(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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冒険者編中章です。


冒険者編第二章(1/4)

 現在は、未だに目的地へ向かってとことこ歩いている途中。

 まだゴブリンにもオーガにも遭遇していない、至って平和である。

 しかし、途中であの話が飛び出した。

 

 「森の賢王……ですか。」

 

 曰く、白銀の四足獣であり、知見に富んでおり、おまけに魔法も使える魔物。

 それが、ここ近隣の森を縄張りにしているらしい。

 ……まぁ、知ってたけど。

 

 「それは……是非会ってみたいものだな?ティカ?」

 「そうですね。」

 「うへぇ、二人共勇気あるなぁ、俺は絶対ゴメンだね、命が幾つあっても足りねーや。」

 

 

 その命がいくつあっても足りないと評される森の賢王、その正体は確かに魔獣である事に変わりはない、変わりはないが……見た目が完全に、大きなハムスターに蛇のしっぽをつけたような見た目をしており、こういってはなんだが、非常に愛らしい。

 ついでに「ござる」口調なのだが、なんとこのハムスケ、雌である。

 

 私が彼、いや、彼女に対して何か干渉するとしたら、「モモン、その子、メスですよ」と言ってあげる位だろうか?

 まぁぶっちゃけ支障はないしハムスケのまんまでもいいんだけど……。

 

 ……いや、いっその事シャルティア=ブラッドフォールンの生みの親であり名づけ親でもある、ペロロンチーノ様に相談してみるのは……。

 

 ……ダメか、ダメだな。

 

 

 「!」

 

 そんなことを考えていると、不意に、ルクルットが右手で全員の歩を制する。

 

 「おでましみたいだぜ。」

 「何!?どこだ!?」

 

 あれだよあれ、と指し示す方向には、哀れな被害者一同の皆々様。

 ゴブリン、たくさん、オーガ、いっぱい。

 頭が悪そうな見た目なのに群れで行動する知能があるし、人並みでないにしろ一丁前に武器や道具を使ったりする油断ならない相手である。

 ……普通の、この世界での一般的な冒険者にとっては。

 

 ユグドラシル時代には彼らにももっと強者が居て、それこそ魔法を使ったり軍隊のような徹底した無駄のない動きをする上位種も居た。

 キングオーガ、ゴブリンアサシン、ゴブリンソルジャー、レッドキングオーガ、いやぁ、なかなかどうして、当時は苦戦したものである。

 まぁどれも初級か良くて中級辺りのモンスターだったので現在では片手間で殲滅が可能だが、当時はペロロンチーノさんの護衛があったからなんとかイケた程度である。

 数が多いので経験値上げに最適だったとかなんとか。

 

 

 そんな上位種とは比べるのもおこがましい奴らを相手に、一気に臨戦態勢に入る一同。

 流石は冒険者というだけあってその態勢を整えるのは早い。

 もっとも、態勢を整える事もなく余裕で強者のオーラを発しているモモンも居るが。

 その隣で欠伸が出そうなのを隠しているティカも大概である。

 

 出来レース。

 勝敗は既に、いや、この先の運命は既に決定されている。

 

 そして、ペテルが迅速な指示を出し始める。

 

 「ンフィーレアさんは、そのまま馬車に身体を伏せて、隠れていてください。」

 「分かりました。」

 「モモンさん、分担はどうしましょう?」

 「皆さんはンフィーレアさんを守っていてください。私が敵を容易く屠る所を見ていただきましょう。」

 

 まさに、こんなの朝飯前だという態度でそれに返すモモン。

 その強者の貫禄に口角を釣り上げながらペテルは他の面々にも指示を出し始める。

 

 「それじゃあいつもので行くか。亀の頭を引っ張り出す感じでな。」

 

 

 そのいつものやり方というのは至って単純。

 まず最初にルクルットが矢をわざと外すことで油断させ、敵の全体を誘導。

 そしてそこをルクルットの矢と、ペテルの剣、ダインの魔法によって屠る。

 ニニャは補助系の魔法を使いつつ、状況を見て《マジック・アロー/魔法の矢》で援護射撃をする。

 今回は護衛も兼ねているので、ンフィーレアの所まで向かってくる敵をブロックする事も忘れない。

 

 ただそのいつもの作戦に、いつもと違う所があるとしたら、そこに絶対の支配者とその下僕の中でも高位の位置に座する存在が居た事である。

 

 「良いパーティーだ、お互いの能力を理解し、それぞれ連携が取れている。」

 そこに小声で、「ま、俺とペロロンチーノさんや茶釜さん程じゃあないけどな」と付け加えながら、「愉快だ」というように笑いながら、背に携えた巨大な剣を抜く。

 

 

 「なっ!?」

 ペテルは驚愕に顔を染める。他の面々が必死で戦闘をしている中、彼と彼女だけが悠々と、それこそ街に買い物にでも来たかのようにスタスタと戦場を歩いていたからである。

 

 そしてそこには当然オーガやゴブリンなどが襲って来ることが確実なわけで、現にこうして「かわいそうなまもの」が今まさに拳を、武器を振り上げて走っている。

 

 

 だが、そこを黒と赤の特徴的なラインが横薙ぎに滑る。

 そして、オーガの腹から真っ赤な物が飛び散ったと思うと、上半身がずるりと地に落ちていった。

 

 「い、一撃でオーガを両断するなんて……!」

 

 

 そして続けざまにばっさばっさと敵を一撃で仕留めるモモンに呆気を取られながらも、何とか戦闘中であることを思い出して構え直し、敵を着実に屠っていく。

 

 だが次に起こった出来事に、今度こそ彼らは、そして彼らだけでなく、ゴブリンやオーガまでもがその場で何秒か硬直することになる。

 その原因を作った本人でさえ。

 

 それは、「あいつはヤバイ」と思い、一目散に逃げようとするオーガに狙いをつけたティカの魔法が原因だった。

 

 「ティカ、頼んだ。」

 「了解。」

 

 

 そういった彼女は人間かどうか疑う程、高く跳躍し、そのまま上空である魔法を放つ。

 

 

 「《ライトニング/電撃》」

 

 

 この時ティカは忘れていた。

 自分がかつてのシナリオでここに居るハズだったナーベラル=ガンマと違い、100レベルのヴァンパイアであることを。

 100レベルのモモンガが魔法職でありながらそのステータスでもって前衛の戦士としても十分人間離れしている、ではその逆に、魔法職でないにしろ100レベルの者が魔法を使えるようになったとして、その威力がどうなるかを、考えていなかったのである。

 

 彼女は、そう、逃げ惑う3匹の子豚、いや、汚豚を一気に駆逐するために、撃ち逃しを作らぬよう、多少は本気で放ったつもりではあった。

 だがまさかそれがこんな結果を生むなんて。

 

 それは、一度カッと光ったかと思うと、ゴゴゴゴゴ!!!!という轟音を鳴らしながら、一筋の閃光でもって彼らの身体を尽く蹂躙し、地面ごとその命を消し去り、全てが終わった地面には高温でガラス状になった物を残していった。

 

 「(や、やりすぎてしまった……!!)」

 

 

 この世界に来てから彼女が自覚する上で、初めての大失態であった。

 

 

 

 

 

 「す、すげぇ魔法だったな……。」

 「ええ……あれは恐らく第三位階の雷の魔法でしょう、けど……恐らくここまでの威力を出せるのはティカさんが優れた魔法師であったからでしょうね。」

 「それにモモンさんも凄かったよな……オーガを一撃で仕留める奴なんて初めて見たぜ。」

 「かの王国戦士長に匹敵する強さであるな……。」

 

 それぞれ「上には上が居るんだなぁ」という関心、感激、感動といった表情で彼らを見るが、何故かその二人は向かい合ったまま……ティカの方は何故か地面を睨みつけたまま動かない。

 

 

 「(私の役割はあくまで少し強い魔法師程度の設定だったのに、それを破ってしまいました……。申し訳ございません……普段魔法を使わないせいで勝手が分からなくて。完全に私の未熟が生んだ事態です。)」

 「(いや……元より強者であることを印象付けるようにする手筈だったから、気にすることはないさ。お前が100レベルで、魔法職ではないにしろ、その辺の魔法師と比べたら圧倒的な魔力を誇っている、という事まで頭が回らなかった私の責任だ。)」

 「(これからはこのような事が無いように、もっと精進致します。)」

 「(うむ、よろしい。とはいえ必要な時は今の力で持って敵を蹂躙する事もあるだろうし、そこまで気にすることはないぞ。うん。)」

 

 モモンは内心、忠誠心マッハの下僕よろしく「この命でもって償いを!!」とか言われたらペロロンチーノさんに何て言われるか!!とひやひやしていただけに、エレティカの「もっと精進して今回の失敗を取り返します」という姿勢は本当に助かった。

 ナザリックのメイドに、多すぎて全部は何が原因だったか忘れたが、事あるごとに「申し訳ありません!!この命をもってして謝罪を!!」といきなり目の前で首にナイフを突きつけられたときは本当に驚いた。

 

 一方のティカも、初めての失態らしい失態をしてしまった事もあってか、内心かなり落ち込んでいた。

 ちょっと考えれば分かることだったじゃないか、自分とナーベラル=ガンマのステータス差で考えればこうなることは必然だった。

 そこまで頭が回らなかったのはむしろ自分のせいだ、と。

 

 その後も何故か落ち込み気味のティカの顔を見ては「あれだけの威力だったのに納得が行かなかったのだろうか……?」と不思議そうな顔をする漆黒の剣だったが、途中、こんな出来事がありティカの機嫌は治った。

 

 その出来事というのが、モモンの元に一つのメッセージがエントマより届いた事である。

 そしてその内容は……。

 

 「エレティカ=ブラッドフォールン様より頼まれていました、「ラー油メンマ」……?なるものがダグザの大釜で製作に成功したとの事です。本人のご要望で出来たらすぐに教えて欲しいとの事でしたので、まずこのことを共に任務に就かれているモモンガ様に報告した次第です。」

 

 「ナイスタイミングだ!」と内心握りこぶしを掲げながら、メッセージでエントマから伝えられた事をモモンが耳打ちで彼女に伝える。

 

 途端彼女は上機嫌になり、次の瞬間にはメッセージでエントマに「ありがとうエントマ!」心の中では「どうにかして某何とかテイルの中ボスよろしく、「アフフ~」っていう笑い方にするにはどうすればいいだろうか……。」と本気で頭を回転させながらしかし何も良い案が出なかったので、その場で「帰ったらすぐに取りに向かうからね。でももし気になるのであればちょっとなら食べてもいいわよ」と《メッセージ/伝言》を切った。

 

 その様子を見ていた漆黒の剣は突如として、何故かティカの機嫌が直ったので、「モモンさんが何かしたんだな。」と、きっと帰ったら甘いものでも買ってやろう、と慰めでもしたのかもしれないなんて思いながら微笑ましくその様子を見守っていた。

 

 まさかそれが、現代日本のいわゆる「おつまみ」に位置する、ちょっとこの可憐な美少女が満面の笑みで食べるところが想像できない代物であるとは、知る由もない。




ラー油メンマは単に作者の好みです。
……まだ未成年ですが、ほぼ100%、酒飲みになるだろうなぁと思います。

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