施しの英雄の隣に寄り添う   作:由月

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オリ主、アルジュナさんと邂逅編。
難産でした。いざ書くと話が二転三転して何度も書き直しました。
アルジュナさん、キャラ崩壊かもしれません(今更)。注意です。

今回はアルジュナさんside(三人称)とオリ主sideに別れています。

前回のすぐ後の時間軸から開始となります。




 

――主人公side――

 

 

 

 

 カルナさんに連れてこられたのは、弓の練習場みたいな場所だった。開けたその場所は大きな建物が隣にあり、明らかに部外者が使用してもいい場所には見えなかった。これ、アレじゃね?インド式道場みたいなアレじゃね?その証拠にちらほら練習する人達が見える。カルナさんが来た途端、静まり返るのが感じ悪かった。刺さる視線のなんと鋭い事か、あからさまな悪意に私はうろたえる。

 

 オロオロする私にカルナさんは不思議そうにする。ややあって、納得するようにカルナさんは頷いた。

 

「オレにはこれが普通だったが、お前には少しばかり厳しいかもしれないな」

 

 なんて悲しい話だろうか。そんな自分が悪いみたいにカルナさんは言う。

 

 しょんぼりしたカルナさんの様子に私は首を横に振る。それでも眉尻を下げるカルナさんにちょっとしゃがんでもらう。カルナさんに内緒話をするように耳打ちする。

 

『大丈夫です。これくらいで負ける私ではありませんよ』

 

 ぱちぱちと瞬きして私の顔を見つめるカルナさんに私は胸を張った。

 

『カルナさん自慢の従者になってみせますから』

 

 めっちゃ使える人になってやんよ!と私は茶目っ気交じりにカルナさんに誓う。それにカルナさんは目を柔らかに細めた。よし、元気出たようで良かった。

 

「オレは果報者だな」

『ははは、期待に応えてみせますとも。ご指導よろしくお願いしますね』

「ああ、オレの出来る限り尽くそう」

 

 カルナさんは早速練習用の弓矢を用意する。

 

「まずは弓を引けるようにならなくてはな。姿勢から始めるか」

 

『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 何故弓か、とカルナさんに聞いてみたところ。戦車を操る御者をやるにしても、弓矢は必須スキルとの事だった。しかも弓は一朝一夕で身につかないので早く始めるに越したことはないそうで。

 

 しばらくカルナさんの指導の元、弓の練習に励んでいたら周囲の空気がざわりと騒がしくなった。それは有名人が来たような、そんな高揚感を含んだ人々のざわめきの気配だ。

 

 思わず私はそちらの方を見る。手を止めれば、カルナさんもそちらも見た。

 

 そこには、ちょっと年かさの中年男性と、FGOでお馴染みのアルジュナさんが居た。すぐに練習場にいた人々に周りを囲まれてた。随分熱烈な歓迎だ。

 

 カルナさんの時との露骨な違いに私は少し顔を顰めてしまう。けれど、すぐに思い直す。こういうのは気にしない方がいい。

 

「あれが、ここの師範のドローナだ。あれでも当代一の武芸者だ。その隣がアルジュナだ」

『なる程。アルジュナさん、カルナさんのライバルでしたっけ?』

「そうなるな」

 

 カルナさんの言葉に頷きながら、アルジュナさん達を眺める。

 

 なんというか、アルジュナさんはにこやかに応対してた。けれどその笑みもどこか無理をしていそうなもので。完璧だからこそどこか歪な笑みだった。周囲の人間はどうやら少しも気づいていない様子だった。

 

 お節介ながらも私はちょっと痛々しいなと思ってしまった。まぁ、きっとアルジュナさんは周囲に慕われているようなので私がそう思うまでもないかと思い直す。

 

「どうした」

 

 心配そうにするカルナさんに私は頭を横に振り、笑みで大丈夫だと伝える。なるべく喋らないようにしないと気をつけよう。

 

 アルジュナさんから視線を逸らすその寸前に、アルジュナさんがこちらを見た気がした。綺麗な黒曜石のようなその瞳が、妙に私の印象に残った。気のせいだと思いなおす。

 

 

 全てを射抜くような、意志の強さを感じる瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

――アルジュナside――

 

 

 

 

 アルジュナは恵まれた人間である。それは客観的に見ても当然の摂理だった。だから、いつからか感じる息苦しさはアルジュナには許されない感情なのだ。誰に言われる事もなくそれが当然だと自身で決めつけた。

 

 

 それはアルジュナにとって未知であった。確かに人間である筈なのに、その存在は周りの風景から切り取られたようにアルジュナには見えた。

 

 

 師のドローナと共にアルジュナが鍛錬場に赴くとそこには宿敵カルナともう一人いるようだった。周囲の歓待を笑みで対応しつつ、珍しい事もあるものだとその人物に目を向けた瞬間。

 

 その時に抱いた感情になんと名を付ければいいのだろうか。白い布を頭からすっぽりと被っていて姿の美醜は分からない。カルナの胸元しかないその小柄さと一回り華奢な体格は頼りなく思わせる。

 

 ただ、布の下から覗くその双眸の輝きが一際美しかった。カルナと同じような青でも全く違う印象を抱くのがアルジュナには不思議だった。

 

 直後、子供にも近しい年頃の男に何を、とアルジュナは思い直す。少しばかり宿敵に近しい人物に興味が湧いただけだろうと。

 

 師や、周りの兄弟弟子達の会話にアルジュナは意識を戻した。

 

 視線を外す際に見えたカルナの彼に向ける優しい眼差しは驚く程温かだった。

 

 

 

 

 

 それが数刻前の事だった。鍛錬場の隅にある大樹の根元に座り込む人物にアルジュナは少し驚いた。カルナの隣にいた、青年いや少年か彼が疲れたように木の幹に体を預けていたからだ。カルナは今は居ないようだった。

 

 アルジュナは彼の目の前まで歩み寄る。彼は俯いているようで、アルジュナからは白い布を被った丸い頭の形しか見えない。

 

 白い布が動く。ちらりと見えた青が驚きに見開かれる。

 

 アルジュナの方も驚いていた。思ったよりも幼い子供だったからだ。これではとても戦ごとなどの荒事には向かない。

 

「先ほどカルナと共に居ましたね」

 

 アルジュナの声に彼は頷く。そのおずおずとした動きは小動物のようなソレで、弱い者いじめをしているかのような罪悪感をアルジュナに抱かせる。

 

「そう怯えなくともいいでしょう。私に貴方に害する意思はありません」

 

 アルジュナがそう言ってやれば、彼の大きな瞳が更に丸くなる。

 

「何か言ったらどうなのですか。――それともこの私と言葉を交わすのも嫌だと?」

 

 この言葉には彼は目一杯頭を振った。こちらが心配になる程必死だ。……にも関わらず無言とはもしや、とアルジュナの脳裏にある可能性が掠める。

 

「もしや、貴方は声が出せないのですか?」

 

 これには彼が難しい顔をした。近いけれど違うのだろうか、惜しいと言わんばかりの表情だ。先程から彼はころころと表情が変わっていて随分表情豊かなようだった。アルジュナにはとても真似が出来ない行為だ。

 

 王族として躾けられたので、感情をある程度抑えられる。その方が色々と都合が良いのだ。今更なんの感慨も抱かないが、やはり子供は素直な方がいいなとアルジュナはふと思った。

 

「ふむ、少し貴方と話してみたかったのですが……」

 

 残念です、特に深く考える事なくアルジュナは気づいたら呟いてた。その呟きを拾い彼がきょとりと目を瞬かせる。

 

「――ッ!」

 

 今、自分は何を言った?話がしたかった?残念?馬鹿な、そんな訳がないだろう。アルジュナはカッと顔が熱くなる思いをする。

 

「――忘れなさい。今のは貴方の聞き間違い、いいですね?」

 

 感じる羞恥を殺しながら、アルジュナは彼に言い聞かせる。それに彼はへらっと笑い頷いた。

 

 知らず、ぐぅとアルジュナの喉が鳴る。ギリッと奥歯を噛みしめなければ己がどんな顔を晒すか分からなかった。

 

 屈辱だ。まずアルジュナが思ったのはそんな感情で。

 

 ついでへにゃりと浮かべられる目の前の笑みに毒気を抜かれた。怒りを露わにするのは大人げない行為で愚かさここに極まるとアルジュナは自制する。

 

 はぁ、とアルジュナは大きく息を吐く。全く我ながら愚かしい。

 

「我ながらどうかしている。――まぁいいです。では私はここで」

 

 踵を返そうとするとくいっとアルジュナの服の裾が掴まれる。犯人は言うまでもなく言葉が話せない少年だ。じろりとそちらをアルジュナが見れば、少年はにこにこと悪意のない様子で立ち上がった。

 

 なんなんだ、全くとぼやき交じりにアルジュナが思っていると、少年は右手をこちらに差し出した。

 

 なんだ、この手は。アルジュナの困惑は相手に伝わったらしく、頷かれた後、アルジュナの右手がその手に握られた。

 

 ぎゅっと少年の手に包まれた右手は温かな温もりに包まれた。見ればその少年の手はアルジュナの手とは違い、労働を知っている手だった。あかぎれと手荒れでその白い手は傷ついて痛々しい。

 

 けれど不思議と不愉快ではない。例えるなら、ふわりと温もりをくれる木漏れ日のような、ささやかな慈愛か。

 

 アルジュナが呆然としているのをお構いなしに少年の手が離れていく。

 

 満足したらしく、うんうんと頷かれる。

 

 そしてするりとアルジュナを通り過ぎる。気づいた時には白い布がぺこりと頭を軽く下げ走り去っていった。

 

 

 気づけば、息が久方ぶりにしやすかった。すんなりと肩の荷が少しばかり軽くなったような錯覚。意味が分からない。

 

 吸って吐いて。深くすれば、不思議と落ち着く感覚。久しく忘れていた安堵の情。大切なことを思い出したような感覚がアルジュナの胸を支配する。

 

 

 

 やはりアルジュナにとっての未知であるようだった。遠ざかった小さな後姿を瞼の裏に描いた。

 

 

 

 

 

 

 

――主人公side――

 

 

 

 

 はぁ、と私は息を整えるように深呼吸する。危ない危ない。

 

 ついアルジュナさんを年下感覚で構ってしまったけれど、はたと私は思い直した。あ、この人カルナさんの弟だけど私の実の弟ではないじゃん、と。それどころか、推定年上の人じゃん!と。私に対する不器用な対応からついついやってしまった。

 

 なんだかアルジュナさんが無理してそうだったから、あの人に邪神()から授かった癒しの力を使ってしまった。癒しの力と言ってもほんの少しでちょっと疲れがとれる程度のものだ。癒しの力は相手に触れていないと使えないのが難点だ。

 

 少しでもアルジュナさんの肩の荷が楽になるといい。アルジュナさんは色々抱え込んでしまうようなので。お節介なのは百も承知、親切の押し売りだ。

 

 でもFGOの一幕を見た者としては少しだけ力になりたいと思ってしまう。

 

 アルジュナさんってめっちゃ慕われているんだよね?確か。FGOのうろ覚え知識が今憎い。周りにアルジュナさんを見てくれる人もいるだろうし。この前のドラウパディー姫とか。

 

 あれ?でも新婚さんの筈なのにアルジュナさんあんまり嬉しそうじゃなかったなぁ。いやいや、会ったばかりの私じゃ気のせいの可能性が高いなと考え直した。

 

「どうした、何か憂いる事でもあったか」

『あ、カルナさん』

 

 考え事をしていたのが悪かったのか、カルナさんが目の前に居たのに気づけなかった。あぶないもうちょっとでぶつかる所だった。

 

『大丈夫ですよ、カルナさんは心配性ですね』

「他ならぬお前の事だからな。――今日はここまでにして帰るか」

『そうですね』

 

 カルナさんの言葉に頷く。

 

 カルナさんに手をとられ、手を繋いだまま家路に着くことになった。あまりに自然な動作だったから私はカルナさんに手を引かれるままだった。

 

 帰り道の沈黙は不思議と重くなく、ただただ温かい気持ちにさせてくれた。

 

 

 これが私の幸せなんだなぁと思う。カルナさんもそう思ってくれるといいけれど。

 

 

 幸せの形って案外難しいのかもしれないな、と今日を振り返り私は思った。

 

 出来れば皆納得できる大団円で終われると良い。私はそう願わずにはいられなかった。

 

 

 




世間一般の幸福の形とそうじゃない幸せの形。
ただ息が楽なだけでも違う見え方もあるんじゃないかなと思いました。

アルジュナさんの葛藤の一端を書いてみたつもりです。まだまだ足りなかったりもしますがそれはおいおい書いていきます。

※ちなみにアルジュナさんはオリ主さんを十代前半の少年として見てました。オリ主はちょっと背が低い設定です。童顔どうこうっていうのは日本人がそう見えるから的なアレです。

オリ主が握手した理由は力を使う為です。オリ主さん実はアルジュナさんをめっちゃ年下扱いしてました(笑)
まぁ彼女にとってはアルジュナさんは義理の弟にあたる訳ですし。FGOという前知識がある分、自然にそう思っちゃったんでしょうね。

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