とある科学の絶対波動〈アブソリュートウェーブ〉 作:skav
「こんな路地裏で何叫んでいるんですか超イカレちゃったんですか?木山瀨那さん。」
そんな声が聞こえてくると思った瞬間、ふわりと瀨那の体が浮いた。そして背中に強い衝撃がかかる。
「うぐ・・・・・・な、何が・・・。」
強い衝撃に一瞬目の前がゆがんだが、何とか自身を掴んでいる人間を視界にとらえた。
フードをかぶった小柄な少女、絹旗最愛だ。
絹旗が手を放すと、瀨那はずるずると地面に崩れていった。
「全く超見るに堪えない姿ですね。この前の威勢はどこへいったんでしょうか?」
「お前には関係ない・・・邪魔をするな。また邪魔をするなら・・・。」
「邪魔をするなら殺す、ですか?ふん、本当にアナタにできるんですか?超甘々なアナタが。」
小馬鹿にするような言い方で絹旗は肩をすくめて首を横に振る。
「・・・何が言いたい?」
すると瀨那の耳元でゴン!と鈍い大きな音が響いた。そしていつの間にか絹旗の腕が右頬をかすめて壁に突き刺さっている。
「迷惑なんですよ、殺せる度胸も無いくせに私の邪魔ばかりして。超舐めてやがりますね。」
絹旗はさらに壁に刺さった腕を押し込んでいき、少しずつその冷血な表情が瀨那の顔に近づいていく。
「・・・そうだよ、俺は人を死なせるなんてまっぴらごめんだ。本当なら傷つけるのだって・・・。」
「だったらなぜわざわざ裏に首を突っ込む真似をしたんですか?」
「なんでだって?そんなの決まってるだろ、アイツが傷ついているからだよ。誰かを傷つけないと、アイツを救えないから・・・!」
能力使用、対象窒素装甲。妨害開始。
瀨那は壁に刺さっている絹旗の腕を”掴んだ”。
「く・・・上手く演算が・・・、他にも超厄介な使い方がありましたか。」
「窒素の自由エネルギーを上げる方法はこれよりもアンタの負担が小さいからそうしたんだ。水があったらこんな方法使わなかったのに。麦野の時だってお前達や美琴が殺されかけたから・・・。」
演算の妨害を受けた絹旗はもはや華奢な少女でしか無い。しかし絹旗は瀨那を睨み、口を開く。
「それが超甘いと言ってるんです。世界はそんなに綺麗にはできてない、あるのはいつだって闇”アナタだって分かっているでしょう?”」
「分かってるよ、そんなもの”ガキの時から”な。だけどな、確かに綺麗な世界もあるんだよ。それを求めて何が悪い。闇から救い出して何が悪い!」
瀨那はまっすぐに絹旗の目を見る。それは優しくて強い意志のこもった目だった。
「か・・・勝手にして下さい。やはりアナタは超馬鹿です。・・・それでは失礼します」
いつもよりもフードを深くかぶり直した絹旗は路地裏を抜け、人混みの中へと消えていった。
「全く・・・何であの人はあんなに甘いんですか。」
瀨那のあの目は絹旗にとって初めて見る目だった。熱した鉄のように熱く、固く。しかし全てを包み込むような確かな優しさ。その目が自分だけを見ていたと思うと、つま先から頭の頂点まで駆け巡るものを感じる。
まただ。また掴まれた腕が熱い。胸が痛い、誰かに鷲掴みされているみたいだ。心臓が異常なほど早く血液を全身に送ろうとしている。顔が熱い、軽く目眩を感じる。何を考えているのか自分でも分からない、思考がめちゃくちゃだ。
今の自分の顔を誰にも見られないように少女は深く、深くフードで隠した。