クリスマスが暇だったんで速度が跳ね上がりました。要するにご察しください。
今回は予告通りこの作品では珍しいかもしれないシリアス回です。弓道の描写に関しては大体こんな感じなんだろうなーくらいで捉えてもらって大丈夫です。それではどうぞ。
「選抜大会…か」
岡城先輩から配られた用紙をか見てため息のような感覚の声が出た。
別に大会が嫌いじゃない。どちらかといえばこれまでに鍛えた実力を見せれる場面としてはこれ以上ないことだ。今も調子が悪いわけではないけどなんとなく身体が重かった。
隣で用紙に目を通す園田を横目に俺は空を眺めていた。
最初は他にも同期がいたが様々な理由でやめていき1年の部員は俺と園田だけになっていたし今年最後の公式戦でもある。
「必ず関東には行こう」
それが俺の願いだ。
「だからもうちょっと残って練習するか」
*****
「男子、ゼッケン番号61番から75番は待機場所に向かってください」
役員のアナウンスによって呼ばれた選手はどんどんと集まっていく。
「…気分が上がらない」
その中で俺は弓道の調子が悪いわけではないけど相変わらずあの時の感覚は残ったままだった。
「波野さん行かないと」
俺が考え詰めていたからか園田が心配そうな顔をして見てた。
「あぁ分かってる」
園田も気づいてると思う。何か変だと。でも後悔のしないようにしないとな。
これまで使ってきた相棒の弓と矢を持ち戦いに挑む。
*
「くそッ、これだと関東も怪しい…!」
12射が終わった段階で俺の的中数は8だった。最初は良かったものの9〜12本目がほとんど当たらなかった。なぜ急に調子が悪くなったのか自分でも分かってなかったしその自分にイラつく面も少し出てる。
残りの8射でどうにかして本数を出さないと関東に行くのは厳しい。ただでさえ東京は人数も相まってレベルが高いというのに。
過去の傾向から見れば東京は他の県では関東大会出場のラインが脱落圏内になっていたりする。もちろん運も絡むが大抵変わることはない。
「どうにかしないと」
焦燥感に駆られていた俺は昼飯を食べることすら忘れていた。代わりに口には血の味が広がっていた。
「緊張は解けてきた。まだ立て直せる」
射場に立ち自分の心を鎮め落ち着かせる。鼓動は身体に響き反響し合って徐々に消えていく。ここまで練習してきた。努力はした、音乃木坂なら誰よりも練習している自信はある。だから、だから…!
弓を構え、矢を番え、眼を瞑る。
何を思ってここまで過ごした。
俺にならできるだろ。
必ず。
弓を引き分け会にもっていく。動作は止まる。
放つ!
しかし、音は何も聞こえなかった。
微かに矢は的の右側すなわち前に刺さってた。
「あ…」
言葉が出ない。手は無意識に震えてた。歯車に何かが挟まり動かなくなったような、どうしようもなかった。どうすればいいのか自分でも分からない。壊れたガラス細工は元に戻らない。割れた鏡は1つのものを正しく映し出さない。
元に戻す方法はその場では思いつかなかった。
結果から言えば関東は16、全国は18が出場ラインだった。俺の的中数は12、後半でも引っかかったものは取れず本数は伸びなかった。それに後半の1本目を外した時点で関東大会にも出場できなかったし、圧倒的に実力が足りてない。園田は射詰競射まで進んだが関東大会まで惜しくも1本足りなかった。
「なぜだ…!」
分からない。底無し沼に腰までが既に浸かっているくらいそれくらい困窮してた。
「波野さん、閉会式が…」
「あぁ、分かってる!」
苛立ちはついに感情をも侵食していた。少し引きながら瞳を見つめた園田は何も語らなかった。どちらかと言えば園田はあと1本中てていれば関東大会に出場できたのだ。
俺なんかよりよっぽど悔しいのは分かってる。
「…ごめん、すぐに行くから」
余裕もなく苦し紛れに静かに返事をしてコンクリートの地面から目を離した。
どこか上の空で遠くを眺めても曇天が広がるばかり。いつも空を見上げればそうだった。
早くここから去りたい、嫌なことばかりが表面に浮かんできて辛かったんだ。
「おい、お前」
「…俺に何か用か?」
下を向きつつ声の聞こえる方向を見ると袴が映っていたため顔を起こした。
「お前最初の方は調子良かっただろ、射形も綺麗だった。なぜ失速した」
…ッ、人が1番気にしているところをづけづけとつけ込みやがって!
「…俺が知りたいよ。あんな結果で満足できるわけないだろ」
「俺は今回の大会で関東大会への切符を掴んだ」
「…ッ!」
「お前だって普通に考えれば」
「うっせぇよ!というかあんたは誰なんだ。傷口に塩を塗るような真似しやがって!」
「俺の名前は
「あぁ…確かにそうかもしれないな。だが今は」
普通は入賞者同士で交流をするものだ。そうする理由が分からない。
「少なくともそういう人間に会う気持ちじゃない…だろ?」
「ご名答、君が何をしたくて俺に話しかけたのかは知らないし、特別扱い云々の話じゃないと思うけど」
「…1年では俺の次はお前だった」
「1年…弓道歴は?」
「4月からの7ヶ月だ。今まで色んなことに手を出してなんでもやってのけた。この世界でも俺は頂点を目指す」
「それは俺だって…いやなんでもない」
いつもの俺なら対抗できた。そう、いつもなら。
「今度は頂点で会えることを期待してる。これ連絡先だ。まだ話したいことは沢山あるからまた連絡する」
長瀬は挨拶がわりに手を挙げ立ち去った。
「…才能の天才か。俺にはなれそうもないな」
***
「まだだ、この程度じゃ追いつけない」
あの苦い試合から俺は時間の限り練習を続けていた。現に今の時刻は9時だ。最終下校時刻は過ぎている。
「では、私はお先に失礼します。戸締りなどよろしくお願いします」
「了解、そっちも気をつけて」
園田を見送り練習を再開する。1週間経過しても引っかかることばかりだ。
「何も解決しない、なぜだ?」
弓道を3年やっていながら今回の感覚に確信をもって原因を特定することがまだできていなかった。単に的中させる上でのミスなのかそれとも精神的なものなのか。ただの調子の悪いドン底か。
弓道場は道路と面しているが車通りは少なく静かだ。道場にはただ弓の射出音が聞こえるだけ。
練習の潮時はいつも迷う。きっかけはいつも突然、要するに感覚だ。だが、今はその感覚が融解してる。残酷な話だよ、今まで当たり前のようにあったものがなくなるってのは。
「あれも違うしこれも違う…」
俺は基本的に部活以外の時間は自分の射形を考えたりすることはない。しかし、大会が終わってからというもの飯を食べている時、風呂に入っている時何をしていても弓道のことが頭に浮かぶようになった。
調べたところで何も変わりはしないしなぁ。
カウンセリング…受けた方がいいのか?
「夜も更けてきたし帰るか」
「…少しはマシになった」
調子は少しずつ戻っているような気がした。あれから3週間経ち大会のことなど本当ならとっくに昔のことのはず、だったのだが濃縮されて昨日一昨日の事実のようで鮮明だ。
想いを乗せ的に飛ぶ自分の矢が的に刺さらなかった。今でもこの事実は脳内に刻み込まれていて消えない。
今日も本数を引こう。誰よりも。
弓と矢を持ち射位に入る。
射法八節の動作これを何回繰り返してきたことか。
大三、引き分け…
「ぐッ…!」
引き分けをしている最中に右肩に激痛が走った。引き切れないままに痛みで右手は弦を離し矢は的までの半分にすら届いていない。
「このッ!!動けよ!!」
しゃがみこみ、右手で弓を持ち左手は右肩を守るように覆った。
「どうしたの!」
岡城先輩が駆け寄ってきて俺の顔の正面、睨むような目でこちらを見た。
「…引き分けてくる時に右肩に痛みが」
「やっぱりね…」
「波野君今日のところは帰って病院に行って」
「なっ…帰れなんて受け入れれる訳が」
「部長命令よ。頼むから今すぐに病院に行って」
その目に嘘はなかった。
「…分かりました。お先に失礼します」
「何がやっぱりだったんですか?」
「海未ちゃん…彼あの大会から相当無理してたみたい」
「無理…練習のし過ぎですか?」
「うん、肩に痛みが出たのはそれが直接的な原因だと思う」
「私が引き止めていれば」
「海未ちゃんが気にすることじゃないよ。でも、もっと深刻な問題は彼の心だね。肩を痛めるようになった引き金でもあるし」
「あの時波野さんは私でも見たことのない苛立ちしてました」
「中学から弓道をやって上位を取れていた、彼はその高いレベルまで引き上げられているのよ。もちろん海未ちゃんもだけど」
「いえ、そんなことは。波野さんは元々練習量は多かったですし私は家の都合で早く帰ることもありますから」
「彼の具合も見つつだね。女房役お願いね?」
「にょ、女房ってそんな」
「…そこ顔真っ赤にするとこじゃないよ?」
「す、すみません。ですが彼の自信を元に戻すならばやはり試合でいい結果を残すのが1番だと思いますが」
「私もそう思う。けど今年はもう試合がないし部内試合をやったところで彼の心が満たされる訳でもない。少なくとも次のインターハイ予選まで…か。遠いね」
「そこまでとなると正直彼の心が保つのかも心配ではあります」
「試合以外でインパクトのあること…唯一あるとすれば海未ちゃんのことかな」
「私ですか?」
「海未ちゃんなら彼の意識を変えることができるかもね」
「肝心のどうやるかが決まってないじゃないですか」
「だからあまり気を背負わなくていいよ。ある程度なら私がやっておく。海未ちゃんまで潰れられると私の首が回らなくなっちゃうし」
「笑って言ってますけど結構マズイですよそれ」
「とりあえず海未ちゃんも無理しちゃダメだよ。ありがとう話に付き合ってくれて」
「私も気持ちが楽になりました。ありがとうございます」
*
「波野さんお入りください」
「…はい」
「えっと今回の症状なんだけど、結果から言わせてもらうとこのままの練習を続ければあなたは弓道をできなくなります」
「…できなくなるですか」
「話によるとあなたは練習量が元々相当多い、練習量だけならどこと比べても恥ずかしくないとは思います。更に今は練習量が増えていますがあなたはそれに合っていない」
「普段でも疲労のボーダーラインのギリギリを上下してるあなたでは今回のように身体が悲鳴をあげ続けるのがオチです。
筋肉が傷みボロボロになれば怪我を引き起こしやすくなる。止めるなら今しかないですよ。波野さん」
「…そうですよね。この1ヶ月空きがあればずっと練習し続けてました。でも、何も変わらなくて何も成長しなくて全く楽しくなかったんです」
「1度心を休めるべきだと思うよ。これを機会に見直してみなさい」
「分かりました、ありがとうございます」
次の日俺はそのことを岡城先輩に報告した。返ってきた返事は
「波野和也君、あなたを1週間クラブ停止とします」
俺も周りも凍りついた。その中で岡城先輩は更に口を開く。
「色々考えた結果あなたに今練習をさせたところで意味がないんじゃないかという結論に海未ちゃんとなったわ」
「ですが!」
「あなたのためを思ってる。苦しいのは分かるしそれを引きずり続けるためには弓道をやり続けるしかないのも分かってる」
「なら…」
「これはいい機会として思って欲しい。猶予である1週間弓道を考えず過ごして。これも命令」
「職権濫用でしょそれ」
「こうでもしないと波野君は止まってくれないでしょ」
「そうではありますけど」
「だから色々休憩してね?試合が迫ってる訳じゃないから」
「わざわざすみません。こんなことで」
「部長として先輩として当然だよ。波野君に怪我が悪化して弓道できなくなりました。なんて言われた日には何回ビンタしてるか分かんないし」
「反省しておきます」
*
「はぁ、弓道のことを考えるなと言われてもな」
部活に出ることもないため日の暮れないうちに自宅に帰るなんていつぶりだろうか。自分でも諦めがつき始めてた。リフレッシュするべきなんだろな。
園田にも迷惑をかけた。今度会った時何か奢ろう。
いつも歩いている通学路。今日の足取りはとても早く感じた。家にあっという間につき鍵穴に鍵を挿す。
回すと当然ドアは開くのだが開けようとしても開かなかった。
「え、鍵閉めて出たよな俺」
もう一度鍵を回してからドアを引くと開いた。最初からドアは開いていてわざわざ俺は1回閉めてからまた開けたことに気づいた。なんて無駄なことを。
溜め息をつきつつ階段を上がっていくがリビングの電気がついていた。
「流石にリビングの電気を消したことくらいは覚えてる」
じゃあなんで電気がついてる。強盗か?こんな昼間に?最悪武道でねじ伏せることもできなくはない。開けるぞ。
「あっはっは。面白いや」
…マジか。
そこにいたのは呑気にテレビを見ながらソファにもたれくつろぐ俺の姉の
「姉さん何やってんの」
「何やってんのって言われても元は私も住んでた家だし」
「まぁいいよゆっくりしてて。なんだかんだで久しぶり、今は2回生でいいのか?」
「そうそう、会うのは半年ぶりくらいかな?」
「もう少し経ってた気もするけどいいや、いつまでいるんだ?」
「明日の朝までかなぁ朝食もお世話になるかも」
「分かった、晩飯はどうする家で食うか?」
「食べる!」
「何がいい?」
「んーハンバーグで」
「分かった作ってくれるんだよな?」
「私客なんだけど?あとは分かるよね?」
こいt…姉さん昔はもっと融通きいたんだけどなぁ。
「ま、いいよ。久しぶりに家で羽伸ばしてくれたらいいよ」
「さっすがぁ和也は物分かりがいいねー」
「あまり余計な口叩いてると追い出すよ?」
「あーもうごめんってお願いします」
「はいよ、勝手に煮込みにしたけどどーぞ」
「いただきます!」
俺は姉さんのこの元気にいつも助けられてたのかも。
「…おいし、もしかして和也毎日自炊してる?」
「まぁそりゃな、簡単なもので終わらすことの方が多いが生憎最近は時間が有り余っているのでね」
結局は気にしちゃってるんだよな俺。戒めでもあるけど。
「へぇ〜弓道はどうしたの?」
「色々あって…な、今は自重してる」
「ふ〜んあまり聞かないようにはするけど身体壊さないようにしてよね」
「うぐっ…了解」
それもう1週間前に言って欲しかった。
「えっ、もうやらかした感じ?」
「ちげーよもうほらさっさと食べちゃって」
「はいはーい。あれ和也ご飯食べたっけ?」
*
「姉さんの側にいるとやっぱり元気になる…な」
写真立ての中の写真にいる俺。小さい頃は今より少し臆病だった。どこへいくにも姉さんの後ろにトコトコついていったし、いつも袖をギュッて掴んでた。
俺にも姉さんのようなその太陽のような明るい元気欲しかった。後ろに隠れていた俺は…静かに微笑む月だろうか、それとも苦し紛れな無謀な隕石か。
「月は太陽に変われない。ならば太陽も月に変われない」
人にはそれぞれ個性があってその個性は誰かが求めてるんだって母さんが言ってくれたんだ。
…俺ちゃんと戻ってみせないとな。
「和也ーって電気もつけずになにしてるの?」
「…ちょっとした思い出をね。さ、冷蔵庫にゼリー冷やしてるから食べようぜ」
姉さんに変な心配はかけたくないからさっさとキッチンに戻ろう。
「ほんと!?食べる食べる」
「悩んでるくせに…素直じゃないんだから」
「姉さん本当にそこでいいの?」
「大丈夫だって敷布団あるし特別寒い季節でもないんだから」
「なんかあったら遠慮なく起こしてくれよ」
「その時は頼らせてもらうね」
「じゃおやすみ」
「おやすみー」
「元気に…そうだな、そうだよな」
自室に戻り勉強机の前に座り自習用のノートを開く。
「これはなんだ?」
ノートの栞代わりに使っていたものだろうか。2つ折りになっていたため開くとそれは今月の学校の予定表だった。
え、3日後になんかあるみたいだ。1年行事予備日って書いてる。そういや4月にあったはずの1泊2日の宿泊学習が延期したんだよな。天候が悪かったとか病気が流行ったとかもなしに。最近11月に延期せれた行事があるのが楽しみだって涼輝が言ってたかも。
ちょうど1週間以内…弓道を忘れて過ごすにはうってつけかな」
明日2人に聞いてみよう。
「明日のこと考えたらすげー眠くなってきた」
もう寝ちゃおうか、どうせ勉強する時間はあるんだし。気長にやろう。
「おやすみ」
倒れていた写真立てを戻しベットにその身を任せた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
現実でも努力を裏切られるってのは結構心にくるんですよね。彼と弓道は葛藤の連続でこれからも苦労しそうです。(謎目線)
10月、11月の話が多すぎて話が進みません。次もまた長くなりそうな予感です。できれば年明けまでに、悪くても冬休み終わりくらいまでには投稿したいと思っております。
最後に十六夜64さん、フユニャンさん、はるかずきさん、東雲 アキさん、hiraPさんお気に入り登録ありがとうございます。