とある科学の絶対波動〈アブソリュートウェーブ〉 作:skav
深夜、木山邸の自室で瀬那は一人考え事をしていた。
手にはあのメモリーチップ内にあった音楽ファイルを転送させた音楽プレイヤー。
おそらく共感覚醒を応用した能力開発プログラムだろう。
ご丁寧に、一度使うと綺麗さっぱり消去されるようにプロテクトがかけてある。
『これを使えば君は間違いなくレベル6と呼ばれる存在になれるだろう。』
そして瀬那はそれを木山春生から受け取った。
覚悟はとっくに出来ている。問題はその先だ。
どうやって木山春生を救うかだ。
彼女の過去は謎が多い。特にあの”置き去り”と呼ばれる子供達の教師をしていた期間。
その後は研究者として何かに取り憑かれたように研究者として様々な論文を書き残している。
『昔・・・ね。』
そう言ったときの木山春生の顔は瀬那の脳裏に焼き付いていた。
寂しそうで、どこか遠い目をした顔。
「よし!」
瀬那は音楽プレイヤーを鍵付きの引き出しに入れ、ベッドに身を投げる。
まずは情報収集からだ。
翌日瀬那は早速行動に出た。
電車を乗り継いで向かった先はAIM解析研究所。瀬那が幾度となく出入りした場所だ。
しかし今回の目的はあくまで非合法の完全に法律に引っかかる行為だ。
能力を駆使してあらゆる監視の目に対処しなければいけない。
光を反射ではなく透過させることで瀬那は完全に姿を消す。
そして堂々と看守の前を通り過ぎ、歩みを進めた。
部屋にはいるときは生体電気を探知し、人がいないか確認する。
普通の鍵ならばポケットに入れた合った磁石の磁力を操作して解錠する。
電子ロックならば、マネーカードの磁器を操作して解錠すればいい。
コレが人がいない場合の進入方法だ。
人がいた場合は、からだそのものを透過し扉を”すり抜ける”。
すり抜けた後は光の透過を解除しその部屋の全員にもう一人いると認識させる。
そして堂々とめぼしい研究論文を片っ端から読みあさっていく。
これの繰り返しだ。
今のところ目的のデータは出てこない。
そして見慣れた名前が書いてある部屋を見つけた。
これまで何度も木山晴美の研究室へ足を運んだことはあるが、自室には入ったことがなかった。
扉の不在と書かれたプレートに安堵しつつこの部屋だけは誰もいないが透過した。
部屋には来客用に並べられたソファとテーブル。
そして一台のデスクトップパソコン。本棚の引き出しには大量の研究成果をまとめたファイル。
背表紙に書かれたタイトルをざっと見るが見たことのあるものばかりだった。
がちゃ・・・。
引き出しを閉じるのと扉が開けられるのはほとんど同時だった。
どうやら木山春生が帰ってきたようだ。
「ふぅ・・・あの子達も随分近付いてきたな。」
そしてドリッパーで珈琲を煎れテーブルに置く。
”二杯分”
「全く。部外者ではないのだから見せろと言えば見せたのだがね。瀬那くん。」
瀬那は能力を解除して姿を晒した。
「・・・どうして分かったんですか?」
「何年君と一緒にいると思っているんだい?姿は見えなくても、聞こえなくても、何となく分かるさ。」
「・・・そうですか」
観念した瀬那は木山春生と相向かいになるようにしてソファに座り、珈琲を飲む。
「それで、なにをしにここに来たんだい?」
「単刀直入に聞きます。ここの研究室で置き去りの子供達は何をされたんですか?」
「・・・!」
木山春生少しだけ驚いた表情を見せた。
「教職から離れたあなたは何かに取り憑かれた要にいくつも研究成果を発表しています。コレは何かあったとしか考えられないんです。」
「・・・・・・。」
「お願いします。教えてください、その時あなたに何が起こったんです!?」
「聞いていて気分ちの良い話ではないが・・・。」
「大体想像はついています。でもあなたの口から話して欲しい。」
「はぁ・・・分かった。君に全てを話そう。」
木山春生は深く深呼吸をして、話し始めた。
私があの子と出会ったのはある実験がきっかけだった。
被験者は置き去りと呼ばれる身寄りのない子供達。
実験を成功させるために被験者である彼らの詳細な生態データをとる。
そこで取得単位でついでに取った教育免許を持つ私が彼らを担任として受け持つことになった。
子供は嫌いだ。
担任になって数日後、早速私は無邪気な洗礼にあった。
もともと警戒心に乏しい性格も相まって教室の扉に仕掛けてあったバケツの存在に気付かなかった。
私は盛大に水をかぶってしまった。
騒がしいし、デリカシーがないし、悪戯するし、論理的じゃないし、すぐに懐いてくるし・・・。
大変困った状況になった・・・だが、この研究が終わるまでの辛抱だ。
ある雨の日の帰り道。教え子の一人である少女が泥だらけで地面に座り込んでいた。どうやら水たまりに浸かってしまったらしい。
「あ、センセー。あはは・・ぬかるんでて転んじゃった。」
「私のマンションはすぐ近くだが、良かったら風呂に入るか?」
「良いの!?」
社交辞令のつもりだったのだが、私はその子を連れて自宅に向かった。
湯を張ると少女は大喜びでバスルームに入った。話によると、彼女たちの施設は週2回のシャワーしかないらしい。
「木山センセー」
「・・・なんだ?」
「私でも頑張ったらレベル4とかレベル5になれるかな?」
「今の段階では何とも言えないな。今後の努力次第といったところか。・・・高レベル能力者にあこがれがあるのか?」
洗濯機動かしながら私は聞いた。
「うーんそれもあるかな~・・・けど。」
「けど?」
「お世話になったこの学園都市に役に立てるようになりたいなーって。」
洗濯物が乾く間、私は隣で眠る生徒の子守をしなければならなかった。
研究の時間がなくなってしまった・・・本当にいい迷惑だ。
だが、少しだけ楽しいといった感情も芽生えつつあった。
季節が過ぎ、私は彼らと様々なことをした。
私の誕生日を祝ったり、私の白衣を着て逃げ回る生徒を追いかけ回したり、雪玉をぶつけ合ったり・・・。
そしてついに迎えた実験の日。
これで先生ゴッコもおしまいだ。
実験器具に乗せられた子供達の状態を一人ずつ確認していく。
「・・・怖くないか?」
「ううん大丈夫。だって木山センセーのこと信じてるもん。」
これでおしまい・・・・・・。
「・・・のドーパミン低下中!」
「抗コリンざい投与しても効果ありません!」
悪夢は突然やってきた。
原因不明の暴走を始めた子供達は荒れ狂い吐血をし・・・酷い光景だった。
そのなかでただ一人冷静にデータを取るように指示を下す人物が一人。
この研究の発案者であり、私を彼らに教鞭を振るようにと進めた男だ。
「木山君よくやってくれた。彼らには気の毒だが科学の発展に犠牲はつきものだ。」
そう言いながら男は私の肩を叩いた
「君には今後も期待しているからね。」
『だって木山センセーのこと信じてるもん。』
「なぜ・・・なんであんな事になったんです!?」
「さあねぇ・・・事故ってのは予測できないから起こる者だし。」
「嘘です、あの実験内容で暴走事故が起こるわけがありません!関係者が手を加えたとしか・・・」
「はぁ・・・君はもっと優秀な子だと思ったんだがね。」
「何をおっしゃりたいのですか!?」
「何をそんなに熱くなっているのかね?」
「学園都市のお荷物である置き去りが科学の発展に貢献したんだ。良いことじゃないか。」
『この学園都市に役に立てるようになりたいなーって。』
「・・・これが私の過去だ。」
「そう・・・ですか。」
瀬那にはやっと理解できた。これから木山春生がやろうとすることの理由が。
脳のネットワークを使って暴走事故の原因究明とあの子達の恢復を模索するためだ。
「これでやっとすっきりしました。俺はこれからあなたがやることを止めようとは思いません。」
「・・・・・・」
木山春生は黙った瀬那の言うことに耳を傾けていた。
「俺はあなたを絶望から救ってみせる。どんな手を使ってでも。だからあなたも僕の邪魔をしないで下さい。」
「・・・ふ、そんな言葉誰の影響なのやら」
「十中八九あなたですよ。春生さん。」
そして二人は笑い合った。