(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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決戦前(3/3)

 エ・ランテル近郊の森、その森を一望できる崖の上で、ゲートが開かれ、そこから一人のオーバーロードと、それに仕える三人(・・)の使者。

 

 モモンガ、その後ろにアウラとマーレ、そしてシャルティアであった。

 

 「お前達とはここで別れるとしよう、その後周囲の偵察に入れ」

 「はい「でありんす」

 「ただし、敵の数が同数以上である場合は、即座に撤退せよ」

 「……かしこまりました」

 「いいな?絶対に撤退せよ」

 

 二度に渡る撤退しろとの命令は、微かに、彼女らの心に「もしや自分が弱いから、力不足だからなのでは?」と不安を募らせる。

 

 「それもまた、私の計画の一環なのだから。それに、お前たちに預けた山河社稷図と強欲と無欲はナザリックの秘宝の一つであり、加えてシャルティアに預けた傾城傾国(・・・・)は、今ナザリックが保有するワールドアイテムの一つ。絶対に奪われてはならない、場合によってはお前達の命より重い物と知れ」

 「はい!」

 

 言葉は厳しかったものの、それは自分達にそれだけ重要なものを預けるだけの力量があると見てくれていると考えた三名は先程よりは顔色も声色も明るい物で、募らせた不安はなかった。

 

 「(しかし、まぁやはりというべきなのか、魔法で視認はしていたが、シャルティアを支配した敵の部隊とやらは未だ姿を見せず、か……一体奴らは何が目的なんだ?)」

 

 そこで、決戦直前になって「まてよ?」と脳裏にちらつく一つの可能性に気づく。

 

 「(もしやその敵の部隊とやらは、他の目的があったのではないだろうか?そこに、たまたまシャルティアとペロロンチーノが居て、運悪く遭遇戦になってしまった……って、いくらなんでもそれはないよな。ワールドアイテムを所有する組織同士が”偶然で”対峙するハメになるなんて、一体どんな確率だよ)」

 

 自身の考え、しかしそう考えれば全ての辻褄が合う上に、自分達もまたゲームの世界から転移するなどという可能性では考えられないような体験をしているのにも関わらず、モモンガは「そんなことありえないだろ」と一蹴し、目の前の、エレティカとの戦いに集中しよう、と頭を切り替えた。

 

 

 

 

 一方で、ナザリックでは、そんなモモンガの様子を魔法でモニターし、見守るために集まっている者達が居た。

 テーブルとその魔法を挟んで、コキュートス、アルベド、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、そしてそこにもう一人、任務から戻ってきた者が加わる。

 

 「只今戻りました」

 

 それは、デミウルゴスである。

 彼は疑問だった。

 何故モモンガ、至高の御方をたった一人で向かわせたのだろうかと。

 そしてこうも思っていた。

 当然それに応える、”私が納得できる答え”は用意されているのだろうな、と。

 

 デミウルゴスはペロロンチーノに「ここに座れ」と言われ、不敬かと思ったが時間が惜しく、言われたとおりに、ペロロンチーノの隣へ腰を下ろした。

 

 「話を、聞きましょうか」

 「モモンガとの話は先程メッセージで伝えたと思うが?」

 

 ただし返って来たペロロンチーノの言葉は彼の疑問を晴らすには不十分であった。

 確かに聞いてはいたがそれに対し疑問を持っているのだから。

 

 「……何故、お一人で行かせたのですか?」

 「お前達が至高と呼ぶ私達が三人で決めた事だ、今更この計画に変更は許されない」

 

 次にぶくぶく茶釜がそう答えた。

 今更お前がどれだけ喚こうが騒ごうが、この計画に変更は許されないとも加えて。

 だがデミウルゴスは更に食い下がった。

 

 「……罠があれば私が囮になればいい、伏兵など下僕が全員でかかって押しつぶせばいい、例えこの場所に敵が攻めてきたとしても、それでも尚、戻ってくるだけの時間を稼ぐ位の足止めには十分すぎるほどの戦力がナザリックにはあります。それはモモンガ様も承知しているハズ……恐らくは嘘をつかれた。その深淵なるお考えは理解出来ませんが、それは至高の御方であるお二人や宝物殿に同行したアルベドも気づいているハズです!」

 「デミウルゴス」

 

 それは強い言葉での、叱責にも似た強い口調だった、ペロロンチーノの怒りが垣間見える程の。

 

 「お前、我がアインズ・ウール・ゴウンの絶対支配者たるモモンガを侮っているのか?あの男が、たかだか傭兵NPCの一人如きに敗北するとでも?」

 「そ、それは……」

 「見くびるなよデミウルゴス、あの男は「殺す」と言えば殺す男だ、相手が誰であろうと、アルベドの話ではわざわざ約束まで取り付けたらしいじゃないか、エレティカを殺し、この地に再び帰ってくると……であればお前はそれを信じるべきだ」

 「……かしこまりました……先の失言、お許し下さい」

 「許そう、下僕の主人を想う気持ちから出たものだからな」 

 

 デミウルゴスはもはや何も言えなかった。

 感情論ではあるが、至高の御方であるペロロンチーノからそう言われてしまえば、彼は頭を縦に振るしかない。

 

 「安心しなさいデミウルゴス、お前の考えは分かっている。この地に支配者が不在となるのを恐れているのでしょう?仮に彼が帰ってこなかったとしたら、その場合、私が彼の代わりを務めるから。これも三人で話して決めた事よ」

 「それは……!そうですか……いえ、そうであるならば、私からはもう何も言うことはありません」

 

 唯一の懸念であった支配者の不在はありえないとぶくぶく茶釜によって宣言された。

 そして彼が死んだ場合自分が代理、いや、次の支配者を務めるとも。

 

 元よりぶくぶく茶釜はギルド結成時から存在する古株。見た目こそアレだが、プレイヤースキルはギルドの中でも高いと言えるプレイヤーであり、高度なゲーム知識に裏打ちされた的確な判断はトップクラス、指揮官としてチームを纏めていた事もあった彼女は、次の支配者として十分な裁量は持っている。

 

 まぁ本人としてはそんな気はさらさら無い。

 蘇生云々を抜きにしてもモモンガはここに帰ってくる。

 必ずモモンガが勝つと確信しているからだ。

 

 魔法によるモニターに映るモモンガに目を移せば、丁度エレティカの元にたどり着いた瞬間であった。

 

 

 「(馬鹿だよなぁ……)」

 

 そこでモモンガは、改めて自分の今やろうとしていることの愚かさを噛み締めていた。

 

 「(もっと上手くやる手段は知っているんだけどな……)」

 

 本当のところを言うなら、モモンガは後衛職であるので、そもそも単騎でエレティカと戦おうとすること、それ自体が間違いなのである。

 

 本来モモンガの戦闘スタイルは、アンデッドモンスター等を召喚して戦うという典型的な後衛職である。ならば今回も、と思うかもしれない。

 だがそうも行かない理由がある。 

 

 姉妹であるシャルティアには、「ダメージを与えるとその分自分の体力を回復出来る」という凶悪な効果を持つスポイトランスと呼ばれる武器を持っている。

 そしてその姉であるエレティカには、名前を【血で血を洗う】というハルバード、その性能は「敵に勝利すると、敵のレベルや状態に関係なくHPが全快する」という凶悪なものであるのだ。

 

 この為、召喚するなら彼女を仕留められる程のアンデッドを喚び出す必要があるのだが、上位アンデッド一匹では彼女を止められない、かといって四匹出したとしても、それを一匹ずつ仕留められては同じことだ、「数で押しつぶせば良い」、この言葉に「それは違う」と言った理由もこの武器が一因を担っている。

 

 シャルティアと違い魔法職を支援系以外取っていないエレティカだったので、唯一そこに活路を見出すとすればスキルを使い切らせることだったが……魔法を使わない分スキルの数も多い。

 

 それを使い切らせるとなると上位アンデッド四匹(一日に召喚できる上限)では足りない、中位程度では足止めにもなりはしない。

 

 

 

 つまり、その他の事(・・・・・)で勝つしかないのだ。

 

 だから、本来ここでモモンガが取るべきなのは、彼女を自分が召喚出来る上位アンデッド上位の存在、それこそ守護者達等で前衛を固め、HPを削ったら一気に討ち滅ぼす、これが最善である。

 

 「(それに、これは博打だ。)」

 

 さらに言えば例え勝ったとして……エレティカをユグドラシルと同じ方法で無事に蘇らせられる保証等どこにある?

 元よりユグドラシルでの法則が効かない部分も多々ある。

 シャルティアの配下であるヴァインパイア・ブライドのA子やB子はシャルティアが精神支配から開放された後に従来の方法で蘇ったが……。

 傭兵NPCである彼女はどうだろうか?元より他のNPCと違う面を多々持つ謎のNPC……考えてみればモモンガは彼女の本来の設定すら知らないのである。

 まかり間違ってモモンガ自身が敗北し、死亡してしまう可能性もある。

 その場合自分はちゃんと蘇生出来るだろうか?

 

 「(そんな状況で、生死をかけた戦いをしようというのだからな……でも……)」

 

 

 脳裏に蘇るのは、アルベドの必死の訴え。 

 

 『私がエレティカを殺します!!』

 

 そして、ペロロンチーノの悲痛な叫び。

 

 『俺がしっかりしていればシャルティアも、そしてエレティカも、こんな事にならなかった……エレティカは俺が殺すべきだ。彼女を従える者として、支配者として、親として』

 

 「(そんな姿、見たくないんだよ……仲間同士のお前達が殺し合う姿を、親が子と殺し合う姿を……それに)」

 

 モモンガは決意を改めて、身に纏うローブを靡かせながら宣言する。

 

 「私は、アインズ・ウール・ゴウンの絶対なる支配者、モモンガ!ならばその名にかけて、敗北はありえない!!」

 

 そして、遂に戦闘準備を始める。

 

 「《ボディ・オブ・イファルジエントベリル/光輝緑の体》」

 

 一瞬、モモンガの身体に、輝く緑色の膜のような物がモモンガを包んでいき、淡く光り続ける。そして……。

 

 「フフ、やはりな……完全な敵対行動を取らない限り、戦闘準備にすら入らない……まるでゲームだな?……ならばエレティカ、悪いが戦闘開始まで、そのまま待っていてもらうぞ?」

 

 そう言って行われるのは、次々に使用される自身を強化する魔法、そして罠やディレイといった対策の魔法のオンパレード。

 

 「《フライ/飛行》

 《ブレスオブマジックキャスター/魔法詠唱者の祝福》

 《インフィニティウォール/無限障壁》

 《マジックウォード ホーリー/魔法からの守り 神聖》

 《ライフ・エッセンス/生命の精髄》

 《グレーターフルポテンシャル/上位全能力強化》

 《フリーダム/自由》

 《フォールスデータ ライフ/虚偽情報 生命》

 《シースルー/看破》

 《パラノーマル・イントゥイション/超常直感》

 《グレーター・レジスタンス/上位抵抗力強化》

 《マント・オブ・カオス/混沌の外衣》

 《インドミタビリティ/不屈》

 《センサーブースト/感知増幅》

 《グレーターラック/上位幸運》

 《マジックブースト/魔力増幅》

 《ドラゴニック・パワー/竜の力》

 《グレーターハードニング/上位硬化》

 《ヘブンリィ・オーラ/天界の気》

 《アブショーブション/吸収》

 《ペネレート・アップ/抵抗突破力上昇》

 《グレーター・マジックシールド/上位魔法盾》

 《マナ・エッセンス/魔力の精髄》

 《トリプレット・マキシマイズ・マジック・エクスプロードマイン/魔法三重化・魔法最強化・爆撃地雷》

 《トリプレットマジック・グレーター・マジックシールド/魔法三重化・上位魔法盾》

 《トリプレット・マキシマイズ・ブーステッド・マジック・マジック・アロー/魔法三重化・魔法最強化・魔法位階上昇化・魔法の矢》

 

 

 ……さぁ、行くぞ?」

 

 次の瞬間、モモンガの周りにドーム状に魔法陣のようなものが形成され、天にまで届く光の柱のような物が立ち上る。

 

 そしてそれは下僕の目にも映る。

 

 「あれは……?」

 「た、多分、超位魔法だよ……」

 「初手から超位魔法を……?」

 

 「ほう、初手からそれを使うか……」

 「魔法というよりは、スキルに近い物ですよね?」

 「MPノ消費ガ無イガ、連射ガ効カナイ超位魔法ヲココデ使ウトハ、思イ切ッタ戦術ダ」

 「恐らくはエレティカのHPを早めに削っておきたいとのお考えなのでしょうが……」

 「ん?あれは……」

 

 そこでぶくぶく茶釜とペロロンチーノが、モモンガの取り出した物が何か気づく。

 

 「ああ、成る程……」

 「そういうこと、モモンガさんも人が悪い……」

 「……?あれが何か……?手に巻き付いているのは何か見えませんが……あの木の棒は一体?」

 「見ていれば分かるよデミウルゴス、フフ……」

 

 やけに余裕の声だ、先程までとは打って違って……あれを出した途端、「どういう戦法で戦うのか?」と注視していた雰囲気が、既に「ああそうやるのか」と安心したような、面白くてたまらないような声色に変わっていた。

 もしや、もうモモンガ様が勝つと確信していらっしゃるというのか。

 

 そして、モモンガを中心に展開された超位魔法が、ついに発動する時を迎えたのか、更に大きく展開し、まるで爆発寸前といった様子であった。

 

 「いくぞエレティカ!超位魔法、《フォールンダウン/失墜する天空》!!」

 

 その日、エ・ランテル近郊の森に、巨大な光の柱が立ち上る。

 それはまるで天空がそのまま崩れて墜ちて来たような激しい衝撃を生み出し、あたり一帯を飲み込んだ。

 

 

 決戦が始まった瞬間である。


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