とある科学の絶対波動〈アブソリュートウェーブ〉   作:skav

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不思議な時間

翌朝瀨那は聞き覚えのあるエンジン音で目を覚ました。

「春生さん、どこかに出かけてたんですか?」

「あの子を学校の寮までね。何かあったのかい?」

「ええ・・・まあ・・・」

曖昧に答える瀨那の横を通り抜けて、木山春生は車のキーを置いた。

「詳しくは朝食を食べながら聞こうじゃないか。」

「・・・・・・はい。」

 

瀨那はベーコンエッグを乗せたトーストをかじりながら昨晩のことを話した。

「・・・という訳なんですが。」

「成る程・・・・・・。」

木山春生は考えるようにコーヒーをすすった。

「彼女は誰も巻き込みたくない・・・しかし君は彼女を守りたい・・・か。」

「どうすればいいんでしょうか?」

「ふむ・・・・・・」

もう一度木山春生はコーヒーをすする。それにつられるように瀨那もコーヒーを飲んだ。

「何とも答えの出しにくい問題だが・・・。君がやりたいようにやればいい。私にはそれしか言えない。」

「それでいいんでしょうか?」

木山春生は飲み終わったカップを机に置いて優しく微笑んだ。

「ああ、それで良い・・・。なにせそれで救われた人物を少なくとも私は一人知っている。」

瀨那は空になった二つのカップを片付けながら言った。

「きっとその人は誰よりも生徒思いなピーマン嫌いの困った研究者兼先生なんでしょうね。」

「ふふ・・・、キミも少しは言うようになったじゃないか。」

 

 

 

約束通り布束と名乗る女子生徒が木山春生の研究所に現れた。

「君があの布束君かい?」

「ええ、お目にかかれて光栄です木山先生。しかし、あなたは拘束されたのでは?」

「善良な市民によって難を逃れたのだよ。そういう君もなかなかピンチだったようだが?」

「ええ、私も善良な市民の手助けで・・・。」

二人は握手をしながらじとーっと瀨那の方を見た。瀨那はそれをできるだけ見ないようにして人数分の紅茶を出した。

「あなたはあの研究の関係者でしたよね?なぜあのような場所にいたのですか?」

「私の目的は彼女達のネットワークに人間の感情をプログラミングしたデータを打ち込むことだったわ。」

木山春生は興味深そうに布束に訪ねた。

「ほぅ・・・それで妹達にどのような影響が?」

「もしそれで自分たちが実験動物であることを拒んだり、戦いたくないという感情が生まれたらもしかしたら救いの手をさしのべる人が現れるかも・・・と思ったのだけど。それも無理ね、誰かが強固なプロテクトを作成したから。」

「あなたは御坂美琴を止めようとはしなかったのですか?」

「止めようとしたわ・・・だけどあの子の決心は変わらなかった。」

御坂美琴のとった方法は研究に関わった施設を片っ端から潰していくというとてもシンプルなものだ。

「だが、いくら潰しても研究は次々と引き継がれていく・・・それほどレベル6は魅力的な存在なのさ。」

こうしている間にも実験は進んでいるのかもしれない。だが今の瀨那にはそれを止める術がない。下手に動けば余計な犠牲が増えるかもしれない。

「くそ・・・どうすれば。」

「ひとの心配よりもまずは自分の問題を方が先ではないかしら?木山瀨那君。」

「・・・どういう意味ですか?」

布束は瀨那の目をじっと見つめていた。

「あなたの能力・・・絶対波動とはどんな能力だと思う?」

「電磁波、音波、光波・・・あらゆる波を操る能力ですよね?」

布束は小さくため息をついてティーカップを口元で止めたまま答えた。

「全くの見当違いね・・・だったら熱を発したり凍らせたりする理屈ができていない。」

「それなら絶対波動とはどういう能力なんですか?」

布束は長いため息をつくと、紅茶を一口飲みカップをテーブルに置く。

「運動エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギーetc・・・。すべてエネルギーを波としてとらえて干渉することができる。現象のすべての基本が波であり絶対的な存在。故に絶対波動・・・それがあなたの《自分だけの現実》よ。」

「・・・前提が間違っていたんですね。」

「ええ、このことに気がついてるのは私と木山先生ぐらいじゃないかしら?」

「知っていたんですか春生さん?」

木山春生はばつが悪そうな表情を浮かべてそっぽを向いた。

「だって聞かなかったじゃないか・・・。」

「現象の認識の仕方なんて千差万別。珍しいとか奇異という話じゃないわ。ただ少しあなたは認識できる現象の幅が広いだけの話。第一位に匹敵・・・いいえ、もしかしたら彼以上かも。」

その言葉を聞いて瀨那はそのときの光景が想起した。無情にも車両の下敷きになった妹達・・・。無意識に瀨那は膝の上に置いた拳を強く握っていた。

「俺はあいつを・・・御坂美琴を救いたい・・・俺はどうすれば良いんですか?」

「well・・・そうね。それは自分で考えることね。おそらくそれが最良の選択よ。」

「そう・・・ですか。」

 

 

 

瀨那は昼下がりの公園で空をぼーっと見つめていた。

「俺がとるべき方法・・・か。」

「そこでなぜ独り言を言っているのですか?とミサカは奇妙なアナタを見つめながら問いかけます。」

突然ぬっと軍用ゴーグルを身につけた少女が上下逆さまに瀨那の目の前に現れた。

「うわぁお!?」

「どっきり成功どミサカはアナタをのぞき込んだままほくそ笑みます。」

悩みの種が突然現れたので瀨那は少し動揺していた。

「ミサカか・・・どうした何か用か?」

「正確には10032号です。・・・何となく公園を歩いていたら上の空のアナタを見つけたので。」

「・・・つまり暇つぶしか?」

ミサカ妹は表情を一つ変えずに答えた。

「そういうとらえかたもできます。」

その返答を聞いて瀨那は少し考えるように黙った。そして一つ提案をした。

「だったら少し俺の暇つぶしにつきあってくれないか?」

「別にかまいませんが・・・。」

「よし、なら早速いくぞ!」

そう言って瀨那はミサカの腕をつかんだ。

「どこへ連れて行くのですか?とミサカは不安そうに尋ねます。」

「セブンスミストだ。おまえの服は目立つんだよ。悪い意味で。」

 

 

「いらっしゃいませ・・・ああ、アナタは先日の。その節は大変ありがとうございました。なんとお礼を言ったらよいのか。」

瀨那の姿を見つけるや否や店員は頭を下げて礼を言った。

「いやいや当然のことですよけが人も・・・まあ俺だけだったんですし。」

「感謝の意を込めて本日は特別価格で販売いたします。これくらいはさせてください。」

「わかりました・・・それじゃあ。」

瀨那は定員の前にミサカを立たせた心なしか彼女は戸惑っている様子だった。

「こいつに似合いそうな服ありますか?」

「はい、今すぐに!」

店員は店の奥に消えたかと思うとすぐに数着の衣服を持って帰ってきた。そして二人を試着室の前に連れて行く。

「ここで何をすれば良いのですかとミサカはアナタに問いかけます。」

「服を試着できるんだよ。気に入ったのがあったら言えよ。」

「ですがミサカにはそのような判断基準が存在しません。」

「つまり分からないんだな?」

するとミサカはそっぽを向いて呟いた。

「フフフ・・・そうとも言いますが。」

「店員さんお願いします。」

「はい、それではまずこちらから。」

「これに着替えれば良いのですね?」

そういったミサカはサマーセーターを脱ぎだした。

「ば、ばか!その中でだよ!」

慌てて瀨那はミサカを試着室に放り込んだ。その間ミサカは頭上に「?」を浮かべ続けていた。

しばらくして出てきたミサカの格好はショートパンツにT シャツの出で立ちだった。

これはこれで活発そうな印象で似合ったいたのだが、昨日の記憶が邪魔してきたので瀨那は却下した。

もう少し大人しい服装という瀨那のリクエストで今度は店員自ら試着室に入っていった。

「こ、これはミサカには無理ですとミサカは拒否します。」

「大丈夫です。しっかち日焼け止め対策にクリームを塗れば・・・。」

「そ、そのような問題では。」

先ほどよりも時間が経過した後、少し疲れた様子の二人が出てきた。

「すみませんお時間がたってしまいまして。」

そう言って店員はミサカを瀨那の前に立たせた。

彼女は青のロングスカートに白のノースリーブシャツという格好だった。

「うん、これなら大丈夫だな。よし、次の作業だ。」

瀨那は店員とミサカが押し問答をしている最中に別の店で買ったあるものを取り出した。

「よし、目閉じてろよ。」

素直にミサカは目を閉じてその場で固まった。

「よし、もう目開けて良いぞ。」

「・・・・・・っこ、これがミサカなのですか?とミサカは素直な感想を口にします。」

おそるおそる目を開けたミサカの目に映ったのは驚きの表情を隠しきれていない自分の顔だった。

短い髪はゴムで後ろにまとめてから赤いひもで蝶結びがされていた。

唯一身につけていた軍用ゴーグルの代わりに赤いフレームの伊達眼鏡がかけられていた。

今の服装と相まって大人びた印象を受ける。

「これでおまえが御坂美琴の瓜二つの姿だとはぱっと見で分からないだろ。」

「凄いです・・・服装と髪型でこれほど変わるものなのですか?」

瀨那は支払いを済ませてまだ目の前の出来事が信じられない様子の御坂を外へ連れ出した。

「さて、これからどうするか・・・。」

とりあえず瀨那は適当に町中を歩くことにした。しばらく歩いているとミサカが瀨那の服の裾を引っ張った。

「どうした?」

「ひ、人目が気になりますとミサカは・・・。」

ミサカの言うとおりすれ違う人々がミサカのことを見る回数が確実に増えていた。

「人目に隠れるのは得意だが晒されるのは苦手か?」

「はい、このような事は・・・初めてです。」

とりあえず瀨那はどこかの喫茶店でミサカを落ち着かせることにした。

「なかなか悪くない紅茶ですと、ミサカは賞賛を口にします。」

紅茶を飲んで落ち着いたらしいミサカはいつも通りの無表情で感想を口にした。

「少しは落ち着いたか?」

「はい、先ほどは取り乱してすみませんでしたとミサカは素直に謝ります。」

「前から思ってたんだけどおまえのその話し方は無意識か?」

「ミサカはネットワークですべてのミサカと繋がっています。よってミサカの意思はミサカのものです。とミサカは説明します。」

「でもそれじゃおまえの個性はどうなるんだ?」

「アナタの言っていることは理解しかねますとミサカは首をひねります。」

瀨那は自分のコーヒーにミルクを入れてから滅多に入れないガムシロップを入れた。

「簡単な事だよ、頼む今日だけでも良いから自分のことをミサカと言うのをやめてくれないか?」

「たとえばどのようにミサカはミサカの事を呼べばよいのでしょうか?」

「普通に私とかで良いんじゃないか?」

瀨那はかき混ぜ終わったコーヒーをすする。ここのあまり甘くないガムシロップが瀨那のお気に入りだった。

「では今日のところはミサカはミサカをワタシと呼ぶことにします。とワタシは宣言します。」

しかし一人称が変わっただけで話し方が変わるわけではなかった。

 

 

「ここがいわゆるリア充と廃人の巣窟ですかとワタシは率直な感想を述べます。」

「ゲームセンターをなんだと思ってるんだおまえは・・・。」

確かに言っていることはあながち間違っていないので瀨那は深くその話題に触れようとはしなかった。

「ここにワタシの装備と同じものがありますとワタシは興奮を抑えきれない表情で武器を手にします。」

ミサカはガンシューティングゲームの銃を手に取り構えた。

その構え方が妙に様になっていて、瀨那は少し引いた。

「じゃあまずはこいつをやるか。」

瀨那も銃を手にしてコインを投入した。

ゲームが始まった瞬間ミサカの微妙に鋭くなった目つきを見て瀨那は悟った。嗚呼、コイツエキスパートダー。

何とか一つ目のステージをクリアした瀨那だったが次のステージで早々に脱落してしまった。

「おまえ、よくあんなところに敵がいるって分かったな。」

「物陰に隠れて待ち伏せは基本ですとミサカはだらしのないアナタを嘲笑しながらもゲームに集中します。」

「またミサカに戻ってるぞー」

「・・・・・・訂正します。」

そんな会話をしながらもミサカは一発もダメージを受けることなくステージを進めていく。そしてあっさりと敵のボスを狙撃し、気がつけばフルコンしていた。

「なかなかよくできたゲームでしたとワタシは一息つきます。」

無表情ながらも満足そうなミサカはベンチに腰を下ろした。

「あれは何ですか?とワタシは未知の機械に興味を示します。」

ミサカが指を指したその先にはプリクラの機械がずらりと並べられていた。

「ゲームセンターを知ってるならプリクラくらい聞いたことあるだろ。」

「はい、ですが実物を見るのは初めてです。」

そう言いながらミサカはふらふら~っと吸い寄せられるように機械の方へ向かっていった。

「ちょっと、ミサカ?」

「意外と中は暑いのですねと、ミサカは初体験に心を躍らせます。」

実を言うと瀨那も今回が初めてなのだが言うタイミングを逃してしまった。

ミサカは興味津々といった様子で操作パネルをいじり始めた。

「それでカメラはどこでしょうか?とワタシはいろいろのぞいてみます。」

「ちょっと、もうカウンと始まって・・・」

『3・・・2・・・1・・・』

パシャ

記念すべき一枚目はアップで写ったミサカの顔と慌てて手を伸ばす瀨那の姿だった。

「今度は同じ過ちを犯しませんとワタシは万全の体制をとります。」

『今度は二人で腕を組んでみよう!』

「・・・こうですか?」

「ちょ、ちょっとミサカ!?」

『3・・・2・・・1・・・』

パシャ

二枚目は無表情で腕を組むミサカと顔を赤くした瀨那の写真だった。

「ミサカ、別に忠実に従わなくても良いんだぞ?」

「ですがそう指示していると言うことはそれがベストな方法だからなのではないでしょうか?」

「・・・・・・もう、好きにしてください。」

それから瀨那とミサカはとても機械の指示に忠実に従ったのだった。

機械から出てきた瀨那は疲弊していて、ミサカは達成感であふれていた。

「しばらくゲーセンは行かない・・・。」

「なかなか良く撮れてますとワタシは感嘆の声を漏らします。」

ミサカは等分した写真を瀨那に手渡した。

そこには腕を組んだ二人の写真とヤケクソで笑う瀨那が驚いたミサカをお姫様だっこしている写真があった。

 

 

 

 

「外は暑いですね・・・とワタシは汗をぬぐいながら呟きます。」

「それじゃ公園でも行くか。」

近くにあった公園は比較的森林が多くそれだけでも暑さが緩和された。

二人は木陰のベンチで腰を下ろし、しばらく涼んでいた。

「アナタは最近お姉様に会いしましたか?とワタシは突拍子のない質問をします。」

突然御坂美琴の話題が出てきたので瀨那は少し戸惑った。

「ああ、会ったよそれであいつがどうしたって?」

「いえ、ワタシがお姉様にお会いしたところもう自分の目の前に姿を現すなと言われてしまいまして。」

「それはどういう意味だ?」

「分かりませんが、どうやらお姉様にとってワタシは否定したい存在のようです。」

そう言った御坂は自分の胸に手を当てた。

「それから体の異常は無いのですが胸のあたりが痛むのです。」

それを聞いて瀨那は驚いた。そして無性にうれしく感じた。瀨那はミサカの頭に手を乗せて優しくなでた。

「それは悲しいって感情なんだよ。」

「悲しい・・・これが、悲しいですか。ではなぜアナタは笑っているのですか?」

「うれしいからに決まってるだろ。」

そう言うとミサカは少しムッとした表情になった。

「人が悲しんでいるところを見て喜ぶのですかアナタは?」

「いや、そうじゃないんだ。俺はお前にもちゃんと感情があると分かってうれしいんだよ。」

妹達はただの実験動物じゃない。それが分かっただけでも瀨那にとっては大きな収穫だった。

 

 

 

「今日はありがとうございましたとワタシは頭を下げます。」

「ああ、今度また行こうな。」

「・・・・・・はい、次の機会があったらまた。」

途端にミサカは声のトーンが落ちる。そしてまた胸に手を当てた。

「・・・どうした?」

「悲しいとは少しまた違った痛みを感じます。明日になるのが恨めしいです。」

「たぶんそれは寂しいんだよ。」

ミサカはしばらく目を閉じて、意を決したように口を開いた。

「あ、あの・・・それではまた今度。さようなら。」

「お、おう・・・じゃあな。」

安心したのかちょっとだけ和らいだその表情に不覚にも瀨那はドキッとしてしまった。

ミサカは振り返るとあっという間に人混みに紛れてしまった。

 

 

 

帰り道に路地裏へ入っていく一人の少女を見つけた。常盤台の制服、不釣り合いな無骨な軍用ゴーグル。

「お、おい。ちょっと待てよミサカ!」

瀨那はその少女の行く手をふさいだ。

「正確には10011号です。とミサカは答えます。」

「お前この先に死しかなくても行くつもりなのか?」

「はい、ミサカはそのために作られましたので。」

瀨那はミサカの肩をつかんでまっすぐその目を見つめる。

「死ぬんだぞ?お前怖くないのかよ!?」

「はい、ミサカの体は単価にして18万円の取るに足らない存在です。それに今ここでミサカを止めても別のミサカが事件に向かいます。そうなると最も近場にいる10032号が対象になりますが。」

その言葉を聞いて瀨那の心は揺らいだ。その隙にミサカ10011号は路地裏へと消えてしまった。その場に瀨那は崩れるように膝をついた。

そして薄暗い路地裏の中で叫び続けた。

「畜生・・・畜生・・・くそがぁああああ!!」

 

 

「こんな路地裏で何叫んでいるんですか超イカレちゃったんですか?木山瀨那さん。」

瀨那の目の前にフードをかぶった少女が現れた。

 

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