とある科学の絶対波動〈アブソリュートウェーブ〉 作:skav
「・・・それで、何のようかな?」
突然瀨那は白井黒子の呼び出しを受けた。なにやら聞きたいことがあるらしく、今はファミレスにいる。瀨那が話を切り出すと、黒子は神妙な顔つきで話し始めた。
「最近お姉様の様子がおかしいのですが、木山さんはなにかご存じではありませんか?」
「心当たりが無いと言えば嘘になる。そっちでの美琴はどんな様子なんだ?」
「頻繁に外出するようになって、寮に帰るのも夜遅く。ついこの前は翌朝に帰ってくることがありましたの。理由を聞いても答えてくれませんの・・・。」
その理由を瀨那は知っている。しかしそれを話してしまっては今目の前にいる少女を危険な目に遭わせてしまう恐れがある。
「確かに・・・美琴はいま世間にはあまりよろしくないことに関わっている。俺からはそれくらいしか言えない。」
「今朝お姉様がおかしな事を聞いてきたのはそれが原因なのですね・・・。」
「おかしなことって?」
「『もし私が学園都市に災難をもたらすことをしたらどうする?』と、お姉様はおっしゃってましたの。」
学園都市の災難と言う言葉にいまいちぴんとこない。だが、彼女はなにか取り返しの付かない
ことを企ていているのではないか。瀨那の首筋に嫌な汗が流れた。
「アイツは・・・何を考えてるんだ。」
「ですから私はたとえお姉様でも、容赦はいたしませんと答えましたの。」
「強いな・・・さすが風紀員を務めているだけのことはある。」
「ええ、ですから・・・。」
黒子は一度言葉を止めてテーブルに頭が付きそうなほど深く頭を下げた。
「どうかきっとお姉様の力になって差し上げてくださいまし。私には頼って頂けるほどの力はありませんの。」
「分かった。絶対にアイツを助ける。それでまたあの公園でクレープでも食べよう。」
「ありがとう・・・ございます。」
黒子と別れた瀨那は中心街の方に向かって歩いていた。人が多い場所にいればもしかしたら美琴と遭遇するかもしれないからだ。すると見覚えのあるツンツン頭を瀨那は見つけた。
「おーい、当麻。補修の帰りか?」
「あー・・・んっと、誰だっけ?」
何とも真抜けた返答に瀨那はかくっと姿勢を崩した。
「おいおい、まだボケるには早すぎるだろ?それとも暑さで頭がやられたか?全く木山瀨那さんの顔を忘れるとは・・・。」
「お、おう・・・悪い。それで、何か用か?」
「御坂美琴・・・お前の言うビリビリ中学生を見なかったか?」
少し様子のおかしい級友をとりあえず放っておいて、瀨那は美琴の事を優先した。
「ああ、アイツならついさっき会ったな。なんか機嫌が悪そうだったけど。」
「機嫌が悪いって、例えば?」
「なんかあの飛行船を見て、嫌いだとかなんとか。」
「ふーん・・・で、どっちの方に消えたんだ?」
「確かバスターミナルの方だった。」
学園都市の災難、飛行船、バスターミナル、この単語から導き出されたのは・・・。
「樹形図の設計者・・・。」
「どうしたんだ?」
「いや、何でも無い。ありがとうな当麻。」
当麻の礼を言って瀨那は急いでバスターミナルへ向かった。しかし、23学区に向かうバスはすでに出て行ってしまっていた。次のバスを待つ時間は無い。
「くそ・・・何か他に移動手段は・・・。あの人に頼むしかないか。」
瀨那はある人物に連絡を取った。
「君から電話するなんて珍しいじゃないか。」
「すみません、時間取らせて。」
ガヤルドの助手席で瀨那は運転している春生に謝った。
「別に構わないさ。丁度息抜きをしたかったところだ。それでどこへ行くんだい?」
「23学区です。おそらくそこに彼女がいる。」
「君も随分彼女に熱心じゃないか。まあ、私が干渉することではないがね。」
「アイツはたぶん樹形図の設計者を破壊しようとしています。それだけは止めないと・・・。」
瀨那の言葉に春生は全く驚くそぶりを見せない。ただ前を見てステアリングを握るだけだ。
「無駄だと思うがね・・・。」
意味深げな言葉だ。何に対して無駄だと言っているのか。美琴の使用としていることか。あるいは・・・。
「何か知っているんですか?」
「実際に目で確かめた方が手っ取り早い。」
少し不安そうな瀨那の顔を横目でちらりと見た春生は「ふっ・・・」と小さく笑った。
結論から言うと美琴の目論見は完全に外れたようだ。樹形図の設計者は謎の攻撃により撃墜、消息を絶っていたからだ。駐車場に戻り、車に乗り込むやいなや瀨那は春生を問い詰めた。
「春生さん知っていたんですか?」
「私も例の研究について個人的に調べていてね。そのとき偶然知った。」
春生はシートの後ろにあるわずかなスペースからファイルを取り出して瀨那に渡す。そこにはあの研究の詳細がのっていた。
「樹形図の設計者を失っても計画は順調に続いている、全く彼らは何を考えているのやら・・・。」
春生の言葉は瀨那の耳に届いていなかった。ある一枚の紙を瀨那は凝視していたからだ。
第10032次実験、使用検体10032号
開始時刻日本標準時間午後8時30分
使用用途「反射を適用できない場合による対処法」
明日の朝を過ぎればあの驚いた顔も、不安そうな顔も、少しだけど楽しそうに笑った顔も全て消えてしまう。いなくなってしまうのだ。
「止めなくちゃ・・・絶対に。」
ふと窓から外の景色を見ると風も吹いていないのに風車が”逆に回っていた”。電気使いの能力者が電磁波を発しているのだろうか。
電気使い。もしかしたら彼女かもしれない。いても立ってもいられなくなった瀨那は隣の春生に告げる。
「春生さん、止めて下さい。急用ができました。」
瀨那に言われるがまま春生は車を路肩に止めた。こうなることは予想していたようで、特に慌てた様子は無い。
「これで彼女の闇が取り払われれば良いのだが。これはたぶん君にしかできないことであり、君がすべきことなんだろう。」
「そうですね・・・間に合えば良いんですけど。」
車から飛び出そうとする瀨那をなぜか春生は待ちたまえと呼び止めた。
「何ですか?」
「いってらっしゃい、瀨那。」
母親のようであり、姉のようでもある不器用なたった一人の家族はそう言って瀨那を送り出した。その一言だけで十分思いは伝わってきた。
瀨那は回る風車を手がかりに寄るの学園都市を走り続けた。
「おい、木山!」
走る瀨那を呼び止めたのは本日二度目の上条当麻だった。彼の手には紙の束が握られている。
「なんだ当麻かどうしたんだ?そんなに血相抱えて。」
「それはこっちの台詞だ!御坂は今どこにいるんだ!?」
瀨那はちらっと当麻の手の中にある紙束をみた。そこにはあの研究についてのレポートと、その関連施設の情報がのったものだった。
「おまえ・・・それどこで手に入れたんだ?」
「そんなことどうでもいい!知ってるなら教えてくれ!」
「いいから・・・!どこで手に入れたんだ!?」
「っ・・・み、御坂のぬいぐるみに入ってたんだ。」
つまり当麻は常盤台中学の女子寮に侵入して泥棒まがいのことをやってのけたわけだ。おそらくいつもの放っておけない癖がはたらいて。
「はぁ・・・全くサイテーだなお前。お人好しなのは記憶を失っても変わらないか。」
「なっ・・・・・・。」
何で分かったと言った表情をする当麻。
「昼間の異常行動を見れば大体予想が付く。それにお前俺のこと木山って読んだしな。普通なら瀨那って読んでるのに。」
「い、今はそんなこと言ってる場合じゃ無いんだよ。知ってるのか?」
「確証は持てないけど・・・いや、アイツは絶対にあそこにいる。だけど、お前には教えられない。」
その言葉に怒った当麻は瀨那の胸ぐらを掴んだ。
「何でだよ!御坂が危ねえんだ!」
「・・・お前には関係が無いからだ。」
「関係が無いから助けちゃいけないのかよ!?ならお前には関係があるって言うのかよ!」
「ああ関係があるさ!俺は御坂美琴を助けないといけない理由がある!」
「だったら俺も行く。俺にも何か役に立つことだって・・・。」
そう言って当麻は瀨那の胸ぐらを掴んだ右手を放して、拳を作り見つめる。
「・・・ごめんな当麻。」
当麻が反応するよりも早く瀨那はありったけの力を込めて当麻の腹部を殴った。完全に不意打ちだった当麻は急速に意識が遠のいていくのを感じた。
「せ・・・・・・な・・・。」
「今回だけは・・・今回だけは俺とアイツだけの問題なんだ。だから・・・ごめん。」
意識を手放し崩れ落ちる当麻を瀨那は受け止めた。
「春生さん、一人朝まで預かっておいて欲しいんですけど。」
『分かった、すぐに向かうから君は早く行きなさい。』
「・・・ありがとうございます。」
もう一度当麻にゴメンと謝ってから瀨那は再び走り出した。
風車の回る勢いがどんどん速くなって行くにつれて、瀨那に緊張の汗が流れた。
橋の上に追いかけていた彼女の姿があった。弱々しいその背中は誰かに助けを求めているようだった。
近づく瀨那の足音が聞こえたのか、美琴は振り返る。そしてその姿を見て驚いた様な、やっぱりと言った様な顔をした。
「やっと見つけた・・・。」
緊張と安堵の混じった声が瀨那の口から漏れた。