とある科学の絶対波動〈アブソリュートウェーブ〉 作:skav
瀬那は警備員の無線を傍受しながら、木山春生の現在地を探っていた。
『学生を乗せた青い車が幹線道路に入りました。』
『よし、道路を封鎖し足止めしろ!』
マズイ・・・状況は限りなくマズイな。
もしこのまま春生さんが拘束されれば今までの努力が水の泡になってしまう。
『し、至急応援を頼む!』
『どうした、何が起きている!』
『ば、馬鹿な、奴が能力者だなんて聞いていないぞ!?うわぁぁぁ!!』
警備員達の悲痛な声が瀬那の耳に届いた。
瀬那は無線機を投げ捨てて、目的地に急いだ。
「遅かったか・・・」
幹線道路には残骸と化した警備ロボや気絶している警備員達が転がっていた。
そして、見慣れた青いガヤルドの中に初春飾利の姿があった。
「おい、目を覚ませ!」
「う・・・ん、あれ?どうしてあなたがここに?」
「よし、無事だな。安全な場所に避難するから俺に捕まってろ。」
「は?・・・え、ちょっと、きゃぁぁ!」
瀬那は飾利を肩に抱えるとフェンスを乗り越えて大ジャンプをした。
地面までおよそ10メートル、落ちたら怪我では済まない高さに飾利は悲鳴を上げた。
ドオオオオン!
大きな爆発音が周辺の待機を揺るがせた。
音のする方を見ると、胎児のような化け物と警備員が戦闘を繰り広げていた。
状況は圧倒的に警備員が不利で、あっという間に壊滅させられる。
瀬那は柱の陰に見たことのある白衣を見つけた。よく見ると木山春生が倒れていた。
「降りるぞ!」
「~~~~~~~!!」
初春はこのとき初めて自分が死ぬかも知れないと思った。あんなに遠かった地面があっという間に近付いてくる。
「オルァァ!」
地面を大きくへこませて瀬那と飾利は無事地面に降り立った。
「春生さん!」
「木山先生!」
二人は木山春生の元へ駆け寄った。
彼女の身体はボロボロで高圧電流を受けたのか、所々が焦げ付いていた。
おそらくは御坂美琴の電撃を受けたのだろう。その張本人は現在あの怪物と戦っていた。
「う・・・ん・・・瀬那・・・くん?」
「良かった、気が付きましたか・・・。」
「なぜ・・・君がここに?」
起きあがろうとする木山春生を手伝いながら瀬那は答えた。
「春生さんを・・・助けに来ました。」
「ふ・・・はははは、今更何を言っているんだい君は。・・・・・・アレを見たまえ。」
木山春生は怪物の方を指さした。
「ネットワークは私の手を離れて暴走を始めた。私に為す術はない・・・そして、あの子達を恢復させる手だても失われた。」
もうおしまいだなと木山春生は続けて腰に差してあった拳銃を抜いた。
それを見越したように瀬那は彼女の手を取り、拳銃を取り上げた。
「・・・何のつもりだい?」
「こっちの台詞ですよ春生さん。」
「返してくれ、もはや私が生きている意味は・・・っ。」
「じゃあ残された俺はどうなるんです!」
「それは・・・。」
「俺にとってあなたは唯一の家族なんです・・・たった一人だけの大切な家族なんですよ。」
「・・・・・・」
「だから・・・生きている意味がない・・・なんて、言わないでくださいよ」
勝手にあふれてくる涙を瀬那は止めることが出来なかった。小さく肩を震わせて嗚咽を漏らす。
その瀬那を木山春生は優しく抱きしめた。
「全く、そう簡単に泣く者ではない・・・男の子だろう?」
「・・・・・・はい。」
「自分で起こしたことだ。責任は持つさ。初春さんと言ったかな、預けた者はまだ持っているかい?」
「は、はい!」
「アレを使ってネットワークを破壊すれば暴走を止められるかもしれない。」
「分かりました、ありがとうございます!」
「・・・俺も行きます。」
「何をする気だい?」
「あなたを・・・警備員には絶対に渡さない。」
飾利の後を追うように走り出した少年の背中を木山春生見つめた。
「あの子は・・・全く。」
そして小さくため息をついた。
警備員のトレーラーに向かう途中に何度もあの怪物の攻撃を受けた。
その攻撃を瀬那はことごとく打ち消す。今の瀬那には目的地に着くことしか考えていない。
しかしそれでも尚防ぎ続けることが出来るのは、無意識中に攻撃を干渉し、解析し、掌握し、消滅させているからだ。
レベル5と呼ばれる存在であってもこの一連の動作を無意識中に行うのは不可能だろう。
「ありました!アレが警備員のトレーラーです!」
そこには負傷した警備員達が手当をしていた。
その中で指揮をする一人に初春は事情を説明すると、難なく機材の使用を許可した。
飾利が機材を起動して、プログラムを起動させる。
リーダー格の男は本部と連絡を取り始める。
瀬那はタイミングを見計らってこの場にいる全員の意識を立ったままで遮断させる。
『どうした?何があった?』
声色を変えて無線機に話しかける。
「聞こえるか?そっちは警備員の本部で合っているか?」
『だ、誰だお前は』
「答える必要はない。時間がない、ワクチンソフトを起動させる前に見て欲しいものがある」
そう言って瀬那は別のメモリーチップを読み込み、そのデータを送りつける。
『な、なんだコレは・・・音?』
瀬那が送ったデータは聞いた人間の脳波を掌握することが出来る特殊な音波だった。
それを警備員本部施設内の全スピーカーに流し、全員の脳波を干渉した。
そして”例の巨大生物が木山春生の意識を支配していた”と間違った認識をさせる。
「つまりお前達は罪のない一般市民に銃を向けている訳だ。」
『お、おい!今すぐ後続隊に拘束中止を伝えろ!』
「よし、それで良い。今から流す音楽をあらゆる手を使って学園中に放送しろ。」
瀬那はワクチンソフトを起動させた。
すると曲のような不思議な音が学園中に響き渡った。
これで後は戦闘を続けている御坂美琴が片を付けるだろう。
しばらくして、巨大生物を打ち抜くオレンジ色の輝きが見えた。