【完】垣根「婚約者出来た」心理定規「とうとう頭の方も常識が通用しなくなったのかしら」   作:吉田さん

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※本文にも記載されてますが当作品のネット結婚は従来のそれ(従来のそれ……?)とは多分異なります。


ネット結婚(哲学)

 学園都市は学園都市の外と比較すると二、三十年ほど進んだ科学技術を掌握している。それこそ、外の人間から見れば「科学というよりかは技術も思想もオカルトの領域に半歩以上踏み込んでいる」と思われるほどに、だ。

 そして科学技術がそれほど進んでいれば、一般的に科学技術と思われないような技術さえも、間接的に発展する。

 

 例えば野菜ひとつとっても、学園都市の外と内では大きく異なるのだ。

 学園都市の中では、土で栽培する野菜などほとんど存在しない。学園都市で生成される野菜のほとんどは全て培養器やらで育っている。

 外の人間から見れば遺伝子組み替え食品でさえ不気味に映る世の中では、学園都市で作られた野菜など口にしたくもないだろうが、逆に学園都市の内にいる人間からしてみれば「土で作るって衛生的にそれ大丈夫なの?」という返事が返ってくる。

 そのような細かいところから学園都市と内と外では技術はもちろんの事、認識や価値観が()()()()異なっていたりするのだ。

 

 繰り返すが、学園都市はあらゆることにおいて一歩以上先を行く。流行の先取りのバーゲンセールを起こしている。

 

 学園都市の外で「ネットで愛を育んだカップルは長続きする……カモネ!」やら「ネットで出会った夫婦の幸福度は高い」やらのネット恋愛に関する研究結果が発表されているのなら、学園都市はそのさらに先を行く。

 

 それが―――ネット結婚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「――ネット結婚だ」

 

 垣根から自信満々に告げられた言葉に、誉望と心理定規(メジャーハート)は思わず絶句する。

 逆に、弓箭はどこか目を見開きながらも興味深いといった様子で垣根に詰め寄った。

 

「ね、ネット結婚とは、なんなんでしょうか!」

 

「フッ。弓箭、お前は流行に乗り遅れてるみてえだな」

 

「り、流行……!」

 

「ああ、イマドキの女子学生なら押さえとかねえとやべえ流行だ。……あー、そういやお前は『学び舎の園』のお嬢様学校だっけか?」

 

「は、はいっ」

 

「なら仕方ねえかもな。あそこの連中は、少しばかり世間に疎い。とはいえ、近い内にあそこの連中でも流行るだろう。一足先に、流行を掴んどけ」

 

「わ、わかりました!」

 

 どんな流行だよ。

 誉望と心理定規(メジャーハート)が心の中で同時に突っ込むが、垣根と弓箭には届かない。

 どこからか取り出したメモにペンを走らせる弓箭とメガネを掛けて中指でクイッとしている垣根の会話を、見守るしかない。

 

「いいか。ネット結婚つうのは読んで字のごとく、ネットで行われる結婚だ」

 

「ネットで行われる、結婚……」

 

「ああ、ネット恋愛が当たり前になったから出来た概念だ」

 

「が、学園都市ではネット恋愛が当たり前になっていたんですか……?」

 

「ああ、俺ほどまでとは言わねえが常識の通用しねえ街だからな。……ここだけの話、『計画(プラン)』や『絶対能力者(レベル6)』にも大きく関わっているらしい」

 

 勿論そんな荒唐無稽な事実は存在しないはずなのだが、常識の通用しない垣根には一切関係のない話だった。

 弓箭がキラキラと目を光らせながら尊敬の眼差しを送り、垣根は当然とばかりに不遜に笑う。

 

「……ちょっと、いいっスか?」

 

 ――と。

 そこで誉望が二人の会話に割って入った。

 垣根が構わないとばかりに頷いたのを見て、誉望は言葉を選びながら口を開く。

 

「その、あの……もしかして垣根さんは、婚約者さんと会ったことなかったり……?」

 

「そういえば私の『心理定規(メジャーハート)』で分かった名前は……偽名っぽかったというか、なんだかよくわからない名前だったわ……」

 

 誉望の疑問に思い当たるところがあったのだろう、どういうことなのだと視線を送る二人に、垣根は目を瞑りながら答える。

 

「……そうだな。俺は彼女の名前を知らねえし顔も知らねえ」

 

 けどよ、とそこで彼は区切り、

 

「――だからこそ、俺の抱いた感情は嘘偽りのない本当の愛に満ちているんじゃねえかって、そう思うんだよ」

 

 その言葉は、万感の思いに満ちていた。

 学園都市の闇の中に生きる者だからこそ、相手の顔も名前も声すらも知らない相手に抱いた感情が、真の愛たり得るのではないかという考えに垣根は至ったのだろう。

 

 その言葉に、

 

(……バッカじゃないの)

 

 どこか冷めた目で、そして内心で不貞腐れながら、心理定規(メジャーハート)は垣根の言葉を頭の中で反芻していた。

 

(何が『本当の愛』よ、バカらしい。それはただの妄想よ。虚構で塗り固められた脳内妻よ。都合の良すぎる人よ……!)

 

 先ほどの反応からして、誉望も似たような結論を抱いているのだろう。そう思いながら、彼女はゴーグル頭の少年の方へと視線を向け、

 

「……感動しました!垣根さん!」

 

 視線を向けて、思わずずっこけた。

 

「垣根さん……! 俺、俺……!!」

 

「言うな、誉望。テメェの感動はテメェだけのもんだ」

 

「わたくしも同意しますわ誉望さん! 学園都市中にこのネット結婚というものを浸透させるべきです! この素晴らしいシステムならわたくしもご友人が……あ、いえ、いますけどね? ご友人。でもほら、あれですよ、このシステムなら真のご友人ができます!!」

 

 頭が痛い。

 眩暈のする悪夢のような光景に思わず目を瞑って頭を抑えるが、彼らの会話は止まらない。

 

「垣根さんのご結婚をお祝いして『スクール』……いえ、学園都市中に知らしめましょう! 垣根さんのご結婚を! そして、ネット結婚の素晴らしさを!」

 

「じゃあ、俺の能力を使って全てのネットワークに垣根さんの結婚とネット結婚についての報告を載せましょうか?」

 

「おいおいお前ら。気が早いぜ。……ただまあ、俺に常識は通用しねえ。盛大に挙式を挙げるぜ、ネットでな」

 

 その言葉に、わっと沸き立つ誉望と弓箭。正直、常識が通用しないだのメルヘンだのを通り越して薄気味悪さすら感じる。

 うん、外に出よう。

 これは悪い夢に違いない、そう結論付け(現実逃避ともいう)心理定規(メジャーハート)は外に出た。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「……で、なンだって俺はお前と同じ席で飯食わなきゃなンねェンだ?」

 

 第七学区にあるファミレス。

 そこで心理定規(メジャーハート)と相席している少年――一方通行(アクセラレータ)は気だるげに呟いた。

 その呟きを目敏く拾った心理定規(メジャーハート)は、からかい口調で。

 

「あら、女性からのお誘いを断るなんて、男としてどうかと思うのだけれど?」

 

「誰が女性だくそったれ。どう見てもまだクソガキだろォが」

 

「女という生き物はね、大人扱いされたい生き物なのよ。貴方が大事にしている『最終信号(ラストオーダー)』だって、それは同じ」

 

 心理定規(メジャーハート)がそう言うと、一方通行(アクセラレータ)は黙り込んだ。

 そして真剣な眼差しで、何かを考え込むような素振りを見せる。ボソリ、と「大人扱いねェ。……いや、まだ早ェ。あのガキはまだ子供っぽく……」と呟いている事から何を考えているかは明白である。

 

(…………本当に、本当に淡希から聞いた第一位はロリコンって話、本当なのかしら)

 

 それとも単なる過保護で情操教育の一環か。

 とはいえ彼らの背景にあるものを知らぬ人間からして見れば、この印象はそのままその人間の本質と思い込んでしまっても仕方のない事だろう。

 そうすると第一位はロリコンで、第二位はネット結婚。

 学園都市の『超能力者(レベル5)』はイロモノ揃いとはいえ、これはひどい。

 

「ンで、なんか用があンだろ?」

 

「……ええ、そうね。本当はフレンダ主催の女子会で愚痴ろうかと思ったのだけれど……」

 

 なんか、からかわれそうで……と心理定規(メジャーハート)は言う。

 それを聞き、さしもの一方通行(アクセラレータ)も同情の念を禁じえなかった。

 

「……まァ、聞くだけなら聞いてやる」

 

 そうして、心理定規(メジャーハート)は直ぐさま語った。

 垣根の現状を、そして、スクールのアホたちを。

 

「……なるほどな」

 

 心理定規(メジャーハート)の話を聞いた一方通行(アクセラレータ)は第一位の頭脳をコーヒーを飲みながら無駄に働かせながら彼女の話を聞いていた。

 そして、学園都市で最も優秀な頭脳を持つ一方通行(アクセラレータ)は結論づける。

 

「まァ、仕方ねェンじゃねェの?」

 

「……は?」

 

 思わぬ返答に唖然とする心理定規(メジャーハート)をよそに、一方通行(アクセラレータ)はコーヒーのカップをソーサーに置いて語る。

 

「この場合のネット結婚つゥのはよ、簡単に言えば学園都市の能力と同じ理屈だな」

 

 ネット結婚。即ち、ネット上で行われる結婚。

 相手の顔も名前も声すらも知らない状態におけるネット上でのやり取りにおいて、此方が観測するまでは、相手は様々な可能性を秘めた神とすら言えるかもしれないと一方通行(アクセラレータ)は語る。

 その姿はまさしく、その道の研究に携わった人間が如く。

 ネット結婚について真面目に考察する学園都市第一位の姿が、そこにはあった。

 

「つまりだ。実際に会いさえしなけりゃ、相手は自分の中では完全すぎるほどに理想の人間っつーことだろ?」

 

 例え相手がネカマであろうと、実際にこの目で確かめるまでは「男である可能性」と「女である可能性」は同じ次元上に存在してしまう。

 故に、「相手が女である」としてしまえば、もうそれは相手は女なのだ。

 同様にして、様々な可能性を取捨選択してしまえば――理想の婚約者の誕生である。

 そしてこれは、能力開発における最も重要で最も基礎的な事――『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』の理論と非常に酷似していた。

 故に、

 

「第二位は……………………俺と比べりゃア天と地ほどの差はあるが、それでも学園都市に七人しかいねェ『超能力者(レベル5)』だ。一旦こうと現実を定めちまえば、もうテコでもその現実からは動かねェだろうよ」

 

 それはつまり、『超能力者(レベル5)』は妄想癖の激しい中二病なのではと言おうとして……辞めた。

 確実にすり潰されるし、自分のレベルを思い出して虚無感に包まれたからだ。

 

 第一位の頭脳から導き出された無駄に筋が通らなくもない理論を聞いて、心理定規(メジャーハート)は若干呆れながら、

 

「……生きている次元が違いすぎるわ」

 

「どォだろォな。ま、価値観なンてのは人それぞれだろ。外野がどォこォ言って変わるもンじゃねェしな」

 

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)はそう言うが、自分は納得できない。

 

「……実際に会いさえしなければ、か」

 

 心理定規(メジャーハート)が顎に指を当て、思考の海に沈もうとした、まさにその時だった。

 

「おっ! 見つけたぜ一方通行(アクセラレータ)!」

 

 件の少年、垣根帝督が突如現れ一方通行(アクセラレータ)の隣に腰を下ろした。

 思わぬ来客に、一方通行(アクセラレータ)が露骨に顔を顰める。

 

「……メルヘン野郎が」

 

「心配するな、自覚はある」

 

「ネット結婚したンだってな。テメェの頭がお花畑や純粋通り越してマジでメルヘンだったっつゥのが分かっちまった」

 

「話が早いな。まあ俺は一足先に幸せの道を歩むぜ」

 

 一方通行(アクセラレータ)の皮肉さえも、垣根は幸せオーラ全開で聞き流す。

 もしや今の垣根は無敵なのではないか、心理定規(メジャーハート)は思わず戦慄してしまう。

 

「……」

 

 ――と。

 一方通行(アクセラレータ)は携帯電話を取り出した。

 それを見て、垣根は思わず身を乗り出す。

 

「ネット結婚すんのか? 先達者として、色々教えてやってもいいぜ第一位」

 

「図に乗ってンじゃねェぞ格下」

 

 手慣れた風に垣根を軽くあしらいながら携帯電話を耳に当て、

 

『あなたー! って! ミサカはミサカは元気よく、それでいて夫の帰りを楽しみに待つ新妻風に挨拶してみたり!!』 

 

 第一位の怪物は、声の大きさから顔を顰めた。

 その声量たるや、垣根や心理定規(メジャーハート)の耳に入るほどである。

 一方通行(アクセラレータ)は「もうちっと声押さえろ周りの迷惑だろ」と至極まっとうな意見で電話の相手を諭すと、ため息を吐きながら口を開く。

 

「……打ち止め(ラストオーダー)、何の用だ? あ? ケーキだ? ……チッ、仕方ねェな。あ? 番外個体(ワースト)も欲しいって騒いでる、だ!? 知るかボケェ! あの女最近寝てばっかじゃねェか! 芳川じゃねェンだぞ!? 俺がどンだけ苦労してンのか分かってンのかクソッタレ! 自分で歩かねェあの女をベッドまで運ぶために毎日バッテリーを無駄に使ってンだぞ!? ……あ、ワーストだけお姫様だっことかずるい? ……待て落ち着け、オマエのその嫉妬感情があのバカに―――ッ!?」

 

 一方通行(アクセラレータ)の口から紡がれたのは、リア充全開な生活を匂わせてしまう勝ち組だけが語れる言葉だった。

 たった数十秒の会話の中だというのに、既に三人もの女性の名前が挙がっている。

 その事実に若干呆れながら、心理定規(メジャーハート)は垣根の方へ視線を移した。

 あの垣根の事だ。一方通行(アクセラレータ)に対抗してアプリで婚約者とやらに絡みに行くに違いない。

 そう思い視線を移したのだが。

 

(……あら?)

 

 先ほどまでいたはずの垣根の姿は、既にそこにはいなかった。

 

 

 

 

 




 第一位の優秀すぎる頭脳は、全てを見透かしてしまうのであった……。



・フレンダ主催の女子会
・常連メンバー
 →フレンダ、結標、心理定規、佐天さん(強制連行)
・来るときは来るメンバー
 →黒夜、ワースト、絹旗

 滝壺や麦野がいないのはアネリと共に世紀末帝王HAMADURAに忙しかったりフレンダが麦野がいたら話せない内容も偶にするからです。基本的に口が硬い面子を集めた模様。
 みこっちゃんが見たら佐天さん心配で乱入しそう。
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