ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

3 / 27
旧ゾイドの箱裏バリエーションで気になったのは、個人的にシールドライガーの寒冷地仕様の装備でした。
その為、何故寒冷地仕様にこの装備が?という事を個人的に推測してみました。
本編での描写はそれに基づいたものです。


第2話 岩壁の剣歯虎 雪原の盾獅子

 

ZAC2045年 12月5日 中央山脈北部 ダナム山岳基地付近

 

 

雪の降り積もる険しい岩場…その上には、1体の鋼鉄の狩人が佇んでいた。その狩人の名は、EPZ-03 サーベルタイガー――――――――ゼネバス帝国軍が誇る高速戦闘ゾイドである。

 

その足元には、倒されたばかりの獲物――――――――ヘリック共和国軍のスネークスの残骸が転がっている。機体の特徴である細長い胴体は、サーベルタイガーのストライククローで真っ二つに寸断され、それぞれの傷口から滴る赤黒い潤滑液が、まるで血液の様に地面を濡らしていた。

 

その機体だけではない。周囲の岩場には、無残にも引き裂かれ、撃ち抜かれ、叩き潰されたスネークスの残骸が転がり、そこから漏れ出たオイルと潤滑液が雪の降り積もった地面に飛び散っていた。

 

それはまるで白いキャンバスに絵の具をぶちまけたかの様で、この壮絶な風景に一片の美しさを与えていた。

 

「また、偵察部隊か…」

 

サーベルタイガーのパイロット、地底族の特徴である炎の様なオレンジ色の髪を三つ編みにした女性は、モニターに表示されるその光景を一瞥し、呟いた。

 

彼女…イルムガルト・ヘフナー大尉は、ダナム山岳基地に駐留する第27高速大隊第3中隊所属のサーベルタイガーのパイロットである。

 

彼女の率いる小隊は、ダナム山岳基地周辺のパトロール任務に従事し、今日もまたダナム山岳基地に強行偵察を仕掛けてきた共和国軍偵察部隊を殲滅したばかりだった。

 

「ヘフナー隊長!お見事です。」

 

彼女の僚機のサーベルタイガーがヘルキャット4機を引き連れて現れた。

 

「またスネークスですか…寒冷地では、爬虫類型ゾイドの稼働率は低下するって言うのに…共和国の奴らは自殺志願者なんですかね…」

 

サーベルタイガー2番機のヘルベルト・ノルトマン少尉は、周囲に転がる残骸を見て、あきれ気味に言った。

 

「もしくは、危険だと解っていてもそれしか選べないのかもしれない…コマンドウルフが足りないのかも…」

「あの狼が出てこないとなるとこっちも楽させてもらえますね。」

「同感です少尉殿」

「あくまで可能性の話よ…油断は禁物だわ」

 

イルムガルトは、ヘルキャットのパイロットの一人を窘めた。

 

コマンドウルフは、ヘリック共和国軍の狼型中型ゾイド コマンドウルフは、帝国軍の高速ゾイド サーベルタイガーに苦しめられた共和国軍がシールドライガーと共に対抗機として開発した高速ゾイドである。

 

シールドライガーの補助として開発されたこのゾイドは、ヘリック共和国の人口の大半を占める民族 風族が使役してきた狼型ゾイドをベースに開発され、シールドライガーと共に2042年のゼネバス帝国軍の侵攻作戦の迎撃で初めての実戦を迎えた。

 

性能面では、シールドライガーやサーベルタイガー程ではないが、ヘルキャットを上回る性能を有している。更に1機では、サーベルタイガーに対抗できないものの、3、4機以上では、サーベルタイガーとも互角に戦える。

 

特に山岳地帯での戦闘では、補給部隊への攻撃や偵察、友軍との連絡任務で帝国軍を苦しめた。

 

またゾイド操縦経験の少ない新兵でも扱いやすく、野生体の繁殖力の強さとシンプルな設計により、量産性に優れているという面では、大型ゾイドゆえに数が少ないシールドライガーよりも厄介な存在だった。

 

ヘリック共和国軍は、偵察部隊にも、コマンドウルフを採用しているが、このダナム山岳基地周辺では、コマンドウルフよりも、スネークスやダブルソーダ等別の偵察用のゾイドと遭遇することが多かった。

 

そして最近、パトロール部隊と偵察部隊の遭遇回数は急激に増大していた。

 

「…」

 

ここでの戦いが近いのかもしれない…イルムガルトは、そんな予感が自分の脳内に浮かんでいたことに気付き、それを振り払った。

彼女の推測は、これからこの地域で起きることと見事に一致していた。

だが、神ならぬ身であり、一兵士に過ぎない彼女にはそれを見抜くことは叶わなかった。

 

「一時基地に戻るわよ」

「「「「了解!」」」

 

敵を仕留めた鋼鉄の猛虎達が、住処である鋼鉄とコンクリートの城へと帰還を開始しようとしたその時―――――

 

 

「隊長!支援要請です!D-233エリアをパトロール中の第445小隊からです。コマンドウルフを主力とする部隊と交戦中、苦戦しているみたいです!」

 

副官のサーベルタイガーに友軍からの通信が入った。

イルムガルトの機体に通信が入らなかったのは、先程の敵部隊との交戦の際、アンテナを破損してしまったためである。

 

「噂をすれば…って奴ですかね」

 

部下の1人が呟いた。

 

「全機!友軍の支援に向かう。あのエリアのパトロール部隊は小型機中心、早くしないと全滅するわ。」

 

「「「了解!」」」

 

指揮官機のイルムガルトのサーベルタイガーを先頭にサーベルタイガーとヘルキャットの混成部隊が白い雪の降り積もる険しい山肌を疾風の如く駆け抜ける。だが、彼女達が到着した時、パトロール部隊は既に全滅していた。

 

指揮官機のハンマーロックは、長い両腕を噛み千切られて無残な姿を雪原に曝していた。その周囲には、部下の機体の残骸が転がっている。特に集中攻撃を受けたのか、ゲーターは激しく炎上していた。

 

「くっ…遅かったか。」

 

モニターを通じて目の前に映し出される友軍の残骸を見たイルムガルトは、悔しげに吐き捨てる。

敵部隊の数は、6機 機種は、全て狼型中型ゾイド コマンドウルフである。白い軍狼達は、新たな敵機の出現に驚いたが、即座に攻撃を開始した。背部の2連装ビーム砲が火を噴いた。

 

対するイルムガルトの部隊のサーベルタイガーとヘルキャットも背部の火器を発射した。殺意と破壊力を秘めたレーザーとビームが凍てつく大気を引き裂き、お互いの敵機を狙った。

 

だが、それらの攻撃は、双方の装甲を穿つことはなく、空しく過ぎ去った。

 

どちらの部隊のパイロットも、命中させるつもりではなく、接近戦に移行する為の牽制射撃であった。双方の部隊は、接近戦に突入した。

 

イルムガルトとヘルベルトのサーベルタイガー2機と、6機のコマンドウルフがぶつかり合った。

 

「ヘルキャットは、後方で射撃支援をお願い!」

「はっ」

 

指揮官の命令を受け、ヘルキャット4機は、背部のレーザー機銃を連射して、コマンドウルフの動きを制限しようと試みる。

ヘルキャットの性能では、コマンドウルフに単機で勝利するのは、困難である。特に接近戦闘では、牙を持たないヘルキャットは圧倒的に不利である。

しかし、火力なら格闘能力よりは差が少ない。その為、イルムガルトは、ヘルキャットを自機と副官機のサーベルタイガーの支援に回したのである。

 

敵である6機のコマンドウルフは、数の利を活かしてサーベルタイガーに挑もうとする。彼らは、背後のヘルキャット部隊を脅威と見做していない様であった。

イルムガルトとヘルベルトは、6機の敵機の内、獲物になり得る機体を探る。

 

具体的に他の機体よりも動きの鈍い機体、連携の悪い機体である。対するコマンドウルフ部隊は、隙を見せず、サーベルタイガーがどれか1機に襲い掛かれば、連携攻撃で袋叩きにする構えを見せて、相手の攻撃を抑止する。

ヘルキャット部隊から発射されるレーザー機銃も、彼らには軽々と回避されてしまう。

 

イルムガルト達の予想とは逆に彼らは、急いで撤退することなく、目の前の高速部隊との交戦を選択し、焦ることなく戦闘を継続した。

まるで、戦闘が長引くことによる不都合を考慮していないかのようだった。

 

何時新手が現れるか分からない敵の拠点の近くで、こんな行動を取るのは、無謀とも、大胆不敵とも思えた。

 

「ベテランか…」

 

相手の動きを見たヘルベルトは、彼らが経験豊富なパイロットで構成されていると予想した。

 

「一気に決めるのは危険ね」

 

ヘルキャット部隊がレーザーを空費し、サーベルタイガー2機が獲物を中々仕留めきれない中、相手が動いた。

 

「このまま逃げる気…はっ」

 

不意に、コマンドウルフ2機が部隊から分離し、2機のサーベルタイガーの間をすり抜けたのである。彼らは、後ろで支援に徹するヘルキャット達を狙っていた。

 

恐らくヘルキャット部隊を撃破した後、サーベルタイガーに打撃を与えて、退却するつもりなのだろう。

 

「やらせないっ」

 

イルムガルトのサーベルタイガーが跳躍、着地と同時に、近くのヘルキャットに飛び掛かろうとしていたコマンドウルフを狙う。

 

「何!」

 

コマンドウルフのパイロットは、突如目の前に出現したサーベルタイガーの姿に唖然となった。

次の瞬間、サーベルタイガーのキラーサーベルがコマンドウルフの首筋に食い込んだ。致命傷を受けたコマンドウルフの悲鳴が辺りに木霊した。

そのままサーベルタイガーは、胴体にストライククローを叩き付けると、勢いよく、コマンドウルフの首をもぎ取った。

 

頭部を失ったコマンドウルフの首筋から赤い伝導液が、血液の様に噴出した。

もう1機のコマンドウルフは、イルムガルトのサーベルタイガーから距離を取ろうとしたが、三連衝撃砲を受けて体勢を崩した所に、ヘルキャット4機から集中砲火を浴びせられて爆散した。

 

「よし!」

 

ヘルベルトのサーベルタイガーも、コマンドウルフを撃破していた。頭部にストライククローを受けたその機体は、コックピットを叩き潰されて横倒しになっていた。

 

僅かな時間の間に、コマンドウルフ部隊の内、半数の機体が雪の積もる地面に躯を曝した。

 

このまま戦闘が続けば、イルムガルトの部隊によって目の前の共和国部隊が全滅を余儀なくされることは確実だった。

だが、イルムガルトが部下に一斉攻撃を命じようとした時、それは起った。

 

 

突如、生き残りのコマンドウルフ3機から黒煙が噴き出し、周囲を包み込んだ。マシントラブルによるものではない。腰部の煙幕発生装置を作動させたのである。

 

コマンドウルフの腰部の煙幕発生装置は、緊急離脱、攪乱時に使用する為の装備であり、この装置の存在が、今回の様な敵地への潜入任務におけるコマンドウルフの生存性を高めていた。

 

センサーを狂わせる微粒子を含んだ黒煙が辺りに立ち込めると同時に、コマンドウルフ部隊は黒煙の向こうへと消えていった。

 

「最初からこうやって逃げるつもりだったのね!?」

 

イルムガルトは、漸く敵部隊が何を考えていたのか、完全に理解した。

 

コマンドウルフ部隊は、イルムガルトの舞台にある程度の打撃を与えてから、煙幕発生装置で離脱するつもりだったのだろう…先程までの敵部隊の奇妙な動きもそれで説明がつく。

直ぐに退却しようとしなかったのは、煙幕発生装置でいつでも離脱できると考えていたからに違いない。既に撤退しつつある相手の意図に気付いたイルムガルトは悔しげにその端整な顔を顰めた。

 

「逃がして堪るか!」

 

ヘルキャット数機が追撃を開始する。

 

「待ちなさい!深追いは禁物よ!」

 

イルムガルトは、それを見て慌てて部下を制止する。撤退する敵を深追いして全滅した部隊は、この中央山脈では珍しくはない。特に共和国軍は、この中央山脈を縦横無尽に動き回り、その行動はまさに神出鬼没であった。

 

自軍の勢力圏でも油断は出来なかった。

 

「…了解しました」

「次はこうはいかないわ。」

 

煙が晴れ、先程まで敵部隊がいた、今は、白い雪と黒い岩壁以外は何もない場所を、見つめ、イルムガルトは言った。その紅玉を思わせる色の瞳には、激しい敵意が燃えていた。

 

この様な戦史に記されること等殆ど無い様な無数の小戦闘がこの「恐竜の背骨」と呼ばれる長大な山脈の上では繰り返されていた。

 

 

 

 

 

ZAC2045年 12月6日 中央山脈北部 帝国側勢力圏

 

 

獲物が来たか…

 

 

暖房の効いた愛機のコックピットで、その金髪碧眼の男は獰猛な笑みを浮かべた。彼、ケイン・アンダースン少佐は、旗下の3機のシールドライガーとその搭乗員と共に、吹雪の吹き荒ぶ山腹で敵を待ち伏せていた。

 

彼らの所属する部隊……第7高速中隊は、シールドライガー寒冷地仕様12機、コマンドウルフ28機で編成された部隊であり、中央山脈に展開する共和国軍有数の高速部隊の1つであった。

 

この部隊は、険しい山岳地帯でもその能力を発揮できるばかりか、平野部や森林地帯で戦っていた時よりも威力を増していた。この険しい岩山の戦場において、彼らに与えられた任務は、帝国の補給部隊の捕捉撃滅。今日までこの4機の白いシールドライガーは、多くの敵の補給部隊を撃破してきた。

 

「懲りもしない奴らだ。」

 

各機のモニターには、彼らの獲物……帝国軍の補給部隊の姿が映し出されている。補給物資を満載したコンテナを積んだトレーラーのグスタフ2台の周囲を取り囲むように護衛の帝国ゾイドが展開している。

 

護衛部隊は、数は10機程で、ツインホーンを指揮官機とする小型ゾイドのみで編成された部隊である。

 

「ダナム基地への補給部隊ですね」

「ああ、なんとしても叩く必要がある。」

「コマンドウルフ部隊でも十分叩ける戦力ですね」

 

副官のティム・ネイト少尉が言う。今回の任務では、コマンドウルフは随伴していない…今回の補給部隊襲撃には過剰な戦力集中だと判断された。

 

「全機攻撃開始!手早く行くぞ…いつも通りにな」

 

指揮官の号令を受け、4頭の白い獅子は、雪の降り積もる斜面を駆け下りる。

 

「敵襲!」

 

護衛部隊の兵士の一人が叫ぶ。だが、彼らは、雪原に溶け込む様な白い塗装を施したシールドライガー寒冷地仕様の姿に一瞬、反応が遅れた。戦場においてそれは、致命的なことである。

 

護衛機が阻止弾幕を張るよりも早く4機は、敵部隊の懐に入り込むことに成功した。

 

「邪魔だ!」

 

シールドライガー寒冷地仕様の目の前に護衛機のゴリラ型小型ゾイド ハンマーロックが両腕を広げて立ち塞がった。

 

彼のシールドライガー寒冷地仕様は、左前足を、目の前の敵機の頭部に振り下ろした。ハンマーロックの頭部コックピットは通常のゼネバス帝国軍小型ゾイドと異なり、共通コックピットの上に装甲を歩兵が被るヘルメットの様に被せているという特徴がある。このハンマーロック以外では、ヘルキャットのみに採用されている構造は、戦闘時…特に近接格闘戦でのハンマーロックのパイロットの生残性を高めることに繋がっていた。

 

 

だが、この設計者の努力と帝国の小型ゾイド開発技術の結果も、数十トンにも及ぶ大型ゾイドの質量とパワーを得た特殊金属の爪を高速で叩き付けられては、ハンマーを叩き付けられたプラム同然であった。

 

ストライククローの一撃を受けた頭部は、凹の形に変形し、潰れたコックピットのパイロットは、即死していた。瞬間的に圧死させられるというのは、この白い地獄では、楽な死に方と言えたが、既にこの世の物でなくなったそのパイロットは死神に感謝することは無かった。

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様がハンマーロック1機を撃破したのと同時に部下のシールドライガー寒冷地仕様も、ハンマーロックをレーザーサーベルで仕留めていた。

 

胸部に青白いレーザーを纏った牙を突きたてられたハンマーロックは痙攣しながら雪原にその身を横たえる。息を吐く間もなく、ケインのシールドライガー寒冷地仕様に攻撃が来る。3機目のハンマーロックがビーム砲を乱射する。

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様の火炎放射器が火を噴く。寒冷地という場所で、燃焼兵器である火炎放射器は、不似合なように思える。

 

だが、寒冷地という過酷な環境に、この火炎放射器と言う兵装は、極めて適切であった。寒冷地において機体の一部を損傷するだけでも、ダメージは広がり、やがては機体を戦闘不能に追い込むことも珍しくない。この白い地獄では、少しの損傷が、命取りとなるのである。

通常、火炎放射器により装甲と内部機関を異常加熱されたことによる劣化、損傷を受ければ、大抵のゾイドの性能は低下する。火炎放射器は、通常の環境では、ビームやミサイル、キャノン砲に比べて威力は劣り、敵機に致命打を与えることは希である。

 

だが、寒冷地等の環境においては急速に外気によって、炎上ないし、異常加熱させられた損傷個所が冷やされることでそのダメージは更に倍加され、内部機関にも及ぶ。

 

この炎の奔流を浴びた敵機は、最悪の場合、機体の一部を損傷するだけで、戦闘不能に陥ることになるのである。

 

また機体のエネルギーを消費せず、重量増加も比較的少ない火炎放射器は大型のレーザー兵器や実弾兵器よりも効率的かつゾイドへの負担も少なかった。また火炎放射器は、広範囲に渡って攻撃でき、また敵を簡単に戦闘不能に追い込むことが出来る有効な対ゾイド兵器となりうるのである。

 

ゼネバス帝国軍が、中央大陸北端の極寒の大地 ザブリスキーポイント方面で運用しているイエティコングが、冷凍ガス砲を搭載しているのも同様の理由である。シールドライガー寒冷地仕様は、護衛機に火炎放射を浴びせると直ぐに離脱する。

 

イグアンがシールドライガーに叩き伏せられ、その横では、ハンマーロックが火炎放射器の直撃を受けて火達磨になっていた。高速で襲い掛かるシールドライガー部隊の前に有効な攻撃が出来ない護衛機は、次々と雪上で燃え盛る鉄のオブジェと化していった。

 

「こいつ!」

 

最後に残ったツインホーンが、ケインのシールドライガー寒冷地仕様に鼻の先端に内蔵された火炎放射器を敵機に向けた。

 

「っ!」

 

ツインホーンの長い鼻の先端から噴き出したオレンジの炎が地面の雪を溶かし、その下の黒い岩肌を露わにした。だが、その時には、白いシールドライガーの姿はない。

 

ツインホーンのパイロットが、敵の姿を探す。彼が白い影を捕えた時には、シールドライガー寒冷地仕様は左から飛び掛かっていた。直後、そのツインホーンは、シールドライガー寒冷地仕様に叩き伏せられていた。

 

全ての護衛機を失ったグスタフ2機は、間もなく降伏した。

 

 

「これで終わりか…」

 

コックピットで、ケインは静かに呟いた。彼の視線の先には、グスタフのパイロット達が暖房の効いたコックピットから寒風吹き荒れる外へと飛び出していく姿が見えた。

 

今日も彼と彼の指揮下の部隊は、ゼネバス帝国軍の補給部隊を全滅させた。

 

シールドライガー寒冷地仕様4機は、火炎放射器で、物資の詰まったコンテナを破壊した。補給部隊を撃破した際、その部隊が輸送していた補給物資を鹵獲することもあるが、今回は、敵の勢力圏の奥深くであるため、不可能であった。

 

次に無人になったグスタフの操縦席に三連衝撃砲を叩き込んで無力化する。ゾイドコアが破壊されたわけではないので、基地で修理されれば、再び補給任務に復帰できる。だが、回収部隊が来るまでの間、この2台のグスタフは帝国軍にとって唯のお荷物である。

 

一見すると補給部隊を撃破するというのは、地味なことかもしれない。補給部隊の護衛部隊の規模を考えると、大型ゾイドを複数投入する任務とは考え難いと考える者も少なくはないだろう。

 

だが、これは共和国軍がいかにこの任務を重要視しているかということでもある。また敵の補給部隊に対する攻撃は、その任務の地味さからは信じられない程、重要な任務でもある。

 

地球の戦争において、補給を軽視した軍隊はいずれも悲惨な末路を遂げている。この補給の重要性は、地球においても、ゾイド星(惑星Zi)においても同じである。兵士は、生存する為に食事を常に必要とし、兵器は整備部品がなければ、性能を発揮できず、弾薬がなければ、戦うこともできない。

戦闘ゾイドの最後の兵装として部族間抗争の頃からよく例示される『爪と牙』ですら、ZAC2045年現在では、殆どの機体が、野生種と異なる特殊合金や内部にレーザー発振装置等の人工物を仕込んでいたり、人工物に置き換えられたりしているのである。

 

更に戦闘が行われなくても補給物資は毎日消費されていく、兵士は、食料やその他生活物資を生存する為に消費するし、ゾイドや火砲等も頻繁にメンテナンスを必要とする。

それらの物資を頻繁に補充する為には、後方から前線基地まで補給部隊が物資を輸送する必要がある。これが遮断されてしまえば、前線の部隊は、戦うことなく、その戦闘能力を喪失することになる。

 

数十年前、地球の恒星間移民船 グローバリーⅢがこの惑星に落着し、地球由来のテクノロジーがヘリック、ゼネバス両国の技術を大幅に向上させたが、それでも補給部隊の重要性は、数百年前の部族間抗争の頃と同様に変わっていない。

 

それどころかむしろ重要性を増していた。

 

その意味では、敵の補給部隊を叩くというのは、ゆっくりと敵に小さな傷を付ける様なものであった。

 

初めは大したことのない掠り傷でも、何度も繰り返し傷を与え続けることによって、やがては敵を失血死させることに繋がるのである。ダナム基地に物資を送る筈だった第23輸送部隊は、目的地にたどり着くことなく、敵の手に落ちたのであった。

 

 

 

 

 




次は戦闘が全く無い話になる可能性もあります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。