ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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個人的にブラックライモスは中型ゾイドの中では2番目に好きな機体です。(1番はコマンドウルフとアロザウラーの同着1位)


第13話 要塞 後編1

―――――――――ダナム山岳基地 シャワー室―――――――――――

 

 

 

 

このシャワー室は、仮想訓練室にほど近く、複数のゾイド格納庫と隣接する位置に存在していた。

 

 

シャワー室の水は、この基地の多くの生活用水と同じく、雪解け水を溶かしたものを利用している。

 

 

その位置関係上、付近の格納庫で潤滑油やゾイドの血液まみれになる事が多い整備兵や操縦シュミレーターで汗を掻くパイロットが良く利用する。これらの設備も戦闘ゾイドのレーザー砲や火器管制システムと同じく地球人の技術導入の産物と言える。

 

 

地球人の来訪以前は、前線で頻繁に入浴する事等、一部の上級将校位が出来る贅沢だった。特に整備兵は、ゾイドの血と鉄の臭いが染みついてこそ一人前だ。という考えさえ支配的だった。

 

 

イルムガルトは、更衣室で汗で濡れたパイロットスーツと下に着ていた衣類を脱ぐと、同性の2人の部下 ヘルガとニーナを引き連れてシャワー室に足を踏み入れた。個人用のシャワーが並んだシャワー室には、女性のパイロットや整備兵がシャワーで体の汚れを洗い流していた。

 

 

「あら、イルムガルト、あんたもシャワー浴びに来たの。ゾイドに乗れる士官様なら個室にもシャワー室があるでしょうに」

 

 

背後から自分を呼ぶ声にイルムガルトは、後ろを向いた。

 

 

彼女の目の前には、褐色肌の若い女性が立っていた。イルムガルトと同年代の彼女は、痩せ気味のイルムガルトとは対照的な抜群のプロポーションの持ち主で、艶やかな黒髪は、少年の様に短く刈られていた。

 

そして、彼女の左腕は、肘から下が義手だった。その義手は、木製の義手であった。

 

 

木製と言ってもゾイド星(惑星Zi)の樹木が素材である。金属生命体ゾイドが棲息し、豊かな生態系を育んでいるこの惑星では、植物も金属を含有し、中には、軍用ゾイドの攻撃の盾になるものさえあった。

 

 

木製の義手は、金属製の義手よりは、軽く、防水性にも優れるという利点があった。イルムガルトは、目の前の褐色肌の女性に見覚えあった。

 

 

「……カサンドラ、貴女もこの基地にいたの…?!」

 

 

突然の再会に赤毛の女性士官は、半ば呆然と呟いた。

 

 

 

褐色肌に黒髪の女性―――――カサンドラ・ヘルダー少尉は、ダナム山岳基地の格納庫の1つ第3格納庫の整備班長を務めていた。彼女とイルムガルトは、士官学校の初等練習課程の同期であった。

 

 

帝国と共和国の双方の領土に居住する少数民族 虫族の出身だったカサンドラと地底族の軍人階級に生まれたイルムガルトには、共通の目標があった。

 

 

それは、ゾイド乗りになる事。父親の様な優れた軍人として祖国に貢献したいと考えていたイルムガルトとは、対照的にカサンドラは、単純に色んなゾイドに乗れるのが楽しいという子供じみた理由だった。

 

 

 

理由に著しい相違があるにせよ共通の目標を持っていた2人は、直ぐに友人となった。そのまま何事も起こらなければ、2人は、戦友同士、ゼネバス帝国の優れたゾイド乗りとして戦場で活躍していただろう。

 

 

だが、その未来は、訪れる事はなかったのである。

 

 

練習中にカサンドラの初等練習機のマーダが事故を起こした事によって。

 

 

カサンドラとイルムガルトが士官学校に入って1年が経過するかしないかの時期、移動射撃訓練中にマグネッサーシステムが暴走したカサンドラのマーダは大破し、パイロットのカサンドラは重傷を負った。原因は、些細な整備のミス。

 

 

当時、一人でも多くの訓練生に実機での操縦訓練を受けさせたいという教官側の意向により、初等練習機のマーダを含む練習機の整備を担当する整備班には、多大な負担が掛かっていた。

 

それが、この事故を引き起こす遠因となったのである。

 

 

後にイルムガルトが、教官として着任してきたボウマンを尊敬するようになったのには、操縦訓練中の事故を出来る限り減らそうとする彼の姿勢に感銘を受けたのが大きな理由であった。

 

 

幸い、カサンドラは、一命を取り留めたものの、左腕を失った。左腕を失ったことでパイロットの道を断たれた彼女は、士官学校を去った。

 

 

イルムガルトは、それ以来、カサンドラと会った事がなかった。突然の再会にイルムガルトは、戸惑いつつも、友人の元気な姿に喜び、微笑んだ。

 

 

 

「やっぱり、イルムガルトだ。イルムガルトこそ、この基地に配属されてたなんてビックリしたわ。まあ私も3日前に第6格納庫の人から聞いたんだけど。私は、今ダナム山岳基地の第3格納庫の整備班長を務めているの」

 

 

「整備兵、貴女が……」

 

 

 

イルムガルトは、戸惑いを隠せなかった。彼女とて整備兵の必要性は、十分に認識している。

 

 

だが、それでも彼女は、目の前の旧友は、パイロットの方が適していると、事故で片腕を失ってしまった後も思っていたのである。

 

 

初等練習機のマーダでの操縦訓練で何時もカサンドラは、イルムガルトよりもうまく機体を操っていた。

 

 

ゾイドとの同調性も彼女のほうが上で、訓練教官の半数以上からも、優れたパイロットになると評価されていた。そんな彼女が整備を行っているのは、人材の無駄の様に思えたのである。

 

 

 

「そんな顔しないで、今の私は、整備の仕事に満足しているのよ。ゾイドの声を聞かなければならないのは、整備兵もパイロットも変わらないから」

 

 

カサンドラは、満面の笑みを返す。左腕を失ったことでパイロットの道を断たれたカサンドラは、ゾイドの整備を行う整備兵の道を選んだ。虫族の巫女の家系の出身だった彼女は、ゾイドとの感応能力に優れていた。

 

元々、虫族は、研ぎ澄まされた感覚能力で知られていた。

 

それは、彼らの使役する昆虫型ゾイドとの感応によって更に強化された。

 

彼らの能力は、元々中央大陸に存在する雨季に湿原となる草原地帯での生活に適応する過程で生まれたものである。

 

本来この能力は、ゾイドの侵入や狩猟、気候変動に備えるためのものだった。部族間の戦いが激しくなると戦争にも転用された。

 

部族間戦争の時代には、敵をいち早く発見し、奇襲に備えることが出来るその能力は、あらゆる部族勢力に重宝された。

 

後の産業化時代、地球人の技術導入の後にも彼らの能力は、戦場で効果を発揮し、「生きたレーダー」とまで恐れられた。

 

虫族の巫女の血を引くカサンドラも、そんな祖先の能力を引き継いでおり、ゾイドとの感応能力に秀でていた。そして、この能力は、ゾイドの操縦のみならず、ゾイドの整備にも役立つこととなった。

 

 

 

ゾイドの整備では、装備や機械といったメカニックだけでなく、生物としてのゾイドの状態を把握する事が求められる。

 

地球において、優れた騎手が馬の体調管理に気を配り、常に愛馬の健康状態を把握していたのに近いことと言える。

 

ゾイドとの感応能力に優れていたカサンドラは、その能力を整備作業に応用し、ゾイドの健康状態を把握する事で優れた整備兵になる事が出来たのであった。

 

「それに……ゾイドの整備も楽しいんだよ。ゾイド達の声が聞こえるのもいい」

 

 

そう語るカサンドラの表情は、かつて士官学校に入学したばかりのイルムガルトが見たのと同じ笑顔だった。

 

 

「カサンドラ……」

 

イルムガルトは、目の前の友人が整備の仕事に誇りを持っていることを知った。

 

 

「……ただオイルまみれになるのは、嫌よ。こうしてシャワー室がないと大変だから。」

 

カサンドラは、薄桃色の唇を歪めて言う。

 

 

「あなたもシャワー浴びてきたら?早くしないと第6格納庫の子達が来るからまた待つことになるわよ」

 

「カサンドラ、次に会ったら……」

 

「分かってるわイルムガルト。また思い出話でもしましょ」

 

カサンドラは、満面の笑みで返す。彼女は、イルムガルトに背を向けるとシャワー室を立ち去った。

 

「隊長、早くシャワー浴びましょうよ」

 

 

「……ああっ」

 

部下に促され、イルムガルトは、シャワーヘッドを手に取った。

 

熱く小雨の様な水流が汗で濡れた素肌を温め、汚れを洗い流していく感覚にイルムガルトは、心の澱までも浄化されていくような錯覚を感じた。

 

 

 

数分後、彼女は、2人の部下と共にシャワー室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「……(お湯の温度がいつもより高かったな…)」

 

 

 

シャワーを浴び終えたイルムガルトは、女性用シャワー室から出た。隣接する男性用シャワー室の出入り口の前では、ボウマン中佐とヘルベルトら部下達は待っていた。

 

 

「……やけに遅かったな大尉」

 

「すみませんっ」

 

 

ボウマンの言葉にイルムガルトは、反射的に頭を下げて謝罪した。

 

 

「気にするな、大尉。健康と清潔さを保つのも戦士の務めだ。さぁ皆腹ごしらえに行くぞ。」

 

「……はい!」

 

 

 

ボウマンに率いられる形でイルムガルトの部隊は、食堂へと歩みを進めた。彼らが昼食を取るために向かう食堂………第3食堂と呼ばれている食堂へと向かうルートでの最短距離は、地下通路を通るルートであった。

 

 

装飾の無い殺風景な通路の壁と赤色灯の羅列は、この場所が実用性を重視して建設されたことを無言で教えていた。

 

「……」

 

イルムガルトは、自らを包み込む灰色の壁に押し潰される様な感覚を感じた。

 

 

頭上に配置された換気装置の立てる轟音も彼女の心に影響を与えていた。地下通路を進んだイルムガルトらは、地下通路から地上の出口に繋がる階段を上った。

 

 

「うっ……もうすぐ第3食堂ですね。」

 

 

最後尾にいたイルムガルトの部下が言った。

 

 

 

 

「ああ、この臭いはもうすぐ食堂だってことだからな……まぁ、何時嗅いでも食欲がそそる臭いじゃないけどな」

 

 

ヘルベルトは、後ろにいた新兵に言う。

 

 

彼の声色には、嫌悪感と皮肉が混在していた。仮想訓練室のある区画から第3食堂に行くには、第5格納庫を通る必要があった。

 

 

その為、格納庫特有の臭いが空気と共に流れ込んできていたのである。

 

地下通路の空気を清浄化する為の換気装置が稼働していても格納庫から来る異臭は、通路を利用する人間の嗅覚を刺激する程度には残っていた。

 

 

階段の向こう―――――――格納庫の出入り口から、外の冷気と共に潤滑油や金属、塗料等の薬品、更に何かの焼ける臭い等の臭いが混然一体となった異臭が風に乗ってボウマンらの鼻腔を刺激した。

 

 

「嫌な臭いです……」

 

 

イルムガルトのすぐ後ろにいた部下……赤毛の女性兵士が鼻を右手で抑えて言った。イルムガルトも顔を顰める。彼女も同意見だった。

 

 

「中佐殿は平気なんですか?」

 

 

イルムガルトの部下の一人が言う。

 

 

「ああ?、格納庫なんて毎日整備作業の見守りや機体の状態確認で出入りしてるからな。一々気にもならないよ。お前らもゾイド乗りならいずれこの臭いにも慣れるだろう。……まぁこんな臭い嗅ぎ慣れない方がいいかもしれないけどな」

 

 

ボウマンが笑みを浮かべて言った。

 

長い間、前線で戦ってきたボウマンには、ゾイド格納庫特有の悪臭も嗅ぎ慣れた臭いであった。彼の発言の後半部分には、若干の寂しさが滲んでいた―――――――少なくとも隣を歩くイルムガルトは、そう感じた。

 

 

地上への階段を登り切り、一行は、第5格納庫にたどり着いた。

 

ダナム山岳基地の防壁の内側に存在する格納庫の1つである第5格納庫は、大型ゾイドだけなら12機、小型ゾイドだけなら35機が整備可能だった。

 

 

仮想訓練室で訓練を行ったパイロットも食欲を減退させる格納庫特有の臭いを我慢して近道を選ぶ者は、少ないようでボウマン達も、途中でパイロットスーツ姿の者と遭遇する事は無かった。

 

 

「整備の人が殆どいませんね」

 

 

「整備作業が終わって外で休んでるんだろう。ホート軍曹。」

 

 

今は、整備作業が完了して休憩時間なのか、整備兵の姿も疎らであった。左右のゾイドハンガーには、守備隊の突撃部隊所属のゾイドが並んでいた。

 

 

右側の小型ゾイド用のハンガーには、ゲルダーが9機格納されていた。

 

 

その内1機は、共和国軍からは、ヘビーゲルダー、前線の帝国兵士からは、重装ゲルダーと呼ばれている武装強化型だった。ゲルダーの隊列の向こうには、モルガが列を組んでいた。

 

 

ゲルダーもモルガも旧式ながら頑丈で整備も楽であるため、帝国軍の突撃部隊の主力機として前線に配備されていた。

 

 

更に左側の大型ゾイド用ハンガーには、スティラコサウルス型大型ゾイド レッドホーンが並んでいる。磨き抜かれた赤い装甲は、艶やかで美しく格納庫の照明を浴びて鋼玉(コランダム)の板の様な輝きを放っていた。

 

 

それは、整備兵の努力によって研磨されたゼネバス帝国の技術力の結晶であった。その内、中央にいるレッドホーンは装備が他の同型機と異なっていた。

 

 

イルムガルトは、その機体の前で歩みを止めた。

 

 

「あれは、エルツベルガー大佐の……」

 

 

ボウマンもその改造型に眼を止めていた。

 

 

「おう!アルベルトっお前達も模擬戦闘終わったばかりか?……」

 

 

格納庫全体に響き渡る様な大声に驚いたイルムガルトとボウマンは、声のした方向に視線を向ける。イルムガルトの部下達も同様の行動をとった。

 

 

 

彼らの視線の先には、1人の男……より厳密に表現するなら大男……が立っていた。その男は、小柄なイルムガルトから見ると見上げる様な長身の持ち主であった。

 

 

 

イルムガルトと同じ地底族の特徴であるオレンジ色の髪をそのまま伸ばした髪型は、歩く度に揺れて、揺らめく炎を思わせる。

 

 

分厚い胸板と鉄骨の様に太い腕は、パイロットスーツの上からでも筋骨隆々であることを無言で教えていた。

 

 

「よおっ、これから食事か?」

 

 

その男、ヨッヘン・エルツベルガー大佐は、ダナム山岳基地守備隊の突撃部隊指揮官であった。

 

ボウマン達の目の前のハンガーに鎮座している改造型レッドホーンは、彼の愛機であり、パイロットと共に数多の戦場において敵陣に突撃した機体だった。

 

 

「エルツベルガー大佐、そちらも模擬戦闘の後ですか?」

 

 

「おう!実戦に備えての突撃射撃訓練を部下達と一緒にな。」

 

 

エルツベルガー大佐率いる突撃部隊は、先程まで実機を使用した戦闘訓練を行っていた。この戦闘訓練こそ、イルムガルトとボウマンが仮想訓練室のシュミレーターを使っていた理由でもあった。

 

ダナム山岳基地には、高速ゾイドのサーベルタイガーにとっては手狭ながら、実機による模擬戦闘が可能な大型ゾイド用の演習場が存在していた。

 

 

 

しかし、2人が、大型ゾイド用の演習場を使うことは出来なかった。

 

何故なら大型ゾイド用の演習場は、既にエルツベルガー大佐と彼の部下の乗機であるレッドホーンが、突撃射撃訓練に使用していたのである。

 

 

「……今日は、演習場を使わせてもらって悪かったよ。」

 

エルツベルガーは、巌の様にいかつい顔に陽気な笑みを浮かべて言う。

 

 

「たまには、シュミレーターで訓練するのも悪い事ではありません。気にはしてません、大佐。」

 

「そうか、今度は、こっちがシュミレーターを使わせてもらうぜ。アルベルト中佐、何時かまた部隊間の模擬戦闘をしよう。」

 

エルツベルガー大佐の方が階級が一つ上であったが、歴戦の高速ゾイド部隊指揮官であり、同時に優れたパイロットでもあるボウマンを一目置いていた。

 

 

「彼女は、中佐の部下か?」

 

 

エルツベルガーは、鋭い眼光で、ボウマンの隣に立つイルムガルトを見た。

 

 

3階級も上の人物に見据えられ、緊張してしまったイルムガルトは、思わず言葉を詰らせた。彼女に助け舟を出したのは、傍らに立つボウマン中佐だった。

 

 

「イルムガルト大尉は、私の士官学校時代の生徒だった。成長目覚ましいパイロットの1人だ。」

 

 

ボウマンは、誇らしげに目の前の上官に言う。イルムガルトは、恥かしさと喜びが入り混じった思いが自分の頭の中で渦巻くのを感じた。

 

 

彼女の白い頬が若干朱に染まる。

 

 

「アルベルト中佐の教え子か。活躍を期待してるぞ。我々突撃部隊の側面を守ってくれ!」

 

 

「はい!」

 

イルムガルトは、硬い声で答える。

 

 

 

「平原での戦いで、俺の部隊は、幾度となく共和国軍の防衛線を抉ってきた。山岳地帯では、俺達、レッドホーン乗りは活躍できなかった。だが、このダナム山岳基地でも、我等突撃部隊の突進力を見せてやる!はっはっはっはっ!!」

 

 

エルツベルガーは、天を衝かんばかりに呵々大笑した。

 

 

「はぁ……我々も万全の力で戦える様、努力します。」

 

 

イルムガルトは、目の前の突撃部隊指揮官の言葉に違和感を覚えつつ、上官への礼を失わない様に返答した。

 

 

彼女がエルツベルガーの言葉に違和感を覚えたのは、突撃部隊の突破力を平原と遜色なく発揮出来ると彼が考えていたことである。

 

複雑で起伏の富んだ地形が大半を占める中央山脈では、デスザウラーを頂点とする帝国軍重装甲軍団は、平野部の様に活動することが出来ない。

 

中央山脈に無数の迷路の様に走る狭い山道では、重装甲軍団の基本的な戦闘隊形を組むことさえ困難だった。

 

 

平原の戦いの様に支援部隊の砲撃の元、レッドホーンがモルガやゲルダーを背後に引き連れ、同型機と共に堂々と地球の重装騎兵の隊列の如く敵陣に吶喊し、戦果を拡大するといった戦術は取れなかった。

 

 

これは、荷電粒子砲を装備するデスザウラーも同じであった。(デスザウラーの場合、400tにも及ぶ重量が山岳地帯では、命取りになりかねない局面もあった)

 

 

例外的にアイアンコングは、人間に近い形状と高い知能による汎用性から山岳地帯でも運用できたが、それは、1機~数機単位での運用であり、部隊単位での運用は、不可能に等しかった。

 

 

 

この様な理由から、中央山脈が主戦場となっている現状では、イグアンやハンマーロック、ガイサックやゴドス等の山岳適正に優れた中型、小型ゾイドやシールドライガーやサーベルタイガー、コマンドウルフやヘルキャットといった機動性に優れる高速ゾイドが戦場の主役となっていた。

 

 

開けた場所に建設されたダナム山岳基地の周辺部は、アイアンコングやレッドホーンといった従来の大型ゾイドでも十分に機動性と性能を発揮できるものの、この基地を攻め落とそうと侵攻してくるであろう共和国軍がそれを知らない筈は無く、何らかの対抗策を取ってくるのは間違いなかった。

 

 

「エルツベルガー大佐、山岳地帯では、平野部の様な戦法は取れませんが、どうされるのですか?」

 

 

イルムガルトの心中の疑問を察したかのようにボウマンが言った。

 

 

「よく聞いてくれたな。わが部隊も、そのことはちゃんと認識している。それにこのダナム山岳基地の周辺は、中央山脈一帯でも珍しい程の開けた土地だ。突撃部隊の本領発揮ができる!そして、俺の部隊にも漸く纏まった数のブラックライモスが配備された。」

 

 

エルツベルガーは、格納庫の片隅に目をやる。

 

 

 

彼の視線の先―――――――――中型ゾイド用のゾイドハンガーには、新開発されたサイ型中型ゾイド ブラックライモスが10機並んでいた。

 

 

 

「あれが突撃部隊の新型ですか?」

 

 

ボウマンが質問する。

 

 

「そうだ。あれこそ最高の中型ゾイドだよ」

 

 

 

エルツベルガーは、誇らしげに巌の様な顔に笑顔を張り付かせて言う。まるで父親が我が子の自慢でもするかの様に。

 

 

ブラックライモスは、ブラキオス、ウォディックと並んで、ハイパワーユニットを採用した新世代の中型ゾイドであった。

 

カノントータスを一撃で破壊可能な大型電磁砲、対空ミサイルといった充実した火力とレッドホーンに匹敵する重装甲。全方位レーダー 前方監視レーダーと背部に格納した偵察ビークルによる優れた索敵能力。

 

これらの中型ゾイドとしては、驚異的な多機能性から小型レッドホーンの異名を与えられていた。

 

 

また、レッドホーンよりも小型で軽量であるという利点から、山岳地帯でも運用可能という強みがあった。

 

ゼネバス帝国軍上層部の中には、旧式化が著しいレッドホーンを退役させ、この機体を突撃部隊の主力機に据えるという案すら出ていた。

 

 

突撃部隊指揮官のエルツベルガーも、ブラックライモスを期待の新型機と見做していた。

 

「大佐殿もずいぶん、この機体に惚れ込んでらっしゃるようですね。」

 

 

「おう!さっきの模擬戦闘でもブラックライモス装備の部隊は優秀な成績を記録した。俺も試しに乗ってみたが、いいゾイドだよ。ブラックライモスは。」

 

「それは、素晴らしいですな。我々高速部隊としても友軍部隊の戦力が増強されるのは喜ばしい限りです」

 

「隊長、我々にも新型機が配備されて欲しいですよね。何時までもヘルキャットじゃあ……」

 

 

イルムガルトの後ろにいた部下の一人が言った。

 

「クルツ!」

 

 

「心配するな新兵!我が国の技術者は優秀だ。ヘルキャットの後継機となるゾイドがこのブラックライモスと共に実戦で活躍する日も近いだろう!俺はその日が楽しみだ」

 

先ほどと同じ様な調子でエルツベルガーは、大笑いしながら言った。

 

 

「大佐殿、我々はそろそろ……」

 

 

「そういえば飯がまだだったらしいな。訓練後は腹も減るのに呼び止めて悪かったな。じゃあな戦友諸君」

 

 

エルツベルガーは、大股歩きで立ち去って行った。

 

「あれが、突撃部隊の指揮官 ヨッヘン・エルツベルガー大佐ですか」

 

 

「ああ、大佐殿は、歴戦のレッドホーン乗りだ。私も何度か戦場で助けられた。少し大げさなところもあるが、部下からも慕われている。いいゾイド乗り、軍人だ。……さあ食堂に行くか」

 

「はい!」ボウマン達は、食堂への歩みを再開した。

 

「……」

 

 

イルムガルトは、ふと開け放たれた格納庫の扉の向こうを見た。

 

格納庫の外では、隣接する格納庫から発進したイグアンとハンマーロックの隊列が闊歩していた。

 

 

敵軍から基地を守るための出撃ではない。

 

彼らは、今しがた空いたばかりの演習場で、部隊間の模擬戦闘を行うために移動しているのである。

 

「彼らも模擬戦闘に向かうのか……」

 

 

 

ダナム山岳基地守備隊の帝国軍のゾイドパイロット達は、現実と仮想の演習場で来たるべき決戦に向けてゾイド操縦の技量を磨き続ける。彼らが鍛え上げた技量を実戦で発揮する日は、そう遠くない様に思われた。

 

 

 

 




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