想いのカタチ   作:新茶

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約8ヶ月ぶりくらいの新茶です。
今まで連絡なども行わないまま放置しており大変申し訳ございませんでした。少しづつ執筆は進めておりましたが構成がまとまらないことに加え、生活に余裕がなくなったことが今回のような事態をさらに助長させてしまいました。
今年は5年ぶりくらいにインフルにもかかりました。皆さんもこれからの環境の変化などお身体をご自愛くださるようお願いします。


第17話 クリスマス会

「期末テスト、終わったねー」

 

「「そーだなぁ」」

河川敷なんていうラフな環境のスポットは見つからなかったために俺の家でテスト終わりで完全燃焼した3人がテーブルを囲んで座っている。

 

「なー、なんかしようぜ」

涼輝がそう呟くものの、彼自身からもやる気は感じられない。とりあえず俺は席を立ち冷蔵庫にジュース類を取りに行くことにする。

 

「やっぱり今年もこの時期は暇だなぁ」

寝転がりスマホを両手でいじり続けていた陸斗がそう呟く。俺だって暇にしたい気分では勿論ない訳だが。

 

「クーリスマスが今年もやってくるー」

 

「嬉しかったできごとを?」

 

「消し去るように?」

 

「は?」

 

「え?」

 

「…エゲつなぁ」

 

「そんな歌詞求めてないから!」

唐突な涼輝の歌い出しから絶望的な陸斗の繋ぎで色々とショックを感じる俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局のところどうするの?」

先ほどのクリスマスソングらしく期末テストの終わりによってもうすぐ12月も中旬に突入する。みんな部活があると言えばそれで済むが、認めたくないだけでなく更にどんちゃん騒ぎしたいのが毎年の恒例。

 

「とりあえずゲームしながらでもさ」

 

「バカか、それで毎年結局決まらなくて俺ん家に毎年突撃されるのが困るんだよ」

親がいる時に連絡なしで来るもんだからマジビビった。姉さんは色んな意味で『大丈夫?』みたいな顔されたし。父さんはゲラゲラ笑い出すし、母さんなんて案外冷静に『ご飯一緒にどう?』とか言うから…

 

「毎年楽しい感じじゃん」

 

「普通の家ならそれこそアウトだよ」

 

「でも、今年は家族いないんだよね?」

 

「一人暮らしだからな…って行かせないからな?」

 

「いつも通りでいいだろ?」

 

「今年もクリスマスケーキ買ってくるじゃん」

 

「違う、そうじゃない」

今年も騒がしいクリスマスになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、何作ろうかな…」

今年は母さんが作れるわけもなく1人ということもあって何を作るか1人で決めて1人で作らないといけないのが非常に辛いところ。

 

「あいつら本当にケーキ買ってくるんだろうな…」

これで普通に七面鳥でーすとか言われたら洒落にならないけど信じるしかないか。

 

「とりあえずスーパー行ってから決めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、来たはいいが」

とりあえず買い物カゴを手に取るもののカゴはこの10分ほど空のままだ。さらに言えば商品を手に取ってすらない。

 

このまま時間を潰せるほど俺も暇じゃない、何か変化が欲しいのだが…。

と思って適当に店内を見渡すと久しぶりに見る黒髪ツインテールが印象的な先輩が目に入った。

 

「あの人矢澤先輩か?」

それほど派手な服を着ているわけでもない。あの人の性格的に…なんてこと思うものの、見かけで判断するのは良くないと直ぐに切り捨てる。

矢澤先輩は2つの商品を手に取っては悩み片方の商品を元に戻しカゴに入れる。

 

ある程度片がついたのか息を吐き顔を上げた先輩と目が合ってしまった。

 

「あっ」

 

「お久しぶりで…」

 

「見てた?」

 

「見てました」

 

「あっそ」

短い言葉のやりとりを続けしばらく商品棚を挟み沈黙が続く。

 

「逃げるが…」

 

「こんなところで逃げて何になるんですか」

 

「待てと言われて待つ奴がどこにいるのよ…と言いたいところだけど場所だしにこも荷物があるし」

 

「待てとすら言ってないんですが」

 

「で、そんな素っ頓狂な顔してどうしたわけ?」

 

「いや、先輩がスーパーで買い物してるところが絵にならなかったもので。料理されるんですか?」

 

「ち、違うわよ。にこはママのおつかい頼まれてるだけだからー」

この言葉に少々半笑いな先輩に疑いの目を向ける。

 

「なによ!疑ってるわけ?」

逆ギレも混ざりつつ言い返してくる先輩に俺は素直に頼み込むことにした。

 

「そんなとんでもない。夕食の買い物ですか?」

 

「まぁね。クリスマスが近いし、ちょっとしたことは妹たちにしてあげたいからそのことも考えのうちにいれてるのよ」

 

「先輩、妹いたんですね」

 

「弟もいるわよ」

 

「そんな先輩にちょっとしたお願いがあるんですけど」

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで…」

ことのあらすじを噛み砕いて説明し何か反応を求めた。

 

「んーそうね…というかあんた料理できるの?」

 

「ええ、先輩と違ってひと通りは」

ちょっとしたことで釣り出してみる。これも俺の中では楽しいひと時。

 

「にこだって料理できるわよ!」

 

「やっぱり」

 

「…ママに教えてもらっているだけよ」

 

「ええ…で、何をするべきですかね」

 

「はぁ…今ので話す気が失せたけどまあいいわ。結局のところ変なところで悩みすぎよあんた」

 

「と、いうと?」

 

「シンプルイズベストでいいじゃないってこと」

 

「え?1週回ってそうなりますか」

最初にシンプルでいいよなとは思っていたがあいつらのことだからと変にこだわりを入れようとしていたのだ。

 

「それが1番よ、何かあっても対応が効きやすい。変なところに足伸ばしてドツボにハマるのがオチよ」

 

「流石ですね、先輩に聞いてよかったと思います」

 

「当たり前よ、にこがアドバイスしたんだから最高のものにしなさい!」

 

「はい!失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一連のものを買い込み、作るものを整理する。

 

七面鳥の丸焼きをしたかったがある程度の大きさに分けておくことにした。それ以外は基本的に調べれば出てくるかな。

あいつらがケーキを買うならデザートはある程度少なめでいい。午後から作り始めれば十分間に合うはずだ。最悪作りながらやれるし2人にも手伝って貰えばいいか。

 

目安で時間配分を決めて今日は寝ることにする。まぁ日を跨いでいたから既に今日の楽しみになりつつあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝を少しゆっくりと過ごした後時間のかかりそうなものや再加熱すればどうにかなるものを先に調理することにした。

コーヒーを飲みながらレシピを検索しようとお湯を沸かしているところでインターホンが鳴った。

 

「はーい、いまいきまーす」

火を止めスタスタと歩き、ドアを一度躊躇してから開けた。

 

 

 

 

 

 

「…こんにちは」

そこにはコートを羽織り少し頬を赤く染めた園田がいた。なんでここに来れたのだろうと思いつつもとりあえず家に上げるべきだ、部屋着で出てきたから俺も寒いし。

 

「こんにちは」

 

「とりあえず、上がっていく?飲み物くらいならすぐにご馳走できるけど」

 

「そうですね、では上がらせていただきます」

 

「入ったらそのまま真っ直ぐ行くとリビングだからそこに来てくれたらいいよー」

先にリビングにもどり再び火をつけやかんの上に手を添えながらなぜここに来たのかをずっと考えていた。

 

「お邪魔します…」

 

「適当にかけといて、すぐ温かいもの出すから」

 

「いえ、いいんです。今日来たのは涼輝さん…から招待してもらったのです」

 

「あーそういう感じか、でもそれは今日の夜の話だろ?」

 

「ですが、和也さんが今年は全て作ると聞いたので任せっきりにするのも申し訳ないと思ったので」

 

「そうか…」

義理堅い園田らしい行動だった。今日だって時間を何かしらで潰しながら自宅で待てばいいのに。

 

「ダメでしたか?」

園田は不安そうに俺の顔を見てきた。何を考えているから分からず不安にさせたらしい。こうなれば断るのは至難の技であることを今年俺は学んだ。

 

「いーや、人数が増えるならメニューやら量やらを増やした方がいいかなと思ってさ、是非とも手伝い頼めるか?」

 

「そのために来ましたから」

 

「ありがとう、ということはほかの2人も来るのか?」

 

「はい、一応時間はそのままということで。あと量に関しては2人がお菓子を多目に持ってくるらしいので大丈夫だと思います」

 

「了解。紅茶でも飲んで休憩してからでも十分間に合うから少しのんびりしよう」

お盆に乗せたお茶菓子と気分を変え2つの紅茶をさっと出し、微笑んだ。

 

「はい、喜んでいただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、レシピに関しては粗方コピーしておいたし俺はメインの方作るから、園田はデザートの方頼む」

 

「はい、これを見ながら作ればいいんですね?」

家から持ってきたのかエプロンを着ながら俺に聞き返す。日頃から料理をしているのは知っていたものの、エプロン姿は初めて見るし何より元から大人っぽいのもあってとても似合っている。

 

「ああ、別に急いで作る必要はないから。あとはさっとできるものばかりだし、何かあれば全然聞いてくれ」

 

「頼りにしてますよ」

 

「そりゃどうも」

 

 

 

 

 

 

「まぁ豪勢なものを作るわけでもないしソース作って馴染ませてオーブンでじっくりで終わりだしな」

ある程度鶏肉をカットしてしまい、余計な脂身を取り除いていく。

園田はテーブルの方で生地を鼻歌を歌いながら作っていた。

 

「楽しそうだな」

 

「ええ、こういうの久しぶりですから」

 

「久しぶりってのは?」

 

「穂乃果とことりと仲良くなって少し経った頃ですかね。急にことりがみんなでケーキ作りたいって言い出したことがあって…。私と穂乃果は家柄的な向きから和風が軸であることが明白でしたからケーキ作りなんて以ての外だったわけです」

 

「根っからの和と和菓子屋だもんな」

たしかに、洋菓子を作ろうとはほとんどならないだろうな。しかも、初めてがケーキとレベルはそれなりに高めだし。

よく考えてみれば俺もこういう機会くらいで基本的に三食作る程度だ。

 

「誕生日にはケーキを買ってきてくれてましたし、全くというわけではないのですが」

 

「家柄って色々変えるんだな」

 

「たとえどうであっても私は今が幸せですから」

そんな彼女の笑顔が眩しいくらいに俺の目に映り込んできて微笑ましくなった。

 

「幸せ…か」

1年を振り返るには少し早いかもしれない。それでも、今年は何もかもが初めてで真新しくて、そして何よりたのしかった。

苦悩することも多かった、それでも何もかもが自分に必要なことであったのも事実。園田と出会えたことが1番良かった出来事かもしれない。

 

「どうかしましたか?」

つい、手が止まっていたらしい。すぐに包丁を持ち直し葉を刻み静かな音を立てた。

 

「えっとさ、この1年楽しかったなって」

別に大したことではないかもしれないけど、微笑んでくれる園田にありがたさがあった。

 

「ふふ、私もそう思います」

 

「今日が楽しいな」

 

「今晩も楽しまないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、煮込んだり、冷やしたりと俺と園田の手を煩わせない工程が続いている。少し過ぎたものの時計は間食の時間帯を指しており、俺は冷蔵庫から冷やしたカップを1つ取り出す。

 

「とりあえずお疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

「手伝ってくれたお礼というわけではないんだけど、これ食べてみてくれない?」

先程出したものをスプーンと一緒に出す。ついでにとお湯を沸かした。

 

「これは?デザートの類ですよね?」

 

「ああ、チョコビスケットを細かく砕いてから溶かしたホワイトチョコと和えて冷やしてみたんだ。さっきの料理の余り物の家のもので作ってみたんだけど」

 

「食べてみても?」

 

「もちろん」

作ってみたとは言ったが流石に恩を仇で返すわけにもいかないし、ある程度はちゃんと確証を持った上で作っている。

 

「いただきます」

ひと時も作法を忘れず手を合わせてから食べ始める彼女は流石としか言いようがなかった。わざとらしいことが顔に出ないようにとスマホを取り出しそちらに目を向けるものがないかとひたすらにアプリやら検索ワードを漁る。すると小さい声で、

 

「美味しい…」

その声で顔を上げて様子を見てしまう。

 

「そう?」

 

「はい!とても美味しいです」

 

「ならよかったよ」

とりあえず一安心した。本当に不味かったらシャレにならない。

 

「もう少し詳しく教えていただけませんか?」

 

「というのは?」

 

「このデザートです…美味しかったので家も作りたいのです」

最後の方が聞き取りづらかったもののそういうことならと園田を手で『ちょっと待ってて』と合図を送る。自室に向かいルーズリーフとボールペンを持ってリビングに戻る。

時に手が止まりながらも時にスラスラと分かりやすい説明を探した結果だ。

 

「これくらいかな、どうぞー」

 

「ありがとうございます」

 

「そんなに美味しかったか?」

 

「もちろん、よければ一口」

タイミングを失って内心頭を抱えるものの別に白状したところで大した騒ぎでもない。

 

「前に似たものを作ったことはあったんだ。味も似たようなものだし食べなよ、せっかく作ったんだしさ」

 

「わかりました…」

少し寂しげながらもスプーンを口に運べば口角が少し上がっている気もする。

これだけ喜んでくれるなら時折新しいデザートを提供してみるかと口角が少し上がった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きたぞぉぉ〜」

 

「はいはい、開けるから静かにしろ」

 

「お〜っす」

日付だけみると最近の割には久しぶりだと思う顔ぶれ。ドアを開けた正面にケーキを見せつける涼輝、左右に穂乃果、ことり。涼輝の肩から顔を無理やり出す陸斗。

 

「やっほ〜」

 

「久しぶり〜」

 

「元気?」

 

 

「さぁ、上がってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「「「メリークリスマース」」」

クリスマスの夜はどこまでも盛り上がった。

 

「これうめぇ」

 

「こっちもおいしいよ」

 

「このチキンって和也くんが作ったの?」

 

「まぁね、そこのデザートは園田が作った」

 

「すんげぇおいしい」

 

「ありがとうございます」

 

「ゲームソフト持ってきたから後でやろ〜」

 

「やるやる!」

 

「トランプもー」

 

「げ」

 

「どうかしたか?」

 

「何もありませんよ、ははは」

 

 

 

 

 

 

「涼輝と海未ちゃんの一騎打ちだね」

 

「ああ、ちゃんとオチがついて欲しいものだが」

 

「んー和也くんが思っているようにはいかないと思うけど…」

 

「どうしてだ?」

 

「まぁみた方がわかるよね」

 

「うん」

始めたのはババ抜きで現在手札は園田が2枚、涼輝が1枚で今にもカードに手を掛けようとしている。

1抜けだった俺は他が長引いたこともありコーヒーを啜りながらその様子を見ていた。

 

「いやー、うん」

 

「これは」

 

「でしょ」

 

「いつものことだよ」

矢継ぎ早に4人がそれぞれ唸るように声を出した。幼馴染2人にとっては恒例行事だそうだ。

何故そうなったかというと涼輝がカードに手を掛けた瞬間明らかに顔が嬉しそうだったりヤバそうだったりととにかく分かり易すぎる。

両者共に基本的に真っ直ぐ、よって涼輝はヤバそうな顔をした瞬間にそのカードを引き抜いた。

 

「よーし!」

 

「負けてしまいました…もう一回です!」

 

「…自覚してるのか?」

 

「うーん、してないっぽい。ババ抜き始めて10年くらい経つけどいつもこの調子だから」

 

「…教えてやれよ」

 

「いつもああやって迫ってくるんだもん。教えるにもちょっと」

 

「うーん…とりあえずもう一回やろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、またこの対面か」

あのあと何度かやったものの全て園田がカードを引かれて詰む展開だ。ここに来るまでの運も笑えないのは事実だがそれよりも負けが連発するのはやる側としても何というか…要するに勝たせてあげたい。

 

「なぁ、園田の方にサポートに入っちゃうダメか?」

 

「1撃で沈めてや、んーーーーー」

俺の発言を聞いた後の涼輝は明らかに勢いが削がれた。

 

「まぁいいんじゃない?」

 

「じゃあ涼輝には穂乃果が入る!」

 

「「ええ〜」」

陸斗とことりは揃って似たような声を出し結局こうなるのかと項垂れるものの、すぐにこの世紀の一戦を見守ろうと盤上を見つめる。

 

「まず、園田。ただカード出しただけでは多分君は勝てない」

 

「な、何故ですか!」

 

「うーん、それは自分でそのうちだな。で秘策を教える」

負ける確率が100%から50%に減る方法。完全な運頼みではあるが…。

 

「何を仕掛けてくるんだ…?」

 

「本当にそんなことで勝てるのですか。運任せな気もするんですが」

 

「そりゃあ根本的な問題は他にあるけどそれ以外でやるなら、人事を尽くして天命を待つかな」

 

「頑張ります!」

何かを覚悟して2枚のカードを交互に繰ってくる。ひたすらに繰った後そのカードを左右に離すようにしてテーブルにそっと置いた。

 

「別に対して変わんねえじゃねえか」

カードを1枚ずつ手で触れ園田の顔を確かめる。

 

「あれ?」

何度かざしても特徴的な変化が起きない。

この戦いを見守っていた陸斗とことりはヒソヒソと話を始めている。

 

「わかんないよぉ」

頭を抱える穂乃果と眉間に皺を寄せる涼輝、口角があがっているであろう俺、言われたことを必死にこなそうとする園田。

 

「さぁ決めろ」

 

「こっち!」

 

「あっち!」

さらに時間が経って変化してきたことがあり、どちらのカードを触っても園田の顔が険しくなるのだ。これが余計に困惑させる。これは俺の推測だが後々になってくるとこちら側もカードを予想しようとするのだ。だから、ジョーカーはこっちかもしれない、あっちかもしれないと悩み続ける羽目になる。

 

「あーもう!これだぁぁぁ」

カードをめくった涼輝は残念そうな顔をする。

 

「や、やりました!」

 

「ここからは園田の強さが生きる。迷うことなく気持ちを貫いてやれ」

あとは園田の勝負強さがあれば多分大丈夫だ。

 

「はい、引いてく…」

涼輝がカードを構えてから1秒も経たずに引き抜き、マジマジと手元の2枚を見つめる。

 

「揃いました!揃いましたよ!」

さっとカードの山に積み重なるハートとスペードのQが暗示していた。喜びのあまりが腕を組んでなかなかに接触しているのだが本人は気づいていないらしい。

 

「よかった、無事に勝てて」

ホッとできない状況ながらもここまで喜んでくれると素直に口元も緩む。

 

「海未ちゃんが勝ってるとこ初めて見た…」

 

「うん」

幼馴染もこの展開には大真面目に驚いているみたいだ。

 

「初めて?…本当か?」

 

「はい、初めてです!」

 

「はぁ、よかった」

 

「何だよあの作戦」

 

「秘密、教えたらまた園田が負け続ける」

実際のところ、言う言わないに関わらず確率は変化しないのだがな。流石に言ってしまうのも気がひける。まず、大したことをして勝たせた訳でも無いし。

園田はカードを構えた際どちらのカードを引かれるかによって顔に大きな変化があった。なら、カードを見なければどうにかなるかと思ったのだが、終盤にかけてはどちらを引こうとしても表情は変化した。まぁこれは知らず知らずのうちにアドリブでやっていたのだろう。

 

「負けるつもりはありませんからね?」

少し腕の締め付けが強くなったような気がしたが気のせいと信じる。

 

ここからは園田の耳元でしか聞こえない声で話す。

「て、訂正するからさ。その今がっつり腕掴んでるからさ」

自分でもタジタジになっているのは分かっていたもののこれが限界。

耳が瞬く間に赤くなっていき、さっと腕の締め付けがなくなる。

 

「まぁ、園田自身の力で勝てたんだ。よかったじゃん」

 

「それはそうですけど」

少しむすっとした園田を知る由もなく涼輝が冷蔵庫を漁る。

 

「ケーキ食べようぜ」

 

「暖かい飲み物入れ直すね」

 

「手伝います」

 

「お皿出しとくね」

 

「今年のクリスマスももうすぐ終わりか…」

こうして楽しんでくれているなら嬉しい。こういうこともあと何回できるかと考えるとしんみりする。

その瞬間に不思議と過ぎった『廃校』という2文字が感情を一層静かなものにさせた。先日その可能性が高まったことを伝えられたことから、来年度になるだろうか。この話が正式に伝われば少なくともこの場の5人はとても悲しむだろう。

だからこそ、絢瀬先輩も今でも今からでも音乃木坂を廃校にさせないように頑張っている、十中八九結果が分かっていても。南理事長の想いと今の生徒会の行動は相反するものがあって…。

とりあえず、最後の見学会のための準備だ。もしものための企画として提案した体育祭に関してはその後の来年度の予算、年間の行事予定の会議に間に合えばいい。

 

「和也さんどうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。ちょっと考え事」

俺は出来るだけ園田を悲しませたくない。前に言っていたが彼女の母親は音乃木坂が母校だそうだ。こちらとしても何もしないままというのは流石に辛い。それくらい目の前で悲しい姿を見せつけられるのは嫌なのだ。この1年話すことが多かった園田だからこそ余計に。

 

「準備できたよー?」

 

「今行きます、行きましょう和也さん」

 

「おう」

 

「何かあるなら相談してくださいね」

振り向きつつそう言われた俺はただ黙って頷いた。何かを振り切るような完全な否定ができなかった。

 

「和也、早く座れー」

 

「わかったよ」

今は楽しむことにして1人になってから深く考えるべきだと無理やり棚に押し込みケーキを食べることした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、楽しかった」

みんなが帰ってから食器ごとにまとめてくれている食器を洗う。園田が最後も片付けを手伝うといって聞かなかったが流石に夜も遅いと無理やり帰らせた。

 

今日の感想も次第に途切れ、先程のことを思い出す。

 

「まずはある程度どうするべきか絞らないと」

これまでにこういった例で廃校を回避した高校はあるはず。またはどうやって爆発的に人気を伸ばしたか。…しばらくはこれを調べよう。

その中で、絢瀬先輩と意見の合うものがあればとりあえずやってみるのが先決か。東條先輩は東條先輩で何か考える節があるものの多くは語ろうとしない。そこに関しては然程気にしているわけでもなく、ある程度任せているし普段の絢瀬先輩の相談相手でもあるわけだしと忙しい部分は多い。

俺は俺にできることを片っ端からやる。

 

 

 

今年最後の思い出と来年の強い想いが交差した静けさの夜だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 

高坂家では…

 

「じゃあ今年は海未さんとことりさんは来ないんだよね」

 

「ああ、今年は別で誘われたらしい」

 

「そっか、お姉ちゃんもそっちだろうし今年は3人かぁ」

 

「3人?」

 

「うん、場所は伝えているからもうすぐ来るはず」

 

「いつものごとく試作品の饅頭とお茶も貰ったし、気長に待つよ」

そう言ってお茶を啜っているのは園田家の長男である園田優雨(ゆう)だ。

 

「もうちょっと盛り上げようとか思わないの?」

ちゃぶ台に頬杖をついて少しムスッとしているのは高坂家の次女高坂雪穂(ゆきほ)

 

「毎年穂乃果さんがやりたい放題やってるからさ、元の俺なんてこんなもんだよ」

 

「学校でもそんな感じだけどさ…」

内心溜め息をつきながらもなんだかんだで付き合ってくれている彼には感謝している雪穂はこれ以上愚痴を晒して『帰る』なんて言葉は聞きたくない。

 

「帰るなんて言わないよ、『クリスマス』で盛大にパーティするの雪穂のとこくらいで家帰ってもいつも通りだし」

 

「そういう理由!?」

思考を読まれたことよりもクリスマスのことに突っ込まずにはいられない。

 

「なんというかここにいると落ち着くんだよな」

 

「自分の家じゃなくて?」

 

「どちらかというとね」

 

「私はここにこうやっているので十分かなぁ。まぁ優雨が今まさに食べている饅頭には苦労させられることは多いけど」

ちゃぶ台の下からチョコ菓子を取り出し袋を開けて2人の取り出しやすい中間地点に置く。

 

「この店の和菓子は飽きないけどね」

 

「お客さんはみんなそう言ってくれるんだけど身内はどうもね」

 

「穂乃果さんの分を姉さん時々食べてるしね。よく餡子をあれだけ平気で食べて体型維持できてるもんだ」

 

「それセクハラじゃない?」

 

「…悪いな」

優雨はボソッと黙り込んで炬燵に下半身を入れて寝転がったところで雪穂は下にいるお母さんから呼ばれる。

 

「今行くー」

せわしなく階段を降りていく音を聴きながら優雨は静かに考えていた。

こうやって炬燵に入ってゴロゴロするのも家では絶対にしないことなのだが、ここにくるとついやってしまいがちになる。落ち着くなぁ…としみじみ雪穂が帰ってくるまで感じていた。

 

 

 

 

「来たよ!スペシャルゲスト」

扉をサッと開け嬉しそうにする雪穂が見たのは横になって背中を向けた馴染みの姿。

 

「来たんだ、よいしょと」

ゆっくり起き上がり遠慮して端に寄って迎える。

 

「こんにちは?」

 

「もうこんばんはかな?こんばんは。もう1人って亜里沙のことか」

 

「こんばんは、雪穂から誘ってもらってお姉ちゃんが『是非、お邪魔してきなさい』って言ってくれたから」

今来たのは絢瀬亜里沙(ありさ)だ。中学に上がった時に転校生として来たのも結構昔の思い出な気がする。最初はクォーター?って聞いて驚いた部分も多いが雪穂のお陰もあって接することは多い。

 

「そりゃよかった」

 

「みんな座ってよ。パーティ始めよっ」

 

「「はーい」」

クリスマスとは程遠い炬燵を中心としたパーティが始まる3人だった。

 




今回も読んでいただきありがとうございました。
現実でもこんなことができればなーと思います。(遠い目)

これからはしばらくシリアスな感じが続きそうです。今回の件がありながらなんですが、次の投稿もあまり予定は立っておりません。できるだけ早くできるよう頑張ります。

あと、おまけコーナーの3人も普通に掘り下げてあげたいなぁともこっそり思っています。実現するのが何年後になるかはわかりませんが…。



紹介に関しては次話で行わせていただきます。感想、意見募集しています、よろしくお願いします。
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