ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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皆さんも大好きなゴジュラスの活躍回です。
山岳地帯でゴジュラスが活躍できるというのも妙な話ですが、開けたエリアだと言う事で・・・

※グラフィックス戦記のあの人が再登場してます。


第17話 雪上の前哨戦 前編

 

 

 

ZAC2045年 12月25日 中央山脈北部 某所

 

 

 

雪が降り積もる山の谷間をゾイドの群れが静かに進んでいた。白い雪を纏った風が吹き荒れる中、先陣を切るのは、ゴドスとアロザウラーの混成部隊。

 

 

その更に後ろを進むのは、ゴジュラスmkⅡ量産型――――――――――ヘリック共和国の象徴として戦場で活躍してきた大型ゾイドの改良型である。

 

 

 

背中に大型砲とエネルギータンクを背負ったその巨体は、味方には頼もしく、敵には恐ろしさを与える。ダナム山岳基地攻略部隊の先陣を切る彼らは、敵の心臓に突き立てられる槍の穂先と言えた。

 

 

「雪が深くなってきたな……」

 

 

第8師団 第5連隊 先遣隊 隊長 グレイ・ロンバーグ中佐は、防弾処理が施されたキャノピー越しに降り注ぐ雪を見て言った。

 

 

彼は、ZAC2030年に当時次期主力歩兵ゾイドとして開発が進められていたゴドスの試作機の運用部隊 アンバー試験小隊のパイロットに選ばれ、ゼネバス帝国軍の前線基地を同僚と共に攻撃しゴドスの性能の高さを実戦で証明して以来、今日まで前線で戦ってきた歴戦のパイロットである。

 

 

彼の愛機の前方を数十機のゴドスとアロザウラーが進んでいた。グレイの愛機 ゴジュラスmkⅡ量産型と比べるとそのサイズの差は人間の子供と大人程もあった。

 

 

 

「この俺がゴジュラスに乗る日が来るとはなぁ」

 

 

眼下を歩くかつての乗機の隊列を見下ろしながら、ゴジュラスのパイロットとなった男は、呟いた。その口調には、今でも実感が湧かないと言った戸惑いが含まれている。

 

 

グレイが共和国軍に入隊した当時、ゴジュラスは共和国軍のゾイド乗りの憧れの的であると同時に将軍等と共に雲の上にいる存在に近かった。

 

 

その頃、ゴジュラスのパイロットは、共和国軍士官学校の段階で専門の養成課程が設定されており、彼らは、ゴジュラスの野生体に乗り手として選ばれるところから資格を得、数年にわたる厳しい訓練を潜り抜けて初めてゴジュラスのパイロットとなった。

 

 

他のゾイドのパイロットが後からゴジュラスのパイロットに選ばれる可能性は殆どなく、文字通り、選ばれた者だけが共和国の象徴の乗り手となれた。

 

 

当然のことながら、軍隊生活の大半を小型ゾイドのパイロットとして過ごしてきたグレイが選ばれること等、有得ないことであった。

 

その運命が変わったのは、戦争が激化し、多くのゴジュラスパイロットが必要になったからである。

 

 

 

ゴジュラスとそのパイロットは、相次ぐ激戦の最前線で戦った。彼らは、祖国に数多くの勝利を齎し、敗北の中でも友軍を勇気づけ、被害を軽減させた。

 

 

だが、それと引き換えにゴジュラスとそのパイロット達は、高い損耗率を記録したのである。この代償は共和国にとって高くついた。

 

 

前線での消耗に対して、従来の養成法では、ゴジュラスパイロットの補充が追い付かなくなってきたのである。

 

 

特にゼネバス帝国最高のパイロットの称号である〝トップハンター〟の称号を得た若きパイロット トビー・ダンカンが操縦したデスザウラー初号機によってゴジュラス部隊が駐屯していた基地が壊滅した事は、共和国軍にとって、大打撃となった。

 

 

デスザウラーの最強伝説の1つに数えられたこの戦いで、共和国軍は優秀なゴジュラスパイロットを多数失ったからである。

 

この人材面の不足と反比例するかの様にゴジュラスの必要性と、その製造台数は、増加しようとしていたのである。

 

バレシア湾にゼネバスが軍を率いて帰還したのと同時期から、ヘリック共和国の前身、ヘリック王国の時代から進められ、中央大陸戦争に突入してからは、更に規模を拡大して行われていたゴジュラス野生体の養殖政策が軌道に乗りつつあった。

 

 

また同時に帝国軍のアイアンコングを砲撃戦で圧倒可能な改良型 ゴジュラスmkⅡの本格的な量産計画も秒読み段階にあり、これまで以上にゴジュラスのパイロットを必要としていた。

 

従来の養成方法に限界を感じたヘリック共和国軍は、ゴジュラスパイロットの補充として選抜した他のゾイドのパイロットを機種転換させることを決定したのである。

 

この際、最もゴジュラスのパイロットに選ばれたのは、小型ゾイドであるゴドスであった。

 

 

ゴジュラスと同じ大型ゾイドであるが、草食動物であるゴルドスやマンモスより同じ肉食恐竜型のパイロットの方がゴジュラスへの適合率が高いと判断されたのがその大きな理由である。

 

 

またゴドスは、小型ゴジュラスと呼ばれている様に操縦特性が比較的、ゴジュラスのものに似ていたことと、共和国陸軍の数的主力として運用され、パイロットの数も多い為、引き抜きを行っても顕著な技量低下が起こり難いと考えられたこともゴドスのパイロットが着目された理由である。

 

 

こうして優秀なゴドス乗りであった彼もゴジュラス乗りに選ばれ、主力大型ゾイドとして生産が進められていたゴジュラスmkⅡ量産型に搭乗する事となったのである。

 

 

当初、ゴジュラスへの機種転換が上官から命じられた時、グレイは夜も眠れない程の興奮を感じると共に喜びに舞い上がった。

 

 

この時彼は、過酷な機種転換訓練が待ち受けていることも、激戦地に優先的に送られる義務が付随していることも想像していなかった。

 

 

今のグレイは、かつての愛機 ゴドスとかけ離れた巨体と性能を持つゴジュラスよりも、ゴドスの正当な後継機とも言える中型歩兵ゾイド アロザウラーに乗りたかった。

 

 

 

頭上の敵にも対応できる対空機銃、ゴジュラスよりも小型で機動性があり、ゴドスを超える重装甲とパワー………ゴドスに乗り込んでいた時に欲しいと思っていた要素が全て揃っていた。

 

背部に装備した対空機銃であの厄介なサイカーチスを叩き落とし、中型ゾイドのパワーと電磁ハンドでゴドス時代に苦戦したイグアンやハンマーロックを数機纏めてスクラップに換える。

 

 

そして、ライト級ボクサーの様に軽快な動きで動きの鈍いレッドホーンを翻弄する………彼の脳裏にそんな光景が浮かんだ。

 

 

だが、同時にグレイは、その妄想が、子供じみた夢想に過ぎない事も知っていた。

 

 

今更、ゴジュラスのパイロットを止めてアロザウラーに乗り換えたいと軍に申請したところで、許可されるわけもない。

 

 

何故なら、彼が乗るゾイドは、国家の資産であり、軍の戦力の一部であって子供の玩具ではないのだから。

 

 

次の瞬間、荒々しい雄叫びがグレイの想像を掻き消し、彼の意識を現実に帰還させた。グレイの愛機のゴジュラスmkⅡ量産型が突然吼えたのである。

 

 

「わぁ………すまんすまん、俺の今の相棒はお前だったな。」

 

 

グレイは、笑みを浮かべて愛機に謝罪した。彼は、乗機のゴジュラスが、別のゾイドについて想像していた自分に対して抗議として吼えたのだと考えていた。

 

妬いたのかな……と。ゾイドは生命体であり、乗り手との相性がその性能を左右することもある。

 

 

それは、地球人が漂着し、パワーアシストや精密誘導兵器、レーザー兵器等の先端技術がゾイドに導入された現在でもそれは、変わらない法則である。

 

 

特にゴジュラスは、中央山脈の地底世界に棲む野生種から、共和国領の野生ゾイド群生地に人の手で導入された半野生、半養殖種に至るまで気性が荒く、乗り手を選ぶゾイドの1つだった。

 

それは、コンバットシステムが、中央大陸戦争前半に比べて改良されているゴジュラスmkⅡ量産型も同じである。

 

 

そんな相棒の機嫌を損ねるのは、余り得策ではなかった。例え今が、戦闘中ではなく、移動の途中であったとしても。

 

「各機、対空警戒を怠るな。」

 

そう部下達に命じるグレイの双眸は、鉛色の雲に占領されつつある碧空に向けられている。

 

彼の瞳だけでなく、3機のゴジュラスmkⅡ量産型の背部に装着された2門の大砲は、水平……地上にいる敵に対してではなく、斜め上……遥かな蒼穹へと向けられている。

 

同様に部隊のアロザウラーの対空機銃も上空に向けられている。

 

 

今彼らが進んでいるのは、平地戦に適した部隊が進むには、狭い山の谷間。

 

ゴジュラス3機が辛うじて横になって進める程度の広さの谷幅に加えて密集体形――――――――――――空襲を受ければ、逃げ場はない。

 

 

もし共和国空軍の誇る大型飛行ゾイド サラマンダーが爆装して、1個小隊飛んで来れば全滅は免れないだろう。とグレイは考えていた。しかし彼は、敵の空襲をさほどの脅威とは考えていなかった。

 

その理由は、単純明快なもので、ゼネバス帝国空軍にサラマンダーは存在しないからである。

 

ZAC2046年現在 ゼネバス帝国空軍が保有する飛行ゾイドは、シンカー、シュトルヒ、レドラーの3機種である。

 

 

その内、爆撃機としてゼネバス帝国軍が運用しているのは、シンカーのみである。シュトルヒは、シンカーにペイロードで劣っており、爆撃機としては使えなかった。

 

 

そして新型のレドラーも同様であり、こちらは、中型ゾイドでパワーもある為、ある程度爆装が可能だった。

だが、その場合は、空力特性の悪化と重量増加で本来の空戦能力を発揮できなくなる欠点があった。

 

爆装したレドラーはプテラスでも互角に戦える程度の空戦性能しかなかったのである。

 

またレドラーは、爆撃任務よりも制空任務に運用した方が効率的であると帝国空軍の上層部が考えていたことも、このドラゴン型飛行ゾイドが敵に爆弾を落とす機会に恵まれていない理由の1つであった。

 

 

帝国軍は、これらの3機種に加えて対地攻撃に優れたカブトムシ型ゾイド サイカーチスを保有しているが、この機体は、ZAC2046年の時点では、対空火器の発達によってその脅威度は全盛期よりも低下していた。

 

それでも対空警戒を怠らないのは念のためである。

 

 

「了解!」

 

 

「了解しました中佐殿………全く、この狭い谷、早く抜け出したいですよね。もしここで爆撃でも受けたら……。」

 

 

アロザウラーに乗る第2小隊指揮官 エディ・フィールズ大尉が不安げに言う。

 

 

「心配するなエディ、向こうが空襲してきたとしても俺達を全滅させるのは不可能だ。向こうがデスザウラーに翼を付けて持ってきでもしないかぎりな。」

 

 

おどけた口調と表情でグレイは不安げな部下を勇気付ける。

 

「……髭を剃っておくべきだったかな」

 

 

無精髭の生えた下顎を右手で撫でつつ、グレイは1人呟いた。

 

 

「隊長、先行している偵察隊より連絡です!」

 

 

 

その報告が、グレイの思考を中断させた。

 

 

第5連隊を初め、ダナム山岳基地攻略部隊の先陣を切る部隊は、途中に帝国軍の迎撃部隊と戦闘する事を想定されていた。

 

 

「内容は?」

 

「先行した偵察隊によると、ここから前方のエリア……谷の出口に当る地点に多数の高熱源体を確認、ゾイドの可能性大」

 

「熱源だと?」

 

居住者等殆どいない極寒の僻地において熱源とは、野生ゾイドを除けば、人工物以外考えられない。

 

 

そして、この場合の人工物とは―――――人の手で改造されたゾイドを意味した。

 

「この先に敵の迎撃部隊がいるのか……?」

 

 

誰に尋ねるでもなく、グレイは呟いた。それは、彼の部下達も同じ思いであった。

 

 

「全機、進軍停止!」

 

指揮官の命令を受け、ゴドスやアロザウラー、そしてゴジュラスmkⅡ量産型が動きを止めた。

 

 

 

 

第5連隊が進軍を停止する少し前―――――――先遣偵察部隊に所属する2名の偵察兵は、谷の出口に陣取る帝国軍部隊の姿を発見した。

 

 

 

傍らには、オルニトレステス型24ゾイド バトルローバー2機が雪の中に伏せていた。

 

 

彼ら偵察兵は、本隊に先行して敵の存在を発見するのがその任務である。

 

 

 

「大型ゾイドがいるな……」

 

 

敵部隊の姿を雪煙の向こうに捉えた偵察隊の少尉は、呟いた。この山羊髭と恰幅の良い体

格が特徴的な共和国軍士官は、強行偵察任務で度々友軍部隊に貴重な情報を伝えてきた。

 

 

「アイアンコングでしょうか?」

 

 

隣にいた部下が言う。

 

 

「……いや違うな、熱量的に考えて、レッドホーンだ。小型機もいる……」

 

 

 

男は、再び赤外線対応式電子双眼鏡を使って黒い影が林立する吹雪の向こうを覗いた。

 

 

 

敵機の発する熱源を捉えるこの装備は、吹雪や砂嵐の中でも敵の姿を正確に発見することが出来た。

 

この装置には、地球人が到来する以前の偵察兵が利用していた研磨したレンズによる単純な双眼鏡とは比較にならない高度な技術が使われていた。

 

 

雪煙に閉ざされた彼方にある赤外線を発散する物体を映し出していた。赤外線の塊が谷の出口を埋め尽くしていることに偵察兵は驚いた。

 

 

隣にいた若い偵察兵に至っては驚きの余り声を漏らしていた。

 

それらの赤外線の塊は、ある特定のシルエットを形成していた。一目見れば、イグアン、マーダ、モルガといった帝国ゾイドのシルエットであることが分かる。

 

 

やがて雪煙が薄まり、その向こう側にいた者達の姿が見えた。帝国軍の戦闘部隊が並んでいた。中には、ザットンやゲーターと言った輸送機や支援機の姿もある。

 

 

更に彼らを驚かせたのは、部隊の中に複数の大型ゾイドも含まれていたことであった。

 

 

鼻っ面の一本角と襟飾りが特徴的なシルエット―――――――レッドホーンの巨体が4つ、林立する小型ゾイド達の影に隠れる様にして佇んでいた。

 

 

更にその付近には、扇の様な形の背鰭の生えた四足歩行型――――ディメトロドンの姿もあった。

 

 

「なんて数だ……本隊に連絡しろ、大型ゾイド複数を含む敵部隊が谷の出口を塞いでるってな!」

 

「はい!!」

 

彼らが目撃した敵部隊の情報は、彼らの後方にいる第5連隊の元に伝えられた。

 

 

 

 

 

 

 

「偵察部隊からの報告で、俺達の進路上には、約1個大隊~数個中隊規模の帝国軍部隊が存在していることが判明した。このまま全速力で行けば30分もしない内に彼らとぶつかることになる。」

 

 

前線での作戦会議は、最高指揮官であるグレイの発言で始まった。

 

 

 

彼のゴジュラスの正面モニターには、谷の出口を塞ぐゾイド部隊の情報が映されている。敵の推定戦力についての情報は既に各指揮官の機体に伝送されている。

 

 

 

「レッドホーンが4機に、ディメトロドンが2機……大型ゾイドを6機有する敵の大部隊……目的は我軍がダナム山岳基地に向かうのを阻止することでしょうか?」

 

 

「いや、それは最初俺も考えた……だが、連中もこれだけの数でダナム山岳基地を攻撃する我軍を阻止できるとは考えないだろう。」

 

 

「ですが、谷の出口を塞ぐのには十分ではないですか?」

 

 

 

「谷の出口で我々にある程度の打撃を与えた後撤退するつもりではないでしょうか?地雷か何かを埋めて我々の進軍速度を鈍らせるのかもしれません」

 

 

「地雷か……もしそうならやっかいだな。ゴジュラスやマンモスが部隊単位で移動できる道は、中央山脈では限られているからな」

 

 

グレイ達は、帝国軍がダナム山岳基地攻略部隊の進軍を遅らせる目的でそれらの部隊を派遣したのだと考えていた。

 

 

 

しかし、事実は、彼らが警戒していたものとは大きく異なっていた。前方の部隊は、戦うためにその場にいたわけではなかったのである。

 

 

共和国軍の侵攻ルート上に存在する帝国軍基地の戦力は、ダナム山岳基地や後方の大規模拠点への退避を命じられた。

 

 

一部の偵察部隊を除き、基地守備隊は、撤収を開始した。

 

 

だが、各守備隊がバラバラに撤退したのでは混乱が生じる為、数か所の合流場所で合流した後に後方の拠点に移動することになっていた。

 

第5連隊の進路上にある谷の出口に位置する開けた場所も、撤退途中の帝国軍の合流地点に選ばれた場所の一つだった。

 

 

グレイら第5連隊の兵士達が遭遇したのは、周囲の基地から撤収した守備隊が集まった部隊であった。

 

 

 

だが、そんなこと等知る由もないグレイ達第5連隊の兵士達は、目の前の帝国軍部隊をダナム山岳基地から出撃してきた迎撃部隊、あるいはその先遣隊だと判断していた。

 

 

「まるで俺達がこのルートを経由してダナム山岳基地を攻撃することを予測していたみたいですね。」

 

 

左側のゴジュラスmkⅡ量産型のパイロットのスコット・ファーデン大尉が言った。

 

 

「偵察隊の報告では、敵部隊後方にAZ砲を牽引しているモルガを数機確認したそうです。工兵隊仕様のゲルダーも。」

 

更に部下の一人が報告する。

 

 

「AZ砲に工兵隊………奴ら、俺達の進路上にAZ砲陣地を形成するつもりか。」

 

 

グレイは顔を歪め、唸る様に言った。AZ砲陣地………通常は、敵のゾイド部隊の侵攻を阻むため、野戦陣地にAZ砲を設置したものを指す。

 

 

 

前線で間に合わせで作られることが多く、トーチカの様に分厚いコンクリートに人員と砲座が守られているわけではない為、防御力も低い。

 

 

だが、その火力は侮れるものではなく、十分に隠蔽されたAZ砲陣地の集中砲火は、複数のゾイドを有する部隊に大打撃を与えることも可能だった。

 

 

更にゾイド部隊の援護によってその脅威は何倍にも増大する。

 

 

グレイの、敵がAZ砲陣地を形成しようとしているという推測を補強したのは、作業用ゲルダー 通称ゲルドーザーの存在である。

 

 

ゲルダーの戦闘工兵仕様であるこのバリエーションは、機体前部に装着したドーザーブレードでの塹壕構築作業、背部のクレーンでの友軍機回収等に用いられることが多く、陣地構築では重宝されている機体として知られていた。

 

 

穴掘りを得意とするモルガの存在も加味すれば、グレイ達がゾイド部隊の侵攻を迎撃する為のAZ砲陣地を形成しようとしていると予想するのは当然であった。

 

 

しかし、実際には、それらのAZ砲は、各守備隊が基地から撤収する際に補給物資と共に持ち込んできたものであり、その殆どは、弾薬が入っていなかった。

 

 

またAZ砲陣地形成の為のものと考えていたゲルドーザーも退却時に守備隊に随伴した工兵隊の機体であった。

 

 

 

後方の友軍拠点へと帰り支度を急ぐ帝国軍部隊は、敵の進路上にAZ砲陣地を形成するどころかAZ砲を運用すること自体考えていなかった。

 

 

 

しかし、グレイら共和国軍の兵士達にそれを知る由は無く、彼らは帝国軍部隊が自分達の進攻を阻むための防衛線を形成しようとしていると考えていたのであった。

 

 

 

双方の事情を知った者がいれば、滑稽の極みであると大笑いしただろうが、限られた情報しか得ていなかった第5連隊の士官達は、敵が迎撃態勢を取ろうとしていると判断せざるをえなかった。

 

 

 

「向こうは、まだこちらに気付いていないようだな」

 

 

確かめる様にグレイが部下の1人に尋ねる。

 

「時間の問題ですよ、帝国軍の赤外線センサーの性能は、けっして低いものではありませんから」

 

「確かに、俺達は極寒の大地では目立つからな」

 

グレイはため息を吐いた。第5連隊先遣隊は、司令機のグレイのゴジュラスmkⅡ量産型を含む3機のゴジュラスmkⅡ量産型、その3機を援護するアロザウラー10機とゴドス35機で編成されている。

 

 

第5連隊全体では、ゴジュラスmkⅡ量産型14機を含む100機以上のゾイドを保有しているが、今回は、狭い山間部を移動する関係上、3分の1程度の戦力で分散して移動しなければならなかった。

 

 

これらの数十機のゾイドの発する熱は相当のものであった。それだけの熱を放っているという事は、帝国ゾイドに装備されている平均的な赤外線センサーが発見するのは簡単だということを意味する。

 

 

特にゴジュラスmkⅡ量産型3機のゾイドコアとそれに付随する駆動系が発する高熱は、凄まじい物であった。

 

 

この極寒の大地の中で、3機の巨獣の鋼鉄の心臓は、太陽の如く猛烈に赤外線を発している。

 

 

これらの条件を考えると、進路上の帝国軍部隊が第5連隊の存在を感知するのは時間の問題である。

 

 

「どうします?ロンバーグ中佐、ゴジュラスのキャノン砲で遠距離から吹き飛ばしますか?」

 

 

右側のゴジュラスmkⅡ量産型に乗る女性士官 エミリー・エスターン大尉が遠距離砲撃による敵部隊の撃破を提案した。

 

 

 

肩まで垂れる金髪をツインテールにした彼女は、ゴジュラスパイロットの門が広がった今でも珍しい、女性のゴジュラス乗りである。

 

 

 

「待て、エスターン大尉。この吹雪の中で遠距離砲撃を行うのは赤外線センサーのサポートがあっても命中精度の面で問題がある。今回、ゴジュラスのキャノンの砲弾のストックは、ゴジュラス3機に搭載している分しかない。それに友軍の遊撃部隊は、まだ本隊と合流していない。もし敵部隊に遠距離から砲撃を行った場合彼らを巻き込む危険性がある。……俺は、〝エボニー事件〟の二の舞をするつもりはない。」

 

 

グレイは、物理的にゴジュラスmkⅡ量産型の長距離キャノンによる遠距離からの敵部隊の撃滅が不可能であることと、友軍との同士討ちのリスクを考えて部下の提案を退けた。

 

 

 

彼が言ったエボニー事件とは、第1次中央大陸戦争の激戦 ブラッドロック戦役の終盤に発生した同士討ち事件の事である。

 

第2連隊連隊長 エボニー・スミス少佐は、退却する帝国軍の追撃を命じられ、吹雪の中を進撃した。

 

この時、第2連隊の担当エリアは、吹き荒れる吹雪によって視界が阻まれ、更に金属探知機等のセンサーもこれまでの戦闘の産物であるゾイドの残骸が散乱し、機能を低下させていた。

 

 

その時、獲物の匂いに酔う猟犬の如く退却する敵を追い求める彼らの目の前に無数の熱源が出現したのである。

 

 

連隊指揮官のスミス少佐は、それらの熱源を敵と見做し射撃命令を下した。この時、彼らが赤外線センサーで発見した敵部隊とは、実際には、同じエリアを担当していた友軍部隊であった。

 

両部隊は互いに相手の存在を知っていたが、猛吹雪によってそれぞれのいる位置を認識していなかったのである。

 

第2連隊のパイロット達は、指揮官命令に忠実に従い、トリガーを引いた。

 

吹雪の向こうに展開していた友軍部隊に対して。

 

 

数秒後、吹雪の向こうで爆発音と爆炎がいくつも発生した。

 

 

当時、重装甲の帝国ゾイドを撃破する為に一点集中射撃が戦法として採用されていたこともあり、その損害は、甚大なものとなった。

 

 

対する攻撃を受けた部隊も帝国軍の反撃と判断し、集中砲火を浴びせ、第2連隊に痛撃を与えた。それらの攻撃で第2連隊指揮官 エボニー少佐もその犠牲となった。

 

 

20機近い共和国ゾイドが、友軍の射撃によって乗り手と共に雪山で葬られたのである。

 

 

この事件は、共和国軍の部隊指揮官達の間に同士討ちは絶対に避けるべきことであるという認識を強めた。

 

 

グレイが長距離射撃による敵部隊に二の足を踏んだのにもそれが影響していた。

 

 

 

「砲撃は、ゴジュラスmkⅡ3機で行う。熱源が集中している個所を狙え。砲撃と同時にアロザウラー隊、ゴドス隊は、主要火器の有効射程範囲まで進軍後、各自で射撃を開始しろ。」

 

 

 

グレイが代替案として選択したのは、平原での戦術の応用だった。

 

 

彼が選択した戦術は、ゴジュラスmkⅡ量産型の長距離キャノンによる火力支援で敵部隊に打撃を与えた後、アロザウラーとゴドスが白兵戦を挑み、敵部隊の陣形を乱す。

 

 

そして最後にゴジュラスmkⅡ量産型が突撃して敵部隊に止めを刺すというものである。

 

 

 

平原では、何度かこの戦術を使って帝国軍部隊を殲滅した事があったが、この様な山岳地で行うのはグレイも、部下も初めてである。

 

 

「了解!」

 

 

「はい!」

 

 

ゴジュラスmkⅡ量産型の長距離キャノンが火を噴き、吹雪の向こうにいるであろう敵影へと砲弾が送り込まれた。

 

 

砲弾が着弾したのは、谷の出口に陣取っていた帝国軍部隊が第5連隊を発見したのとほぼ同時だった。

 

 

 

 

 


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