方の名前で後ろめたいから。

※ワイバーンに拳でグーパンしていたあの一撃について。
お察しの通りこの子のバスター攻撃。一ヒットのみ。
多分マスター諸君に >>弓とは……?<< と困惑させること請け合い。

※十里……大体四十km。つまり千里眼とは、と考えるとすごいですよね。

※ジークフリートさんが主人公の宝具(弓)に難色を示した訳。
アレは邪神の心臓そのものなので属性的には悪、もしかしたらもっと悍ましきモノ。なので他人から見ると、なんだあれ?と難色を示されるという。
ジークフリートさんからの一言。「あれ程当人の本質と真逆の宝具も珍しい」

↓以下主人公の簡易英霊情報

クラス アーチャー
レアリティ 星1
真名 カーリー・ナディ
属性 中立・善

クラススキル
対魔力 A+
単独行動 B
邪神の核 EX
神性 E 

 

パラメーター

筋力E(A)  耐久E
敏捷D     魔力C(EX)
幸運A     宝具EX
※()内の数値は宝具の恩恵。魔力は常時EXで、筋力は宝具使用時にA相当の力となる。

スキル
スキル1
“治癒の奇跡”
回復スキル。主人公の祈りにて回復する。全体回復(初期は800、Max2000くらい)。チャージは初期6ターン。

スキル2
“邪神の加護”
全体の無敵付与(一ターン)、敵全体の攻撃力ダウン(三ターン)/HP減少(デメリット 1500くらい?) チャージは初期七ターン。
邪神の加護を一時的に付与する。敵は邪神を目の前にしたかのように錯覚を起こし、畏敬の念と恐怖を覚える事だろう。ただし、術者は覚悟せよ。汝が縋りし力は諸刃の剣であることを。

スキル3
“原罪の叫喚”
それは誰もが持つ思いを活性化させるスキル。生きたいと思う欲を重点的に強化し、死なないようにする。
全体攻撃力アップ+ガッツ付与(5ターン付与、Max1000回復で復活)チャージは初期8ターン。

宝具
“我は汝の行く手を阻む者なり”
“邪神の一矢よ”(※この宝具名は他人には見えない。詠唱式のみ閲覧可能)
敵単体への強力な攻撃、高確率でスタン(一ターン)、攻撃力ダウン(三ターン)付与。
マハーバーラタで、授かりの英雄の一撃を阻止した矢。それは神の一撃すら阻止してしまうと言われている矢である。そこから変異し、もはや邪神の一撃と変容した。それ故、相手の足を竦ませる程度には恐怖を与えるのである。


※一見、有能サーヴァントに見えますが、スキル2の後に一撃死とか笑えない事態になり得る残念性能。もしも起用するとしたら、スキル1、3を鍛え、なんとか生存させないといけない。星1なのでHPやATK値は低いので。作戦はきっと敵の攻撃力をガンガン削っていこうぜ!とかそんなの。耐久よりなのに死にやすいとは……?
というメタ発言。ちなみに素材は優しい。




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