ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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今回の話は空中戦です。


第21話 空の戦い 前編

 

 

 

 

――――――――ZAC2045年 12月25日 中央山脈北部上空――――――――――

 

 

ダナム山岳基地攻略作戦発動後、最初の中央山脈北部での両軍の地上戦が行われたこの日、戦いは上空でも行われていた。

 

 

中央山脈を形成する山の1つでもその戦いの余波が地上に影響を与えていた。

 

降り積もった雪で白く染まった山の麓が、今赤々と燃え上がっていた。

 

 

それはまさに活火山の火口さながらだった。

 

 

 

少し前まで平穏だった山の麓は、無数の火柱と爆炎が生まれ、そこにあったものを人工物と自然物の区別なく破壊し、その残骸を空中に舞い上げていた。

 

 

 

 

自然界では、突然の火山噴火や宇宙からの隕石雨でもなければあり得ない現象―――――――――――――それは、人為的なものであった。

 

 

ヘリック共和国軍の誇る大型飛行ゾイド サラマンダー部隊の空爆である。

 

 

サラマンダーの巨体の周囲には、別の種類の翼竜型飛行ゾイドの姿もある。

 

 

共和国軍の主力戦闘機 翼竜型飛行ゾイド プテラスである。

 

 

サラマンダーの子供の様にも見えるこの小型飛行ゾイドは、サラマンダーの護衛機である。

 

 

共和国軍第36爆撃航空大隊所属の9機のサラマンダーと護衛のプテラス 25機は、中央山脈北部に存在する帝国軍基地に対する爆撃作戦を行っていた。

 

 

今回の目標は、ダナム山岳基地への進軍ルート上に存在している帝国軍の基地。

 

 

 

基地の周囲に設置された対空陣地から、対空砲や対空ミサイルが盛んに打ち上げられたが、高高度を飛ぶサラマンダーには、命中しない。

 

 

小型爆弾の直撃やクラスター爆弾の破片の雨を受けて、次々と基地施設は、破壊されていった。

 

 

兵舎が爆弾によって弾け飛び、レーダーサイトが廃墟と化す。

 

 

コンクリートで固められた灰色の竈の様な長距離砲台がサラマンダーの投下した爆弾を受けて砕け散る。

 

 

長距離砲を搭載したその砲台は、付近を進軍する予定の共和国軍部隊にとって十分脅威となり得た。

 

 

 

「目標の75%を破壊……‥…これでダナム山岳基地攻略の友軍部隊の脅威は無くなったとみていいでしょうね。」

 

 

「もぬけの殻だな………」

 

爆撃隊指揮官のベン・ボブソン少佐は、3D式の爆撃照準器越しに眼下の目標を見つめながら言った。

 

 

 

燃え盛る基地施設の周囲には、対空砲台の他に守備隊のゾイド―――――――――イグアン、モルガ、マルダー、シーパンツァーの機影があった。一見すると、基地には、複数のゾイドを有する守備隊が存在している様に見える。

 

 

 

だが、それは、見せかけに過ぎない。その事をボブソン少佐は、愛機に搭載された電子の目によって知っていた。

 

 

丁度、僚機のサラマンダーの投下したクラスター爆弾が空中で炸裂し、真下にいた守備隊のシーパンツァーが数機纏めて吹き飛ぶのが見えた。

 

 

だが、それらの機影は、クラスター爆弾の破片の雨を浴びて弾け飛ぶという奇妙な撃破のされ方をしていた。常識的に考えて特殊合金製の殻に守られたシーパンツァーがあの様に撃破されるのはあり得ない。

 

 

熱センサーとエネルギー反応を感知するセンサーもそれがゾイドではないことを教えていた。

 

それらのシーパンツァーに似た機影は、金属皮膜を蒸着させたゾイド型の風船――――デコイであった。

 

 

 

 

共和国空軍も空襲と敵の偵察機を避ける目的で、同様のデコイや前線で制作したガラクタによる囮を利用していた。

 

 

ボブソン少佐も味方基地の飛行場にサラマンダーやプテラスを模したデコイが設置されるのを何度も見たことがあった。

 

 

彼らの眼下で帝国軍基地は、焼け崩れていった。

 

 

「これで敵の基地は破壊した。友軍基地に帰還するぞ。」

 

 

 

「了解!」

 

「了解!」

 

 

「敵の迎撃は、対空火器以外は無しか。」

 

 

「楽な任務だったな」

 

 

「ああ」

 

 

「……まだだ、基地に帰還するまでが任務だぞ」

 

 

楽観的な発言を始めた部下達をボブソンは諫める。

 

 

「6時方向に敵機出現!…………数は、約14から16機。機種は、……レドラーとシュトルヒの混成です!」

 

「何!」

 

「レドラー!」

 

 

「シュトルヒにレドラーか。どっちも厄介な!」

 

 

ボブソン少佐は、忌々しげに吐き捨てる。

 

 

彼の部下達も同様に苦虫を嚙み潰したような顔をし、数人は、舌打ちしている。

 

 

編隊にレドラーが加わっていると言う事は、爆撃隊が無事帰還できる確率が大きく低下する事を意味したからである。

 

 

シュトルヒは、航空戦力で劣るゼネバス帝国軍が、制空権を奪取する為に極秘開発し、ZAC2038年に投入した始祖鳥型飛行ゾイドである。

 

 

低空のドッグファイト性能と運動性では、共和国のプテラスを上回っていた。

 

そして、背部に装備したバードミサイルは、高い威力と誘導性能を誇り、直撃を受ければサラマンダーも危ないという恐るべき兵器だった。

 

ボブソン少佐と部下達も帝国首都防空隊所属機に苦戦を強いられた経験を持っていた。

 

だが、そのシュトルヒを遥かに上回る脅威が新型飛行ゾイド レドラーである。

 

 

レドラーは、暗黒大陸に退いたゼネバス皇帝とゼネバス帝国軍が、シーパンツァーやブラキオス、ディメトロドンと同じく暗黒大陸で新開発した新型ゾイドの1つであり、素体となったのも暗黒大陸に生息する中型種のドラゴン型ゾイドである。

 

 

その飛行性能と最高速度、加速性能、運動性能は、プテラスとサラマンダーを上回っていた。

 

 

この機体の最大の特徴は、飛行ゾイドとしては異様ともいえる近接格闘戦に偏重した装備である。

 

 

ノーマルタイプのレドラーは、脚部のストライククローと尾部の切断翼と呼ばれる格闘戦用のブレードしか攻撃装備を装備していない。

 

これまでの空戦の主兵装であったミサイルや機銃を一切装備していないこの機体が初めて戦場に登場した時、共和国空軍のパイロット達は、敵ではないと嘲笑った程である。

 

だが、彼らの嘲笑は間もなく恐怖に代わった。

 

 

戦場に出現したレドラーは、尾部に装備した切断翼とストライククローでプテラスやサラマンダーを近接格闘によって撃墜していったのである。

 

 

レドラーの高い運動性と2つの格闘兵装の組み合わせは、空中で恐るべき威力を発揮した。空中戦艦の異名を持つ戦闘機型のサラマンダーですらレドラーの切断翼の餌食となった。

 

 

ZAC2045年現在、レドラーは、最強の飛行ゾイドといっても過言ではなかった。

 

サラマンダーは、レドラーとシュトルヒから退避すべく全速力で友軍勢力圏の方に離脱を図った。

 

 

かつては、爆撃後に身軽になったサラマンダーが、護衛のプテラスや戦闘機型のサラマンダーと共に空戦に参加する事は珍しくなかった。

 

 

だが、今では、脇目もふらずに味方基地へと離脱する事が、上層部の命令により、パイロットに義務付けられている。

 

サラマンダー爆撃隊の被害を恐れての事である。

 

かつての空中戦艦は、今では敵の好餌になりつつあった。サラマンダー9機が密集編隊で離脱する中、護衛のプテラス部隊は、敵機の方向に散開する。

 

 

護衛のプテラス達は、接近してくるレドラーとシュトルヒの混成部隊に2機編隊で対抗する。

 

 

 

レドラーは、尾部に装備した切断翼を展開して次々とプテラスを切り捨てていく。4機のレドラーは、翼部にシュトルヒのビーム砲を追加装備していた。

 

 

レドラーの改良型としてはオーソドックスなタイプである。数か月前のフロレシオ海海戦で敢闘虚しく全滅したヴァルター・ガーランド中佐のレドラー部隊も同じ改良を施していた。

 

 

「レドラーは4機だ!残りはシュトルヒ!」

 

「レドラーを優先して落せ!」

 

「無茶言いやがって」

 

「糞っなんて速さだ!」

 

「落ちろ!」プテラスとシュトルヒ、レドラーが空中で激突する。プテラスのバルカン砲を胴体に受けたシュトルヒが墜落する。

 

 

次の瞬間、そのプテラスは、レドラーのビーム砲を受けて撃墜される。シュトルヒは、軽快な運動性を活かしてプテラスを翻弄する。

 

シュトルヒの背中に装備されたバードミサイルは、高い誘導性能と威力を有する兵装である。登場時は、サラマンダーを撃墜可能な数少ない帝国空軍の装備であった。

 

 

だが、シュトルヒ隊は、バードミサイルを発射せず、胴体のビーム砲だけでプテラスと交戦していた。彼らは、サラマンダーを撃破する為に温存しているのである。

 

 

 

シュトルヒのパイロット達は、貴重なバードミサイルを護衛のプテラスの様な〝小物〟に使用するのは、勿体ない。と考えていた。

 

 

 

シュトルヒもプテラスを撃墜する為にバードミサイルを発射し始めた。

 

だが、流石に多数のプテラスに攻撃されては、サラマンダーにバードミサイルを撃ち込む前に撃墜されてしまうとパイロットも判断した。

 

最初にバードミサイルを発射したのは、3機のプテラスに追撃されていたシュトルヒだった。

 

ミサイルを発射した直後、シュトルヒは、背後からバルカン砲を受けて撃墜されたが、バードミサイルは、発射母機が撃墜された後も、敵機に向かっていた。

 

 

シュトルヒが火球と化した直後、新たな火球が上空に出現した。

 

 

1機のプテラスがバードミサイルを受けて撃墜された。

 

 

他のパイロットも同じ判断をしたのか、バードミサイルを発射。直撃を受けた3機のプテラスが上空に光の花を咲かせる。

 

 

対するプテラス隊のパイロット達もシュトルヒがバードミサイルを発射する前に撃墜しようと数機がかりで襲い掛かる。

 

 

1機のプテラスがシュトルヒを撃墜する。

 

 

「やったぜ!」

 

4機のレドラーが切断翼を展開して敵機に襲い掛かる。プテラスの機体をすれ違いざまに尾部の切断翼で切り捨てる。

 

 

左翼を切り裂かれたプテラスが煙を上げて眼下の山岳地帯へと堕ちていく。

 

 

 

プテラス隊は、数の差を活かしてサラマンダー編隊に接近を試みる帝国空軍機を追い払おうとする。

 

 

 

例え撃墜数を稼げなくても、サラマンダーが離脱するまでの時間を稼ぐ事が出来れば、彼らの勝ちだった。

 

 

 

レドラー2機が護衛機を掻い潜り、撤収を図るサラマンダー9機編隊に襲い掛かった。2機のシュトルヒもそれに続く。

 

 

サラマンダー9機は、それぞれ僚機との間隔を詰め、全身に装備した防御用の対空機銃で弾幕を張る。シュトルヒ2機がバードミサイルを発射する。

 

 

 

2発のバードミサイルが、サラマンダー隊に襲い掛かる。

 

 

「何としてでも叩き落とせ!」

 

 

 

1発が、サラマンダーの増設された後部銃座……‥腰部に装備された機銃によって撃墜される。

 

 

だが、もう1発のバードミサイルは、見事、獲物に命中した。

 

 

被弾したのは、編隊最後尾のサラマンダー――――――――その機体は、少なくない損傷を受けていたが、編隊の僚機に何とか追従していた。

 

 

 

 

「9番機被弾!」

 

 

「バートラムの機体か!爆撃した後でよかった。」

 

 

後方警戒モニターに映る最後尾の友軍機を見やり、ボブソンは胸を撫で下ろす。

 

 

爆弾を満載したサラマンダーは、空飛ぶ火薬庫の様な物だ。当然、被弾には弱い。

 

 

もし、爆撃開始前だったら、9番機は、空中で大爆発を起こして木端微塵になっていただろう。

 

 

帝国首都爆撃作戦に何度も参加した彼は、帝国首都に到着する前に迎撃機や対空砲火を浴びた僚機が大爆発を起こす姿を何度も目撃していた。

 

 

 

バードミサイルを発射して身軽になったシュトルヒ2機のパイロットは、機体を加速してサラマンダー編隊に更に攻撃を仕掛けようとする。

 

 

バードミサイルを発射したシュトルヒの武装は、胴体のビーム砲2門だけ。

 

 

プテラスやそれ以前の旧式機なら十分に撃墜可能な威力を持っているが、サラマンダーの装甲を撃ち抜くのは困難だった。

 

 

 

だが、〝アイアンウィング〟の異名を持つサラマンダーも無敵ではない。

 

 

翼の付け根……巨体を空中に浮かべるマグネッサーウィングの基部、胴体下部の爆弾槽、そしてメインパイロットが乗っている頭部コックピット。

 

 

シュトルヒは、散開し、それぞれサラマンダーの9機編隊に襲い掛かる。

 

 

1機のシュトルヒが先頭を飛ぶ編隊長機のサラマンダーの頭部にビーム砲を撃ち込んでくる。

 

 

ビームの連射を受けているコックピットのボブソンには、光の雨が降り注いでいる様に見えた。

 

 

サラマンダーのキャノピーは、ある程度のビーム耐性を持っている。だが、集中射撃を受ければバーナーを当てられた窓ガラスの様に溶かされてしまう。

 

 

 

「落ちろ!」

 

 

ボブソンは、シュトルヒを両翼に装備した2連対空レーザーで迎撃する。

 

 

 

発射されたレーザーがシュトルヒを撃ち抜いた。

 

 

もう1機のシュトルヒは、別のサラマンダーにしつこく銃撃していたが、間もなく後方から追ってきたプテラスのミサイルを受けて撃墜された。

 

 

だが、サラマンダー隊の危機は、まだ過ぎ去ってはいなかった。

 

 

「9時方向と6時方向より敵機接近!」

 

 

「機種は?」

 

 

「レドラーです!」

 

 

「来やがったか!全機、対空砲火を集中しろ!護衛機が助けてくれるまで持ちこたえるぞ!」

 

 

レドラー2機は、9機のサラマンダーにそれぞれ別方向から接近する。

 

対するサラマンダーの編隊は、密集編隊を組んで対空機銃の弾幕を形成してレドラーの接近を阻止しようとする。

 

 

 

この戦術は、レドラー以前の帝国空軍機…‥‥‥シンカーやシュトルヒには、効果的な戦法であった。

 

 

だが、レドラーは、対空弾幕を突っ切ってサラマンダー編隊に襲い掛かった。

 

 

 

「うわあああっ、来るなぁ!」

 

 

レドラーの尾部の切断翼が展開される。鋭い特殊合金のブレードが太陽の光を浴びて輝く。レドラーの切断翼が、サラマンダーの巨大な翼を切り裂いた。「わあああぁーーー!」

 

「9番機が!」

 

 

胴体のサブパイロットの声と9番機のパイロットの悲鳴が重なった。

 

 

「……畜生!」

 

 

ボブソン少佐は、舌打ちした。彼の乗機の背後では、右翼を切り裂かれたサラマンダーが地上への落下を開始していた。

 

 

そして、レドラー2機は、尚もサラマンダー部隊を追撃する。

 

 

戦闘は、最終的にサラマンダー部隊がレドラーの追撃可能圏内を離脱した事で終了した。

 

 

 

 

今回の空戦で、サラマンダー9機の内、2機を喪失、残った機体も損傷を受けた。

護衛機のプテラスは、5機が撃墜された。帝国軍は、レドラー1機、シュトルヒ6機を失った。

 

 

一見すると双方の損害は、殆ど互角に見える。だが、損害比では共和国軍の敗北であった。

 

 

大型ゾイドであるサラマンダーは、プテラス5~10機分の戦力価値があった。またサラマンダーの素体である大型翼竜型ゾイドは、個体数が少なく貴重であり、大量生産できなかった。

 

帝国軍も共和国空軍の爆撃機戦力の主力を成しているサラマンダーを最優先攻撃目標にしていた。

 

 

 

 

ダナム山岳基地攻略作戦が発動する1か月前からヘリック共和国空軍は、ダナム山岳基地を始めとする中央山脈北部に存在するゼネバス帝国軍の拠点に対する空爆作戦を開始していた。

 

 

共和国空軍は、サラマンダー107機を含む677機の飛行ゾイドを作戦に投入している。

 

 

 

彼らの前には、ゼネバス帝国空軍の新型飛行ゾイド レドラーによる空の守りと地上に配備された対空警戒部隊――――――――ディメトロドン部隊によって作り上げられた防空網が待ち受けていた。

 

 

この組み合わせによる空の壁は、共和国空軍に多大な出血を強いていた。

 

 

共和国空軍は、ダナム山岳基地攻略作戦発動までの間、中央山脈北部の敵拠点に火の雨を降らせてきた。

 

 

だが、その度に彼らは、多数の飛行ゾイドを喪失していた。

 

 

大規模拠点に対する攻撃は、敵の対空砲火の濃密さや迎撃してくる帝国空軍の迎撃機の多さ等から、殆ど自殺行為に近かった。

 

 

特に最優先攻撃目標となっていたダナム山岳基地への空爆は、ダナム山岳基地自体の対空設備も相まって1度も成功していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――第23仮設飛行場―――――――――――――

 

 

2か月前、共和国軍工兵隊によって建設されたこの仮設飛行場は、連日帝国領を攻撃する空軍部隊を発進させていた。

 

 

 

現在この飛行場は、サラマンダーとプテラスで編成される航空部隊の帰還を待っていた。

 

 

 

「今日は、大変な事になりそうだ………」

 

 

整備班の班長を務めるジョン・レックス少尉は、滑走路脇にある整備班用の待機所にいた。防空壕も兼ねるコンクリート製の待機所には、彼の部下達も待機していた。

 

 

ベンチに座る彼の灰色の双眸は、待機所の外………コンクリート製の滑走路に向けられている。

 

 

其処は、彼にとっての戦場。今は、何もない平穏なコンクリートの野も、そこを寝床とする鋼鉄の翼竜達が戻って来れば、最前線と相違ない危険な場所に変わる。

 

 

今の状況は、嵐の前の静けさと言えた。

 

 

 

「班長殿!味方機が、味方機が見えてきました!」

 

 

「そうか!」

 

 

男は立ち上がり、待機所を出ると、右手に握りしめていた双眼鏡で、彼方の空を見た。双眼鏡からは、基地へと帰投してくる友軍機の編隊が見えた。

 

 

 

編隊を構成する機体の何機かは、損傷しているらしく、黒煙を引いていたり、編隊から外れかけていた。

 

 

「損傷してる奴が多いな。………ん!」

 

 

 

ジョンの見ている前で、1機の機影――――――形状から推測するにサラマンダー………が編隊から脱落し、高度を下げていった。

 

 

「頑張れ!」

 

ジョンの隣にいた新米の整備兵が叫んだが、彼の願いも虚しくサラマンダーは、地表へと落下していった。直後、地面で爆発が起こった。

 

「来るぞ!」

 

 

やがて、最初の1機が着陸を開始した。サラマンダーとプテラスは、それぞれ別の滑走路に着陸していく。損傷している機体の中には、着陸と同時に脚部が破損した機体や滑走路の近くの地面に不時着した機体もあった。

 

 

「爆撃の後で助かったぜ……」

 

 

ジョンは、1機のサラマンダーが脚部を損傷して胴体着陸するのを見て言った。

 

 

 

サラマンダーの爆弾槽は、胴体下部にある。

 

 

地上攻撃用のバルカンファランクスもそこにある。もし爆弾を搭載した状態だったら、たちまち爆発していたに違いない。その場合、滑走路は瞬時に灼熱地獄に変わっていたのは確実だった。

 

 

 

「お前ら!行くぞ!」

 

 

初老の整備班長は、背後の部下達に叫んだ。

 

 

「はい!」

 

「はい!おやっさん!!」

 

 

「おう!」

 

「了解です。」

 

 

彼らは次々とジープに乗り込み、滑走路に着陸した友軍機へと走っていく。

 

 

ジープには整備用の器材だけでなく、明るい赤色の容器――――化学消火剤のボンベが入っていた。飛行ゾイドの整備兵にとってそれは無くてはならないものであった。

 

 

彼らの任務は、主に着陸したゾイドの修理整備であるが、それだけでなく負傷したパイロットの応急処置や火災の消火も含まれている。

 

 

 

ジョンの率いる整備チームは損傷機用の予備滑走路に着陸したサラマンダーに集まると火災を起こしている箇所や高熱を発している箇所に向けて消火剤を浴びせていく。他の整備班も同じ行動を行っていた。

 

 

短時間で、滑走路は、化学消火剤の白い泡がまき散らされていった。

 

 

必死の整備作業の中、悲劇が起こった両脚部を破損した1機のプテラスが不時着し、コンクリート片と火花をまき散らしながら滑走路を滑った。

 

 

それに滑走路を走っていた整備班を乗せたジープが巻き込まれたのである。整備兵の一部は、滑走路の〝染み〟と化した。

 

 

「畜生!あれじゃ助からん!」

 

 

整備兵の1人は、目の前の惨劇を見て叫んだ。

 

 

「くっ!」

 

 

間髪入れず轟音が、滑走路に居た者の耳を襲った。それはまるで巨人の鉄拳が振り下ろされたかのようだった。

 

 

「プテラス……着陸角度がまずかったのか……!」

 

 

整備兵の1人は、轟音のした方向を見て言った。

 

 

そこには、プテラスが頭から地面に突っ込んでいた。滑走路脇の草むらに不時着しようとして失敗したのだろう。

 

 

頭部コックピットは完全に潰れており、パイロットが生きている可能性は万に一つの可能性も無かった。

 

 

最後の1機が着陸したのと同時に医療班を乗せた車両が滑走路に入ってきた。

 

「サラマンダー隊で帰ってきたのは、9機中6機か……くううっ!!」

 

 

作戦終了後、航空隊司令官を務める空軍将校は、損害表を見て苦虫を1ダースは嚙み潰したような表情を見せた。

 

 

その隣にいる気の弱そうな長身の副官に至っては、顔を青ざめさせていた。

 

ここ連日、この基地を含め、中央山脈北部爆撃作戦に従事している共和国空軍部隊は、少なくない損害を受けていた。

 

 

特にサラマンダーの被害は、大損害と言っても過言ではない。

 

 

サラマンダー1機の戦力価値とコストがプテラスの5倍から10倍と考えられていることを考えれば、サラマンダー3機の損失は、プテラス30機に匹敵する。

 

 

「このままでは、こちらの航空戦力が枯渇しかねんぞ………」

 

 

「来週には、増援の航空隊が到着しますが、それも何時まで持つのか……」

 

 

来週には、サラマンダーとプテラス合わせて257機が増援として、この戦線に配備される予定だった。

 

 

「敵の航空戦力………特にあのドラゴン型ゾイドを排除しない限り、我が軍の被害は増す一方だ。」

 

 

「はい、敵の新型機 レドラーの機体特性は驚異的です。空中でレーザーブレードを用いた格闘戦を行うなんて、常識外れもいいところです。」

 

 

 

「レドラーと互角に戦える新型飛行ゾイドが必要だ。前線のパイロット達の報告を鑑みるにプテラスとサラマンダーの改良では、現状、レドラーに勝てない……これが現実だ。」

 

レドラーと互角以上に戦える飛行ゾイド………それは、現在のヘリック共和国空軍のパイロットが最も必要としているものであった。

 

だが、それが配備されるのはずっと先の事になるであろうことは空軍司令官から一介の整備兵までもが容易に想像できることだった。

 

彼らは当分の間は、プテラスとサラマンダー、この2機種の改良型で戦わなければならなかった。

 

 

「……明日、地上部隊が支援攻撃をしてくれるらしい。それを信じよう。」

 

 

「支援攻撃……ダナム山岳基地攻略作戦とも関係しているのでしょうか?」

 

「詳細は分からんが、帝国の空の壁を打ち破る第1歩をしてくれるらしい。」

 

 

 

2人の空軍将校は、管制塔の向こう側を、防弾耐衝撃性ガラスを隔てた先、滑走路を見つめていた。滑走路には、傷付いた空の戦士達が、鋼鉄の身体を横たえていた。

 

 

 




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