ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
ゾイドワイルドは、デスレックス始め、新しいゾイドが次々と現れていますね。
デスレックスかっこよかった


第2章
1話 まやかしの戦い


 

 

 

―――――――ZAC2046年 1月10日 ダナム山岳基地―――――――――

 

 

2つの防壁で囲まれたダナム山岳基地は、この日も中央山脈北部のゼネバス帝国軍最大の拠点として存在していた。外側の防壁の四方には、監視塔が設けられていた。第6監視塔も、そんな監視塔の一つである。

 

 

第6監視塔の頂上で、監視役の兵士 テオドール・ダシュナー三等兵は、任務に就いていた。

 

「……はぁっ、早く終わらないかなぁ」

 

「おーい!テオ、交代だぞ。」

 

 

背後から聞こえた声で、彼は、待ち望んでいた交代時間が来たことに気付いた。

 

「クルトか。助かったよ。後5分もここにいたら退屈と寒さで倒れてたよ」

 

テオドールは、大げさに体を震わせて言う。気温が高い中央大陸西部出身の彼にとって、ザブリスキーポイントにも程近い中央山脈北部の寒さは、心身共に堪えた。

 

 

「全くだ。共和国の奴らもよく音を上げないもんだ。連中は野ざらしだからな」クルトは、監視塔の外に目をやる。

 

 

「共和国軍の連中、何時仕掛けてくるんだろうな?」

 

テオドールもクルトと同じ方向に目を向ける。

 

彼ら2人の視線の先には、万年雪の降り積もる険しい中央山脈の山肌が、白い壁の様に聳え立っている。その下の岩だらけの大地は、金属の輝きを持った物体で埋め尽くされていた。

 

自然の景色に不似合いな、それらは、ダナム山岳基地を包囲するヘリック共和国軍の陣地と其処に展開するゾイド部隊である。

 

 

ヘリック共和国軍 ダナム山岳基地攻略部隊は、昨年の12月28日に先遣隊が出現して以降、次々と新たな部隊をダナム山岳基地の周辺に送り込んでいた。その数は、少なくとも2個師団を超える。

 

しかし、彼らは、攻撃目標であるダナム山岳基地をぐるりと取り囲むだけで、本格的な攻撃をまだ一度も行っていなかった。

 

 

「……上の話だともうすぐにでも仕掛けてきてもおかしくないらしい。」

 

「ホントかよ?!あいつらずっと包囲しているだけじゃねえか。砲撃は毎日してくるが」

 

「連中、やる気あるのかねぇ」

 

 

12月28日に先遣隊が出現してから、共和国軍と帝国軍は、100を超える回数の戦闘を行っている。

 

 

だが、それらの戦闘は、偵察部隊や小部隊同士の小競り合いや双方の陣地に向けての砲撃の応酬程度で、ダナム山岳基地守備隊の将兵達が想像していた様な〝共和国軍の大攻勢〟とは程遠い物だった。

 

 

テオドールとクルトも現状に拍子抜けしている帝国軍兵士の一人であった。今の所彼らは、ゾイド同士の戦闘をまともにこの地域で目撃していなかった。目撃したのは、遠くで見えた戦闘の光位である。

 

 

「共和国軍の奴ら、この要塞の防衛設備を見て、ビビッてるんじゃねえのか。」

 

 

クルトは、笑みを浮かべて監視塔の下を見下ろす。彼の視線の先には、コンクリートの構造物の連なりがある。上から見ると四角形や六角形にも見えるそれは、基地防衛用に設置されたトーチカ群である。

 

 

鉄筋コンクリートの殻とAZ砲という牙を持ったそれらの防御設備は、ダナム山岳基地を攻める者たちにとって、最初にぶつかる壁である。

 

 

巧妙に組み合わされたトーチカ群の集中砲火と守備隊のゾイド部隊、歩兵部隊の連携は、大部隊にとっても脅威となり得た。

 

 

攻略部隊もそれを認識しているのか、トーチカ群に接近することなく、射程圏外からゴジュラスやゴルドスに追加装備された長距離キャノン砲や遠距離ミサイル等で遠巻きに砲撃するばかりであった。

 

 

そして、帝国軍は、アイアンコングやレッドホーンに対抗砲撃を行わせるのみで、双方ともに損害は、大したことはなかった。

 

 

 

「だといいけど、連中、2000機近いゾイドを集めたらしいぞ。食堂で士官の人が噂してた。」

 

 

「どうせほとんどが、ゴドスやガイサック、カノントータスとかの小型機だろう。大型機にしても、ゴジュラスが100機現れたってこの要塞は、大丈夫さ」

 

 

「………ウルトラザウルスでも現れりゃあ別だけどな。」

 

「ウルトラザウルスも、さすがにこの山岳地帯までは来られないだろう。1か月前にハインツ軍曹が言ってただろ。」

 

「なんだっけ?」

 

「もう忘れちまったのかよ。言ってただろ、共和国軍の奴らは、デスザウラーが入ってこられないこの険しい山岳地帯を拠点にしてるって。」

 

 

「あ、そういやおやっさんそんなこと言ってたな。」

 

「どっちにしろ、俺達は向こうの奴らが根を上げるまで、ここでカンヅメってわけか。」

 

 

 

2人の若き帝国兵が嘆息していたのと同じ頃、彼らがいる基地の向こう―――――――――ダナム山岳基地を包囲する共和国軍ダナム山岳基地攻略部隊の陣地の方でも同じ様な不満を漏らしている者達がいた。

 

 

 

 

―――――――――――――共和国軍第23陣地――――――――――――

 

 

ダナム山岳基地を包囲するヘリック共和国軍が、構築した陣地の一つであるここでは、今も陣地の拡張工事が続いている。

 

 

作業には、専用の作業用ゾイドや重機だけでは足りず、戦闘ゾイドも動員されていた。その中には、共和国陸軍の象徴 ゴジュラスの姿もあった。

 

 

「全く。天下のゴジュラスが陣地構築とは、涙が出そうだ。」

 

愛機を操作しながら、スコット・ファーデン大尉は、愚痴を零す。

 

「文句を言うな。これだって大砲を撃ち合うのと同じ位重要なんだからな。」

 

 

彼の上官であるグレイ・ロンバーグ中佐が言う。部隊指揮官の彼も作業に従事している。

 

 

「そうですよ。私達のゴジュラスのパワーが頼りにされてるってことですよ。」

 

エミリー・エスターン大尉が笑みを浮かべて言った。彼女は、同僚達と異なり、この任務を楽しんでいた。

 

 

「そういうことだ。頼りにされてるって思わなきゃな」

 

グレイの口調は、部下に対するだけでなく、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。

 

 

彼ら 第5連隊のゴジュラス乗り達は、ここ数日、陣地の設営作業に従事している。ダナム山岳基地攻略部隊の戦闘ゾイド部隊の少なくない数が、戦闘よりも工兵の手伝いの様な陣地構築に従事している。

 

 

先遣隊に加わるという名誉を与えられたこの部隊も例外ではない。

彼らの乗機である3機のゴジュラスは、mkⅡユニット………アイアンコングを一撃で撃破可能な長距離キャノン砲と左腕の4連速射砲を取り外されていた。

 

 

代わりに背部には、資材を積んだ作業アーム付き作業用コンテナを装備している。コンテナに付属する作業用アームは、装着したゾイドのコックピットから遠隔操作可能。

 

そして、この装備は、ゴジュラスだけでなく、マンモスにも装備できた。

 

この状態でも、固定武装とパワーに優れたゴジュラスなら、戦闘に耐えることも出来る。それは、ゴジュラス部隊が優先的に陣地構築に動員されている理由の1つでもあった。

 

 

「後30分すればここでの作業も終わる。そうなりゃ暫く休憩だ。我慢しろスコット」

 

「了解しました。……次は、どこの陣地構築に駆り出されるんでしょうかね」

 

「さぁな。その前に昼食があるだろうな」

 

 

 

構築中の陣地の周辺には、陣地構築作業がダナム山岳基地の守備隊に妨害されない様に高速ゾイドを中心とする護衛部隊が展開している。

 

第7高速中隊に所属する第9小隊もその1つである。

 

 

第9小隊の隊長を務めるマクレガー大尉は、愛機のコックピットの中にいた。

 

寒冷地仕様に改造されたコマンドウルフ4機で編成される彼の部隊は、シールドライガー寒冷地仕様で編成された部隊の援護を担当する事になっている。

 

 

今回の任務もシールドライガーが2機、彼らの部隊とともにいる。マクレガーら4機のコマンドウルフのパイロットの任務は、シールドライガーの援護である。

 

 

「今日は、敵の妨害が少ないな」

 

「はい。ケイン少佐、恐らくこちらの戦力を見て、妨害に出るのは危険だと判断したんでしょう。」

 

 

「確かにこちらには来ないだろうな。………だが、何時までも閉じ籠って砲撃するだけではないだろうな。」

 

 

「いずれ奴らもこちらに仕掛けてくるだろうな。そうなったら、俺達も忙しくなるな」

 

「はい……」

 

「こっちから突っ込んでやればいいんですよ!マクレガー大尉」

 

「突っ込んだらハチの巣にされちまうよ。」

 

 

マクレガーは、威勢のいい部下の発言に苦笑いする。

 

「同感だ。大尉、このシールドライガーもあの要塞に乗り込むのは不可能だ。」

 

 

運動性と機動性に優れたシールドライガーといえど、ダナム山岳基地の外周に配置されたトーチカ群に突っ込むのは、自殺行為である。

 

シールドライガーより小型で小回りの利くコマンドウルフにしても同様である。エネルギーシールドがない分、コマンドウルフは、シールドライガーよりも脆かった。

 

 

機関銃陣地に突っ込んだ騎兵隊の如く忽ちの内にハチの巣にされてしまうだろうという事は、士官学校で地球の戦史についても学んでいるケインも理解していた。

 

「確かにあの陣地を何とかしてもらわなきゃ、俺達は近付けませんな」

 

「重砲隊がどうにかしてくれるさ。その為にも作業の邪魔をする敵を排除しなければな」

 

ケインの瞳は、雪と岩の大地の向こう―――――――――灰色の城壁に向けられている。

あの城壁の向こうに〝奴〟がいる。数週間前に戦ったサーベルタイガーのパイロット。荒削りさを残しているが、いいパイロットだった。

 

経験を積めば、もっと強いパイロットに成長するだろう。

 

 

奴ともう一度戦ってみたい。ケインのその思いは、ダナム山岳基地攻略作戦が発動してから強まる一方であった。

 

それは、戦死した部下 ラーセンの敵討ちや敵のエースパイロットを討ち取って名を上げたいといった理由ではない。純粋に戦士として、強敵と戦いたいというゾイド乗りとしての感情である。

 

そんな彼の想いを余所に時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

陣地構築作業には、膨大な物資が必要となる。資材だけでなく、それらの作戦に従事する機材……具体的には作業用ゾイドの交換部品、人員の為の食料や毛布、燃料といった生活必需品、護衛部隊の弾薬等である。

 

 

それらの物資の輸送には、専用の輸送ゾイドだけでは足りず、戦闘部隊の装備するゾイドとそこに所属するパイロットたちも動員されていた。

 

 

スネークスの細い機体には、小型の輸送コンテナが鈴なりに載せられている。

ダナム山岳基地攻略作戦で、スネークス隊は、従来の強行偵察、補給部隊の護衛、敵の偵察部隊の迎撃といった従来の任務のみならず、この様な輸送任務にも従事していた。

 

 

第233遊撃大隊旗下のウォーレンの第4小隊もこの輸送任務に従事している。

 

今日の輸送任務で、彼らが運んでいるのは、資材を積んだ輸送コンテナ。向かう先は、ダナム山岳基地攻略のために構築されている陣地の1つである。

 

 

「まったく、ここについてから輸送任務ばっかですよね」

 

 

「マイク、愚痴るな。俺達以外も輸送任務に従事している。」

 

 

 

それでも、輸送任務続きでは退屈だな。心の中でウォーレンは部下に同意していた。ダナム山岳基地付近に到着してから、ウォーレン達とその相棒は、様々な物資を友軍のために運んできた。

 

 

ゾイドの部品……小型機用の関節キャップから、歩兵陣地用の土嚢、越冬用の燃料、果ては数か月保存できるレーションやらスープの粉末、飲料水を積んだタンク等の食料品を輸送した事もあった。

 

 

スネークスの細い胴体は、案外多数の物資を載せる事ができる。

 

 

ボディが小さい為、積載量は高が知れている。だが、小型トラック並みの物資を、地形を選ばず目的地へと輸送できるという利点は大きい。

 

 

 

このダナム山岳基地の周辺の様に雪に覆われ、岩だらけの険しい地形が続く、近代的な道路等殆ど望めない場所では、その利点は更に倍加した。

 

 

 

スネークスは、ダナム山岳基地を包囲する共和国陣地にとって、小さな輸送列車の様な役割を果たしていた。

 

 

「こんな状態で敵と遭遇したら撃破してくださいって言ってるのと同じですよ。」

 

 

スネークスの様な小型で爬虫類型のゾイドは、中央山脈北部の様に寒冷な地域ではその性能を低下させる。

 

 

酷い場合等は、ゾイドコアへの負荷を避けるためにセーフティが作動して機能停止することさえある。戦場では、どちらも死を意味する。

 

 

さらに輸送任務に従事するスネークスは、物資を背部に鈴なりに搭載しているため、機動性も低下している。

 

 

共和国軍上層部もこの問題を無視しているわけではなく、性能低下を防ぐための寒冷地仕様への改造等の対策を行っている。

 

ウォーレン達の愛機にも胴体側面に放熱装置を装備する改造が施されている。この装置は、機体の排熱を利用してスネークスの内部機関……具体的には、ゾイドコアの周辺の補助機関を温める装置である。

 

この装備は、スネークスの寒冷地での性能低下を最小限に抑える事が出来たが、弱点もあった。排熱が外部にも漏れてしまうという点である。

 

ハンマーロックの背部ミサイルや熱感知式の対ゾイドミサイル等の格好の標的になりかねなかった。

 

 

 

「マイク、安心しろ。このエリアは友軍の護衛部隊が展開している。敵との交戦の可能性は少ない。それよりも、要塞からの砲撃の方が厄介だ。」「砲撃されたら、逃げるしかないですからね。」

 

「そうだ。リサ、俺達のスネークスの火器じゃ、要塞の大砲には敵わないからな。」

 

「……こんな任務、早く終わってほしいですよ。とっと帝国の奴らに俺の実力を見せてやらねえと」

 

「相変わらず、マイクは、粗忽ね。」

 

「うるせぇ。運び屋の真似には飽きたんだよ」

 

 

「文句を言うな。マイク、補給だって重要な任務だ。」

 

 

今まで黙っていたブライアンが言う。寡黙で知られる彼もマイクの愚痴に嫌気が差したのかもしれないな。そうウォーレンは思った。

 

「そうだぞ、マイク、これは、俺達とスネークスにしかできない任務だ。」

 

 

「……分かりました。隊長!この俺らしか出来ない退屈な任務をとっと終わらせられるように努力します!」

 

「お前らしいな。だが、任務に集中してくれよ。」

 

「了解です」

 

流石のウォーレンも日が沈んだ後にも彼らにしか出来ない任務が待ち受けているとは、思わなかった。

 

 

 

 

 

最前線で包囲作戦に従事する将兵達が、代わり映えのない単調な構築作業と護衛、砲撃戦の日々に飽きつつある頃、前線で将兵を指揮し、ダナム山岳基地攻略の為に作戦を練っている。

 

 

グスタフを改造した移動指揮所がダナム山岳基地攻略部隊の作戦司令部となっている。

 

 

 

「本日明朝、第23重砲大隊、第28重砲大隊、第5高速大隊、第16強襲大隊が到着した。

これにより、北国街道分断作戦の要石であるダナム山岳基地攻略作戦に参加する主要な戦闘部隊の約9割が、この地点に集結した事になる。」

 

一番上座の椅子に座っていた将官 スタンリー・ノートン中将は、居並ぶ共和国軍将校達に言った。

 

 

「これで、今作戦の第1段階、包囲が完成したという事ですな」

 

「とりあえずは、といったところでしょう。」

 

 

「ダナム山岳基地の守備隊も今の所砲撃と小規模部隊による嫌がらせ以外は、目立った行動を起こしておりません」

 

 

それぞれの席に腰掛ける共和国軍の将校達は、それぞれ頷く。

 

 

「ロバートソン大佐。今後の作戦計画についての説明を」

 

「はっ」

 

第6機動大隊作戦参謀 ケネス・ロバートソン大佐は、立ち上がる。若き参謀の端正な顔には、この大作戦についての説明を行える事への喜びと、緊張が同居している。

 

 

「では、今後の作戦計画についての説明をさせて頂きます。」

 

 

参加者の視線が一斉に参謀に集中する。

 

「現在、我が軍は、ダナム山岳基地を包囲する陣地を構築し、長期戦に備えております。我が軍としては、この包囲陣を敷き、ダナム山岳基地の帝国軍を長期戦に持ち込み、その戦力を低下させ、最終段階までにその戦闘能力を削ります。」

 

「ロバートソン大佐。最終段階まで、我々包囲部隊は、出来る限り戦力を温存する為に持久すべきなのかね?それとも、何処かで一気に攻撃に打って出るべきだろうか?私は、最終段階までに攻勢に出るべきと考えているが?」

 

 

将官の1人 禿げ頭の男が質問した。ケネスよりも40歳以上は年上の彼は、ダナム山岳基地攻略作戦において積極的攻勢に出る事を主張していた。

 

攻勢型の将軍であるこの将官は、ただ最終段階まで守り続けるというのが、戦力の浪費に思えたのである。特に敵の重要拠点を攻略する作戦なのであるから、尚更である。

 

 

「これまでの会議と同様に攻勢には出ず、陣地構築に徹し、包囲陣の形成後は、陣地での防御戦闘を行うべきであると考えます。」

 

「……マックスウェル少将、今回の作戦 グレート・アヴァランチ作戦は、ダナム山岳基地の守備隊の補給を絶つものだと了解していた筈ではないか?」

 

今度は、第12師団の師団長のジェフリー・スミス少将がケネス大佐に援護射撃を行った。彼はマックスウェル少将の反対側の席に座っていた。

 

「作戦とは、臨機応変な対応が求められる。現状の戦況が当初の作戦案に不適合ならば、作戦を現実に修正する必要がある。戦いとは、役所仕事の様に紙の上だけで行われるものではないと、私は考えている。」

 

「我々軍人は、国家に雇用されている役人の一種だがね。」

 

スミスは、皮肉そうに笑う。

 

「………ケネス大佐、小規模な攻勢を行う必要性についてどう考える?大攻勢は現状では非現実的であると私も認識している。だが、現状の砲撃と偵察隊同士の小競り合いでは、相手の戦力を削る事も出来ず、只管時間と貴重な物資を浪費していくばかりではないか。」

 

「相手の補給切れを待つのなら、小規模な攻勢を行う意味はないと思うのだが。そうだろう?ケネス大佐」

 

 

今度は、ウォルター・バーク少将が発言した。

 

 

「はい。相手の補給を絶った場合、ダナム山岳基地の敵戦力は、2か月後には最大、半数が無力化できるという試算もあります。ただ……」

 

「ただ?なんだね。ロバートソン大佐」

 

 

「ただ。これは、最も楽観的な数字でありますし、我が軍も補給が欠かせません。また最終段階の成功の為には、守備隊の戦力の半数以上を削る必要があるというのが、私と各師団、大隊の作戦参謀の想定です。」

 

 

「では、やはり何処かの時点で攻勢に出る必要があるのではないか?!」

 

 

両手で机を叩き、マックスウェル少将が叫ぶ。

 

「……それについては、前回の作戦会議と同じ結論です。敵が先に手を出すのを待つ、というものです。」

 

ケネスは、緊張気味に答える。

 

「……連中が、亀の様に要塞に籠って一向に攻勢を仕掛けてこない場合はどうするのかね?ケネス大佐」

 

マックスウェル少将は、顔を顰める。

 

 

「その可能性については、敵を燻り出す必要があると考えています。敵に攻勢を促すのです。」

 

「方法を教えてくれんかね。」

 

「敵の攻勢を誘引する為の作戦計画については、リンナ・ブラックストン准将が計画を立案しています。」ケネス大佐が着席すると同時にリンナ・ブラックストン准将が立ち上がる。

 

 

「この計画は、私とケネス大佐と数名の参謀が立案したものです。」

 

 

リンナは、机の中央に設置されたホログラム装置を起動させた。ホログラムには、ダナム山岳基地と、それを包囲する共和国軍部隊を示す矢印が表示されている。ダナム山岳基地の上には、大きな赤い矢印が置かれている。

 

 

その赤い矢印がダナム山岳基地を守備する帝国軍部隊。それらを包囲する様に周辺の傾斜した大地に展開する青い矢印は、包囲陣を形成中のヘリック共和国軍部隊である。

 

 

このホログラムでは、既に全周を包囲し、二重三重の陣地を形成していたが、これはあくまでも完成後の図であった。現状は、漸く全周に渡る包囲陣の形成に端緒が付いた。と言った所だった。

 

 

リンナは、ホログラム装置を目の前に置かれたキーボードで操作し、ホログラム上の青い矢印を矢継ぎ早に動かしていった。

 

 

「まずは、基地のトーチカと防御陣地、守備隊に対して砲撃を連日に渡って行います。この際、空爆を行いますが、空爆作戦は、プテラスの大編隊で敵の対空部隊を忙殺させてから、サラマンダー爆撃隊による地上施設への爆撃という手順を踏む事で被害を最小限に局限します。次に敵が補給のために空輸を行ってきた場合、少数を敢えてダナム山岳基地の守備隊の見える範囲まで泳がせ、対空部隊によって撃墜します。

これらの事を繰り返すことで、ダナム山岳基地守備隊に攻勢を行わなければ、何も出来ずに終わるのだという事を教え、意図的に攻勢に出るように仕向けます。」

 

 

 

複数の赤い矢印がダナム山岳基地を示す中心の六角形の枠から溢れ出、青い矢印に襲い掛かる。

 

 

「敵が攻勢に出た場合は?相手の打撃力は、侮れるものではないぞ?アイアンコングやレッドホーン、最近出現したサイ型の中型メカも多数配備されている。これ程の攻撃力を持つ敵に主導権を明け渡すのは、危険ではないか?」

 

「マックスウェル少将、その懸念については、私も同意見だ。だが、だからこそ、ゴジュラス部隊やマンモス部隊、重砲部隊が配備されているのではないかね?」

 

 

ウォルター少将が発言する。

 

「はい。ウォルター少将の申し上げた通り、敵が攻勢に出た場合は、まず陣地前に配置した地雷や障害物と支援砲撃を利用し、相手の打撃力と機動力を減殺します。この際は、遊撃隊や空軍の支援も行われる予定です。」

 

 

包囲する青い矢印は、赤い矢印の動きを止める小さな矢印とそのままその場に留まる大きな矢印とに分かれて対処した。

 

やがて動きを止めた赤い矢印に対して大きな青い矢印がぶつかり、赤い矢印を削っていく。小さな青い矢印もそれに加わっていった。少しずつ赤い矢印は大きさを削られていった。

 

 

「そして、ゴジュラスやマンモスを有する機甲部隊をぶつける事で撃退、敵が後退に出たところで高速戦闘隊が敵の退却を妨害し、最終的に包囲殲滅します。これが成功した場合、ダナム山岳基地の守備隊は、自ら我が軍の包囲を突破する戦力を喪います。」

 

 

ホログラムの上には、六角形の枠に残された大きさを半分以下に減らした赤い矢印と六角形の枠の間近まで迫った青い矢印達が表示されている。

 

 

「素晴らしい作戦だが、上手くいくだろうか?敵の攻勢を促すためにも小規模な攻勢を行う必要があるのでは?」

 

「現状、ダナム山岳基地の防衛力は、健在です。小規模な攻勢では我が軍の被害だけが重なる事になりかねません」

 

「……私が結論を出す。」

 

 

それまで沈黙していた司令官 スタンリー・ノートン中将が口を開く。

 

 

「ノートン中将……」

 

「……」

 

「はっ」

 

 

「………現状、我が軍は、ダナム山岳基地を包囲する陣地の構築と、補給と増援部隊の遮断に徹するべきだと、私は考える。」

 

「はっ」

 

「はっ、将軍閣下」

 

「次に、ロバートソン大佐、君の結論を聞きたい。君は、参謀の1人として、本作戦の立案に多大な貢献をしている。」

 

 

 

「………分かりました司令官殿。今回のダナム山岳基地攻略作戦は、我々共和国軍の命運が掛かった作戦です。中央山脈の補給ルートを全て封鎖すれば、ゼネバス帝国は、占領軍を維持できず、共和国領の占領地を全て放棄せざるを得ません。我が軍の勝利は、ひとえに補給に懸かっています。そして、ダナム山岳基地攻略作戦の成功も補給が全ての鍵を握っています。我々がダナム山岳基地の帝国軍を封鎖し続けられるか、帝国軍を包囲している我が軍の補給が続くか、この2つの条件をクリアしなければ、勝利の女神が微笑む事はありません!」

 

 

はっきりとした口調で若き参謀は言った。彼の発言に会議に参加していた将校達は、頷く。その中には、スタンリー中将ら、彼よりも経験豊富な年上の将官も含まれている。

 

ケネスの言ったことは、軍人にとって1+1は2だと言っているのと同じ事である。だが、現実において理想的な答えが実現することは、困難な事であった。今回の補給計画も一部では遅れが生じていた。

 

 

遅れの原因の幾つかは自軍の問題、具体的に言えば事故や事務処理の問題等であったが、敵軍………ゼネバス帝国軍の活動を原因とする問題もあった。

 

 

サーベルタイガーを中核とする高速戦隊、シンカーやシュトルヒで編成された爆撃部隊による補給部隊に対するゲリラ的な攻撃が発生していた。

 

 

これらの攻撃は、小規模の部隊によって行われ、補給部隊が全滅するという事態は少なかった。

 

その代わり、神出鬼没の攻撃で補給部隊の到着が遅れるという事態は何度もあった。補給計画に狂いが生じている原因の1つである。

 

 

ゼネバス帝国軍は、そうすることによってダナム山岳基地を包囲する共和国軍へ届く物資を少しでも減らそうとしていたのである。

 

 

相手の補給線を遮断する事が勝利に至る道であると考えているのは、ケネスら共和国軍の士官達だけでは無かった。

 

海上では、更に脅威が存在している。その脅威とは、海面下に潜むウォディック潜水艦隊。

 

ウォディック潜水艦隊は、ゼネバス帝国が暗黒大陸から帰還した最初の戦い バレシアの戦い以来、通商破壊戦で共和国軍を苦しめてきた。ウォディックの雷撃で撃沈されたウルトラザウルスは、既に10隻を超えている。輸送船に至っては、それ以上である。

如何に陸の補給線を守り抜いても海上で輸送船ごと物資を沈められては意味がない。

 

 

その懸念は、この場の参加者の多くが持っていた。これまでもウォディック潜水艦隊の通商破壊で共和国陸軍の作戦計画に狂いが生じた事は何度もあった。

 

 

 

「ヘリックルートの一角を成す海上ルート 海の道の安全は? コックス大佐?海軍の考えを聞きたい。」

 

ノートン中将が海軍からの連絡将校 コックスに尋ねる。

 

「我々、ヘリック共和国海軍は、昨年5月のフロレシオ海戦で帝国のウォディック潜水艦隊を含む海軍に大打撃を与えた。またこの戦いで敵空軍の対艦攻撃用のレドラー部隊も全滅させている。レドラー対艦攻撃部隊が壊滅状態となり、更にウォディックの脅威が減殺された今、我々の海の道を阻む脅威は殆ど無いといっていいでしょう中将閣下。安心していただきたい。」

 

海族出身の海軍将校は、胸を張って言った。彼の口調には、自分の所属する軍の勝利に対する誇りが含まれていた。

 

 

昨年5月に行われたフロレシオ海海戦で、共和国海軍は勝利し、フロレシオ海の制海権を奪う事に成功した。

 

 

敗者であるゼネバス帝国海軍は、大損害を受け、多くの海戦ゾイドと優秀な海兵を喪っている。

 

その中には、通商破壊でこれまで活躍してきたウォディック潜水艦隊と、上空から帝国海軍を支援してきた、空軍から借りていたガーランド中佐の対艦ミサイル装備のレドラー隊も含まれていた。

 

 

これによってゼネバス帝国海軍は、共和国軍が、ヘリックルートの出発点であるゲルマンジー湾へと物資を送り込むのを手をこまねいて見る事しか出来なくなっていた。

 

 

最近は、ウォディック潜水艦隊の再建も進んでおり、数隻単位で輸送船が襲撃されていた。だが、かつてと比べれば、その脅威は、目に見えて低下していた。

 

 

それを考えれば、この海軍将校が問題ないと考えたのも無理はなかった。

 

 

「……敵は、ウォディック部隊の再建も進めているらしいが、その点を海軍はどう考えているのですかな?」

 

 

「それについては、我々海軍も対策を考えております。ウォディックによる通商破壊を防ぐ為のハンターキラー部隊の拡張と、空軍との協力、護送船団方式の採用による被害の極限………どれもウォディックとの戦いで有効性が示されている物です。」

 

 

「……それは、期待できそうですな。」

 

渋々と言った口調で質問者の将校は、言った。

 

 

「次の議題は、敵の増援、特に敵の増援部隊にデスザウラーが出現した場合の対処についての説明を行います。デメトリウス大佐、説明を」

 

 

「はっ。」

 

 

デメトリウス大佐は、ホログラム装置を再び起動させた。そして彼は、デスザウラーに対応する為の作戦と、その為に必要な装備について語り始めた――――――――。

 

 

 

 

作戦会議は、その後も、休憩を挟んで続けられた。

 

 

その間、何度か散発的な戦闘が前線で起こったが、作戦計画の変更を強いる様な事はなかった。

 

 

 

会議が終わった時には、既に空は、星空に取って代わられていた。

 

 

「今日は、敵の反撃はないか。」

 

 

グスタフから出たケネスは、夜空を眺め、そう言った。

「万が一の事もあるわ。ケネス、爆撃に気を付けて」

 

 

隣に立つ女性将校 リンナ・ブラックストン准将は、柔和な笑みを浮かべていた。現在35歳の彼女のその笑みは、10代後半の少女の様に無邪気に見えた。

 

 

 

連日両軍は、相手の陣地に対して少数機による爆撃や砲撃を繰り返していた。

 

 

それらの攻撃は相手に対する安眠妨害や嫌がらせの粋を出るものでは無かったが、時折大損害が生じていた。2日前には、ある歩兵の簡易宿舎に帝国軍のミサイルが着弾、100人近い兵士が死傷するという出来事が起こっていた。

 

 

 

「はい。リンナ先輩も気を付けて」

 

 

「分かってるわ、ケネス。」

 

 

2人の視線の遥か向こうには、サーチライトの光をまき散らす城壁に囲まれた砦の姿がある。

 

 

その砦………ダナム山岳基地こそ、彼らヘリック共和国軍の将兵が陥落させるべき目標。あの基地に共和国の旗が翻った時、彼らは勝利する。

やがて夜は深くなり、1日が終わった。

 

 

ヘリック共和国軍の大部隊が、ダナム山岳基地を包囲してから、また1日が過ぎた事になる。この日も、大規模な戦闘は発生せず、偵察部隊同士の小戦闘と、散発的に砲撃戦が起きた程度である。

 

 

両軍の兵士の大半にとっては、退屈な日々であると同時に戦場とは思えない程の平穏な日々――――――――だが、そこは確かに戦場であった。

 

 

少しでも双方が行動を起こせば、この氷雪の大地は、忽ちの内に機械獣と人間の絶叫と砲声のオーケストラが鳴り止まぬ地獄と化す。その事を双方の上層部は認識していた。

 




次は帝国側の上層部の状況メイン回です。なるべく早めに更新できる様にします。

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