ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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劇中でシールドライガーに対する心無い発言がありますが、私はシールドライガーがゾイドの中では好きだということを予めこの場で言っておきます。




第5話 虎と獅子 合いまみえる時 前編

 

同等の力を有する者同士の対立関係をライバルと言うが、金属生命体ゾイドを改造し、それを主力兵器として改造してきたゾイド星の戦史においてもライバルとも言える関係が存在する。

 

 

最も有名な物は、ヘリック共和国の象徴としても扱われることの多い恐竜型大型ゾイド ゴジュラスと対抗機としてゼネバス帝国が開発したゴリラ型大型ゾイド アイアンコングであろう。

 

ゼネバス帝国の開発したトラ型大型高速ゾイド サーベルタイガーとヘリック共和国のライオン型大型高速ゾイド シールドライガーもその一例と言える。

 

ZAC2045年の中央山脈北部でも、この2つの戦闘機械獣とその乗り手達は、互いに敵機の高速ゾイドをライバルであると見做していることが多かった。

 

 

 

 

―――――――――ZAC2045年 12月15日 中央山脈北部 山岳地帯―――――――

 

 

猛烈な吹雪が駆け降りる谷の底、降り積もる雪で白く染まった道を輸送ゾイド グスタフとモルガで編成される輸送部隊とその護衛部隊のゾイドが歩みを進めていた。

 

 

奴らは必ず現れる…

 

 

乗機であるサーベルタイガーのコックピットでイルムガルトは小さな声で呟いた。

 

今回、彼女の隊は輸送部隊の護衛任務に従事していた。

 

イルムガルトのサーベルタイガーのメインモニターには、昆虫型輸送ゾイド グスタフとそれが牽引するコンテナを載せたトレーラーと輸送型モルガの姿が表示されている。

 

 

 

輸送型モルガは、モルガのバリエーションの一つで機体後部が物資を運ぶためのコンテナに換装されている。戦闘用の通常型と異なり、機体後部がラクダの瘤の様に膨らんでいるというのが特徴である。

 

武装は頭部のガトリング砲のみで対ゾイド戦では無力に等しいが、通常機の2倍近い貨物を輸送できた。この機体は、グスタフの数が揃わないゼネバス帝国軍の補給の数的主力を担っていた。

 

 

彼女達の護衛目標、グスタフ4台 輸送型モルガ8台で構成されるこの輸送部隊は、中央大陸東側…かつてヘリック共和国の領土だった地域、現在は、ゼネバス帝国の占領下に置かれている地域に展開している友軍への補給物資を輸送していた。その内訳は、食糧、弾薬、ゾイドの補給部品等で、どれ1つ取っても、戦争を行うのに欠かせない物資である。

 

それらを護衛するのは、レッドホーン1機、ハンマーロック4機、イグアン4機、マルダー2機、ゲーター1機で編成される護衛部隊、それに加えてサーベルタイガー2機、ヘルキャット8機で編成される高速部隊が更に外周を守っている。

 

その内高速部隊は、ダナム山岳基地の守備隊に所属する機体である。

 

彼ら高速部隊の目的は、敵の高速ゾイドの迎撃。

 

その中で最大の脅威は、〝青い稲妻〟――――――シールドライガー。

 

「〝獅子〟も〝狼〟も〝熊〟も現れませんね。」

 

 

副官のヘルベルトが隠語で敵機の名を呼ぶ。それらの内、最も脅威度が高いのは、獅子…シールドライガーであった。

 

狼…コマンドウルフも、熊…ベアファイターも中型ゾイドとしては、優秀な機体であるものの、サーベルタイガーに単独では対抗できるものではなかった。

 

 

「ええ、でも油断は出来ないわ。」

 

イルムガルトは、今回の任務の重要性を認識していた。本来ダナム山岳基地周囲の哨戒任務に従事している筈の彼女達が、補給部隊の護衛に従事しているのには、理由がある。

 

 

 

約1か月前からヘリック共和国軍は、ダナム山岳基地への攻撃に先立ってシールドライガーとコマンドウルフで構成された高速隊をこの北国街道に送り込んだ。

 

これらの高速部隊は、北国街道を通過する輸送部隊を次々と撃破し、占領地の帝国軍と本国とを繋ぐ補給線を脅かした。

 

 

機動性に優れたこれら2機種で構成される共和国軍の襲撃隊に対して、小型ゾイドを中心とする護衛部隊は貧弱すぎ、拠点防衛に特化したダナム山岳基地守備隊では、鈍足過ぎた。ダナム山岳基地の守備隊は、強大な戦力を有しながらも敵の高速部隊から輸送部隊を守りきる事が出来ない状況に陥った。

 

 

従来の小型ゾイド主体の護衛部隊では、大型ゾイドであるシールドライガーを有する敵の高速部隊の襲撃から補給部隊を守りきれないと判断した帝国軍は、護衛部隊の増強と同時にダナム山岳基地から部隊を派遣することを決定。

 

機動性に優れたサーベルタイガーを装備する部隊が輸送部隊の護衛として選ばれた。

 

 

イルムガルトの隊は、数日前にパトロール部隊を全滅させた共和国軍のコマンドウルフ部隊と交戦して、相手に打撃を与えていた。

 

 

その経験を買われたという面もある。更に今回の任務の為にヘルキャットが、4機追加配備された。本来では、サーベルタイガー1機とそのパイロットが配備される予定だった。だが、急遽別の輸送部隊の護衛に回されてしまったのである。

 

複雑な地形を突破でき、素早く戦場に参加可能、そして撤退も、追撃も自在に行える高速ゾイドとその乗り手は、この中央山脈の戦場では黄金よりも貴重だった。

 

「輸送部隊がやられたら前線に影響が出ますからね。」

 

 

「そうよ、私達は、この重要な任務をヴァイトリング少将に任されているのよ。」

 

彼女とは別の考えの持ち主もいた。その人物は、彼女と同じようにこの輸送部隊の護衛任務に従事し、大型ゾイドのパイロットであるという共通点を有していた。

 

「大型ゾイド3機とは、戦力過剰だ。全く、師団長殿も考え過ぎだな。」

 

レッドホーンに搭乗する士官 ハンス・ランドルフ大尉は、護衛部隊の指揮官でもある彼は、貴重な大型ゾイド3機を投入するという、上官であるヴァイトリング少将の意図が理解できていなかった。

 

複数の大型ゾイドによって輸送部隊が護衛されること等、これまでのゼネバス帝国軍ではあまり例のないことなのだから当然と言える。

 

元々、国力で共和国に劣るゼネバス帝国は、最前線に戦力を優先的に配備する傾向があり、大型ゾイドの場合、その傾向はさらに強まった。

 

 

大型ゾイドを後方の補給線の防衛に回すこと等、多くの帝国軍の将校達にとっては、貴重な大型ゾイドを遊ばせているに等しい行為に映ったのである。

 

一方、彼らの敵国であるヘリック共和国の場合は好対照である。

 

共和国軍は、帝国軍の新型高速ゾイド サーベルタイガーが出現し、輸送部隊を襲撃し始めた際に貴重な自軍の大型ゾイドの中で当時最も強力だったゴジュラスを護衛に付けた。

 

更にシールドライガーがロールアウトされてからは、この初の大型高速ゾイドも共和国軍は、自軍の輸送路の防衛に投入した。このシールドライガーとコマンドウルフ数機で編成されたハンターキラー部隊によってサーベルタイガーを含む、多くの襲撃部隊が未帰還に追い込まれた。

 

これらは、豊かな国力によって大型ゾイドの保有台数に余裕がある共和国だからこそ出来ることだと言える。

 

「一向に敵が現れないな。」

 

「共和国軍の奴らが現れたら、直ぐに俺達でやっつけてやるのに……」

 

ヘルキャットのパイロットの1人が同僚に向けて軽口を叩いた。そのパイロットは配属されたばかりの新兵だった。

 

「何言ってるの!私達の任務は、敵を倒す事じゃない。前線の友軍に届ける補給物資を守る事、もし敵を全滅させてもその時に補給物資が全滅していたら何の意味も無いのよ。」

 

「申し訳ありません。イルムガルト隊長……」

 

自身の発言の軽率さ、愚かさに気付いたその若い兵士は、上官に謝罪した。

 

「分かればいいわ。それに後少しで交代の高速隊に合流するわ。それまで何も起こらなければいいけど……」

 

イルムガルトは、この任務が何事も無く過ぎることを望んでいた。補給物資が被害を受けずに予定通り前線の部隊に届けられることが、祖国と最前線の同胞にとって望ましい結果なのだからと。

 

だが、心の片隅で彼女は、自分も先程の部下と同じ様なことを、シールドライガーを有する高速戦闘隊と遭遇して戦えることを心待ちにしていた。

 

彼女にとって敵の高速ゾイドの中で最も強力であり、サーベルタイガーキラーとして開発されたシールドライガーは、最も倒すべき敵だと考えていたのであった。

 

無論それだけでなく、イルムガルトの士官学校時代の同僚達もシールドライガーにやられた者が少なくないことも関係していた。

 

しかし、イルムガルトは、自身がそんな矛盾した心境に陥りつつあることに気付くことは無かった。

 

 

「前方に未確認の金属反応を探知、恐らくゾイドと思われます。」

 

護衛部隊で警戒機を務めるゲーターの全天候3Dレーダーが前方の雪原に潜む〝何か〟に反応した。

 

輸送部隊は動きを止め、護衛部隊もそれに合わせると共に警戒態勢に入った。

 

 

「共和国軍め……燻りだしてやるぞ。A1からA2、C1、C2、反応のある地域にミサイルを撃て」

 

クルトが部下の機体に指示を出す。A1~A2……護衛部隊のハンマーロック2機とC1~C2……最後尾のマルダー2機がミサイルを発射した。

 

ハンマーロックの背部には、4発の対空ミサイルが搭載されている。だが、この部隊は、地上戦における攻撃力を向上させる目的で半分の機体が対空ミサイルから地対地ミサイルに換装していた。

 

 

白煙を引いて6発のミサイルがゲーターの3Dレーダーに反応のあった地点へと吸い込まれる。ミサイルが着弾し、白い雪が降り積もる大地に一瞬赤い爆炎が生じ、次の瞬間には、黒煙が着弾した場所から立ち上っていた。

 

「やったか?」

 

「いや、残骸はない。」

 

「あっ!」

 

一瞬、前方の雪に覆われた地形が動いた。

 

 

直後、潜んでいた敵……白いシールドライガー…シールドライガー寒冷地仕様が姿を現した。

 

その数は、4機。

 

大型ゾイドであることを考えると、イルムガルトの第3中隊とクルトの護衛部隊、合わせて3機の大型機を擁する輸送部隊の護衛戦力でも油断できない戦力と言える。

 

「大型ゾイドが3機か。今までと同じだと思うと痛い目に遭いかねないな」

 

指揮官のケイン・アンダースン少佐は、敵の輸送部隊の護衛の戦力が強化されていることに驚いていた。

 

これまで襲撃してきた帝国軍輸送部隊は、小型ゾイド主体で、良くて指揮官機に中型ゾイドがいる程度の護衛部隊に守られていただけだった。

 

だが、今回の護衛部隊には、大型ゾイドが複数配備されており、これまでの様にいかないことは容易に想像できた。

 

特にサーベルタイガーは、シールドライガーの原型になった機体であり、カタログスペックでは、シールドライガーが上回っているものの、実戦では殆ど互角に近い。

 

ケインらにとっても油断出来ない機体である。

 

「帝国の奴らも漸く自分達の足元に火がついてることに気付いたんですかね?」

 

ケインの僚機を務めるティム・ネイト少尉が軽い口調で言う。

 

「……そういう事だろうな。各機サーベルタイガーのパイロットはこちらより高速ゾイドの操縦に熟達したベテランが多い!油断するんじゃないぞ」

 

「了解。」

 

「了解、油断なんてしません!」

 

4機のシールドライガー寒冷地仕様は、横に並んだ隊形で輸送部隊に向かって突進する。地面に降り積もっていた銀色の雪が巻き上げられ、4機を包み込む。

 

 

雪煙とシールドライガー寒冷地仕様4機の姿と混ざり合い、見る者には、巨大な白い塊が帝国部隊に向かって来る様な錯覚を与えた。

 

その姿は、雪山で最も警戒すべき災害………雪崩を思わせた。

 

 

「何!大型ゾイドが4機も!」

 

 

クルトは、襲撃部隊の予想外の戦力に慌てた。情報部の話では、ヘリック共和国は首都と主要なゾイド工場を占領され、大型ゾイドの補充も儘ならない筈では無かったのかと。

 

「我々以外の護衛部隊は、輸送部隊を守ることに専念してください。シールドライガーは、私達が仕留めます!」

 

逆に敵部隊に大型ゾイドがいることを予め予測していたイルムガルトは、冷静に指示を送る。

 

直後、サーベルタイガー2機は、8機のヘルキャットを従えて接近してくる敵部隊に向かって疾走した。

 

「……分かった。」

 

 

護衛部隊の指揮官であるクルトもそれにしぶしぶ従う。本来なら2人の階級は同じで、従う必要はない。

 

だが、彼も高速ゾイドの機動性に対して最も対抗できるのは、友軍の高速ゾイドのそれであること……高速ゾイドには、高速ゾイドを当てるべし。と言うゾイド戦術の基本は理解していた。

 

少なくともこの時点は。

 

 

「サーベルタイガーを真似ただけの機体に!」

 

イルムガルトは、メインモニターに表示される白い獅子達を睨み、敵意の籠った口調で言う。

 

「盾に隠れる様なまがい物、直ぐに叩き潰してやりましょう!」

 

同じくサーベルタイガーを愛機とする副官のヘルベルトも敵機に向かって悪意に満ちた言葉を吐き、背部のビーム砲のトリガーを引く。

 

サーベルタイガーに苦しめられた共和国軍が対抗策として開発したシールドライガーは、ZAC2038年にバレシア基地で多数鹵獲されたサーベルタイガーを解析して開発された機体であり、機体構造の約半分がサーベルタイガーの設計を基にしている。

 

この事は、シールドライガーのことをサーベルタイガーの模造品と帝国軍の兵士達が嘲笑を浴びせる理由となった。

 

更に機動性を含むサーベルタイガーの性能をシールドライガーが上回っているという事実は、これまで快速部隊として機動性を活かして共和国軍を苦戦させてきた帝国軍のサーベルタイガー乗りのプライドを大きく傷付けた。

 

この様な経緯からイルムガルトだけではなく、ゼネバス帝国のサーベルタイガーパイロットの多くが、愛機を真似た敵国の高速ゾイドに敵意を多分に含んだ対抗意識を燃やしていた。

 

更にレッドホーンとマルダー2機も、それぞれ背部の大口径三連電磁突撃砲と胴体に内蔵した自己誘導ミサイルを発射する。

 

少なくない数のビーム、砲弾、ミサイルが、4機の白い獅子に向かう。

 

「各機散開」

 

シールドライガー寒冷地仕様4機で編成される第7高速中隊の指揮官 ケイン少佐は、即座に指示を下す。4機は、散開しつつも、各機が一定の距離を取りつつ、突撃を続ける。

 

シールドライガー寒冷地仕様の周囲にビームと砲弾が虚しく着弾した。

 

「畜生、撃たれっぱなしかよっ」

 

部下の1人が毒づいた。シールドライガー寒冷地仕様は、ベースである通常型のシールドライガーの胴体下部に火炎放射器、背部に左右併せて2基の火炎放射器用の燃料タンクが追加装備されているのが外見上の特徴である。

 

燃料タンクは、胴体側面を経由する形で伸びた燃料ケーブルで火炎放射器に接続されている。

 

これは、火炎放射器ユニットを排除しなければ、背部に格納された2連装ビーム砲、胴体側面に格納されたミサイルポッドが使用できないことを意味する。

 

背部と胴体側面がそれぞれ、燃料タンクとケーブルで接続されているのだから当然である。

 

その為、胴体下部の火炎放射器と三連衝撃砲、そして尾部のビーム砲がシールドライガー寒冷地仕様の使用できる火力となっていた。

 

その内、正面の敵に対して使用可能な、火炎放射器と三連衝撃砲は、射程距離が短かった。つまり、シールドライガー寒冷地仕様とそのパイロットは、接近戦の距離になるまで敵の砲撃を受け続けることになる。

 

「各機、ブースターを使え!」

 

4機のシールドライガー寒冷地仕様の腰部のブースターから青白い炎が勢いよく噴出すると同時にシールドライガー寒冷地仕様の速度を加速させた。

 

このブースターは、寒冷地仕様への改造に伴う重量増加によって起った速度低下対策であった。ブースターを使用した時のシールドライガー寒冷地仕様の速度は、通常型に比べて20kmも上昇していた。

 

但し、このブースターは、搭載している推進剤の量の問題から多用することは出来なかった。

 

青白い推進炎を吹かせて4機の白い獅子は、前方の無力な獲物とそれを守るかのように壁となって立ち塞がる鋼鉄の剣歯虎に率いられる豹の群れにむかって駆ける。

 

 

 

「逃がさないわ!」

 

「落ちろ!」

 

「了解!」

 

「了解です」

 

「任せてください」

 

「了解」

 

4機のシールドライガー寒冷地仕様を、サーベルタイガー2機とヘルキャット8機が彼らを迎え撃つ。

 

サーベルタイガーは、背部の2連装ビーム砲、ヘルキャットは、背部の2連装高速キャノン砲、胴体下部のレーザー機銃を敵に向けて連射した。

 

それらの攻撃は、移動しつつの射撃である為、命中率は低い。

 

イルムガルト以下、帝国側のパイロットもそれを理解しており、これらの射撃は、攻撃よりも牽制目当てである。

 

間もなく双方は、接近戦に移行した。

 

「そらっ!」

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様が牽制の三連衝撃砲を放つ。イルムガルトのサーベルタイガーは、それを回避すると反撃する。

 

照準器の中心にシールドライガー寒冷地仕様の頭部が重なると同時にイルムガルトはトリガーを引く。ビームの矢がサーベルタイガーの背中の火器から迸る。

 

「くっ」

 

 

シールドライガー寒冷地仕様も跳躍してそれを回避した。もう1機のシールドライガー寒冷地仕様が右側からイルムガルトのサーベルタイガーに襲い掛かる。

 

サーベルタイガーは、その攻撃を後ろに跳躍することで回避する。

 

ヘルキャット3機が銃撃でサーベルタイガーを支援する。サーベルタイガーは、シールドライガー寒冷地仕様の1機向かって高速で駆ける。背部の2連装ビーム砲からビームが数発放たれる。

 

 

 

醜い機体だ…!背部の2連装ビーム砲のトリガーを引き、敵機を追撃しながら、イルムガルトは、目の前の白い獅子…シールドライガー寒冷地仕様を見てそう思った。

 

 

頭部を初めとする一部こそ優美な流線型を辛うじて維持しているが、機体の大部分はそれと真逆。側面から見れば、黒と銀色に染まった人工物の醜悪さが剥き出しになった姿が丸出しだ。

 

それは、素体となったライオン型野生体の美しさを損なう機体形状であり、トラ型野生体の美しさをそのままにした形状のサーベルタイガーとは、真逆だと思えた。

 

 

「早いな!」

 

ケインは、自機に向かって飛んでくる幾条ものビームを回避しつつ、敵のサーベルタイガーのパイロットの技量に舌を巻いた。

 

 

彼はサーベルタイガーとの交戦経験は数える程しかなかったが、ここまで狙いの正確なサーベルタイガーと交戦したのは初めてであった。

 

「ちっ」

 

更に彼を苛立たせるのは、ヘルキャットの存在と後方の護衛部隊の支援射撃である。またサーベルタイガー2機に加えて、8機のヘルキャットは、サーベルタイガーの援護として、数機単位で行動し、無視できない火力を叩き付けてくる。

 

 

また輸送部隊に張り付いているレッドホーンを主力とする護衛部隊は、時折砲撃を加え、サーベルタイガーとヘルキャットを支援してきていた。

 

そのせいで彼と彼の僚機は、数で勝りながらもサーベルタイガーを圧倒することが出来ずにいた。

 

サーベルタイガーが、シールドライガー寒冷地仕様の頭部に向けて、ストライククローを振り下ろす。寸前でケインはその攻撃を回避し、火炎放射器で反撃する。

 

ケインの副官であるティムのシールドライガー寒冷地仕様は、ヘルベルトのサーベルタイガーと交戦していた。

 

ヘルベルトのサーベルタイガーは、僚機のヘルキャット数機と共に目の前のシールドライガー寒冷地仕様に襲い掛かった。

 

ヘルキャットは、搭載した火器でサーベルタイガーを援護する。小型ゾイドであるヘルキャットの火器でも、関節部や装甲が施されていない場所を狙われれば、シールドライガーにとっても脅威となった。

 

「ラーセン、援護しろ!無理に倒さなくてもいい!」

 

「はい!」

 

ティムのシールドライガー寒冷地仕様の僚機が援護に回る。

 

「食らえ!」

 

ティムのシールドライガー寒冷地仕様が胴体下部の火炎放射器をヘルベルトのサーベルタイガー目がけて発射した。

 

ヘルベルトは機体を跳躍させ、上から2連装ビーム砲を浴びせつつ、ストライククローを煌かせ、ティムのシールドライガー寒冷地仕様に飛び掛かった。

 

火炎放射器を発射していたシールドライガー寒冷地仕様は、回避が遅れてしまった。ヘルベルトのサーベルタイガーは、左前足を目の前の敵機の頭部に振り下ろす。

 

「ティム中尉!うわっ」

 

援護のシールドライガー寒冷地仕様をヘルベルトの僚機のヘルキャット数機と、後方からの護衛部隊の砲撃が牽制した。

 

「くうっ!回避しきれなかったか」

 

ティムは即座に機体を後ろに跳躍させたが、それは些か間に合わなかった。

 

サーベルタイガーの左のストライククローは、左の鬣を掠めた。シールドライガー寒冷地仕様の左の鬣の塗装がはげ落ち、銀色に輝く爪痕が残される。

 

「ちっ、仕留め損ねたか!」

 

ヘルベルトは、舌打ちした。後少しでも回避が遅れていたら、ヘルベルトのサーベルタイガーは、コックピットごとパイロットを粉砕していただろう。

 

「やってくれたな」

 

今度は、ティムのシールドライガー寒冷地仕様がレーザーサーベルでヘルベルトのサーベルタイガーの首筋を狙う。ヘルベルトのサーベルタイガーは、間一髪その攻撃を回避する。だが、完全には回避できず、鼻っ面に傷が付いた。

 

「これでお互い様ってか!」

 

ティムの僚機のシールドライガー寒冷地仕様も火炎放射器で追撃する。ヘルベルトのサーベルタイガーは、それを跳躍して回避する。

 

着地と同時に背部の連装ビーム砲と接近戦用ビーム砲を連射し、そのシールドライガー寒冷地仕様に叩き込む。

 

「ちっ」

 

シールドライガー寒冷地仕様は、回避できないと判断したのか、Eシールドを展開して防いだ。桃色の光の壁がビームを弾いた。

 

「あれが噂のシールドか、こいつはどうだ!」

 

2連装ビーム砲の上に装備された全天候自己誘導ミサイルランチャーを発射した。「あぶねえっ」ティムはシールドを解除し、ミサイルを火炎放射器で撃墜した。

 

ビームやレーザーと言った光学兵器を無力化出来るエネルギーシールドは、一見すると無敵の様に見えるが、最強の盾という訳ではない。

 

神ではなく、人の創り上げた物である以上弱点が存在する。

 

出力以上のビーム兵器……例えばデスザウラーの荷電粒子砲の様な攻撃には耐えられないし、ミサイルや砲弾等の実弾兵器を防ぐことは出来なかった。

 

 

「ビームしか防げねえってのはマジだったか、これを食らえ」

 

シールドを解除したティムのシールドライガー寒冷地仕様に対してヘルベルトのサーベルタイガーは、ビームを連射した。僚機のヘルキャットも銃撃で援護する。

 

1機撃破か……ヘルベルトとその部下達は、勝利を確信した……だが、此処で誤算が発生した。

 

「副隊長!」

 

ティムのシールドライガー寒冷地仕様を僚機が庇ったのである。もう1機のシールドライガー寒冷地仕様は、Eシールドを展開する。

 

ヘルベルトのサーベルタイガーとその僚機のヘルキャット達が放ったビームの嵐は、空しくEシールドに弾き返された。

 

「ラーセンか。助かったぞ」

 

「はい!副隊長」

 

「くそっ、やり直しか」

 

 

ヘルベルトは毒づく。シールドが解除されると同時に2機の白いシールドライガーが動き出す。

 

 


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