ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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老兵と若い兵士から見た最強のゾイドとは?みたいな話です。
最後の方に戦闘シーンがあります。


第14話 要塞 後編

 

 

 

 

―――――――――――――― ダナム山岳基地 第5格納庫 ――――――――――――

 

 

 

中央山脈北部 輸送ルート 通称 北国街道を守備するダナム山岳基地は、中央山脈に存在する帝国軍最大の基地である。

 

 

中央山脈北部最大の拠点だけあってそこを守る守備隊の規模も大きい。

 

 

それら大規模の守備隊の寝床も必然的に大規模化を余儀なくされる。

 

 

 

ダナム山岳基地には、守備隊に所属する戦闘ゾイドを格納し、整備・修理するためのスペースである格納庫が、大型ゾイドから小型ゾイド用まで、地上、地下合わせて30近く存在していた。それらの格納庫では、多数の整備兵達が整備作業に日々従事していた。

 

 

 

 

「整備作業終わり!次の部隊が定期哨戒任務から帰還するまで休憩だ。」

 

 

 

漸く休憩か。

 

 

くすんだ赤毛の整備兵は、溜息を吐いた。

 

 

先程までマンモス型小型ゾイド ツインホーンの整備作業を行っていた彼の手足には、疲労が蓄積していた。

 

ツインホーンは、かつてゼネバス皇帝親衛隊にのみ配備されていた高性能機だけあって整備兵に掛かる負担も小型ゾイドとしては最高レベルの機体だった。

 

しかも最近、守備隊の訓練時間が伸びた所為で、整備班への負担はさらに増大していた。

 

彼、テオドール・バウアー軍曹は、3週間前にこのダナム山岳基地に配属された。休憩時間に入ると同時に彼の同僚達は、食事をとるために隣接する食堂に向かった。

 

 

しかし、バウアーは、彼らとは逆の方向に向かった。彼は、あの食堂をあまり利用しない。

 

大きな理由は、単純にメニューが気に食わないという事であった。

 

その食堂は、ゼネバス帝国の多数派を占める地底族の文化の料理が中心であり、彼の出身民族である火族の文化圏の料理が殆ど無かったからである。

 

 

火族のゾイド整備士の家に生まれた彼は、ゼネバス帝国軍に入隊した際もその適性を買われて整備兵になった。

 

地底族と火族は、元は、同じ民族(地底族の内、中央大陸西部の火山地帯に鉱石の鉱脈を求めて移住した者と原住民の子孫が火族であると言われている)であるという説が出るほど、文化的にも外見的にも類似した民族であり、料理文化も比較的似ている。それでもバウアーには別物に思えるのである。

 

同僚からは、スープに入れる具が多少違うとか、魚を使う使わない程度の違いだろうと笑われた事もあるが、彼にとっては重要な事であった。

 

 

整備兵として故郷から離れたこの極寒の基地でゾイドの整備作業という重労働に従事しているのだから、食事位は、出来るだけ好きな物を食べたかった。

 

 

更に言えば、格納庫と隣り合っている近くの食堂は、格納庫特有の悪臭と料理の匂いが合わさった異常な悪臭で不評だった。

 

換気装置が全力で稼働していても完全に消える事のない匂いは食欲を大きく低下させるものだった。

 

 

 

 

バウアーは、反対側にある別の食堂へ向けて歩いて行った。

 

食堂に向かう途中には、第3格納庫と第4格納庫がある。

 

 

バウアーは、通路を抜け、第3格納庫へと足を踏み入れる。大型ゾイド用の格納庫である第3格納庫には、アイアンコングmkⅡ量産型とノーマルタイプが合わせて12機格納されていた。

 

「流石にいつ見ても広いところだなぁ」

 

ハンガーに駐機された鋼鉄の巨人の列を眺め、バウアーは、呟いた。

 

第3格納庫は、バウアーにとって目当ての食堂に行く度に毎日の様に通過してきた〝通路〟であったが、この日は特別に見えた。

 

何故なら全てのゾイドハンガーにアイアンコングの巨体が収められていたからである。

 

 

これは、数日前にはない光景だった。

 

 

昨日、第3格納庫に収められる予定だったアイアンコングが予定より1週間程遅れて到着したのである。

 

 

共和国軍のゲリラ部隊の掃討やサラマンダー部隊の高高度爆撃を回避するために輸送部隊が迂回した結果であった。

 

 

万全な状態なら対空ミサイルで追い散らせる敵も、解体され、輸送コンテナに収められた状態では、何よりも恐ろしい脅威となった。

 

 

大型ゾイド用のゾイドハンガーに鎮座するアイアンコングの隊列は、古の神殿の壁龕に埋め込まれた、神に仕える戦士達の彫像の様であった。

 

バウアーは、帝国軍に志願した時の事を思い出していた。志願した時、バウアーは、多くの帝国の若者達と同様にゾイド乗りになる事を望んでいた。

 

 

地球人の技術導入による対ゾイド火器の飛躍的進歩の後も、ゾイドは、依然としてこの惑星最強の兵器であり、力の象徴だった。

 

特にゼネバス帝国では、人口の多数を占める地底族の戦士文化の影響もあって戦闘ゾイドのパイロットになるというのは、憧れでもあった。

 

 

特に大型ゾイドに乗れる者は、エリートであり、地球におけるサムライや騎士の様な存在であった。

 

 

バウアーも、同郷の者達と共に帝国軍に志願入隊した時は、父や祖父と同じ戦士達の補佐、ゾイドの整備作業に携わる整備兵として帝国のために奉仕する事になったのであった。

 

 

目の前の巨体を見ているとその時の憧れや思いがぶり返してきそうだった。ふとバウアーは、ゾイドハンガーの1つで足を止めた。

 

 

 

 

「あれは、司令官機の………」

 

 

 

目の前のゾイドハンガーには、アイアンコングmkⅡ限定型のルビーレッドの巨体が佇んでいた。

 

 

 

長槍の様に肩にマウントされたビームランチャーを始めとする全身に搭載された重火器、背部に装備された高機動スラスター、ルビーレッドに輝く装甲、力強さを醸し出す巨体。照明を浴びて輝く装甲は、宝石の様に眩く、その破壊力から共和国軍から「ブラッディコング」「赤い悪魔」等と恐れられているとは思えない程である。

 

 

ダナム山岳基地 司令官であり守備隊指揮官 クルト・ヴァイトリング少将の専用機。この中央山脈最大の基地の守護神。敵にとっては、赤い悪魔。

 

 

「………」

 

 

若き整備兵は、目の前で整備作業を受けている赤いアイアンコングを見つめていた。

 

 

「どうした?若造、アイアンコングmkⅡが気になるのか?」呆然と立っていたバウアーの左肩を背後から叩いた。

 

 

「えっ、わっ。すみません整備作業を邪魔してしまって……」

 

 

バウアーは、驚きながら振り向いた。自分が呆然とアイアンコングmkⅡに見惚れてしまった所為で整備作業の邪魔になってしまったのではと思い、慌てて背後に立っていた人物に謝罪する。

 

 

彼の背後にいたのは、1人の整備兵だった。彼の浅黒い肌は、皺だらけで樹齢を重ねた大樹の樹皮を彷彿とさせる。その男のバウアーの父親よりも年上に見えた。

 

 

整備兵の胸元には、銀色の階級章が輝いていた。それは、この初老の男が、整備班長である事を教えていた。

 

「邪魔にはなっとらん。安心せい若造、整備作業はもう殆ど終わっとるからの。」「そうですか。それにしても、凄い機体です。」

 

 

 

「こいつは、司令官殿と長年戦場を共にしてきた機体じゃ、他のアイアンコングとは違うからの!……しかしお前、不安そうにしていたな。若造も、例の共和国軍が数週間後にも攻めてくるって噂を気にしとるのか?」

 

「はい、不安です。共和国軍は、手ごわいとパトロール部隊のパイロットの人からも聞いてますし……」

 

 

バウアーは目の前の上官に正直に心中を打ち明けた。

 

この中央山脈の戦線に初めて彼が配属された時、ヘリック共和国軍が中央山脈でゲリラ戦を展開しても、帝国軍の補給ルートを脅かす事はないと、帝国の宣伝放送は説明していた。

 

それが今では、南部山岳道路を制圧し、大陸中央部の東西の流通の大動脈であるミドル・ハイウェイを分断した。中央大陸の東部と西部を結ぶ主要なルートは3つの内、2つが共和国軍の手に落ちた事になる。

 

次に襲われるのがダナム山岳基地であるのは、子供でも分かる事である。

 

もし、このダナム山岳基地が陥落し、共和国軍の手に落ちた場合、最悪、中央山脈北部の北国街道も共和国軍の制圧下に落ち、ゼネバス帝国本土と、大陸東部の共和国領を占領している侵攻部隊の連絡は完全に遮断される。

 

そうなれば、共和国首都 ヘリックシティを始めとする共和国領で戦っている占領軍の命運は風前の灯火となるだろう。

 

 

デスザウラー大隊を始めとする多くの主力部隊がヘリック共和国の本土の完全制圧を目指して中央山脈の向こう側へと派遣されている状況で、それはゼネバス帝国の敗北を意味していた。

 

 

「もうすぐこの基地に共和国軍が攻めてくるらしいが、安心せい!儂らにはアイアンコングがおるからの!!。薄気味悪いデスザウラーなんぞよりもこの雪山では、頼りになるぞ!」

 

 

老整備兵は、バウアーの肩を軽く叩くと、大声でまくしたてた。

 

 

大戦序盤から戦ってきた古参兵にとっては、現在のゼネバス帝国最強ゾイドであるデスザウラーよりもこれまで戦線を支えてきたアイアンコングの方が信頼できる存在だった。

 

アイアンコングは、ゼネバス帝国の軍事的栄光の建設に寄与したゾイドの1つであった。

 

 

 

 

ZAC2030年 ゼネバス帝国は、当時、帝国軍唯一の大型ゾイドであったレッドホーンを超える戦闘能力――――――――より具体的に言うならば、ヘリック共和国の象徴 ゴジュラスを単独で撃破可能な大型ゾイドの開発計画を開始した。

 

 

素体として選ばれたのは、温暖なバロニア諸島に生息していた大型ゴリラ型ゾイド。

 

ゼネバス帝国の技術者達は、調査隊が捕獲したこのゴリラ型ゾイドを解析し、ゴジュラスを撃破可能な大型ゾイドの素体として利用した。

 

彼らは、温厚な性格ながらゴジュラスに匹敵するパワーを有するこのゾイドにゴジュラスの76mm速射砲と格闘攻撃に耐える事の出来る新素材の重装甲とゴジュラスを遠距離から攻撃可能なミサイル兵装を搭載した。

 

こうして開発された試作機は、当時の帝国軍の主力大型ゾイドであったレッドホーンを皇帝と将軍達が見守る模擬戦闘で見事破壊した。

 

 

そしてZAC2032年 ゼネバス帝国が当時の国力を総動員して生産したアイアンコング150機が中央山脈を超え、共和国領に侵攻した。

 

進撃を阻止するべく派遣されたサラマンダー部隊を対空ミサイルで撃退した彼らは、共和国軍の本土防衛線の一角を形成する要塞 グラント砦を含む多くの共和国軍基地を自慢の火力と装甲で粉砕し、共和国本土の奥深くへと進撃した。

 

当時のヘリック共和国は、敵わないことを承知で小型ゾイド部隊を投入して、共和国領各地のゴジュラスを終結させるまでの時間を稼いだ。

 

 

共和国領各地から集結したゴジュラス200機が祖国防衛の為にクロケット砦に集められた。

 

共和国首都を目指し進撃するアイアンコング部隊の黒い群れと灰色の壁の様に立ち塞がるゴジュラス部隊は、クロケット砦が存在する大平原地帯 クロケット平原で激突した。

 

数時間にも及んだ激戦の後、100機近いアイアンコングを喪った帝国軍は、占領地からの撤退を余儀なくされた。

 

 

このアイアンコング部隊による大攻勢とクロケット平原の戦闘後の共和国軍の追撃戦は、戦場となった地域に甚大な損害を与えた。

 

 

ウィルソン市を含む共和国側都市のいくつかは壊滅。

 

特にウィルソン市は、アイアンコングのミサイル攻撃とゴジュラス部隊の肉弾戦に巻き込まれた事もあって多数の民間人犠牲者を含む大損害を被った。

 

純軍事的に見れば、帝国軍の大攻勢を凌いだ共和国の勝利である。

 

しかし、ゼネバス帝国にとってこの大攻勢の意義は大きかった。

 

 

 

それまで、建国されて間もないゼネバス帝国は、国力で勝るヘリック共和国の物量に苦戦し、高い技術力と優れた将兵を有しているにも関わらず、国土の奥にまで攻め込まれることも度々あった。

 

 

はっきり言って中央大陸を東西に分断する中央山脈と言う天然の防壁のおかげで滅びずに済んでいる様な有様だった。

 

 

最初の帝国製大型ゾイド レッドホーンでも撃破出来なかったゴジュラスを正面から戦闘で破壊したアイアンコングは、ゼネバス皇帝から前線の一兵卒、帝国領に棲む民衆に至るまで、ゼネバス帝国の人間に、ヘリック共和国との戦争に勝利できるという希望を与えたのである。

 

 

大型高速ゾイド サーベルタイガーが実戦投入されてからもアイアンコングは、最前線で活躍した。

 

 

ヘリック共和国軍が投入してきた竜脚類型超大型ゾイド ウルトラザウルスに立ち向かったのもアイアンコングであった。

 

そして、ZAC2039年の敗色が濃くなり始めた時期には、友軍の盾として帝国首都攻防戦等で最後まで戦場で共和国軍の進撃を食い止めた。2年後、暗黒大陸で軍備を再建したゼネバス帝国軍によるバレシア湾上陸作戦を端緒とする失地回復戦にもアイアンコングは参加した。

 

 

ゴジュラスに伍する戦闘力を有するこの大型ゾイドは、ディメトロドンやブラキオス、ブラックライモスと言った新型ゾイドと共に帝国首都奪還戦ウラニスク工業地帯奪還作戦等で目覚ましい活躍を見せた。

 

 

長年前線で戦ってきた兵士にとっては、デスザウラーの鮮やかな共和国首都までの〝死神の行進〟もアイアンコングが13年間に渡って戦場で積み重ねてきた戦績には及ばない。

 

 

それを考えれば、バウアーの目の前にいるこの初老の整備兵がアイアンコングをデスザウラーよりも信頼できるゾイドと見做すのも当然の事だと言える。

 

 

 

「でもアイアンコングよりも、デスザウラーの方が強いんじゃないんですか?」

 

バウアーは、老整備兵に反論する。

 

アイアンコングは確かに優れたゾイドである。だが、ヘリック共和国首都を陥落させ、現在の帝国軍の優勢を作り出したという意味でデスザウラーは、それ以上のゾイドだった。

 

 

現在の両軍兵士に最強のゾイドは何か?と問いをぶつければ、10人に9人は、デスザウラーと答えるだろう。

 

 

バウアーもその1人であり、デスザウラーを祖国が生み出したゾイド戦史史上最強のゾイドであると考えていた。

 

バウアーは、ヘリックシティ陥落の3日前、一度故郷に帰れる事になった途中、戦勝パレードで張りぼてを見た程度であり、デスザウラーの実機を見たことはない。

 

 

だが、それでもデスザウラーを見たことがある同僚や上官、宣伝放送から伝えられる情報を見聞きすれば、それが最強のゾイドであると思わざるを得ない。

 

 

そして、それ以上にデスザウラーが齎した戦果が巨大すぎた。

 

 

帝国軍の最強エースパイロットの称号 トップハンターを与えられた若きパイロット トビー・ダンカンが操縦したデスザウラー初号機は、スケルトンと呼ばれる僅かな支援部隊だけでヘリック共和国軍の防衛線を打ち破り、ゴジュラスの大部隊や共和国の名将 ヨハン・エリクソン大佐の操縦するウルトラザウルスを撃破し、共和国を首都陥落にまで追い込んだのである。

 

 

これは、単機のゾイドの戦果としては異常であり、「皇帝の右腕」攻勢に投入された数百機のアイアンコングやレッドホーンその他帝国ゾイドが成し遂げる事が出来なかったことであった。

 

 

 

「確かにあのデスザウラーの強さは、化け物だと思う。アイアンコングが数十機束になってもデスザウラーには敵わないじゃろう、共和国のゴジュラスがそうだった様にのう。じゃが、それは、平原での話じゃよ。この雪山じゃ、デスザウラーも、大きすぎて活動出来ない。それに引き換え、このアイアンコングは、山岳地でも戦える。じゃからこの基地は安泰じゃよ!」

 

 

老整備兵は、髭面に笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「あっ。」

 

 

老整備兵の言葉にバウアーは、ある事実を気付かされた。

 

 

超巨大ゾイドであるデスザウラーは、山岳地帯では活動が制限されるという事実を。そして、敵である共和国軍がそれを理由にこの中央山脈を主戦場に選んだのだと言う事を。

 

 

 

「儂がアイアンコングがいるから安心だと言った理由が分かったかの?」

 

 

 

「はい!」

 

 

「若造、お前もこれから食事に行くのか?」

 

 

「はい、第7食堂に行く予定です」

 

 

「そうか、儂とは別じゃな。また会おう、若造。」

 

 

バウアーは、老整備兵と別れた後、第7食堂で食事を取った。その後、休憩時間の終了間際、次の部隊の到着前に第5格納庫に戻った。

 

この基地が次の戦いの舞台となる日は、そう遠くはない。

 

 

その事は、基地司令官から一兵卒に至るまで、この基地の人員の殆どが個人差こそあれ感じていた。

 

 

だが、それが何時になるのかは、基地司令官であるヴァイトリングも、配属されたばかりの新兵も知ることができないことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――中央山脈 帝国側勢力圏 某所―――――――――

 

 

大陸を東西に二分する中央山脈の麓。

 

岩だらけの険しい地面の上。

そこでは、数体の金属の獣達が戦っていた。

 

 

 

「くっ、共和国軍め!」

 

 

 

 

 

第2高速中隊 第1小隊隊長 ヘレーネ・テクトマイヤー中尉は、今、追い詰められていた。

 

彼女の部隊は、サーベルタイガー1機、ヘルキャット3機で編成されていた。本来の編成ならサーベル2機かヘルキャット4機であったが、中央山脈では、中小規模の部隊同士の戦いが頻発する為、この様に変則的な部隊編成をした部隊も珍しくなかった。

 

 

 

彼女とその部下の敵は、シールドライガー寒冷地仕様が4機。彼女の部隊と目の前の敵部隊が遭遇したのは、5分前の事。

 

 

 

そして、戦闘開始から5分が経過した現在―――――――――生き残っていたのは、彼女だけだった。友軍機の3機のヘルキャットは、雪原に無残な姿を晒していた。

 

 

「こうなれば……!指揮官機だけでも」

 

 

ヘレーネは、正面モニターに映る4機の白い獅子を凝視する。敵に包囲され、既に生き残れるチャンスはないと考えていた彼女にとって指揮官機を仕留めることが目的になっていた。

 

一番手前にいたシールドライガー寒冷地仕様が動いた。

 

他の機体もそれに続く。最後の標的であるヘレーネのサーベルタイガーを葬る為に……。

 

 

ヘレーネもサーベルタイガーを突進させた。4機のシールドライガー寒冷地仕様の内3機を2連装ビーム砲で牽制する。3機は、その攻撃を回避。

 

隙を付き、先頭を走る敵機―――――――動きから見て、恐らく指揮官機――――をヘレーネは狙う。

 

 

「落ちろ!」

 

ヘレーネのサーベルタイガーは、距離を詰めると、シールドライガー寒冷地仕様の頭部目掛け、左のストライククローを横殴りに叩き付けた。

 

 

だが、シールドライガー寒冷地仕様は、回避すると、逆にヘレーネのサーベルタイガーに飛びかかる。

 

 

ヘレーネは、咄嗟に回避しようとしたが、間に合わず、左肩にレーザーサーベルを食らってしまう。

 

「くっ!」

 

 

ヘレーネは、機体を反転させ、指揮官機のシールドライガー寒冷地仕様を追撃する。

 

 

ここで追いつけなければ、袋叩きにされる――――――そう判断したヘレーネは逡巡しなかった。

 

 

だが、彼女とサーベルタイガーが敵に追いつくことは無かった。

 

 

僚機のシールドライガー寒冷地仕様2機がミサイルポッドを側面を晒したサーベルタイガーに叩き込んだ事によって………胴体側面にミサイルが次々と突き刺さり、サーベルタイガーの内部機関を破壊し、誘爆させた。

 

サーベルタイガーの頭部コックピットも炎に包まれた。

 

 

「(こんな、こんな所で………兄さん!)」

 

 

ヘレーネの濃紺の瞳に最後に映ったのは、追撃していた敵指揮官機のシールドライガー寒冷地仕様の白い機影だった。

 

灼熱の中で、彼女の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

「これで最後………だな。」

 

激しく燃え盛るサーベルタイガーの残骸を見つめ、ケイン・アンダースン少佐は、静かに呟いた。

 

 

「流石です隊長!」

 

 

茶髪をボブカットに整えた女性士官は、モニターの向こうの指揮官を尊敬の眼差しで見つめていた。その声は、何処か浮ついている様に見える。

 

 

「マーティソン少尉、中々の射撃だったぞ。」

 

ケインは、新たに配属された部下に言う。

 

 

「いいえ、隊長の作戦勝ちですよ!」

 

 

「はしゃぎ過ぎだ。ケイト、ここは一応帝国の勢力圏だからな、油断は禁物だぞ。」

 

「はい……」

 

 

「隊長、はしゃぐのも無理ないですよ。彼女が第1小隊に配属されて最初の戦闘ですからね。」

 

 

「……」

 

彼女、ケイト・マーティソン少尉にとってこの小戦闘は、第7高速中隊第1小隊に配属されてから経験した最初の戦いだった。

 

 

彼女と彼女のシールドライガー寒冷地仕様は、4日前の戦闘で戦死したラーセンの補充として送られてきたパイロットである。

 

 

すぐに補充の機体とパイロットが送られてきたのは、前線部隊としては幸運な事である。

 

 

逆に言えば、それだけケインの部隊は、戦果を挙げる事を上層部から期待されている事を意味した。

 

 

「こんなに俺の作戦が上手くいったのも珍しいんだってことは、忘れるな」

 

「了解です!」

 

「……(今回の敵は、連携に不慣れだった……4日前の部隊とは、別の部隊だな……)…敵の輸送部隊を発見して襲撃した後、友軍拠点に戻るぞ。」

 

 

「了解」

 

 

「了解です!」

 

 

「了解」

 

 

4機の白い獅子は、岩場を駆け抜けて行った。

 

 

 

後に残されたのは、1機の赤い剣歯虎の燃え盛る残骸と、3機の銀色の豹の無残な残骸だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ヘリック共和国軍上層部は、次の大規模作戦の為に中央山脈に集結させていた大部隊に進軍を命じた。

 

 

 

 

 




感想、評価お待ちしております。

来年の干支にちなんだゾイド小説(短編)を構想中です。
ものにできるかわかりませんが、楽しみにしてください。

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