ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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ZAC2039年のバレシア基地陥落後、国土と共に恐らく軍備の大半を一時的に失ったであろうゼネバス帝国軍が2年後にいかにかつて以上の戦力を手に入れたのかは個人的に疑問でした。
ディメトロドン、ブラックライモス、ウォディックといった新型ゾイドも兵員がいなければ戦力化できません。
各地の地下拠点に潜伏した兵士がいたとしても、それまでの戦いで大勢のパイロットを喪っているのは確実です。
パイロットという養成に時間のかかる人員をどうやって短期間で補充し、失地回復を遂げ、
ヘリック共和国を再び脅かす軍備を得ることが出来たのか・・・この話は、その疑問に対する個人的な考察、答えがあります。
感想とか疑問があればコメント欄でお願いします
では本編です


第12話 要塞 中編2

 

 

 

「また、負けてしまったわ…」

 

正面モニターが暗転し、オレンジの髪を三つ編みにした紅玉の双眸の女性パイロットは、現実に引き戻された。

 

 

「実機だけじゃなく、シュミレーターでも勝てないなんて……」

 

 

 

模擬戦闘に敗北したイルムガルトは、操縦シュミレーターから出た。

 

が今いる部屋――――――仮想訓練室の室内には、彼女が先程まで入っていたのと同じ長方形の黒い箱がいくつも並び、それらの箱は、それぞれ無数のケーブルで他の箱と繋がっていた。

 

 

この部屋が仮想訓練室という奇妙な名称で呼ばれているのも、黒い箱………操縦シュミレーターが置かれているからである。操縦シュミレーターの存在は、今のゼネバス帝国軍には、欠かせない物であった。

 

 

コンピュータによる仮想空間で戦闘を再現する操縦シュミレーターは、実機での模擬戦闘が頻繁に出来ない最前線の基地では、用いられることが多かった。

 

 

この黒い箱の様な形の装置こそ、一度は壊滅したゼネバス帝国軍の再建の影の立役者であった。

 

 

 

 

 

ZAC2039年にヘリック共和国に敗北し、中央大陸の全領土と軍事力の大半を喪失したゼネバス帝国が、脱出先の暗黒大陸で失地回復の為の軍を編成しようとした際に真っ先に問題になったのは、ゾイドのパイロットの確保であった。

 

それまでの練習機のみに頼ったパイロット養成方法では、効率が悪く、軍備再建に間に合わないと考えられた。

 

しかも、当時国土奪還作戦に向けて開発されていた新型ゾイドは、練習機型さえ用意できる余裕がない機体さえあった。

 

この問題を解決したのが、操縦シュミレーターによる促成訓練である。

 

操縦シュミレーターは、従来の練習機を用いた訓練には劣るものの、ゾイドを動かす必要がない事や訓練時の事故により、貴重なゾイドや人材を失うリスクがないという利点があった。

 

バレシア湾から上陸したゼネバス帝国軍が、軍を再び元の規模に拡大するにあたって短期間でディメトロドンやブラックライモス、レドラー等の新型機を含むゾイドのパイロットを確保できたのは、この装置に依る所が大きかった。

 

「やはり、シュミレーターでは限界があるの?やっぱり本物のゾイドでないと、実戦には近づけないわ……それに」

 

 

最新技術の粋を集めた操縦シュミレーターと言えど、実戦経験には劣る。特にゾイド操縦において最も重要なゾイドとの同調性が再現できないのが最大の問題であった。

 

 

金属生命体 ゾイドとは、戦車や戦闘機と異なり、命を持った存在なのである。

 

ゾイドパイロットにとって愛機の命の息吹が感じられないのは、違和感があった。

イルムガルトもその1人であった。

 

 

「……本当に……なんて暑さなのよ」

 

また操縦シュミレーターの中は、熱が籠り易いことで有名だった。

 

今回も、イルムガルトの凹凸の少ない体型を包む黒いパイロットスーツの下は、汗でぐっしょり濡れていた。

 

 

「……(後でシャワーを浴びないと。)」

 

 

汗が身体を濡らす不快な感覚に辟易しつつ、イルムガルトはそんなことを思った。

 

 

「少し見ない内に技量を上げたな、イルムガルト。」

 

 

親しみを含んだ声が彼女の頭上に降ってくる。

 

 

「ボウマン中佐!」

 

 

イルムガルトは、声の主を見て、思わず声を出した。彼女の口調には、男への強い尊敬と、ある種の過去への懐かしさも含まれていた。

 

 

紅玉の様に美しい彼女の赤い瞳は、目の前の人物への尊敬に輝いていた。

 

先程までイルムガルトが籠っていたシュミレーターの隣には、大柄の男性士官が立っていた。

 

 

筋肉の付いた長身と彫りの深い顔立ちは、武神の彫像を思わせる。下顎の傷と顎鬚は、鋭い眼光と大柄の体格と相まって古豪という印象を見る者に感じさせた。

 

アルベルト・ボウマン中佐は、高速ゾイドで編成される部隊を率いる第1連隊高速部隊の指揮官を務めていた。

 

そして、この大男は、先程の模擬戦闘でのイルムガルトの対戦相手であった。

 

彼は、第23機甲師団 高速部隊の指揮官に着任する以前、高速機動部隊のサーベルタイガー乗りとして戦功を建てたエースパイロットである。

 

 

 

また一時期は士官学校のパイロット養成課程で訓練教官を務め、ゼネバス帝国の高速部隊の人材育成に貢献してきた。

 

 

イルムガルトも士官学校時代は、彼によってパイロットとして鍛えられ、サーベルタイガーの操縦のイロハを叩き込まれた。

 

 

 

ボウマンの訓練は、男だろうが、女だろうが、関係なしに平等に容赦なく、厳しい物であった。

 

 

だが、彼は、唯厳しいだけではなかった。

 

訓練生1人1人のパイロットとしての操縦技能の特徴を分析し、それに合ったアドバイスを与えた。

 

彼は、教官として預かった訓練生達の人命を守ることも忘れなかった。

 

 

 

 

「人的資源でヘリック共和国に劣る我が国においてパイロット適性を持つ人間は、ウラニスク山のルビー(ZAC2045年現在、ゼネバス帝国の一大工業地帯として知られているウラニスク工業地帯の近郊にある山で産出されるルビー。透明度の高さと色鮮やかさから英雄が傷口から流す鮮血にも例えられた。産出量も少ない為、大陸西部では、貴重な物の例えにも使われている。)に等しい。」という持論を持っていたボウマンは、出来る限り、訓練の安全性を確保して実機を使用した訓練に付き物の事故の危険性を減らすことを努力した。

 

 

訓練生に十分な休息を取らせ、睡眠と栄養補給を怠らない様に指導し、彼らが使用するゾイドの整備状態を良好に保ち、演習場の安全確認を徹底した。

 

またゾイドの整備状態や訓練生の健康状態が優れない場合は、即座に訓練を中止した。これらの努力の成果は、事故率の低さとなって現れた。(ボウマンが教官を務める訓練部隊と、それ以外の訓練部隊の事故率と比較して、2倍近く低い物であった。)

 

 

 

また、彼は、よく教え子達の相談にも乗った。

 

イルムガルト自身、幾度も士官学校時代、個人的な事からゾイドの操縦技術に至るまで教官に相談した。彼女にとってボウマンは、イルムガルトの師であると共に年の離れた兄、あるいはもう一人の父親の様な存在であった。

 

 

「腕を上げたなイルムガルト大尉、士官学校で教えていた時とは、まるで別人で驚いた。」

 

「いえ、自分は、まだまだ未熟者です」

 

「行き過ぎた謙遜は、自分自身を貶めているのと変わらないぞ。君は、あの頃よりもずっとゾイド乗りとして成長している。予測射撃の狙いも精確だった……後一瞬反応が遅れていたら、負けていたのはこちらだった。そして何より移動射撃の腕も上がっている。……私が教えていた頃の君は、移動射撃の技量は、お世辞にも高いとは言えなかったからね。」

 

 

そこまで言うと、精悍なボウマンの顔に微かに笑みが浮かんだ。

 

訓練生時代、イルムガルトは、移動射撃の成績が低かった。

 

 

これは、機動性が命と言える高速ゾイドパイロットとしては、致命的な欠点だった。

 

サーベルタイガーも高速移動して、敵を翻弄し、停止して射撃する戦術が可能だったが、この戦法は、敵に集中攻撃のチャンスを与えてしまう欠点があった。

 

 

この欠点から帝国軍内では、サーベルタイガーパイロットはなるべく移動射撃に秀でていることが望ましいと見做されている。

 

そのこともあってイルムガルトは、移動射撃の技量が低いことを気にしていた。

 

彼女のボウマンへの相談の内容の大半も、移動射撃に関するものであった程だ。

 

 

イルムガルトにとっては、幸運なことに移動射撃の技量未熟と言う問題は、彼女の高速ゾイドパイロットとしての道を断つ程の問題には深刻化しなかった。

 

 

ボウマンや同期の友人達のアドバイスとイルムガルト自身の努力もあって、彼女はサーベルタイガーのパイロットに相応しい程度の技量を有していると士官学校で判断される程には、移動射撃の技量を向上させることが出来たからである。

 

 

 

「いいえ、私なんて、ボウマン中佐には、未だに遠く及びません。尾部の砲座であんな正確な射撃を行うなんて……未熟な私には、出来ない事です。今の私には、倒すべき敵がいるというのに。」

 

そこまで言うと、イルムガルトは、表情を曇らせる。

 

「例のシールドライガーか。」

 

ボウマンは、彼女の内心を察し、〝倒すべき敵〟の正体を推測した。

 

彼の推測は、的中していた。

 

「はい……。」

 

イルムガルトは、頷いた。

 

 

 

彼女の脳裏には、数日前の戦いの記憶が鮮明に蘇っていた。

 

 

数日前の、寒冷地対応型シールドライガー部隊との戦い………それは、イルムガルトにとって、忘れられない経験となった。彼女が、このダナム山岳基地に配備されて以来、初めて味わう敗北だった。

 

 

あの時、彼女は、敵のシールドライガーに叩き伏せられた。もし、僅かの幸運と、味方の援護が無ければ、イルムガルトがこの場にいないことは明らかであった。

 

「もうすぐ、決戦だ。その時には、お前が交戦した敵機も現れるだろう……それまで腕を磨くんだ。宿敵に出逢ったゾイド乗りが出来る事はそれだけだ。」

 

「はい!教官殿!」

 

 

イルムガルトは、尊敬に満ちた瞳を輝かせ、眼の前の恩師に敬礼する。

 

彼女の精神は、数年前の、まだ少女同然の心身だった訓練学校時代に引き戻されていた。

 

「…今は、中佐だ。イルムガルト大尉。」

 

「あっ……!!」

 

苦笑いしつつ、かつて多くの高速ゾイド乗りを育て上げた士官は、元教え子である女性士官に敬礼を返した。

 

強い恥かしさを感じ、イルムガルトは、白い両頬をレッドホーンの装甲の様に真っ赤に染めた。

 

 

「ヘフナー大尉殿ー!」

 

「大尉!さっきの模擬戦闘凄かったです!」

 

「大尉殿流石でありますっ!」

 

その時、2人の後ろからイルムガルトを呼ぶ声がいくつか聞こえた。イルムガルトの部下達である。

 

彼らもイルムガルトと同様にこの仮想訓練室で戦闘訓練を受けていた。

 

そして、先程まで行われていた彼らの隊長と、このダナム山岳基地の高速部隊の指揮官の一騎打ちの記録を目撃していたのである。

 

 

「大尉流石です!高速部隊の司令官の機体と互角に渡り合うなん…っ……中佐殿!!」

 

ヘルベルトは、イルムガルトの隣に腕を組んで立つ人物が、イルムガルトの模擬戦闘の対戦相手………ダナム山岳基地守備隊 高速部隊指揮官 アルベルト・ボウマン中佐であることに気付き、驚きの余り硬直した。

 

 

 

彼の後ろにいた部下達も雷に打たれたかのように硬直した。

 

 

数秒後、ヘルベルトは慌てて、ボウマンに敬礼した。彼に習うかの様に他のイルムガルトの部下達も、慌てて目の前の上官に敬礼した。

 

部下達の奇態にイルムガルトは、一瞬噴き出しそうになり、右手で口元を抑える。

 

ボウマンは、それを見て微かに笑うと、表情を引き締め、彼らに向けて敬礼した。

 

 

「……君達は、イルムガルト大尉の部下かな?」

 

「はい!自分は、ヘルベルト・ノルトマン中尉であります!こいつらも同じく大尉殿の部隊のものです!」

 

ヘルベルトがそういうと同時に全員が敬礼する。彼らの瞳には、目の前の高速部隊指揮官に対する尊敬の色で染まっていた。

 

 

それも当然だろう。アルベルト・ボウマン中佐は、ZAC2036年にサーベルタイガーがロールアウトした時、最初に実戦配備されたサーベルタイガーを操縦する栄誉を与えられ、共和国軍を攻撃したパイロットの1人であった。

 

 

更に彼の名を有名にしたのは、ZAC2037年にライカン峡谷で行われた戦闘である。

 

 

 

共和国領への出口周辺で、共和国領への侵攻を企図したゼネバス帝国軍と、それを阻止すべくグラント砦より出撃した共和国軍部隊との間で起きたこの戦闘に当時少尉だったボウマンは、統制のとれた共和国軍の動きに前線の味方部隊が苦戦しているのを見て、上官に機動性を活かした敵の指揮系統への奇襲攻撃を進言した。

 

 

上官は、ボウマンの案を受け入れ、彼らは、散開して敵部隊の勢力圏へと侵入した。ボウマンの操縦するサーベルタイガーは、夜の闇と雷雨で視界とレーダーが利かない中、肉食獣型ゾイドの優れた嗅覚と聴覚を活かして、敵部隊を迂回し、敵の司令部と通信部隊を捜索した。

 

そして、ボウマンとサーベルタイガーは、後方に配置され、前線司令部となっていたビガザウロを発見、奇襲攻撃を仕掛けた。

 

ボウマンのサーベルタイガーは、ビガザウロの周囲にいた護衛機が反応するよりも早く、ビガザウロの首筋にレーザーサーベルを突き立て、敵部隊の頭脳に鋭い一撃を加えたのである。

 

夜の闇と雷雨に紛れての奇襲攻撃でビガザウロを撃破し、前線司令部を破壊した後、彼は、サーベルタイガーの機動性を活かして離脱した。

 

それに前後して司令部と前線部隊の通信を統括していたゴルドス数機も、ボウマンの同僚と上官のサーベルタイガーによって破壊された。

 

指揮系統と通信網を破壊され、それまで統制のとれた動きを見せていた共和国軍は、命令が届かなくなったことと部隊間の通信に混乱を来したことで先程までの防戦が嘘の様に崩壊した。

 

 

ボウマンと彼の進言した作戦に従ったサーベルタイガー隊は、共和国軍部隊の頭脳を抹殺、敵前線部隊の指揮系統を崩壊させ、友軍に勝利を齎したのである。

 

 

 

 

雷雨の中、彼の乗るサーベルタイガーがレーザーサーベルをビガザウロの首筋に深々と突き刺している写真は、帝国軍のプロパガンダにも利用された。

 

イルムガルトの部下達も、ボウマンの功績を知っていた。

 

ボウマンも彼らに敬礼を返した。

 

「良い部下を持ったな、イルムガルト大尉。」

 

「はい!皆私の自慢の部下です。」

 

「お前は、良いゾイド乗り、部隊指揮官に成れる素質がある。だから自分に誇りを持て。そして……戦場では、部下との連携を怠るな。士官学校時代にも言ったが、今の戦争は、戦士同士の一騎打ちよりも、部隊同士の総力戦が主体だ。特に共和国の高速部隊は、複数機で連携して襲い掛かってくる。お前個人がどれだけ強くとも、4機のシールドライガーを相手にしては勝てないだろう?だが部下との連携が出来ていれば、敵が複数で襲い掛かってきても敵を倒すことだって出来る。」

 

ボウマンのその発言には、苦戦を強いられているゼネバス帝国軍高速部隊の現状に対する憂いが含まれていた。ゼネバス帝国軍の高速ゾイド部隊に比べ、歴史が浅い共和国軍高速部隊は、パイロットの平均的な操縦技量でも帝国側に劣っていた。

 

パイロットの技量の差を埋める為に彼らは、複数機による連携戦術を編み出したのである。シールドライガーは、単機でもサーベルタイガーに性能で有利だったが、共和国軍は、パイロットの技量で劣る事を考慮し、僚機との連携で敵に当る様にパイロットを訓練した。

 

このシールドライガーと、同型機やサイズに劣るコマンドウルフ数機を組み合わせた連携戦法は、帝国軍の高速部隊を苦戦させた。特にツインズと呼ばれる2機のシールドライガーによる戦法は、最も危険な戦術だった。

 

これは、1機のシールドライガーが囮となり、敵のサーベルタイガーが後ろに付いた隙にもう1機が攻撃を仕掛けるという戦術である。

 

 

説明すると単純な戦術であるが、戦場の効果は目覚ましく、多くのサーベルタイガーと優れた高速ゾイドパイロットが犠牲になっていた。

 

対する帝国側もロッテ戦法という空軍の戦術を以前から高速ゾイド部隊の戦術を導入していた。

 

戦法は、2機で1つの戦闘単位とする戦法であり、元々は、地球の第二次世界大戦時代に編み出された空軍の戦法である。それでも帝国軍が苦戦を強いられているのは、共和国軍が物量に勝っているという面もあるが、それ以上に帝国軍の高速ゾイドパイロットの意識の問題もある。

 

 

シールドライガーとコマンドウルフがロールアウトされる以前、サーベルタイガーとヘルキャットで編成される帝国軍高速部隊には、空軍機以外は、速度で上回る脅威が存在していなかった。

 

地球の産業化以前の騎兵部隊が歩兵の群れをその機動性で翻弄し、苦も無く蹴散らした様に彼らは、機動性で劣る共和国ゾイド部隊を翻弄し、一方的に撃破してきた。

 

装甲とパワーで勝るゴジュラスや移動要塞 ウルトラザウルスですら、彼らの機動性の前には、不覚を取る事さえあった。

 

この様な機動性による優位が確定した状況では、連携戦術を取るよりも各機が単独で動き回って敵部隊を攪乱した方がいい、そう前線の帝国軍高速部隊のパイロット達は考える様になっていったのである。

 

対するヘリック共和国軍は、サーベルタイガーのロールアウト以降、幾度となく苦杯を舐めさせられてきた。

 

その為、高速ゾイドを敵に回した時、いかにそれに対処すべきかという戦訓を蓄えることが出来ていたのである。

 

また高速ゾイドの威力を身を持って体験した将兵が大勢いたことも対高速ゾイド戦術を立ち上げる過程で影響を与えた。

 

これらの経験の差は、ヘリック共和国軍が、バレシア基地で鹵獲したサーベルタイガーを解析して開発したシールドライガーと、それをサポートする為に開発したコマンドウルフを戦場に投入してきた時、高速ゾイド戦術で優越する共和国軍の有利という差になって現れた。

 

 

後発のヘリック共和国軍に対して、ゼネバス帝国軍は、高速ゾイド戦術に立ち遅れを見せつつあったのである。

 

 

高速ゾイドという兵科が生まれてから、戦場で戦ってきたボウマンにとっては、今の状況は歯痒いものがあった。

 

だからこそ、彼は、かつての教え子であるイルムガルトに部下との連携を重視する様に言ったのであった。

 

 

 

「お前らは、次はどうする?もうお前らの隊のシュミレーターの利用時間は、無くなっただろう?」

 

数が限られている仮想訓練室の操縦シュミレーターは、部隊ごとに利用時間が定められており、イルムガルトの部隊は、その利用時間を全て消費していた。

 

 

「はい。これから食堂に食事に行こうと考えてます。」

 

 

「私も隊長殿と同じです。こいつらつれて飯でも食べようかと思っています。」

 

部下達に視線を向け、ヘルベルトが言う。

 

 

「そうか。丁度いいな俺もそろそろ食事にしようと思ってたところだ。お前らも一緒にどうだ?第3食堂が近いが……。」

 

第3食堂は、ダナム山岳基地に存在する基地要員の為の食堂の1つである。

 

「はい、そうさせていただきます。私も部下も中佐殿と共に昼食を取れることを光栄に思っています。」

 

彼女の言葉にヘルベルトら部下達も頷く。

 

「分かった。……だが……その前にお前らにはやることが残ってるぞ」「!?なんでしょうか?……」

 

 

イルムガルトと彼女の部下は、予期せぬ言葉に身構える。

 

「まず、お前らシャワーを浴びてこい。外は冷えるからな。折角のエースパイロットが風邪をひいて戦線離脱なんて笑えないからな!俺も一汗かいた後だ。シャワーを浴びておきたい」

 

「……はい!中佐殿」

 

「了解!」

 

「了解しました」

 

「了解です」

 

 

ボウマンに連れられる形でイルムガルトと部下達は、仮想訓練室と隣接するシャワー室へと向かった。

 

 

 




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