……いや今回はまだ出ないかも。
私達がそこについたのは、デスナイトが、勇敢にも立ち向かってきた騎士の一人の頭が吹き飛ぶというSAN値チェック待ったなしなタイミングだった。
……だが、やっぱりというべきか、私もヴァンパイアになったせいか、それともこの光景を一度見ているからかは分からないが、動揺とかはあまりしない。
せいぜい、痛そうとか可哀想とか、その程度で……「ウッ」と卒倒したり吐き気がしたりといった事はない。
これでも一応私のカルマ値は善寄りなのだが……。
ひょっとしたらヴァンパイア化して人間や血を酒等の嗜好品と同等と捉えてしまっているのかもしれない。
今のところ「美味しそう」とかは思わないけれど、この先性格や趣向がヴァンパイアに引かれていくんだとしたら、ちょっと注意すべきかも。
それにそうじゃなかったとしても、私にもシャルティア同様、血の狂乱というスキルが存在するため、気を付けないと狂乱状態に陥ってしまうという事もありえる。
「そこまでだ、デスナイトよ!」
ピタリとデスナイトの動きが止まり、周囲がざわつく。
そして、騎士の一人がこちらに気付き、「あ、あれを見ろ!!」
と叫ぶ。
そんな事は意も介さず、私達は悠然と地に降り立ち、モモンガ様がこう続ける。
「初めまして、私達はアインズ・ウール・ゴウンという」
「貴方達には生きて帰ってもらうわ」
「そしてお前らの上司……飼い主に伝えるがいい」
「「「このあたりで騒ぎを起こすなら次は貴様らの国まで絶望を与えに行くと」」」
「行け!そして確実に我らの名を伝えよ!!」
「「「ヒッヒイイィィッ!!!」」」
騎士たちは剣や盾も捨てて一目散に走り出す。
一刻も早くここから逃げ出したい一心で。
「……<モモンガ様、情報を聞き出すために、何人かはこちらで捕縛してもよろしいでしょうか?>」
「<うん?……ああ、そうだな、情報は多いに越したことはない。許可する>」
「<ハッありがとうございます。では、私は下僕を召喚して、2~3人騎士風の男を捕えさせておきます>」
「<うむ>……さて」
「た、助かった……のか?」
「ええ、貴方たちはもう安全よ。」
「や、やった……助かった……。」
村の人から安堵の歓声にも似た声が上がる。
よほど怖かったのか、ホッとして腰が抜けた女性までいるようだ。
だが、何人かは、未だ後ろに控えているデスナイトに怯え、怪しんでおり、それに気づいたモモンガ様が続ける。
「とはいえ、タダというわけではない」
「そうね、助けた代わりに、報酬と情報をもらいたいのだけど……。」
「事後承諾になっちゃって悪いけど、それでいいかな?」
「「「……おおお!」」」
営利、金銭、情報が目的だとハッキリして、ようやく村全体に安心したような空気が流れ始める。
このあたりは同じだね。
私は後ろで、自分の影から配下の者が森の影へと溶け込んで行くのを横目で見届けつつ……「怪我人は居ませんか?重傷者の方や、子供、老人を優先的にこちらへ集まってください。」
「(エレティカってほんと言われなくても行動してくれるから助かるな……。)では、村長は……貴方か?貴方とは私達と対価について話がしたい、どこか落ち着いて話せる場所へ案内を頼めるか?」
「は、はい、でしたらこちらへ……狭い場所ですが」
……で、ここがユグドラシルじゃないってわかる……っていうかほぼ確信するんだったよね、確か。
私は後でモモンガ様から教えてもらったというていにしなくちゃいけないから、ボロを出さないように気を付けないとね。
またさっきは赤いポーションを使ってしまったけれど、ンフィーの事もあるから治療に使うのは治療のスクロール、あるいは、普通に傷口を消毒して包帯を巻いたりといった一般的な方法での応急処置になる。
「はい、貴方はどこを……あぁ、大丈夫、すぐに治りますから落ち着いて下さい。
大丈夫です、治癒魔法が使えるので……アルベド、あなたは先ほど助けた姉妹と思われる人間の女二人を連れてきてくれる?」
「……分かったわ」
えっ、なにその顔。
すっごい悔しそう……。
……なんで?
そうして怪我人の手当が終わり、村長とモモンガ様達による交渉が終わった後、葬儀が終わり……村の復興作業を始めだした所で、だんだんと日が落ち始め、「そろそろ来るかな?」と思っていた者達が現れる。
「ど、どうしますか村長?」
「うーむ……」
「……どうされました?」
「おお、あなたは……」
「アインズ・ウール・ゴウンの配下が一人、エレティカという者です。以後お見知りおきを……して、どうされました?」
「はい、村に騎士風の者が近づいているそうで……」
「……分かりました。我が主達に報告し、指示を仰いでみましょう」
「おお……助かります」
まだ、「助ける」とは言ってないんだけどな……でも結局は助ける事になるし、そもそも今から来るのは味方、なんだけどね。
「一難去ってまた一難かぁ」
「面倒だね……」
「……では、村長は私と広場に、生き残った村人は村長殿の家に至急避難していて下さい」
「分かりました!」
そうして、準備が整った頃、段々と馬の蹄の音が聞こえてくる。
先頭で率いているあのイケオジが、ガゼフさんかな?
「私はリ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ、このあたりで村々を襲って回っている帝国の騎士達を討伐するために、王のご命令を受け、村々を回っている者である」
「王国、戦士長……!」
ひぇー、やっぱ戦士長っていうだけあって貫禄があるね。
「……(……子供?それに、魔法詠唱者と、騎士が二人に、弓を扱う者が一人……どれも帝国の物とも法国の物とも違う装備をしているが……。)この村の村長だな、横に居る方々は一体誰なのか、教えてもらいたい」
「この方達は……」
「それには及びません初めまして、王国戦士長殿。私達はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われていたので、助けに来た者達と、その配下です」
「……!!、《バッ!》村を救っていただき、感謝の言葉もない!」
あぁ~、こういう素直にお礼を言えるのが、この人のいいところだよね~。
やっぱ戦士って言ったらこうでなくっちゃあ!
「<なかなか良い男じゃない?>」
「<だね、好印象をうける人間だ>」
「<王国戦士”長”ともなれば、王国と呼ばれる場所で結構偉い人物である筈だから……友好的に接して損はないでしょう>」
どうやら至高の方々も同じような印象を受けたようだね。
「……して、あちらのアンデッドは……?」
「心配ご無用、あれは私の支配下にある物ですので」
「なんと……その仮面がそうですかな?」
「ええ、ですから、顔を見せる事が出来ないのですが、そういう事情ですので、ご理解頂きたい」
「成程、こちらとしてもそうしてくれると助かる」
実際は何の効果もないマスクなんだけどねー……。
まぁ、実際何も知らずに見せられたら何かしらの効果は持ってそうだと思うけど。
「戦士長!村を囲うように、複数の人影が!」
「なんだと?」
ああ、もう来たの?早いなぁ……。
もうちょっとゆっくりくればいいのに。
そうすればもう少しだけ……長生き出来ただろうに。
いや、死ぬより辛い生を受けるんだから、長生き、という表現はおかしいかな?
「……確かに居るな」
「村を囲うように、等間隔でこちらに来ています」
ひとまず、状況を整理するために村の倉庫へ集まった戦士長と私達だったが、まぁ、状況はあまり芳しくない。
私達がチート級のトンデモ化物達じゃなければの話だけど。
「彼らは一体?」
「……あれだけのマジックキャスターを揃えられるのは、スレイン法国……それも、神官長直轄の特殊工作部隊、六色聖典のいずれかだろう」
で、でたー!相手の実力を測れない奴ーーー!
……ええと、今回はどうなるんだろうな……。
「じゃあ、さっきのは?」
「装備は帝国の物だったが……どうやらスレイン法国の偽装だったようだな」
わかっていたから良かったけど、捕縛した奴らはナザリックに送ってしまったあとだからなぁ……。
まぁ、居ても居なくても大して変わりはない、か。
「この村にそこまでの価値が?」
「この村には無いだろう、そして、アインズ・ウール・ゴウンの皆様にもその心当たりがない、とすれば、答えは一つだ」
「……憎まれてるのね、戦士長殿は」
だよねぇ、いくら有名な戦士とはいえ二つの国から命を狙われてるって事でしょ?
控えめに言って生きた心地しないよね。
「まったく、本当に困ったものだ、まさか法国にまで狙われているとは」
「……いかがなさいますか?モモンガ様」
「……よければ雇われないか?報酬は望まれる額を約束しよう」
「お断りさせていただきます」
「……そうか……」
……原作ではここで「強制的に徴兵させると言ったら?」みたいなやりとりがあったけど、流石にこの数を相手にするとなると分が悪いと思ったのか、あっさり引き下がった。
まぁ確かアニメの方でもあっさり引き下がっていたような気もするけど。
「ではアインズ・ウール・ゴウンの皆様、お元気で。この村を救ってくれた事……感謝する。そしてわがままを言うようだが、もう一度だけ、もう一度だけ村の者達を守ってほしい。……どうか……《ガシッ》どうかっ!?」
「そこまでする必要はありませんいいでしょう、村人たちは私達が守りましょうこの、アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」
「ならば後顧の憂い無し……私は、前のみを見て進ませていただこう!」
かぁーっっこいいーっ!!
渋すぎるよ旦那ーっ!こりゃついて行きたくなる人たちの気持ちもわかるな~。
「……では、これをお持ちください」
「……?君からの品だ、ありがたく頂戴致しましょう。……では」
「……ご武運を」
ここって、恐らく助からないだろう戦士長を見送るっていう悲しいシーンなんだよなぁ……。
……モモンガ様が超ド級のチートマジックキャスターじゃなければ。
「どうも初対面の人間には虫程度の親しみしかないが……(初対面だとそこまで親しくはなれないけど)話し込んでみると、小動物に向ける程度の愛着が沸いてしまうな(話していると愛着が沸いてついお節介したくなっちゃうなぁ)」
「ですから尊き名前を用いてまで、お約束をされたのですか?」
「そうなのかもな」
ん~~~~……モモンガ様って結局今どれくらい人間の心が残ってるんだろう?
でもまぁ結局身内にはものっそい優しいおじちゃんであることに変わりはないから、私としてはどっちでもいいんだけど……。
……どっちでもいいってやばくね?私もヴァンパイアに引かれ始めたかな。
その後、戦士長達は非常に、善戦した。
だが結局のところ魔法が使える相手とアークエンジェル達によって既にボロボロにされ、状況は壊滅状態であった。
「よく頑張ったと褒めてやろう、そこに横になれ。その意思に敬意を評し、せめてもの情けに苦痛のないように殺してやる。そしてその後は、あそこの村人を全員殺してやる」
「クッ……フッ……フフフフフ……ッ」
「……何がおかしい?」
「愚かなことだ、あの村には、俺よりも強い方々が居るぞ」
「……ハッタリか?もういい、総員、かかれ!」
「……モモンガ様、そろそろ」
「ああ、……そろそろ交代だな」
一瞬、まばゆい光が戦士長の体を包み込み、次の瞬間現れたのは、死の支配者、モモンガ様と……ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様、アルベド、そして私の姿だった。
次回……ニグン、死す!
ニグン「えっ」