主人公視点でいきます。
――主人公side――
カルナさんが思ったよりも施し体質だった件。カルナさんと成り行きで結婚してしまったんだけど、頼ったこちらが心配になってしまった。
この人聖人すぎるだろう。見ず知らずの他人、しかも不審人物を頼られたからってわざわざ身内に引き込むとか正気かよ。ああでもFGOではなんか嘘を見抜ける目みたいなスキルあったなぁ、と私は回想した。
ところ変わってカルナさんの自宅に私はお邪魔していた。日本生活に慣れてしまっている私には正直凄いカルチャーショックな訳だが、カルナさんにめちゃくちゃ恩がある身としては文句はない。
頑張ろう、と私は決心を新たにする。
「明日には養父たちに紹介をする」
『あれ?一緒に住んでいないんですか?』
「ああ、オレはとうに一人立ちをしている身だ。けれど、あの人たちに妻を紹介しない訳には行かないだろう」
『え、あ。はい』
「どうした?」
『いや、その話本当なんだなぁと思いまして……』
「当然だ。このオレとて覆すほど不実ではない」
『……カルナさん』
断言するカルナさんに私は言葉に詰まる。なんて言えばいいのだろう。ありがとうございます?それともすみません?どちらも違うのだろう。
そんな私にカルナさんはじっと見つめた後、
「お前は不思議な奴だな。とても女に見えない」
と暴言ともいえる爆弾をおとした。とても新妻に向ける言葉じゃない、と私は戦慄する。まぁ経緯が経緯で甘さの欠片もないモノだから仕方ないか。
『えっ』
「ここまで会話が続くのは久々だ。お前の他にドゥルヨーダナくらいか」
『カルナさん……』
「オレは話す事が不得手だ。なのに……お前は可笑しいな」
大抵の奴はオレが話すと怒るぞ、とカルナさんは首を傾げたままだ。私は何とも言えない気持ちを飲み込んだ。
『うーん……。カルナさんが話すのが苦手なのは、あんまり話してなかったからじゃないですか?多分。これはもしかしての話ですけど!』
「そうか……」
『はい。なので、私でよければ一杯話しましょうね』
カルナさんの頷きに私は笑みと共に彼の手を握った。握手してから、しまったと私が慌ててももう遅い。
『あっ。えっと、迷惑だったら別に無理はしないで』
「迷惑じゃない」
断ってもええよ!と続く筈だった言葉はカルナさんの力強い否定に消された。私が握った彼の手が逆に握り返される。握られた手は温かな温もりに包まれる。
「そうだな、それもまた家族になるに相応しい行いだ」
『そうですね。色んな事たくさん話しましょうね、カルナさん』
「ああ」
こちらを真っ直ぐ見るカルナさんの眼差しは驚く程優しかった。
カルナさんに拾われて早くも一カ月。早いもので、もう婚儀もお披露目もすんでしまっていた。結婚式、お披露目と言っても簡易的なもので体裁を保つため、と言った感じだ。
それからカルナさんの育ての親にも会わせてもらった。ほとんど何言っているか分からない状態だった。それでも、私の祈りが通じたのか簡単な意味は分かったのでめちゃくちゃ気持ちを込めてコミュニケーション図った。人間死に物狂いで理解しようとすれば出来るのかもしれない。新しい発見だ。
最終的にカルナさんの養父母さん達と笑顔で応対できるようになったのでよしとしよう。
それから、私は出来る範囲から家事を始めた。四六時中カルナさんにくっついている訳にもいかないのでもう必死だった。近所のお節介焼きのおばちゃんが色々教えてくれなければ今私は挫けていたことだろう。圧倒的感謝。
私一人ではきっと火もおこせず、見た事のない食材の調理も分からず、商人から物も買えないとないない尽くしだったことだろう。
以来、私はご近所さん付き合いを大切にしている。困ったことがあれば手を貸し、助け合う生活だ。
手が空けば、カルナさんの元へと行き彼に手を貸す事もある。最初は不要だ、とにべにもない返事だったが、二人でやった方が早いと説得すると彼は納得した。
そんなこんなで生活している私ですが、ちょっと気になる事がある。邪神()の言っていた言葉だ。やれ力だの、命の対価だの不穏な言葉のオンパレードだったアレだ。やだ、心臓とかほんといい予感がしない。
一応ここはFateの世界な訳だし、宝具とか使えたりするのではないだろうか。
あの言い方では使えば即死って訳ではないだろうし。試してみるのも手だろう。とはいえそう簡単に超常の力が必要になる事態なんて早々ないだろうけど。
……なんてフラグじみたことを考えた事がいけなかったのだろうか。
仕事から帰ってきたカルナさんの右頬が腫れあがり見ているだけで痛そうだった。アイエエエ!? なんで怪我!? と目を白黒させる私にお構いなしにカルナさんは平然としている。
「ただいま」
『か、かるなさん。うえええ怪我痛いそれ絶対痛い……あかん、治療しなきゃ』
「これぐらいどうという事はない。――それよりもただいま、だ」
『うん?』
「おかえりなさい、だろう?」
『』
うろたえる私に言い聞かせるカルナさんに思わず絶句してしまった。カルナさんの真っ直ぐな眼差しは雄弁にいつまでも待つことを伝えてくる。
『お、おかえりなさい』
「ああ」
おずおずと返せばカルナさんは満足そうに頷き、踵を返す。思わずカルナさんの右手を掴めば、不思議そうな顔をされた。
「どうした?」
『え、どうしたじゃないですよ。ほっぺの怪我治療しなきゃ。痛いでしょう?』
聞けば、きょとんとカルナさんは目を丸くした。こうすると切れ長の瞳が猫みたいな可愛さがあるのが不思議だ。……そんな変な事を聞いたかな?
「……そうなのだろうか」
『そうなのですよ。ほら、こっちに座ってください』
釈然としなさそうなカルナさんを近くの椅子に座らせる。
『口を開けて中を見せて下さいね。口の中切ってないか診ますから』
「ん」
カルナさんのかぱりと開けられた口の中をマジマジと見る。上を向かせるために彼の顎に添えた私の指がその肌の滑らかさを伝えてきてとてもつらい。
口の中を見れば案の定、頬の粘膜がザックリ噛み切られて血が滲んでいた。この分だと当分傷に沁みないような食事内容を考えなくてはいけない。綺麗に並んだその白い歯列に欠損は見当たらず、歯が折れていないようで安堵した。
とりあえず頬を冷やすために濡れタオルを用意しようと思った。上を向かせているカルナさんを解放しようと、意識せずに見下ろす。
白皙の美貌がこちらを上目遣いに見つめていた。澄んだ青い瞳が若干揺らめくのが思わず見惚れてしまう美しさで私は固まってしまった。
「もう……いいだろうか」
『ハッ!! ご、ごめんカルナさん!痛かったよね?!』
「いや、それは大丈夫だ。気にする事はない」
困ったように眉尻を下げるカルナさんに申し訳なくって私は光の速さで謝るのだった。謝る私に淡い微笑みを浮かべるカルナさんマジ聖人……。心なしか後光が見えて眩しい……。
『――ありがとう、カルナさん。今冷やすもの用意しますからね!』
そこに座って待っていてください、とカルナさんに言い置いて私は急いで濡れタオルを準備するのだった。
出来た濡れタオルを早速カルナさんの右頬にあてる。そっと添えるように冷やせば彼の切れ長の瞳が細まる。
『それでどうしてこんな怪我を?』
「お前には関係ない事だな」
言葉自体は刺さる鋭さだが、カルナさんの声は優しさに満ちていた。多分こっちが心配で気を病む事のないように、という意味だろうけど。
『でも、痛そうですよ』
「ふっ、大事ない。じきに治る」
私の言葉にカルナさんは軽い笑いを含ませた。気にするな、と彼は言うけれど見ているとなんとか出来ないものかと歯がゆく思う。私は出来ればカルナさんに傷ついてもらいたくないのだ。
私に治せる力があればなぁ、とわたしがぼやき交じりにおもったその時だった。
カルナさんの右頬に添えた私の左手がほのかな光を帯びる。
「これは……」
『!?』
時間にして五秒。淡い光はそれだけの時間で消え去った。微かな驚愕を現すカルナさんだが、私の方が混乱していた。
カルナさんの右頬にあてていた濡れタオルをそっと離す。
カルナさんの右頬の腫れはすっかりと引いていた。カルナさんは己の右頬を手で擦り、首を傾げた。
「痛みがない。治癒したようだな。口の中の傷も癒えている」
『ふぁ!?』
「
『おっとぉ?』
ふむ、と感心するカルナさんに私はロクなリアクションが取れなかった。混乱する私にカルナさんは両肩を掴んだ。
「ドゥルヨーダナに話せば喜ばれるぞ、良かったな」
『……良くない、かな』
「うん?何故だ。あの男は意外と心が広い男だ。――まぁたまに狭量なところもあるかもしれないが」
『そう言うところだよ!』
カルナさんのぼそりと付け足された情報にすかさずツッコミを入れる。王様系は地雷を踏むと物理的に消されるんだぞ!と言いたくなった。
「そうか。ならば仕方ない」
あっさり頷くカルナさんに私は力なく脱力した。
それにしてもと私はぼんやりと思う。
癒しの力か。正直嬉しいが、でも何か私は腑に落ちない気持ちが消えなかった。何か大切な事を見逃したような、そんな焦燥感が。
※ここで最初に邪神()様の言った台詞を振り返ると……。
某にゃる様疑惑の邪神()様なのでクトゥルフ神話TRPGをやった人はあっ(察し)となるのではないでしょうか。
マハーバーラタ編後はFGO編でもやろうかと気の早い事を考えていたりします(え