ゾイドバトルストーリー 中央山脈の戦い 山岳基地攻防戦   作:ロイ(ゾイダー)

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第6話 虎と獅子 合いまみえる時 中編

 

ヘルベルトとその部下達が敵機を撃破し損ねたのと同じ頃、イルムガルトのサーベルタイガーとヘルキャット3機は、2機のシールドライガー寒冷地仕様を辛うじて押しとどめていた。

 

「サーベルタイガー1機と3機のヘルキャットで……ここまでやるか!」

 

ケインは、目の前の部隊の連携に驚いていた。戦力的には優位にも関わらず、ケインと僚機のパイロット レイカは、目の前の敵部隊を突破することが出来なかった。

 

彼らの唯一の救いは、レッドホーンを中心とするもう1つの護衛部隊が、時折支援砲撃して来る以外、戦闘に加入してこないことだった。

 

逆に言えば、其処に彼らの勝機があった。

 

この高速部隊を突破すれば、動きの鈍い機体が主体のもう1つの部隊を翻弄し、輸送部隊を攻撃することは容易い。

 

「邪魔だっ」

 

目の前に立ち塞がる敵部隊を睥睨し、忌々しいとばかりに吐き捨てたケインは、トリガーを引いた。直後、彼のシールドライガー寒冷地仕様は、さながらドラゴンの様に劫火を放った。

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様は、火炎放射器を前方の空間に向かって掃射した。

 

一瞬、白い雪に覆われていた大地が液体燃料の炎のオレンジがかった赤に染まる。

 

「何っ!」

 

堪らずそこにいたイルムガルトのサーベルタイガーとヘルキャット部隊は後退する。それによって、突破できる隙間が出来た。

 

「いくぞレイカ!」

 

「はい!少佐」

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様は、炎によって切り拓かれた活路を駆ける。僚機もその後に続く。攻撃目標である帝国軍輸送部隊へ向けて2機のシールドライガー寒冷地仕様は、疾走する。

 

 

「させるか!」

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様の動きを見たイルムガルトは、サーベルタイガーを跳躍させた。

 

 

「これで輸送部隊まで……何!!!」

 

ケインは、目の前に見える輸送部隊と護衛機の姿に思わず口元を緩める。

 

次の瞬間、彼は、驚愕した。彼の進路上にイルムガルトのサーベルタイガーが先回りする様に着地してきたからである。

 

最高速度でサーベルタイガーは、シールドライガーに劣っていたが、跳躍力や運動性能では、機体が軽量な分勝っていた。

 

また今回の様に相手の針路が分かっている場合、先回りするのは容易かった。

 

「行かせるか!」

 

赤い虎型ゾイドが咆哮を上げ、ケインの前に立ち塞がる。

 

「こいつ!指揮官機か!」

 

イルムガルトは、自分が倒そうとしている眼の前の敵機に指揮官が乗り込んでいる事を見抜いた。動きが他のシールドライガーよりも明らかに優れていたからだ。

 

同様にケインも目の前のサーベルタイガーが隊長機だと判断していた。

 

「どうしても俺達を進ませてくれないらしいな…。レイカ、援護は頼んだ!」

 

「了解です」

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様は、左から、彼の僚機のシールドライガー寒冷地仕様も右からイルムガルトのサーベルタイガーに飛び掛かった。

 

「くっ。」

 

イルムガルトは、サーベルタイガーを後退させる。ケインのシールドライガー寒冷地仕様は、更に追撃する。僚機もそれに続く。

 

だが、もう1機のシールドライガー寒冷地仕様は、散開したヘルキャット隊の銃撃を側面に受け、体勢を崩す。

 

「今よ!」

 

イルムガルトのサーベルタイガーが、ケインのシールドライガー寒冷地仕様に突進する。ケインは、その攻撃を回避し、格闘戦で反撃を試みる。

 

イルムガルトのサーベルタイガーも2連装ビーム砲と接近戦用ビーム砲を連射する。

 

ケインは、自機に接近してくるサーベルタイガーを火炎放射で牽制する。

 

イルムガルトのサーベルタイガーは飛び上がって回避するとストライククローを叩き付ける。

 

だが、その時には、シールドライガー寒冷地仕様は、其処に居ない。

 

今度は、ケインの部下の操縦する機体が、イルムガルトのサーベルタイガーに挑みかかる。だが、側面からヘルキャットからの銃撃を受けて後退を余儀なくされた。

 

3機のヘルキャットは、レーザー機銃と2連装高速キャノンを連射してサーベルタイガーを援護する。

 

大型ゾイドとはいえ、装甲の薄いシールドライガー寒冷地仕様には、無視できない攻撃だ。特にシールドライガー寒冷地仕様は、通常型と比べて弱点が増えていた。その弱点とは、この機体の最大の兵装の一部ともいえる燃料タンクである。

 

「食らえ!」

 

ティムのシールドライガー寒冷地仕様が火炎放射器を放つ。ゾイドの装甲にも損傷を与える威力を持った炎の奔流が、ヘルベルトのサーベルタイガーに襲い掛かる。

 

「危ないっ」

 

ヘルベルトのサーベルタイガーは、右に跳躍してそれを回避する。しかし、背後にいたヘルキャットはそれを回避できず、直撃を受けた。火達磨になったヘルキャットが雪原に崩れ落ちる。

 

数秒後、ヘルキャットは爆散し、燃え盛るいくつかの残骸へと変貌した。ヘルキャット7機とサーベルタイガー2機は、シールドライガー寒冷地仕様4機を相手に一歩も引かずに戦っていた。

 

双方のゾイドで撃破された機体は、ヘルキャット1機のみ。

 

大型ゾイドであるシールドライガー寒冷地仕様4機に対して、2機を除いて小型ゾイドで構成された、イルムガルトら高速部隊は、善戦していた。

 

戦力に劣るイルムガルトの高速部隊は、ある戦術を取ることで、護衛としての使命を果たそうとしていた。

 

 

それは、時間稼ぎ。

 

 

イルムガルトの高速部隊と輸送隊、クルトの護衛部隊は、現在、帝国側勢力圏にいる。

 

対するケイン達は、敵の勢力圏の奥に侵入し、何時敵の増援が現れるか分からない状況で戦っていた。

 

イルムガルトら輸送部隊の護衛にとってシールドライガー寒冷地仕様4機を全機無理に撃破する必要はなかった。

 

味方の勢力圏にいるイルムガルト達は、味方部隊の救援が到着するまでの間、持ち堪えればいいのだから。

 

「今まで戦った護衛部隊で一番手強いな……。」

 

ケインは、目の前の高速部隊の戦い方に感心していた。無理にこちらを撃破しようとは考えず、輸送部隊への接近を阻むことを最優先にして向かって来る。

 

これまでケイン達第3中隊が戦った輸送部隊の護衛機は、輸送部隊を守る事よりもこちらを攻撃することを優先してきた。その為、陽動や攪乱にも簡単に引っかかった。

 

ゼネバス帝国軍の兵員の多くは、補給や兵站の重要性を認識できていないではないかと考える程であった。

 

だが、目の前に立ちはだかるサーベルタイガーに率いられた高速部隊は、輸送部隊を守るために戦っていた。

 

レッドホーンを主力とするもう1つの護衛部隊が輸送部隊の周りに直援として就いているのも、敵の指揮官が相手の撃破よりも防衛目標の護衛を優先していることを示していた。

 

「ケイン隊長、どうします…長居はこちらに不利です」

 

僚機と共に目の前のサーベルタイガーとヘルキャットに対応しつつ、ティムは、上官に尋ねる。このままでは、いずれ敵の増援が到着し、こちらは、敵輸送部隊に打撃を与えることも出来ずに後退することを余儀なくされる。

 

そうなれば、作戦は失敗である。

 

「仕方ない、戦術を変更するぞ」

 

「まさか、あれをやるんで?」

 

「ああ、それしかない。やるぞティム。レイカ、ラーセン、任務の成功はお前たちに係っている」

 

「はい!」

 

「了解です少佐」

 

それまでケインの4機のシールドライガー寒冷地仕様と、イルムガルトのサーベルタイガーを指揮官機とするサーベルタイガーとヘルキャット合わせて10機の部隊のみが戦っていた戦闘に変化が起こった。

 

「イルムガルト大尉!我々も支援するぞ」

 

護衛部隊の半分が、高速部隊を支援する支援すべく輸送部隊から離れたのである。

 

その中には、指揮官機であるクルトのレッドホーンも含まれていた。

 

指揮官のクルトは、自部隊の前方で起こっている戦闘の決着が一向につかないことに苛立ち、輸送部隊を離れ、戦闘に参加しようとしたのである。

 

彼からしてみれば、近くで友軍と敵との戦闘が膠着状態にある状況で、護衛として留まり続けるのは、戦力の無駄だと考えたのである。

 

更に言えば、前方で戦闘が続いている限り、輸送部隊は、移動できない。砲火が止むまでの間、貝の様に其処に留まるだけである。戦闘が続くとその分、前線への補給物資の到着は遅れることとなる。

 

 

クルトは、この戦闘を終わらせる為に部下の半分と共にイルムガルトの高速部隊の掩護に輸送部隊から離れたのである。彼、クルトは、勇猛果敢な突撃部隊指揮官として知られていた。

 

だが、この時は、その性格が裏目に出ていた。彼とその部下は、あることを忘れてしまっていた。自分達が、輸送部隊の〝護衛〟であるという事を。

 

「馬鹿野郎!あいつら、護衛の意味わかってんのか?!」

 

ヘルベルトは相手が上官だという事も忘れてコックピット内に反響する程の大声で怒鳴った。

 

「今だ!」

 

ケインのシールドライガー寒冷地仕様が、腰部のブースターの両脇に装備された発射機から信号弾を撃ち上げた。

 

次の瞬間、それまで4機でイルムガルトの部隊のサーベルタイガーとヘルキャットに戦いを挑んでいたシールドライガー寒冷地仕様の内、2機のシールドライガー寒冷地仕様が分離し、別の方向へと走り去った。

 

彼らの向かう先には、レッドホーンを中核とする護衛部隊に守られた輸送部隊の姿があった。

 

2つの白い機影は容易く2機の赤い剣歯虎と7機の豹が織りなす包囲陣を突破する。

 

「しまった!」

 

イルムガルトは、敵の意図に気付いた。

 

「こいつらは囮か!」

 

副官のヘルベルトも隊長と同じ判断を下す。

 

「逃がさない!」

 

「待ちやがれっ!ちっ」

 

2機のサーベルタイガーは、輸送部隊に向かう敵機を追撃しようとした。

 

だが、態々逃がす程、2人の共和国パイロットは、お人よしではなかった。

 

ケインとティムのシールドライガー寒冷地仕様2機がイルムガルトとヘルベルトの前に立ち塞がった。

 

「行かせるかよ!」

 

「ここから先は通しはしないぞ」

 

2機のシールドライガー寒冷地仕様が跳躍し、同じく2機のサーベルタイガーに飛び掛かる。サーベルタイガーも飛び上がり、敵機を迎え撃つ。

 

白い獅子と紅き剣歯虎が雪原で爪と牙を輝かせて交錯する。その度に双方の装甲表面や塗料が相手の攻撃によって剥げ落ち、機体に銀色の傷跡が刻まれる。

 

「ヘフナー隊長!」

 

「ヘルキャット隊は、輸送部隊を守って!」

 

「了解!」

 

イルムガルトの命令を受け、輸送隊に向かう2機のシールドライガー寒冷地仕様をヘルキャット部隊が追跡する。

 

シールドライガー寒冷地仕様2機は、尾部に装備した連装ビーム砲を乱射した。頭部コックピットに被弾したヘルキャットが倒れる。

 

ヘルキャットに比べ、50km近くも速度で上回るシールドライガー寒冷地仕様は、追跡を軽々と振り切った。

 

ヘルキャット数機を振り切った2機のシールドライガー寒冷地仕様は、護衛部隊に守られた輸送部隊に襲い掛かった。

 

「行かせてなるものか!砲撃開始」

 

クルトのレッドホーンと部下の機体が弾幕を張る。だが、機動力で優れる2機の白いシールドライガーは、瞬く間に砲撃を回避し、護衛部隊の懐に飛び込んだ。

 

「わあっ」

 

クルトのレッドホーンがシールドライガー寒冷地仕様のタックルを食らい、態勢を崩す。

 

「邪魔だ!」

 

シールドライガー寒冷地仕様が、前に立ち塞がるイグアノドン型歩兵ゾイド イグアンに上からストライククローを振り下ろす。

 

加速された鋭利な特殊合金の爪を受け、イグアンは、左前脚と左後足を切り裂かれ、横転した。

 

その隣でもう1機の同型機は、ハンマーロックのコックピットをレーザーサーベルで引き裂いていた。

 

白いシールドライガーの胴体下部に装備された火炎放射器が火を噴き、炎を浴びたハンマーロックが火達磨になった。

 

大火力で知られるレッドホーンも懐に入られては、満足に迎撃できず、翻弄されるばかりだった。

 

2機のシールドライガー寒冷地仕様は、進路上にいた護衛機を突破し、遂に2機は、補給物資を満載した輸送部隊に襲い掛かった。

 

武装を殆ど有さない輸送部隊は、逃げる事しか出来ない。

 

だが、彼らにはその選択肢も存在していないのと同じである。物資を満載したコンテナを載せたトレーラーを牽引するグスタフの最高速度は、50kmが限界であった。

 

同じく輸送型モルガも、通常のモルガに比べ、機動性に劣っていた。そのどちらも高速ゾイドであるシールドライガーにとっては止まっている的と相違なかった。

 

「食らえ!のろま共!」

 

シールドライガー寒冷地仕様が三連衝撃砲を連射する。輸送型モルガ数機が被弾、機体後部の瘤の様なコンテナユニットを撃ち抜かれ、黒煙を上げて動きを止める。

 

シールドライガー寒冷地仕様の胴体下部の火炎放射器が火を噴き、砲口から勢いよく噴射した炎の渦に呑み込まれた輸送型モルガが爆散する。

 

弾薬をコンテナに格納していた輸送型モルガは、隣にいたゲーターを巻き込んで爆発した。

 

爆風に巻き込まれたゲーターは大破する。

 

シールドライガー寒冷地仕様が、グスタフの頭部コックピットにストライククローを振り下ろした。グスタフのキャノピーが粉砕され、その巨体が動きを止める。

 

たった2体のシールドライガーによって輸送部隊は短時間で大打撃を受けつつあった。

 

無防備な輸送部隊が射撃演習の標的の様に撃ち倒され、本来なら占領地で共和国軍と戦う前線部隊が利用する筈だった補給物資が灰燼になっていく。

 

 

 

護衛部隊の小型ゾイドは、機動性に勝る2機のシールドライガー寒冷地仕様に連携を取るゆとりも与えられず次々と雪原に倒されていく。

 

「貴様らぁあ!」

 

怒りに燃えるクルトのレッドホーンは、全身に搭載した火器を乱射し、2機のシールドライガー寒冷地仕様を狙う。だが、まともに照準も合わせていないその攻撃は、明後日の方向に弾薬とエネルギーを撒き散らすだけに終わった。

 

シールドライガー寒冷地仕様の1機が右からレッドホーンの胴体側面を狙う。そこに近くにいた僚機のハンマーロックが立ち塞がった。

 

ハンマーロックは長い両腕を広げて立ち塞がった。小型ゾイドとしては、高いパワーを有するハンマーロックも大型ゾイドに対して余りにも非力であった。

 

「こいつ!邪魔しやがって」

 

ハンマーロックは、容易く叩き伏せられ、レーザーサーベルでコックピットを貫かれて沈黙する。その隙にレッドホーンは、反撃のチャンスを手に入れていた。

 

「よくもヨハンをっ!」

 

クルトのレッドホーンは、頭部のクラッシャーホーンで装甲の薄い頚部を下から狙う。

 

「!!っ」

 

シールドライガー寒冷地仕様は、辛うじてその攻撃を回避した。

 

ヘルキャット部隊の生き残りも合流し、シールドライガー寒冷地仕様2機から護衛対象である輸送部隊を守ろうと戦いに参加した。だが、2機の大型ゾイドは、先程とは逆に段々戦闘を回避し始めた。

 

「役目は十分に果たしたわ。隊長達と合流しましょう」

 

「そうだなレイカ」

 

 

 


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