ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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ゾイドワイルドの映像が一部公開されましたが、とても素晴らしいものでした。
本放送が楽しみです。


第22話 空の戦い 中編

 

 

―――――――――――ダナム山岳基地 上空――――――――――

 

中央山脈北部の空は、共和国空軍に所属するパイロットと彼らの相棒である飛行ゾイドにとって、お世辞にも居心地の良い場所とは言えなかった。

 

 

特に中央山脈最大のゼネバス帝国の山岳基地 ダナム山岳基地周辺の空域は、ある種の〝聖域〟といっても過言ではない。

 

聖域を犯したものが神罰を受ける様に、ダナム山岳基地の空域に侵入した空軍機は、対空火器と別の空域から飛来した帝国空軍の飛行ゾイド部隊の盛大な歓迎を受けて撃墜される事になる。

 

 

それは、ヘリック共和国が誇る大型飛行ゾイド サラマンダーとそのパイロットにとっても例外ではない。

 

その危険極まりない空を、共和国空軍のパイロット バート少佐は、愛機であるサラマンダーと共に飛んでいた。彼だけではなく、部下の機体も彼の機体の横を飛んでいた。

 

 

共和国空軍のパイロットにとって最も危険な空を、彼らは今、愛機と共に飛んでいた。

 

 

「こちら1番機、2番機から4番機、編隊を崩すな。」

 

「了解!」

 

「仕方ないだろう。〝上役〟は、俺達よりも上を飛んでるんだからな。」

 

バートは、上を見て、言った。

 

 

与圧されたコックピットの上を覆う防弾キャノピーの向こう――――――――この空域より更に2000m上空の空を、彼らの護衛対象は、悠々と進んでいる。

 

 

〝上役〟………その正体は、彼らの2000m上空を飛行している高高度偵察仕様のサラマンダー。敵の対空火器や迎撃機の届かない高高度から敵地の情報収集を行うというコンセプトで開発された。

 

偵察用である為、装備火器は、翼部の対空レーザーのみであるが、最大で高度23000mまで上昇可能という驚異的な上昇力を有している。

 

バルカンファランクスが撤去された胴体下部には、偵察員用の与圧室と偵察用の装備―――――その中には、高解像度の電子式望遠レンズも含まれている……が搭載されている。

 

高高度を飛行する為にパイロットは、宇宙服同然の専用与圧服を着用する必要があった。

 

ZAC2045年現在の時点で、宇宙服を着て操縦する必要のあるゾイドは、ヘリック共和国ではこの機体だけだった。(ゼネバス帝国には、人工衛星破壊用の試作機 スペースコングが存在していた)。

 

 

この機体は、まさに航空偵察における共和国空軍の切り札。

 

 

 

 

その2000m下を、バート達の戦闘機型サラマンダーが4機 ダイヤモンド隊形で飛行している。

 

 

彼らは、遥か上空を飛ぶ高高度偵察仕様のサラマンダーの護衛機であったが、パイロット達には、護衛しているという自覚はあまりなかった。2000m上を単機で飛ぶ機体を護衛するという経験は彼らに無かったからである。

 

 

「隊長、俺達が護衛する必要なんてあるんですかね?こっちは限界高度ギリギリを飛んでるってのに………」

 

 

2番機のパイロットが尋ねる。彼の疑問は、この護衛任務を与えられたサラマンダーのパイロット達が多かれ少なかれ抱いているものであった。

 

 

「高高度偵察機のサラマンダーには、武装が殆ど無い。敵機に襲われたら一溜りもないだろう。護衛機が欠かせないってことさ。偵察任務を安全にする為だろう。」

 

 

部下の疑問に同意したくなる自分を抑えつつ、バート少佐は、部下にこの任務の必要性を滔々と述べた。

 

 

それは、彼の意見というよりは、この任務を彼と部下に命じた空軍上層部の見解に近かった。バート自身も、高高度偵察機のサラマンダーに護衛として戦闘機型サラマンダーの部隊を配備する意味をあまり見いだせなかった。

 

 

「隊長殿………それなら我々も、どうして偵察用の装備を付けてるんです?単なる護衛には不要では……?」

 

 

別の部下から質問が飛んでくる。彼が言っているのは、今回のサラマンダー4機の装備の事であった。

 

通常の戦闘機型のサラマンダーは、背部の対空ミサイルと緊急時の加速用ブースターを装備しているだけである。

 

 

しかし、今回のバート少佐の隊の機体は、背部に対空ミサイルの代わりに偵察用レドームが追加装備されていた。

 

 

 

「偵察用レドームの事か。それなら、ブリーフィングで司令が説明してくれた通りだ。俺達も護衛ついでに偵察してくれってことさ。気にする事はない。」

 

「……しかし、妙な話ですよ。偵察任務なら〝上役〟がいるってのに………俺達も皿を背負ってるんですか?重たいだけのデッドウェイトじゃないですか?」

 

 

「それは、偵察任務を確実にする為さ。〝上役〟にトラブルがあった場合でも、俺達が情報を持ち帰れるようにって事だ。いざってときは、火薬でパージすればいい。」

 

 

なるべく明るい口調で、バートは言った。

 

彼の発言の内容は、上層部の見解の受け売りに近かった。バートは、自分が上層部のスピーカーになりかけている事に軽い自己嫌悪を覚えた。

 

 

「きっと上層部の奴らは、俺達を囮にしようとしているんですよ。〝上役〟の連中が確実に帰還できる様に………」

 

「馬鹿げている事を言うな。今の我が軍に貴重なサラマンダーとそのパイロットを捨て石にする様な余裕はない……!!」

 

「………申し訳ありません隊長。苛立ってました。」

 

申し訳そうにその部下は謝罪した。

 

「いい、お前ら、そろそろ私語は慎めよ………もうすぐ作戦空域、ダナム山岳基地の上空に差し掛かる」

 

「了解!」

 

「分かりました。」

 

「了解!」

 

「………(この高度なら、脅威となるのは、アイアンコングのミサイル位だな)」

 

 

ゼネバス帝国軍の保有する火器で高高度を飛行するサラマンダーを確実に撃墜可能な対空火器は、アイアンコングの背部ミサイルか、アイアンコングmkⅡ限定型の高高度対空ミサイルのみ。

 

それ以外は、デスザウラーの荷電粒子砲があるが、これはあくまで地上目標用で中低高度ならともかく高高度を高速で飛ぶ目標を狙い撃つように出来ていない為例外だった。

 

 

「地上より、高熱源体接近!ミサイルです!」

 

 

「アイアンコングのミサイルか………!全機、ECM全開!回避を優先しろ!」

 

中央山脈北部の碧空を飛ぶ、4機の鋼鉄の怪鳥は、その巨体らしからぬ動きで空を駆ける。

 

「……?」

 

 

2発のミサイルは、4機のサラマンダーを素通りして更なる高みへと駆け上がっていく。

 

 

 

「標的は、上の奴らか!」

 

バート少佐らは、ようやく気付いた。敵の目標は、自分達ではなく、それよりも上を飛ぶ、護衛対象である事に。

 

 

「スカイアイ!回避しろ!」

 

「………!こちらスカイアイ……、ミサイルが早すぎる………回避できない。わああああぁ……」

 

 

悲鳴は、爆音と共に途切れた。

 

 

標的は、高高度偵察仕様のサラマンダー――――――――――――約2分後、彼らの2000m上空で爆発の花が咲いた。

 

 

4機のサラマンダーとそのパイロット達が守るべき友軍機が撃墜されたことを意味していた。

 

 

この瞬間、4機の護衛機の任務は、失敗が確定した。

破片が降り注いできたが、幸い4機に被害は無かった。

 

 

「………」

 

 

暫くの間、護衛のサラマンダーのパイロット達は、無言だった。

 

 

「隊長!あれを見てください!」

 

 

部下の一人から通信が来る。同時に正面モニターに映像が表示された。その映像を見たバート少佐は、思わず驚愕の余り息を吞む。

 

 

映像は、地上のダナム山岳基地の一角を映した映像―――――――その中心のコンクリートの灰色の地面には、1機のゾイドがいた。

 

その機体の名はアイアンコング。

 

 

ノーマルタイプと異なり、装甲は紅く彩られ、全身にビームランチャーを始めとする重火器を搭載していた。その深紅に彩られた装甲は、切り倒した敵の返り血を浴びたばかりの戦士を彷彿とさせる。

 

 

「アイアンコングmkⅡ………限定型です!」

 

 

「司令機自ら出てきたというのか……?!」

 

 

事前情報で、敵の司令官機がアイアンコングmkⅡ限定型である事を教えられていたバート少佐は、驚愕を隠せない。

 

 

司令官が自らゾイドを駆り、基地上空に飛来した敵機を撃墜する――――――――――大昔の部族間紛争や地球人の技術が伝来したばかりの時期ならともかくZAC2040年代の現代の戦場で、司令官が自らゾイドを操縦して敵機を撃破するのは、珍しい事であった。

 

 

しかし、彼が驚愕したのは、それだけではない。彼を真に驚愕させたのは、パイロットの技量であった。

 

 

「………(あの高度を飛んでいたサラマンダーを撃墜した………なんて技量だ。)」

 

 

高高度対空ミサイルの性能が優秀であるとはいえ、ミサイルの上昇限界高度ギリギリを高速で飛行する高高度偵察機仕様のサラマンダーを撃墜するのは、至難の業である。

 

 

それをいとも簡単に成し遂げたという事は、あのアイアンコングmkⅡ限定型のパイロット…………ダナム山岳基地の司令官であるクルト・ヴァイトリング少将が、司令官として優秀なだけでなく、ゾイド乗りとしても優秀である事を何よりも雄弁に教えていた。

 

 

「全機撤退!ここに居ても的になるだけだ!退くぞ……」

 

 

「……了解」

 

 

「……了解です」

 

「了解」

 

 

高高度偵察仕様のサラマンダーが撃墜された事で、護衛のサラマンダー4機は撤退を開始した。これ以上この空域に留まっていてもいい的になるだけだからである。

 

敗北感に胸を締め付けられる思いで、彼らは友軍基地へと機体を旋回させた。

 

 

侵入時と同じく、指揮官機のサラマンダーを先頭に友軍空域に向かって退避していく。サラマンダー4機の脚部や胴体下部からチャフとフレアをまき散らして退避した。

 

 

サラマンダーの巨体が生み出す白い航跡に銀色の紙と火球が加わった。それは、遥か地上から見ると、空中に無数の銀の輝きと火の玉が溢れた様に見えた。

 

 

 

「司令官殿、奴ら尻尾を巻いて逃げ出していきましたぜ」

 

 

「カリウス、彼らは賢明だよ。無謀と勇気を弁えている。」

 

 

司令官 クルト・ヴァイトリング少将は、正面モニターに表示された退却していく敵機の情報を見つめて言った。

 

「この基地に少数機で突っ込む時点で、賢明と思えませんけどね。俺には」

 

 

「……無理を承知で突っ込んできたのかもしれないな。共和国軍がこの基地を重要拠点だと認識している証拠だよ。カリウス」

 

 

ヴァイトリングのアイアンコングmkⅡ限定型の横には、巨大な背鰭を有する4足歩行の機体――――――――ディメトロドン型大型電子戦ゾイド ディメトロドンが、騎士に付き従う忠実な従者の様に付き添っている。

 

 

ディメトロドンのパイロット カリウス・シュナイダー大尉は、アイアンコングmkⅡ限定型の対空射撃の射撃観測を担当していた。

 

 

カリウスは、ディメトロドンの強力なレーダーを用いてダナム山岳基地の上空に襲来した4機のサラマンダーとその上空を飛ぶ高高度偵察機型のサラマンダーの位置、速度等の射撃に必要なデータを収集し、アイアンコングmkⅡ限定型に送っていたのである。

 

 

ヴァイトリングが14000m以上の高高度を飛行する改造型サラマンダーを撃墜できたのも、彼とディメトロドンが齎した情報………観測データの存在があったのが大きい。

 

 

もし、彼とディメトロドンが射撃観測を行わず、アイアンコングmkⅡ限定型とパイロットであるヴァイトリングの独力で、迎撃していたら、対空ミサイルの性能が高性能だったとしても高高度を飛行するサラマンダーを撃墜できた可能性は低かった。

 

 

「………少将閣下。これで、共和国の〝カラス〟共はこの基地に近寄りませんかね?」カリウスが言った、〝カラス〟とは、サラマンダーの帝国側での綽名である。

 

 

「どうだろうな。むしろ共和国軍は、何が何でもこの基地の空に稲妻のマークを付けた機体を送り込みたがるだろうな」

 

 

 

ヴァイトリングは、正面モニターに映る青空を見つめた。雲一つない澄んだ空を飛ぶ者はもう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

司令官の操縦するアイアンコングが高高度偵察仕様のサラマンダーを撃墜した事は、直ぐにダナム山岳基地中の噂になっていた。

 

 

兵士達は、誇らしげに〝我等が司令官〟が自らゾイドを操縦して敵機を撃墜した事を語り合った。

 

 

第27高速大隊第3中隊隊長 イルムガルト・ヘフナーもその1人であった。イルムガルトは、格納庫の1つで部下や整備兵達と、先程見た光景を、ミサイルを受けて撃墜される敵機について話していた。

 

 

「イルムガルト………はしゃいでいる様だな。」

 

 

「あっ、ボウマン中佐!」

 

 

背後から聞こえた声に、先程まで部下と子供の様に語り合っていた彼女は慌ててて敬礼した。

 

「司令官閣下の活躍を喜ぶ気持ちは分かるが、はしゃぎすぎるのも考え物だぞ、それじゃあ、訓練学校時代のヒヨッコと何も変わらないからな。何時までもひよこの儘じゃ、親鳥としても困る。」

 

 

ボウマンは、窘める様に言う。イルムガルトは羞恥に顔を朱に染めつつ、教官に言い返す。

 

「……!!ただはしゃいでるだけじゃないですよ、中佐殿。我々は、司令官が優れたゾイド乗りであるという事実に感動しているんです。高空を飛ぶサラマンダーを撃墜した司令官閣下の射撃の腕は見事でした。私もサーベルタイガー乗りとして、あの様に頑張っていきたいと思っています。かのダニー・ダンカン将軍のように………」

 

イルムガルトが言った名前は、サーベルタイガーのエースパイロットで最も有名な人物であった。

 

 

低空を飛ぶサラマンダーにサーベルタイガーで飛び掛かって撃墜した逸話で知られ、ゼネバス皇帝の盾となって散ったバレシア基地司令官 ダニー・〝タイガー〟・ダンカン将軍の活躍は、今なお帝国軍人の鏡として帝国で称えられている。

 

 

特に同じサーベルタイガー乗りにとっては、彼は憧れそのものであった。イルムガルトだけでなく、ボウマンもダニー・ダンカン将軍に憧れていた。

 

 

 

「ほう、ダニー・ダンカン将軍か………俺もあの人と一度戦ったことがあった。素晴らしいパイロット、軍人だったよ。俺もああなりたいと今でも思っているな。我々も、この戦いで、サラマンダーを格闘攻撃で撃墜しなきゃならん状況が来るかもしれん、帝国軍人たるもの、いかなる状況に備えて技量を磨いておく必要があるぞ」

 

 

「はい、ですが、流石にこの基地に居る間は、その様な事態は起らないかと思います。

このダナム山岳基地の対空設備は、本国の都市、ガニメデやイリューションに劣るものではありません。共和国空軍が大編隊を組んで襲来してきたとしても返り討ちに遭うだけでしょう。」

 

 

イルムガルトが言った言葉は、誇張でも希望的観測でもなく、事実である。

 

 

彼女の言う通り、ダナム山岳基地には、司令官の乗機でもあるアイアンコングmkⅡ限定型を始めとするアイアンコング部隊、突撃部隊指揮官のエルツベルガー大佐の率いるレッドホーン部隊等の対空装備に優れたゾイドを多数有する部隊が配置されている。

 

それだけでなく、対空用に改造されたゾイドやマルダー等の防空任務専門の機体で編成された対空部隊が複数配属されている。

 

またマルダーやモルガAA等の対空ゾイドだけでなく、基地本体にもレーダー連動式の対空砲や対空ミサイル等対空火器が、敵の爆撃部隊に有効に火力を集中できる様に注意深く配置されている。

 

それは、あたかも回廊の様で、ダナム山岳基地に大編隊が侵入した場合には猛烈な対空砲火を浴びせられるようになっていた。

 

優れた防空戦力を保有するダナム山岳基地に生半可な航空戦力で挑みかかれば、あっという間に消耗してしまうのは確実だった。

 

 

イルムガルト自身も、この基地に配属されてから、何度も味方の高射砲陣地や防空部隊のゾイドが偵察に出現した共和国空軍機を撃墜するのを目撃している。

 

 

共和国軍もそれを認識しているのか、少数機の航空偵察以外空軍機をこの基地の上空に送り込んできたことは無かった。

 

 

「確かにこの基地の防空設備と防空隊員は優秀だ。しかし、油断は出来ないぞ。如何に優れた対空設備も補給がなければガラクタと同じだからな。ミサイルも対空砲弾も、基地にある備蓄が無くなったらおしまいだ。」

 

「あっ……はい……!」

 

 

イルムガルトは、ボウマンに敬礼する。

 

 

「我々に出来るのは、味方の防空部隊が心置きなく戦えるように補給線を守り、侵入してくる敵の偵察部隊を叩く事だ。」

 

「はい!」

 

イルムガルトと部下達は、ボウマンに敬礼した。

 

ボウマンも敬礼を返す。

 

「訓練を頑張るんだぞ。サーベルタイガーエースが増える事はこの基地にとっても良い事だからな!」

 

それだけ言うと、ボウマンは、格納庫を立ち去った。

 

 

「はい!頑張ります!」

 

 

自分は教官から期待されている………その事実にイルムガルトの心身は感動に打ち震えた。

 

 




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後、活動報告で新作の構想をお伝えします。

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