ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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アニメゾイドでは塩を入れて飲むシーンが良く話題になるコーヒーですが
バトルストーリーではどういう扱いなんでしょうね。


第10話 要塞 前編

――― ZAC 2045年 12月19日 中央山脈 ライカン峡谷付近の共和国軍拠点―――

 

おかしい、数が合わない……何が間違っているんだ?

 

ヘリック共和国陸軍第3師団 第6機動大隊 主任参謀 ケネス・ロバートソン大佐は、自室で頭を抱えていた。アルミニウムで出来た彼のデスクの上には、いくつかの書類が置かれていた。

 

 

それらの書類の内容は、ダナム山岳基地に存在するゾイド戦力についての情報と、現時点でのダナム山岳基地の推定戦力の予想。

 

 

前者の資料の情報源は、共和国陸軍と空軍の偵察部隊がダナム山岳基地に対して偵察作戦を行った結果である。

 

敵地に分け入り、その中にある、分厚い警戒網が存在し、帝国軍の大部隊が集結している拠点から情報を持ち帰ってくる彼ら偵察部隊の生還率は、お世辞にも高いものではない。

 

部隊ごと未帰還という悲惨な結果も珍しくは無かった。

 

書類に記されているのは、前線の偵察隊の将兵が文字通り命懸けで齎してきた情報である。

 

ちなみに派遣された偵察部隊の全てがダナム山岳基地に対して偵察を行うわけではなく、ダナム山岳基地攻略作戦の際、ダナム山岳基地に増援を送り込む可能性のある他の基地に対しても偵察していた。

 

またダナム山岳基地を出入りする輸送部隊の規模や増援の数等も記録されている。

 

 

 

彼と同僚達が行った戦力分析では、ZAC2045年 12月19日現在の時点でダナム山岳基地には、大型ゾイドからアタックゾイドまで含めて約400~590機のゾイド戦力がいると考えられている。

 

だが、デスクに広げられた書類に記された、航空偵察部隊からの情報は、明らかにそれを上回る戦力が基地内に存在していることを教えていた。

 

 

それらの書類………ここ数週間の偵察隊の情報が正しければ、歩兵支援用の超小型ゾイドであるアタックゾイドも含めば、800機から1000機があの基地の内部に存在している可能性もある。

 

 

これが正しければ、ダナム山岳基地の周囲の敵戦力も含めれば、最悪の予想では、1700機以上の戦力が共和国軍を待ち受けていることになる。

 

 

 

もしも、こちら側の予想を超える戦力がダナム山岳基地に存在していた場合、次期作戦の第1段階である〝包囲網〟の形成にも支障を来す可能性があった。

 

 

 

「やはり、最悪のケースを想定すべきか……。!」

 

 

ケネスがそう呟いたのとほぼ同時に、空腹に耐えかねた胃袋が悲鳴を上げるかの様に彼の腹が鳴った。

 

 

「栄養補給……するべきか。」

 

その情けない音に、昨日の夕方以降、今日の昼まで何も食べていないことを思い出した金髪の青年参謀は、デスクの隅に置かれていた食物に目をやる。

 

彼の視線の先――――デスクの隅には、紙パック入りの合成ミルクコーヒーと皿に置かれた2つのサンドイッチが寂しげに置かれていた。

 

ケネスは、サンドイッチを紙パック入りの合成ミルクコーヒーで嚥下しつつ、1人黙々と独自の戦力分析を続けた。

 

 

 

 

ケネスのダナム山岳基地に存在する敵ゾイドの数に対する疑問――――――その問いに対する答えを知る人間は、彼と同じ中央山脈に今、1人だけ存在していた。

 

だが、ケネスが男から答えを聞き出す術はないし、その男も口を開くことはないだろう。何故なら、男は、彼の所属する組織と敵対する組織の幹部であり、その肉体と精神は、遥か北方の敵地にいたからである。

 

 

 

 

――――――――――――ダナム山岳基地 司令官室―――――――――

 

 

 

 

中央山脈北部に建設されたダナム山岳基地は、ゼネバス帝国領  トビチョフ市とヘリック共和国領 ウィルソン市を繋ぐ陸路の間にあるこの山岳基地は、中央山脈に存在する最大の帝国軍基地である。

 

 

基地施設を囲む六角形に張り巡らされた2重の防御壁は、堅牢であり、特に内側のものは、マンモスやゴジュラスの肉弾攻撃にも耐える防御性能を持っていた。

 

更にその外側には、多数のトーチカが建設され、迫りくる敵の大部隊に痛撃を与えられるように配置されており、見た目にも難攻不落の印象を見る者に与えている。

 

そして基地内には、数百を超えるゾイド部隊が機動戦力として存在していた。この堅固な要塞は、中央山脈北部の輸送ルートである北国街道の守りの要と言えた。

 

ZAC 2045年 12月1日には、第23機甲師団師団長 クルト・ヴァイトリング少将が守備隊指揮官に就任した。

 

 

そして、ZAC 2045年 12月19日 現在、この基地に配置されたゼネバス帝国将兵約3万人の頂点に立つ人物は、分厚いコンクリートと対空火器、防弾ガラスに守られた司令室の椅子に腰かけていた。

 

 

 

 

 

 

装飾の一切ない、机や椅子等必要最低限な家具だけが存在する殺風景な部屋………それは、機能だけを重視した場所であり、この場所を利用している人間の性格が窺いしれた。

 

防弾ガラスを張った窓から降り注ぐ陽光がその下にいる人間を照らす。

 

その柔らかな光を浴びている男は、机の上に積まれた書類に目を通しては、それに判子を押して隣の書類の山に加えていく。

 

 

銀髪の初老の男は、約1時間近くその動作を繰り返していた。単調な動作の繰り返しは、工場の機械を思わせた。

 

15分後、漸く最後の一枚が、決裁済みの山に乗せられた。

 

 

ダナム山岳基地の司令室の机の上に置かれた書類の決裁を漸く終えた男は、思わず一息吐いた。

 

口髭を生やした男の顔には、職務を終えた安堵がにじみ出ていた。

 

彼の整えられた口髭と頭髪は上品な印象を与える。

贅肉の欠片も感じさせない均整のとれた体躯は、ゼネバス帝国軍の将官用の軍服に包まれていても、彼が戦士であることを雄弁に物語っていた。

 

 

彼の名は、クルト・ヴァイトリング少将……このダナム山岳基地の司令官である。第23機甲師団の師団長でもある彼は、ここ数日書類の山と1人格闘していた。

 

 

軍隊に限らず、組織と言う物は、地位が上がれば上がる程、その両肩に圧し掛かってくる責任と書類処理の量も増えるのは、組織に所属する人間にとっては、常識である。

 

だが、それでもこの書類の量は何とかして欲しいとヴァイトリングは思っていた。

 

「ブラント、コーヒーを頼む。合成品ではなく、本物の奴でな。」

 

書類の山を片付け終えたヴァイトリングは、微笑みを浮かべつつ、当番兵に命じた。

 

「はっ!」

 

 

左に控えていた当番兵のブラント・レイラント軍曹は足早に隣の部屋に消えていった。

 

このゾイド星(惑星Zi)に地球人が飛来し、先進技術や異星の文化をこの惑星の住民に伝え、軍事を中心にゼネバス帝国とヘリック共和国の両国に影響を与えたことは、今では中央大陸の人間で知らぬ者は殆どいない。

 

この惑星の住民の生活に影響を与えたのは、地球人だけでなく、グローバリーⅢに載せられていた動植物も同様であった。

 

これらの本来なら移民先の惑星の土に植えられる筈だった数多くの動植物もゾイド星に伝わった。

 

地球で嗜好飲料として長い歴史を誇るコーヒーの原料であるコーヒー豆もその1つであった。独特の香り、カフェインを成分に含み、眠気覚ましとしても有効なこの飲料は、ゾイド星の住民の間にも爆発的に広まった。

 

 

特に昆虫型ゾイドを使役する虫族や中央山脈、山脈付近の森林地帯を主要な居住地域とする鳥型ゾイドを使役する鳥族等の民族は、樹液を用いたコーヒーに似た嗜好飲料を飲用していた事から中央大陸の住民でいち早くこの異星由来の飲料を受け入れた。

 

 

ZAC2034年には、ゼネバス皇帝が前線視察の際に現地軍の司令官とコーヒーを飲用したことが記録されている。

 

ヘリック共和国でも、ZAC2037年以降、会議室で将校が飲用する飲物はコーヒーが大勢を占めている。

 

しかし、その需要に答えられる程の量のコーヒー豆を生産することは、未だに出来ていなかった。

 

現在戦時下にあることもさることながら、地球の植物を栽培することは、このゾイド星では困難であった。

 

幾つかの穀物や食品作物は、食糧事情を改善する目的で両国で積極的に導入されたが、コーヒーや茶等の嗜好品は後回しにされた。

この様な事情もあって、ZAC2045年現在、その大半が合成品や他の植物を材料とする代用品である。

 

本物の豆、特に所謂地球でブランドものとされていたもの……を使ったものは、極めて高価であり、飲めるのは資産家や政治家、高級軍人といった限られた者達だけであった。

 

 

 

「仕事の後のコーヒーは格別だ。」

 

 

椅子に腰かけながら、初老の司令官は、休憩時にコーヒーを飲むのを楽しみにしていた。

 

合成品や代用品ではない本物の豆を挽いて作られるコーヒー……それを飲むのが、この男の数少ない贅沢であった。

 

 

 

彼が師団長を務める第23機甲師団は、アタックゾイドも含め、980機のゾイドと後方要員を含め約2万5000名の兵員を有する。

 

このダナム山岳基地には、第23機甲師団から第1連隊が派遣された。この連隊は、ダナム山岳基地防衛のために第23機甲師団の所属戦力から抽出された部隊であり、三分の一のゾイド戦力を有する。

 

 

兵員の面でも、第23機甲師団の選りすぐりの精鋭が集められていた。

 

 

 

また彼は、敵にこの基地に駐留する戦力を過小評価させる目的で、幾つかの偽装を行っていた。

 

その多くは、突撃部隊が運用するモルガを輸送機に転用し、物資ごとダナム山岳基地に輸送させるという作戦の様に地味な物だったが、比較的大がかりな物もあった。

 

これらの偽装工作で最大の物は、ゾイドを分解し、輸送部隊のコンテナに混ぜて輸送するというやり方であった。

 

通常、戦闘用ゾイドは、デスザウラー等、余程の大型ゾイドでない限りは、戦場までそのままゾイドが移動する形で運ばれる。

 

今回、ヴァイトリングは、小型ゾイドを含むダナム山岳基地に戦力として送られる予定の部隊のゾイドの一部を途中の友軍基地で解体し、補給物資を運ぶコンテナに搭載して輸送部隊にダナム山岳基地まで移送させ、基地で組み立てるという方法で、偵察部隊の眼を欺こうとしていた。

 

このやり方は、共和国軍の偵察部隊の眼を欺くのに最適であったが、輸送部隊が襲撃を受けた場合、ゾイド戦力が何もできずに壊滅するリスクを抱えていた。特に共和国軍のシールドライガー部隊とそれを援護するコマンドウルフの部隊は、自慢の機動性と険しい山岳地帯でも行動可能な特性により、神出鬼没で恐れられた。

 

特に大型ゾイドであるシールドライガーは、補給部隊にとって最も恐るべき脅威であった。

 

大型ゾイドであるため、中型、小型ゾイドが中心であることが多い護衛部隊では、シールドライガーには、歯が立たず、更に帝国側が大型ゾイドを複数有する部隊で救援に向かった時には、既に襲撃は終わっているということも少なくなかったのである。

 

共和国軍のゲリラ部隊の脅威に対して、ヴァイトリングは、大型ゾイドを含む部隊を輸送部隊の護衛に付ける等の護衛部隊の増強と機動性に優れるサーベルタイガー、ヘルキャットを保有する機動部隊に勢力圏内を監視させるといった策で対処していた。

 

彼が、ここまでしてダナム山岳基地の自軍の戦力を過少に見せようとしていたのは、次の戦場がこの基地だと確信していたからこそである。

 

 

約一か月前からヘリック共和国軍は、航空、地上を問わず、偵察部隊を盛んに派遣してダナム山岳基地に存在する防衛戦力を探っていた。

 

ヴァイトリングは敵の偵察を阻止出来ないと判断し、ならば敵の偵察と戦力分析を逆手に取ろうと考えた。これらの偽装作戦は、共和国側の戦力分析を狂わせ、来たるべきダナム山岳基地を巡る決戦で自軍の勝利を確実にするために考えられた。

 

 

戦場でゾイドを動かし、銃弾を撃つだけが戦争ではないのであるということを、彼は知っていた。

 

 

「司令官閣下、コーヒーをお持ちしました。」

 

ドアが開き、両手に金属の盆を持った亜麻色の髪の若い兵士が現れる。盆の上には、白いの陶器で出来たカップが載せられていた。そのカップの上からは、白い湯気が立っていた。

 

「ありがとう。」

 

ヴァイトリングは、当番兵から褐色の液体で満たされた陶製のカップを受け取る。

 

そしてコーヒーを一口飲み、変わらぬ芳醇な味を楽しんだ。

 

これは、前線での彼の束の間の休息の楽しみ方だった。

 

 

事務処理と前日の作戦準備で身体に蓄積された疲れが一気に退き、それに代わって活力が回復していくのを感じた。

 

 




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