【完】垣根「婚約者出来た」心理定規「とうとう頭の方も常識が通用しなくなったのかしら」   作:吉田さん

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 個人的に禁書で好きなssって死んだはずのやつも全員生きている世界観でワイワイやってるやつなのでそういう世界観で書きました。
 この世界観では冷蔵庫が生きてますし、冷蔵庫や猟虎がワーストやらと同じ時間軸にいますし、冷蔵庫が生きています。
 あとこれすぐ終わります。終わらなくても終わらせます。


革命的すぎたシステム

 学園都市。

 東京都の三分の一ほどの面積を有し、総人口の八割以上を学生が占める学生の街。

 そんな学園都市には、『学園都市の闇』とでもいうべき暗部と呼ばれる集団が存在する。

 彼等は一切の容赦をしない。光だろうとなんだろうと飲み込み、暴虐の限りを尽くす。救いなどというものは存在しない。存在するのは血で血を洗う生臭い世界だ。

 とある人物曰く、『くそったれな世界』というやつだ。

 毎日のように人が死に、その人物がいたという形跡さえ残されないことすらある。

 

 そんな、学園都市の暗部の中でも、深い位置に存在する組織が存在した。

 

 その名は『スクール』。

 学園都市に七人しか存在しない『超能力者(レベル5)』垣根帝督がリーダーを務める精鋭だ。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 学園都市にあるとあるビルの一室。『スクール』のアジトにて、彼等は集まっていた。

 

「……垣根さん遅いっスね」

 

 その中の一人、頭全体にゴーグルを覆っている少年――誉望万化は柱に背を預けた姿でポツリと言葉を漏らした。

 その言葉に、ソファに身を預けながら爪を整えていたドレスの少女が億劫そうに返答する。

 

「まあ、珍しいと言えば珍しいかもね。彼が緊急で呼び出しといて最後に来るのって。そう思わない、猟虎さん?」

 

「……」

 

「猟虎さん?」

 

「………………はっ! そ、そうですね! わたくしの記憶している限りでは垣根さんはわたくしが来てから一時間後には来てます!」

 

「……あなた、いつもどれくらいに来ているの?」

 

「集合時間の一時間前には来ています!」

 

 どこか辿々しく、しかし努めて明るく返事をしている少女の名前は弓箭猟虎。クラスメイトに話しかけられない連続記録を日夜更新し続けている少女だ。

『スクール』で集まるときは基本的に仕事モードなため、このように素の姿を彼等の前で見せるのは珍しい。

 その物珍しさ――と彼女の能力による恩恵――からドレスの少女、心理定規(メジャーハート)はニタリと笑みを浮かべた。

 

(ふぅん。案外面白かったのね、この子)

 

 ――と。

 彼等の纏う空気が少しの談笑で緩んだ時だった。

 

「待たせたな」

 

 カツカツ、とブーツの底が床を鳴らす音とともに、一人の少年が影から姿を現した。

 茶色の髪に、えんじ色のジャケットとスラックスに身を包んだ少年だ。シャツの中にインナーとしてセーターを着込むという独特なファッションをした少年は、不遜な笑みを浮かべた状態で彼等の視界に入る地点で立ち止まる。

 

 垣根帝督。

 学園都市に七人しかいない頂点の座――『超能力者(レベル5)』の第二位の座席に君臨する怪物。

未元物質(ダークマター)』と言う世界の法則すら書き換える異能を携えた怪物の登場に空気が自然と緊張感を帯び始め、無意識のうちに誉望と弓箭の背筋が伸ばされる。

 

「遅かったわね」

 

「ああ、ちょっとデカイ案件があってな。先にそっちを済ませてきた」

 

 その言葉に、誉望はゴクリと喉を鳴らす。

 果たして自分達は、これからどのような要件を言い渡されるのだろうか。

 上からの連絡でなく、垣根直々の呼び出しということが、彼にとっては余計に恐ろしい。

 

(……一体、何をするんだろうか)

 

 そんな彼の疑問をよそに、垣根は笑みを浮かべながら「まあ楽にしてくれ」と言いながら近くにあった机に腰を下ろした。

 

 垣根が楽にしてくれ、と言った以上楽にしなければならないだろう。

 垣根は――というか『超能力者(レベル5)』は皆恐ろしいほどに気まぐれだ。

 今はご機嫌な様子だが、楽にしてくれと告げた垣根を無視して誉望と弓箭が背筋を伸ばした状態で畏まっていれば、途端に不機嫌になってこのビルの周辺が学園都市から消滅しかねない。

 それが「『超能力者(レベル5)』は第三位以外人格破綻者」と呼ばれる所以なのだ。

 その第三位だってきっと恐ろしいに違いないと自分の知ってる『超能力者(レベル5)』を思い出しながら誉望は考える。

 多分あれだ、『超電磁砲(レールガン)』とかぶっ放すに違いない。多分。ぶっ放された人間は不幸な人間だろうが。

 

「……」

 

 弓箭に目配せし、彼女が頷いたのを確認した後誉望はその場に腰を下ろした。

 なるべく雰囲気も緩くするのを忘れない。雰囲気が硬いのを目敏く感じ取った垣根が翼をばさっという感じで広げかねない。それは避けなければならないのだ。

 

「おいおい床に腰を下ろすのかよ。ソファがあんだろ、心理定規(メジャーハート)専用ってワケでもねえしよ。三人で仲良く座れよ」

 

「悪いわね、このソファは私専用なのよ」

 

「専用なのかよ……」

 

 三人で仲良くのワードで弓箭がピクリと動いたのは少し気になるが、それ以上に誉望は不可解な言葉に思わず眉をひそめる。

 

(……垣根さんが、ソファに座れ?)

 

 どういうことだ、という疑問を解消する前に、垣根が口を開く。

 

「ったく、しょうがねえな」

 

 パチンと、垣根が指を鳴らすと同時にそれは起きた。

 

「『未元物質(ダークマター)』で作ったソファだ。俺の能力に常識は通用しねえ。まあそこに座れや」

 

 ……。

 目の前にいるのは、本当にあの垣根帝督なのだろうか、という疑問が誉望の胸中を満たす。

 それは心理定規(メジャーハート)も同様だったのか、薄気味悪いものを見たような表情で垣根に声をかけた。

 

「……何か変なものでも食べたの?」

 

「あん? いつもの俺だろ、変なこと言うなよ怖くなるだろ」

 

 大仰に肩をすくめる垣根に三人で胡乱気な視線を送るも、まあ実害があるわけではない。

 大人しく言葉に従い、垣根の能力で生成されたソファに腰を下ろそうとし――、

 

「いやあ中々能力の調整が難しいんだぜ、それ。なんせ俺の『未元物質(ダークマター)』は独自の法則で動きだすからな。独自の法則自体は俺にも自由に操れねえし、初めてそれ作った時は乗ったやつが成層圏まで吹っ飛んだ」

 

 まあ今回は大丈夫だろ多分、と垣根は言うが誉望としては気が気でない。

 能力を使って、ギリギリ触れない程度の空気椅子作戦を実行する。猟虎の方にも念のため、能力を行使しておいた。

 

「―――さて、」

 

 彼ら三人が席に座ったのを見渡した後、垣根はゆっくりと口を開いた。

 不遜な――しかし何処かしらそわそわした笑みを浮かべている垣根に誉望は不安を覚える。

 それは他の二人もそうなのだろう。弓箭は分かりやすいくらい顔を引き攣らせているし、心理定規(メジャーハート)もいつもの優雅そうな雰囲気が少し曇っている。

 

 果たして、何をこれから自分達は告げれるのだろうか。

 ていうか、垣根の能力で生成された家具の近くにいるのは大丈夫なのだろうか。爆発したりしないだろうか。

 

「おいおいお前らなにそわそわしてんだよ。……あー、そんなに気になるか? そうかそうか気になっちゃうか!」

 

 そうかそうかー、と腕を組みながら何度も頷く垣根を見て、彼らの思考は別の地点へと至った。

 

 ――即ちうぜえ、である。

 

「まっ、当然だ。まっ、なんたって俺だしな。まっ、俺の罪によるものだ、咎めることはしないさ」

 

 何回「まっ、」使うんだよという内心のツッコミを抑えていると、前髪をファサッとしながら垣根は「まっ、大したことはないが」と切り出した。

 

「――婚約者できた。はい拍手!」

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 空気が、凍った。

 

 婚約者。こんやくしゃ。今夜食者。

 どれにしても、ギリギリ意味は通じてしまう。

 だが、そんな事はどうでもいい。いや良くないが。

 思考が停止する。

 人間は、あまりにも唐突な事態に直面すると思考を放棄する空白の時間が生まれてしまうものだ。垣根の言葉は、彼らをまさしくそのような状況に陥れた。

 次の行動に移るため、彼らには思考の出来る時間に戻るための考える時間が必要だ。今回の彼らにはそれは、おそらく数十秒を要するだろう。

 ――が、

 

()()

 

 垣根が語気を強めてそう言った瞬間、誉望と弓箭は凄まじい速度で立ち上がり、万来喝采の声をあげながら惜しみない拍手を垣根に送った。

 二人の顔は恐ろしいほどに青ざめているし、誉望にいたってはトラウマからか吐き気がこみ上げているが、全力でそれを押さえ込んで彼らは手を休めない。

 

 窓硝子が木っ端微塵に砕け、垣根の座っていた机を中心に蜘蛛の巣のようにひび割れた床を視界に入れてはいけない。

 

「おいおい当然とはいえそこまでするなよ。テメェに酔っちまいそうになる」

 

 そう言ってやめるよう言うが、満更でもなさそうな雰囲気からして本当にやめたらどうなるかは明白である。

 誉望と弓箭は、決して手を止めることはなかった。

 

 そんな、垣根を中心に形成された垣根オンステージのなか、心理定規(メジャーハート)だけは恐れることなく自然体でため息をつく。

 

「……とうとう頭すらも常識が通用しなくなったのかしら」

 

「おいおい、信じられねえってか?」

 

「当たり前でしょ。常識が通用しない貴方に、彼女はもちろん婚約者なんてできるわけないじゃない。貴方相手に自然体で接せられる女性なんて、学園都市には存在しないわよ」

 

「ハッ。テメェの能力で調べてみろよ、それで一発だぜ」

 

「私の能力で分かるのは貴方が『誰か』に対してどれくらいの距離を設定しているかであって、相互間の心の距離まではわからないのだけれど……。……でも、そうね。貴方に好きな人がいるか、くらいは分かるか」

 

 なるほど、と誉望は思う。

 目の前にいる人物は、勝手に決められた婚約者なんて存在すればまず間違いなく八つ裂きにするだろう。

 つまり垣根にとって婚約者たり得る心の距離を持つ人間が存在するならば、垣根に婚約者が出来たという言葉の証明……とまでは言わずとも証拠のひとつ程度にはなるだろう。

 

 そして、

 

「……う、そ」

 

 驚愕といった風に目を大きく見開いた心理定規(メジャーハート)の姿が、答えを如実に示していた。

 

「……め、心理定規(メジャーハート)さん!?」

 

「し、信じられないわ……。こ、こんなことが……!!」

 

「ま、まさか本当に……垣根さんに婚約者が!? もし彼女ができても、数日で別れそうな性格なのに!?」

 

「わ、わたくしが友達を作るより先に、垣根さんに彼女……いえ、婚約者が!?」

 

「お前ら結構失礼じゃね?」

 

 事実、いろんな意味で失礼である。

 が、今の彼らには垣根への恐怖以上に垣根への驚愕が勝ったのだ。

 

「ど、どどどこでご婚約者さまと出会ったのでしょうか!? お、おお教えていただいてもよろしいでしょうか!?(も、もしやこれが俗に言うこ、恋バナ……!? ぼっち……じゃなくて暗殺術を極めたわたくし初の恋……バナ……!)」

 

「お、おうっ。お前なんか怖えな」

 

 ぼっちを極めた者の剣幕には、さしもの垣根も若干怖気(おじけ)づいた。

 が、直ぐにそれを引っ込めて不遜な顔で彼はポケットからある物を取り出す。

 

「……携帯電話?」

 

(ま、まさかわたくしとメールでご婚約者さまとの馴れ初めについて語り合う……!? そ、そんなご友人との関係みたいな……夢のようなそんなそれをあれして……!?)

 

 誉望の疑問に、垣根は「おう」と頷き笑う。

 そして、ひとつのアプリを開いた。

 

「……『FUKIDASHI(ふきだし)』っスか?」

 

「違うな。まあ似たようなもんだが」

 

 垣根は楽しそうに笑う。

 笑いながら、言った。

 

「お前ら――ネット結婚って知ってるか?」

 

 その日二度めの沈黙が、誉望と心理定規(メジャーハート)を襲った。




 冷蔵庫じゃねえじゃねえか! と突っ込んだ方はちょっと落ち着いて考えてほしいです。
 具体的に言うなら冷蔵庫がカツラを被ってたり服を着ていたりブーツを履いている可能性に至らなかった自分の思考の不自然さにです。
 冷蔵庫が少年と表記されているのはおかしい、と思う人も少し社会における偏見という業の深さを恥じるべきでしょう。冷蔵庫だって生きていますからね。
 後これでなるほど、と納得した方は画面を閉じて寝ましょう。
 
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