ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

12 / 27
戦闘?シーンがあります


第11話 要塞 中編1

 

中央山脈北部に存在する帝国軍基地で最大の規模を誇るダナム山岳基地には、軍事施設だけでなく、訓練施設をも堅牢な城壁の内側に内包している。

 

 

ゾイドを操縦するパイロットの技量を維持する目的で設置されたこの施設は、格闘訓練や射撃訓練等を行うための設備や区画が設けられていた。

 

 

施設の中には、大型ゾイド同士が模擬戦闘を行える程の地下演習場等もあったものの、その大半は、地球人の技術導入によって実現したコンピュータ・グラフィックス式の操縦シュミレーターであった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はあっ」

 

ダナム山岳基地守備隊のサーベルタイガー乗りの一人 イルムガルトは、愛機サーベルタイガーのコックピットに酷似した空間にいた。

 

彼女は、仮想空間を駆ける愛機 サーベルタイガーを操縦していたのである。

 

桜色の唇からは、荒い吐息が漏れ、汗で濡れたオレンジ色の髪は、銅色の光沢を放っている。

 

「なんて速さなの……流石は高速部隊の指揮官!」

 

現在の彼女は、ある敵と戦っていた。彼女の敵機は、同型機――――サーベルタイガー。実戦で友軍機であるサーベルタイガーと交戦する機会等無きに等しいが、戦場に絶対等無いということを彼女は十分に認識していた。

 

イルムガルトは、モニターに表示された敵機に照準を合わせ、ビーム砲を連射する。

 

敵のサーベルタイガーは、軽やかな動作でそれらの攻撃を回避する。

 

「!!」

 

そして、今度はイルムガルトが攻撃を受ける番だった。

 

敵のサーベルタイガーは、イルムガルトのサーベルタイガーに向かって突進する。

 

イルムガルトのサーベルタイガーは、背中の2連装ビーム砲を連射するが、敵は難なくその攻撃を回避する。

 

 

やられる!反射的にイルムガルトは、機体を横に跳躍させる。

 

 

彼女の判断は、コンマ数秒の差で間に合った。

 

青白く輝くレーザーサーベルがイルムガルトの右横を横切った。

 

 

右肩装甲に微かに傷が刻まれた。

 

 

更に敵機は、イルムガルトのサーベルタイガーに猛攻を仕掛ける。

 

 

3連衝撃砲の3連射でイルムガルトのサーベルタイガーを牽制しつつ、軽やかに全重量80tの機体を跳躍させてイルムガルトのサーベルタイガーに飛び掛かる。

 

 

それは、狩人の手から放たれた投槍の様に鋭い攻撃であった。

 

 

並みのパイロットなら瞬時にコックピットを引き裂かれるか、地面に叩き伏せられて至近距離から2連装ビーム砲から発射される高熱の矢で撃ち抜かれていたに違いない。

 

 

「!!」

 

イルムガルトは、即座に操縦桿を左に倒し、機体を真横に跳躍させて回避を試みた。イルムガルトのサーベルタイガーのすぐ横を敵機の機影が掠める。

 

 

敵機は反転し、イルムガルトのサーベルタイガーに向けて背部の2連装ビーム砲を放った。イルムガルトのサーベルタイガーは即座に回避する。

 

だが、完全には回避できず、左後足を熱の矢が掠めた。即座に機体ダメージを告げる警報音が鳴り響いた。

 

「くっ!(さっきと同じ戦法なのに、どうして反撃できないのよ)」

 

イルムガルトは、敵機の素早さに驚くと共にそれを迎撃できない自分に歯噛みする。特に、敵が跳躍してから突っ込んでくる戦術を2回も取ってきた時に2回とも回避する事しか出来なかったのは、ショックだった。

 

 

イルムガルトは、対策として敵が2回も同じ戦術を取ってきた際には、2連装ビーム砲とその上の全天候自己誘導ミサイルランチャー、接近戦用ビーム砲を叩き込んで撃破するつもりだった。

 

 

だが、実際には、彼女は前と同じように横っ飛びで回避することしか出来なかった。

 

 

相手の予備動作を感じさせない素早い攻撃は、狙いを付けて射撃する暇すら与えてくれなかった。

 

 

そんな彼女の焦りを感じ取ったかの様に敵のサーベルタイガーは、レーザーサーベルを輝かせてイルムガルトのサーベルタイガーの左後足に噛付こうとする。

 

イルムガルトのサーベルタイガーは、レーザーサーベルが左後脚部に接触する寸前で、左後足で蹴りを見舞った。

 

サーベルタイガーの第2の格闘兵装であるストライククローは、後足にも装備されている。その鋭さは、前足に装備されているものとなんら相違ない。

 

 

それにサーベルタイガーの時速200kmを叩き出す強靭な脚力が加われば、破壊力は絶大である。

 

そのまま敵のサーベルタイガーが突っ込んでいれば、敵の頭部はイルムガルトのサーベルタイガーの繰り出した後足蹴りに粉砕されていたに違いない。

 

だが、敵機は、寸前で攻撃を回避する。

 

「!」

 

イルムガルトも攻撃が当たるとは考えていなかった。

 

彼女にとって重要なのは、不利な状況を好転させる事。敵機が引き下がった隙を突き、イルムガルトのサーベルタイガーは、ドリフトターンで方向転換、敵機に相対する。

 

敵のサーベルタイガーは大きく跳躍し、右前足のストライククローを振り上げて襲い掛かった。

 

 

「今度こそ!」

 

 

イルムガルトは、上空から降下して来る敵に向けて背部に2門ある接近戦用ビーム砲を連射した。

 

空中にいる敵機は、イルムガルトに対して下腹を無防備に曝していた。

 

その内部には、全てのゾイドの心臓部であり、急所でもある生体核(ゾイドコア)が収められている。

 

サーベルタイガーの下腹部の装甲は、3連衝撃砲が装甲替わりになっているものの、他の部分に比べて薄かった。

 

その為、サーベルタイガーの接近戦用ビーム砲でも容易く撃ち抜く事ができた。

 

イルムガルトの眼には、仮想空間上の空中で滞空している敵機の姿は、無防備に見えた。

 

 

だが、イルムガルトの見ている前で、敵のパイロットは、空中で機体を捻る事で攻撃を回避した。

 

「なっ!」

 

サーベルタイガーの無防備な下腹を抉る筈だった光弾は、エネルギーの浪費に終わった。

 

敵のサーベルタイガーは、着地すると同時に2連装ビーム砲と三連衝撃砲を連射する。

 

イルムガルトは、それらの攻撃を回避し、一部は、接近戦用ビーム砲と2連装ビーム砲で迎撃して叩き落した。

 

だが、それは牽制だった。サーベルタイガーは、彼女の機体が射撃の為に動きを止めた隙を衝き、一気に懐に飛び込む。

 

サーベルタイガーが、イルムガルトのサーベルタイガーの頭部にストライククローを振り下ろす。

 

イルムガルトは、操縦桿を引き倒し、その一撃を回避した。

攻撃を回避した満足感に浸る暇すら与えないとばかりに、敵は、更にストライククローとレーザーサーベルで攻め立てる。

 

 

「そこっ!」

 

イルムガルトのサーベルタイガーも反撃する。突っ込んでくる敵機目がけて左のストライククローを振るう。

 

直撃すれば、サーベルタイガーのコックピットを頭部諸共破壊できる一撃―――――――しかし、敵機は、頭部を少し動かすだけで回避した。

 

 

敵のサーベルタイガーがレーザーサーベルでイルムガルトの機体の胴体を狙う。

 

「くっ!!」

 

イルムガルトは、咄嗟に機体を後ろに跳躍させて回避する。相手のサーベルタイガーも無理に追撃せず、後ろに下がった。

 

 

 

2体の赤い剣歯虎は、距離を取って睨み合う。

 

 

どちらも先程見せた激しい動きとは打って変わってまるで命の無い彫像に変じたかの様に動かない。

 

 

先に隙を見せた方が敗北する―――――――その事をイルムガルトも、彼女と相対している敵機のパイロットも十分に認識していた。

 

イルムガルトは、紅玉の色をした双眸でモニター上に表示された敵機の姿を睨み据える。彼女の姿は、遠距離から獲物を観察する狩人を思わせた。

 

 

同じく、向こう側の敵パイロットも彼女の動きを観察していた。

 

その時、イルムガルトは、敵のサーベルタイガーの右足首が微かに動くのを見た。

 

 

来る! 

 

サーベルタイガーが攻撃に移る時、右足が微妙に動く。

 

もし共和国軍が、サーベルタイガーと同様のゾイドを投入してきた時、その新型ゾイドも同じモーションを取ってくる可能性が高いから忘れるな―――――士官学校時代に教官に教えられた知識を思い出し、彼女は敵機が攻撃を仕掛けてくることを察知した。

 

 

「そこよ!」

 

イルムガルトの予想は見事に的中し、敵のサーベルタイガーは、跳躍し、彼女と彼女の相棒――――敵と同じ形状のトラ型ゾイドに弾丸の如く向かってきた。

 

 

イルムガルトはその突進を軽やかに回避し、敵機の予想進路上に向けてサーベルタイガーの背部の2連装ビーム砲を3連射する。

 

 

敵機は、彼女の予測通りの場所―――――先程発射されたビームが通過する場所に突進した。

 

その攻撃は、敵の方から弾に向かって来ている様な物で、普通に考えれば敵に回避する手段はない。

 

 

しかも全弾命中すれば、撃破は免れない。

 

イルムガルトは一瞬だけ、自身の勝利を確信した。だが、敵のサーベルタイガーは、その攻撃を容易く回避する。

 

 

敵は、自身に向かって来るビームを、ビームに命中する寸前に機体を横滑りさせることで回避したのである。

 

その動きはイルムガルトには、一瞬で移動したかのようにさえ見えていた。

 

「相変わらず、なんて動きなのよ!あの人……!!」

 

 

敵の素早い動きにイルムガルトは、そう叫んだ。眼の前の〝敵〟とは、戦場〝以外〟の場所で幾度となく相対し、1人のゾイド乗りとして技量をぶつけ合って来た。

 

イルムガルトの脳裏にゼネバス帝国軍のサーベルタイガーパイロットになる事を志し、同じ祖国防衛の理想を胸に抱いた仲間達と共に厳しい訓練に明け暮れた日々の事が蘇った。

 

モニターに映るサーベルタイガーとその乗り手は、あの遠い日と同じ鮮やかな動きを見せていた。

 

 

…………だが、イルムガルトは、あの頃とは違う。

 

 

士官学校にいた当時は、実戦経験を知らない未熟なパイロット候補生に過ぎなかったイルムガルトも、今では、相棒であるサーベルタイガーと共に幾度も前線で実戦を経験し、高速ゾイドのパイロットとして成長を遂げていた。

 

敵のサーベルタイガーがストライククローでイルムガルトの機体に襲い掛かる。

 

彼女の狙いは、頭部コックピット。

 

実戦なら、相手を一撃で仕留める技である。

 

「貰ったわ!」

 

イルムガルトのサーベルタイガーは、大きく跳躍。

 

 

相手のサーベルタイガーの鋭い爪が空しく虚空を切る。同時にイルムガルトの機体が敵の後ろに着地した。

 

 

イルムガルトのサーベルタイガーが敵のサーベルタイガーの背後を取った。

 

「当たれぇ!」

 

イルムガルトは、着地と同時に背部2連装ビーム砲の発射ボタンを連打した。

 

数発のビームが発射され、2発が、敵のサーベルタイガーの周辺に着弾した。

 

最後の1発は、サーベルタイガーの背部に命中する弾道だったが、敵機は後ろに眼があるかの様な動きでその攻撃を回避した。

 

敵機は、反転するのを諦め、そのまま前方の空間へと疾駆した。

 

後ろにいるイルムガルトのサーベルタイガーとの距離を出来る限り取ってから反転するつもりなのだろう。

 

 

そんな彼女の予想は、的中していた。イルムガルトの機体に後ろに付かれた敵機は、振り切ろうと加速する。

 

だが、折角のチャンスを見逃す程、イルムガルトは、未熟でもお人よしでもなかった。

 

「逃がさない!」

 

イルムガルトは、愛機と同じ形状をした敵機を急いで追撃する。

 

高速ゾイド同士の戦闘は、地球の戦闘機の戦闘法に似ている――――――特に背後を取った者が有利に立つという面は、最大の共通点と言えた。

 

彼女の敵手たるサーベルタイガーのパイロットも唯追いかけられる獲物に甘んじるつもりはなかった。

 

相手の機体の隙を見つけては、その後ろを取ろうとする。

 

「させないっ!」

 

イルムガルトも、位置関係上の優位を奪われまいと敵の背後を追尾する。2機の赤い虎は、互いの尻尾を追いかけ合う。

 

その姿は、さながら犬同士の喧嘩の様でもあり、ドッグファイト――――――(犬の戦い)という形容が最適だった。現状は、相手への攻撃が可能なイルムガルトが優位であった。

 

 

これは、サーベルタイガーの装備火器の配置が関係している。

 

サーベルタイガーに配置された火器の殆どは正面を向いており、ある程度の旋回が可能な背部の2連装ビーム砲も、背後への旋回は不可能であった。

 

その為、自機の後方に敵がいる場合は、即座に方向転換して迎撃するのが定石である。

 

しかし、同程度の機動性を有する敵を相手にする場合、普通に反転したのでは、撃破されるリスクがある。その為、相手との距離を取るか、相手の隙を衝い後ろに回り込むという手段を取る必要があった。

 

 

「!!(まずは、尻尾を潰す!)」

 

 

彼女が狙うのは、サーベルタイガーの尻尾―――――――バランサーとしての役目を持つ部位である。

 

高速移動時の姿勢制御にも役立つ尾部を喪えば、機動性が持ち味の高速ゾイドにとっては致命的である。

 

イルムガルトは、モニター上で上下に揺れる敵機の一部をじっと睨み、チャンスの到来を待った。不意に敵のサーベルタイガーの速度が低下した。

 

彼女のサーベルタイガーは、すかさず畳み掛ける。銀色の牙にレーザーを纏い、敵の尻尾に喰らい付かんと突進する。

 

 

「捉えた!」

 

イルムガルトのサーベルタイガーのレーザーサーベルが食い込む寸前、相手のサーベルタイガーは、尾部の高速キャノン砲を連射する。

 

サーベルタイガーの尾部側面の左右に1門ずつ、装備された火器 高速キャノン砲は、本来は撤退時の攪乱用や背部の敵への威嚇に用いる火器である。

 

しかし、機体の後部に装備されており、レッドホーンの尾部銃座の様に専属の砲手が存在していない為、命中率は低い。

機体が激しく揺れる高速移動中の場合は尚更である。

 

 

だが、イルムガルトが追撃する敵機は、正確にイルムガルトのサーベルタイガーに銃撃を浴びせてきた。

 

イルムガルトのサーベルタイガーの左耳……サーベルイヤーと呼ばれる優れた音響センサーに銃弾が命中し、機能停止に追い込んだ。

 

「くっ!」

 

正確な射撃の前にイルムガルトは、追撃を断念した。

 

イルムガルトのサーベルタイガーが減速したのを見計らったかの様に敵機は、左前足を軸にして反転した。

 

「凄い!」

 

思わずイルムガルトは、驚嘆の声を漏らしていた。彼女の声色には、敵機のパイロットへの尊敬の感情が含まれていた。

 

〝実際の機体〟でもここまで見事な反転運動を見せるのは、至難の業だろう。

 

 

同時に自分が手加減されていたことにも気付いた。敵のパイロットは、敢えてイルムガルトに追撃されるのを選択したのだと。

 

 

驚嘆するイルムガルトの心境等、一切斟酌することなく、敵のサーベルタイガーは、反転と同時にイルムガルトの機体に襲い掛かる。

 

敵のサーベルタイガーは、一瞬動きの止まったイルムガルトに容赦なく爪と牙で攻撃を仕掛けた。

 

 

 

イルムガルトも咄嗟に応戦するが、それは些か手遅れだった。

 

 

 

イルムガルトのサーベルタイガーの左前脚のストライククローの横薙ぎを右前脚のストライククローで受け流すと、敵機は左前脚のストライククローをイルムガルトのサーベルタイガーに振るった。

 

 

イルムガルトのサーベルタイガーの右肩に特殊合金製の爪が突き刺さった。

 

そのままサーベルタイガーは、イルムガルトの同型機の頭部コックピットをレーザーサーベルで狙う。

 

「?!」

 

 

しまった!そう彼女が悔悟の言葉を桜色の唇から迸らせた時には、既に正面モニター一杯に獰猛さをむき出しにしたサーベルタイガーの鼻っ面が迫っていた。

 

 

次の瞬間、敵のサーベルタイガーのレーザーサーベルがイルムガルトのサーベルタイガーの頭部に突き立てられていた。

 

データ上の彼女の肉体は、同じくデータ上の灼熱の刃によって真っ二つに切り裂かれた。

 

 

 

相手の勝利とイルムガルトの敗北を告げる戦闘終了のブザー音が、イルムガルトの耳には厭に大きく聞こえた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。