ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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第4話 戦力分析 後編

 

「ダナム山岳基地の防空及び航空戦力については?」

 

次に挙手したのは、これまで一度も口を開くことの無かった人物だった。その隣にいた、海軍からの連絡将校が思わず、心中の驚愕を表情に見せた。

 

空軍の軍服を着た浅黒い肌と痩せた身体が特徴的な将校 レン・マックスウェル准将が質問する。

 

この痩身の男は、空軍からの連絡役として派遣されていた。この会議の議題であるダナム山岳基地攻略作戦に限らず、このZAC2045年のゾイド戦闘において航空支援の無い戦いはありえない。

 

今回のダナム山岳基地攻略作戦で空軍は、陸軍の航空支援と上空の制空権確保、物資の空輸に従事する予定である。

 

「航空戦力については、ダナム山岳基地そのものにはそれ程航空戦力は配備されていません。…シュトルヒ8機、弾着観測機を含め、サイカーチス10機が配備されています。また新型のレドラーはダナム山岳基地には配備されていないことが確認されています。しかし、近辺の空軍基地のいくつかには、配備が確認されているので、これらの基地の部隊が上空に出現することは十分考えられます。これらの基地からレドラー部隊の来襲を阻止する為に、前回の会議で提案された様な敵の空軍基地に対する攻撃が必要かもしれません。次に防空戦力については、前回の戦力分析で分析済みのダナム山岳基地の防空設備に加え、対空マルダー、対空ザットン、対空イグアン、モルガAA合わせて推定で30機~40機が配備されていると思われます。また増派された第23機甲師団所属機については、高射砲部隊のマルダー20機、対空火器を有する突撃部隊のレッドホーン、ブラックライモス、ツインホーン、強力な対空ミサイルを有するアイアンコングmkⅡ限定型とアイアンコングmkⅡ量産型、アイアンコング、3機種の補助を務めるハンマーロックによって、基地の防空戦力は大幅に増強されたと判断していいと思います。」

 

「分かりました。しかし、そこまで防空戦力が強化されているとなると、我々空軍の部隊が空爆を行う前に陸軍による支援が不可欠になりますな。単独での基地への空爆は自殺行為だと断言できます。」

 

「それについては、地上部隊を代表して善処するとこの場で言っておく。」

 

この会議の陸軍将官で、最高階級者であるスタンリー中将が静かに言った。この若い空軍将校の発言が、今回の作戦の支援を行う空軍を代弁していることをこの部屋にいる誰もが知っていた。

 

「…ダナム基地にデスザウラーがいる可能性は?それについてはどうなのかねロバートソン大佐。」

 

ヘリック大統領の影武者が質問する。次の瞬間室内は、さながら爆弾を落としたかの様に静かになった。

 

「…」

 

 

ゼネバス帝国よりも豊かな国土を背景に高い工業力と国力を有する筈のヘリック共和国が、首都を陥落させられ、国土の多くを占領下に置かれているのは、デスザウラーの存在が大きかった。

 

共和国軍の前線の兵士は、デスザウラーを死を呼ぶ恐竜と呼んで恐れていたが、同様に後方で前略を練る将軍も、デスザウラーの脅威を認識していたのである。

 

デスザウラーの存在は、共和国軍の戦略にも暗い影を落としていた。帝国軍の拠点を攻撃する際も、デスザウラーの存在している拠点はなるべく攻撃対象から外され、デスザウラーを先頭に押し立てて帝国軍が進軍してきた場合、その地域からの撤退を余儀なくされた。

 

そもそも共和国軍がこの中央大陸を東西に二分する中央山脈での遊撃戦を選んだのも、デスザウラーの進軍が制限されるからというのが大きな理由の1つであった。

 

1つの戦場での勝利を確定させるだけでなく、相手側の戦略さえも左右するゾイド…それがデスザウラーであった。

 

現在、デスザウラーを倒すことのできるゾイドの開発が進められていたが、現状の共和国軍にはデスザウラーに対抗できるゾイドは存在していなかったのである。

 

デスザウラーがダナム山岳基地に存在する場合、たとえそれが単機であったとしても共和国軍の作戦成功の可能性は著しく低下を余儀なくされるだろう……故にケネスもこの質問が来ることを予想していた。青年のはっきりとした声が気まずい沈黙が支配する会議室に響いた。

 

 

「…デスザウラーがダナム山岳基地に存在している可能性についてですが、その可能性はありえないと断言できます。」

 

ケネスは、断言した。その言葉が室内に伝わると共に参加者の表情が変わった。

 

 

「!!」

 

「その根拠を聞いていいかね…」

 

「はい。まず第1にこれまでの地上、航空偵察でダナム山岳基地にデスザウラーの存在が発見されていないことです。」

 

「うむ」

 

「地下に隠しているという可能性は?デスザウラーの試作機がそうだったように部品を解体して輸送し、基地内で組み立てることができるのではないか?」

 

「分解して輸送するのは、リスクが高すぎます。途中で我々のゲリラ部隊に輸送隊が襲撃される危険性を彼らが考えていないというのは考えにくいことです。」

 

「…そうか」

 

「第2に現在のダナム山岳基地には、デスザウラーを整備できる程の整備施設が存在していないことです。デスザウラーは、我々の首都失陥の原因となった初号機の進撃時に何度か前線で補給と整備を受けている姿が空軍の偵察機によって発見されていますが、その際には大規模な整備・補給部隊が確認されています。」

 

 

ケネスが言葉を区切ると同時にホログラムが切り替わり、新しい映像が映し出される。映し出されたのは、薄緑色の草原に立つ一体の黒い肉食恐竜型ゾイド……デスザウラーが映し出されている。

 

ただ、戦闘時とは異なり、全身を覆う黒曜石の様に黒い装甲は所々が剥ぎ取られ、内部機関が剥き出しにされていた。その周囲には、5台のグスタフが並び、デスザウラーの整備を行うための整備兵が砂糖に群がる黒蟻の様にデスザウラーの足元に無数にいた。

 

「デスザウラーの整備を行う部隊が大規模なことはわかったが、ダナム山岳基地の規模を考えると、デスザウラーの整備は不可能ではないのではないか?」

 

 

「はい。確かにあの規模の基地ならばデスザウラーの整備を行うことは不可能ではないでしょう。ですが、それは守備隊の規模が小規模な場合です。現在それらの整備施設は、第23機甲師団のゾイドを整備に利用されており、とてもデスザウラーの整備に整備要員や整備施設を回せる状況とは思えません。」

 

「…つまり、現状ダナム山岳基地の最大戦力は、ヴァイトリング少将のアイアンコングmkⅡ部隊であると考えていいのか?」

 

 

「はい、将軍、間違いありません。繰り返して申し上げますが、現在のダナム山岳基地にデスザウラーがいるとは考えられません」

 

「現状、デスザウラーがダナム山岳基地周辺の戦闘で出現する可能性はないということだな…ケネス大佐?」ノートン中将が尋ねた。

 

「いいえ、ダナム山岳基地内部にデスザウラーが存在しないとしても、包囲戦が長期化した場合、襲来して来るであろう救援部隊にデスザウラーを投入して来る可能性は否定できません。」

 

「では、我が軍がダナム山岳基地を包囲している時にデスザウラーを含む救援が出現した場合、どう対応するというのかね?」

 

第4装甲旅団の旅団長 ウィル・ウィリアムズ准将が強い口調で言った。今回の作戦に参加する部隊でも珍しくゴジュラスやマンモス等の重装甲の大型ゾイドを多数有する部隊であり、首都失陥前に数次にわたり行われた平原での戦いでは最もデスザウラーと交戦し、大損害を出した部隊でもある。

 

「ウィリアムズ准将…今回のケネス大佐は、あくまでも戦力分析担当だ。対策を彼に求めるのは間違いだよ。それに諸君、デスザウラー対策も重要だが、他にも重要な事があることを忘れてはいけないよ」

 

ノートン中将が彼を穏やかな口調で、窘めた。

 

「…申し訳ありません」

 

「中将閣下!」

 

その時、会議室の奥の方の座席に座っていた巨漢……第87極地戦大隊指揮官 デメトリウス・ブロス大佐が勢いよく立ち上がった。

 

彼の率いる部隊は、その名の通り、中央山脈北部や大陸北端の〝ザブリスキーポイント〟を戦場とする部隊で、極寒の戦場に適応する為に所属機全機に寒冷地仕様改造が施されているのが特徴である。

 

今回のダナム山岳基地攻略作戦には、補給封鎖や増援阻止に参加する予定であった。

 

「何だ?」

 

「デスザウラー対策については、既に私に〝秘策〟があります。その為の装備も既に準備中です。」

「デスザウラーを倒す秘策があるのですか?」

 

「倒すことが出来るかは分かりませんが…ダナム山岳基地に到着させないようにすることは出来ると思います。」

 

「少将、その秘策について説明してくれたまえ」

 

それまでは、静かに語りかける様な口調で話していた影武者ヘリックの口調には、興奮が入り混じっていた。

 

「はい。………まずデスザウラーの装甲防御力について……」

 

大統領に促され、デメトリウス大佐は口を開いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「これならば、デスザウラーを、あの死を呼ぶ恐竜を、凍えさせることが出来るでしょう」

 

 

彼が説明を終えた時、室内にいた者達の中で興奮しなかった者はいなかった。

 

 

この日の会議は、この後も4時間近く続けられた。しかもこの日の会議等は、敵性戦力分析以外は、既に定められたことの最終確認でしかなく、本題であるダナム山岳基地攻略の作戦案の修正等は、後日に行われる作戦会議で行われる。

 

外と隔離された、この暖房の効いた白い部屋で数日にわたって交わされた言葉と情報によって編み出された戦略、作戦が、前線の兵士達の生死を決定し、戦いの勝敗を左右し、彼らの祖国 ヘリック共和国と、その敵国 ゼネバス帝国の運命をも左右するのである。

 

 

 


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